Peacheee!

朋藤チルヲ

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 桃香が顔を上げると、そこには、怒っているのかと思いきや、なんだか困ったような笑みを浮かべた日下の顔があった。

「ワガママに……ですか?」

 目をせわしなく開閉する。そんなことを言われるとは思わなかった。

「いつもニコニコと聞き分けのいい桃香ちゃんを、オレは嫌いじゃねぇよ。むしろす……可愛い、と、うん、思う」

 日下はそう言って、なぜか咳払いする。

「聞き分け……」
「桃香ちゃんはすげぇ優しい子だし、オレに嘘並べているとは思わねぇよ」

 桃香が変に誤解していると思ったのか、日下は慌てて両手を振る。

「ただ、やっぱり優しいから。もしオレに遠慮して、無理しているんだったら、ちょっと寂しいなって」
「無理……」

 桃香は、そんなことないのに、と笑ってあげることも、ごめんなさい、と謝ることもできなかった。
 弱い笑みの日下をじっと見つめる自分が、驚いていることは確かで、でも、その驚きは、日下が言ったことがてんで的外れだったからではない。

「いや、ほら、この凶悪なルックスにビビってさ」

 自らを卑下して豪快に笑い出す日下は、桃香から流れてくる空気が、微妙に変化したのを感じ取ったようだ。桃香が、それはあり得ますね、と真顔で切り返してくれることを期待したのだろうけど、桃香はそれに応えられない。

「無理は……していないつもりなんですが」

 桃香はつぶやいてから、少しうなだれた。
 嘘ではないのだけど、きっぱり断定できない。その理由に、心当たりがありすぎた。

「あ、いや、ごめん! 違うんだ、責めているわけじゃなくて」

 やってしまった感が滲み出た顔を青くして、狭い車の中で腕を上げたり下げたりする日下に、今すぐその心当たりを晒して弁明したい気持ちはある。

 でも、まだ付き合い始めて一週間。

 お互いに知らないことが多い。許容範囲もその一つだ。今の段階でそれを口にしていいものなのか、桃香には判断できかねた。

「大丈夫です。気にしないでください。もう帰りますね。今日は本当にありがとうございました」

 結局、うやむやなままで、桃香は車を降りた。


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