雨ふらし

朋藤チルヲ

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 碧は公園のベンチに腰を下ろした。住宅街の中に造られた、ささやかな花壇とベンチがあるだけの、こぢんまりとした公園だ。

 ため息をつく。疲れてしまった。精神的にではなく、身体的に。

 駅から自宅があるマンションまで、大した距離はない。それなのに、中間で休憩を挟まないとしんどいのは、最近まともに食べていないせいだろう。

 見上げれば、連なる住宅の屋根の向こうに、アンズの実に似た夕陽が沈みかけている。その周りだけ燃えるように紅く、あとの大部分の空は青紫色だ。夜がやってくる。

 異常気象で、今年は十月に入っても、初夏さながらの気温が続いていた。花壇のへりにタンポポが黄色い花を咲かせ、テントウムシも冬眠しない有り様。

 おかげでと言うと変だが、会社帰りの時間になっても、上着を羽織ることなく外を出歩ける。

 身をひそめるような寒さではないことは、過ごしやすくてありがたいと言えば、ありがたい。でも、寒い時期にしっかりと寒くないことは、やはり形容しがたい不安を覚えるものだ。

 近所の愛犬家たちが、じゃあこの時間に、と示し合わせたのではと思いたくなるくらい、公園の中にも外の道路にも、犬を連れて歩く人が多かった。




 七日前。

 碧は、あいかわらずお昼休みにずれ込んだ仕事と格闘していた。その日は真菜にランチに誘われていたため、キリのいいところまでこぎ着けられたら、先に会社を出た真菜を追いかけるつもりでいた。

 パンケーキが絶品だというそのカフェは、真菜が見つけてきた。嬉々として碧を誘いにきた真菜に、パンケーキはご飯ではないですよ、と碧は指摘したものの、ふわふわと甘いパンケーキを思い浮かべて、碧のお腹はすぐさまパンケーキの入るスペースを確保していた。

 なかなかの人気店で、ランチ時には行列ができるらしいそのカフェに、真菜は一足先に出向いて、二人分の席を取っておいてくれる手はずだった。

 やっと仕事の目処がついた時、デスク上の碧のスマホが震えた。トークアプリが、新しいメッセージの受信を告げたのだ。

 たくみだ。風邪を引いたみたいだから、早退して家で休む、といったことが書かれていた。

 ここまで暑いとそれはもう、単なる風邪じゃなくて、夏風邪だよね。夏風邪ってバカが引くやつだ! と茶化す内容を返信する。

 折り返してすぐに、犬が顔を真っ赤にして怒るスタンプが送られてきた。碧はそれを見てニンマリする。

 帰りに巧のマンションに寄ろう、と決めた。お粥を作って看病して、恋人のありがたみをしみじみ実感させてやるのだ。でも、それは叶わなかった。


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