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第3話

ダメ子なことなんて分かってる

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 やっちゃんと似た雰囲気の彼の顔は、何度か見たことがある。彼にやっちゃんが耳打ちすると、うなずいて、わたしたちを追い越して街へまぎれていった。

「やっちゃん! 心配してきてくれたの?」

 ミッションを仰せつかったまま、長いこと戻らないものだから、捜しにきてくれたんだ。
 優しい彼氏に感動を覚えながら、わたしは駆け寄る。

「あ?」

 やっちゃんはしかめ面をした。

「何の話だよ。てか、なんだその頭。粉吹いてんぞ。汚えな」
「やだ、やっちゃんてばおもしろい。ね、タルトゲットしたよ」
「タルト? ああ」

 ようやくぴんときてくれたようだ。
 最初にその単語を出しておくべきだった。わたしったら抜けている。

「いらねぇよ、もう」
「ええ!」
「それよか俺、今から飲みにいってくるから。俺の家でそれ食ってろって。全部食っちゃっていいから、ついでに掃除しておいてくれよ」
「そんな」
「なんだよ。できるだろ。彼女なんだから」
「掃除はありがたくやらせてもらうけど、待って。これ、せっかく作ってもらったから、せめて一口」
「作ってもらった? 誰に」
「あの」

 どう順番付けて説明していこう。考えながら、腰から上をひねる感じで後ろを見る。
 一ノ瀬さんはすでに立ち上がっていた。落ち着かない表情で、視線は合わせない。
 やっちゃんが指さして、バカにしたように笑い出した。

「あいつ! 多恵子のストーカーじゃん!」

 ブラインドが一気に下がったかのような勢いで、一ノ瀬さんが真っ青になった。

「おいおい、よく見たら、女みてぇな面してんだな。チビだしひょろひょろしてんし、アレが小せぇどころか、本当はついてないんじゃないの?」
「やっちゃん!」

 わたしは飛び上がりそうになってしまう。

 ついさっき一ノ瀬さんが打ち明けてくれた、自分への悪口を、まさか我が彼氏がオンパレードで並び立てるとは。
 傷ついているに違いないと本人を窺えば、その顔色は青を超えて蒼白。言い返す気力も、逃げる元気も出ないほどに打ちのめされている。
 気持ちの弱いタイプみたいだし、反撃できるメンタルについては、元々持ち合わせていないのだろうけれど。

「こんなやつが作ったタルトとか食えるかよ。気色悪い」

 暴言はエスカレートするばかり。もう一ノ瀬さんの様子なんて見られない。
 その口を押さえるのは、きっとわたしの役目。わかっているのに、押さえられない。

「ちが、作ったのは一の、彼じゃなくて」

 そんな訂正なんて、今はどうだっていいのに。
 怒られることが怖い。わたしも結局はヘタレなのだ。

「お前、バカじゃないの?」

 矛先はわたしに向く。

「え」
「自分のストーカーに、彼氏殿の食いもん用意させるとかよ。バカだろ。何入れられているか、わかったもんじゃねぇだろが」
「そんな」

 一ノ瀬さんの行動は、確かに褒められるものではないと思うけど、彼はただ自信を持てないだけだ。危害を加えられたことなんてないし、むしろ終始優しい。
 やっちゃんは何も知らないにしたって、そんな言い方、あまりにもひどい。

「頭悪すぎ。だから、お前はダメ子だって言うんだよ」
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