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第2話
ストーカーといい変な人に縁がある
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奈保のクロックムッシュプレート、わたしのフレンチトーストプレートが届けられる。高校から仲良しの二人が頼んだランチが、見た目的にはどちらも大差ないのが、なんだかおかしい。
少し食べ進めてから、奈保が口を開いた。
「多恵子のストーカーって、イケメンなんでしょ?」
「そうそう! まるでヴィジュアル系ロックバンドのボーカルみたいだよ」
自分の膝をすぱんと平手打ちしたところで、そういえば、と思い出す。奈保にストーカーのことを詳しく話していなかった。
スポーツ用品店の店長さんである奈保は、毎日忙しい。こうしてゆっくり食事することも、ずいぶん久しぶりだ。
「それが放置の理由でもあるわけね」
奈保のじとっとした目つきに、笑ってごまかす。
「しかし、ますます謎。そんなにかっこいいなら、恋人の一人や二人すぐできそうなものなのに」
「わたしなんかをストーカーする必要ないよね」
自分で言っても、悲しくなるものなんだな。
「何歳くらいの人?」
「うーん、たぶん、わたしたちと同じくらい」
「二十代半ばか」
「何している人なんだろ? 曜日を問わず現れてる気がする」
「多恵子と同じアルバイトなんじゃないの?」
「そうかも。話しかけてみたいけど、目が合うと逃げちゃうんだよね」
「それ」
発せられた声は、わたしとも奈保とも違う。
「うちの上司っすね」
「すわぁ! びっくりした!」
気がついたら、わたしのすぐ真横に、ストローを口の端にくわえた男性の顔があった。
「何者ですか!」
「うちの上司っすか?」
素なのかわざとなのか、男性の返答はすっとぼけている。
「あなたです!」
突っ込む声が、わたしと奈保でかぶった。
「俺は料理人で。厨房で働いていて」
彼の話し方はぶっきらぼうに聞こえる。言葉が単発のせいもあるし、愛想がないからというのもある。
料理を作る人なんだ。なんとなく勝手に、和食っぽいなと思った。これもまた勝手なイメージだけど、フランス料理のシェフは物腰も表情も柔らかい気がするから、たぶん違う。陽気なイタリアンも違う。
「上司ってことは、あのストーカーはお店のオーナーか何か?」
料理のジャンルを分析することが忙しいわたしに代わって、奈保が質問した。
「それっすね」
「え。オーナーさんなの?」
目を丸くしてしまう。そんなちゃんとした肩書きのある人だったとは。
「そっちが話していた人物と、俺の思う人物が同じなら。まぁ、間違いないと思うけど」
奈保は眉をひそめる。
「そのお店、大丈夫?」
その心配は、わたしも同感だ。女性をつけ回す人が代表を務める飲食店なんて、しっかり利益を上げられるのか。そもそも問題なくお店が回るのか。
わたしたちと同年代に見える彼は、グラスに残っていたアイスコーヒーをストローで、ずごご、と音を立てて吸い込んでから答えた。
「平気っすよ。なんで?」
「なんでって」
「見にきます?」
少し食べ進めてから、奈保が口を開いた。
「多恵子のストーカーって、イケメンなんでしょ?」
「そうそう! まるでヴィジュアル系ロックバンドのボーカルみたいだよ」
自分の膝をすぱんと平手打ちしたところで、そういえば、と思い出す。奈保にストーカーのことを詳しく話していなかった。
スポーツ用品店の店長さんである奈保は、毎日忙しい。こうしてゆっくり食事することも、ずいぶん久しぶりだ。
「それが放置の理由でもあるわけね」
奈保のじとっとした目つきに、笑ってごまかす。
「しかし、ますます謎。そんなにかっこいいなら、恋人の一人や二人すぐできそうなものなのに」
「わたしなんかをストーカーする必要ないよね」
自分で言っても、悲しくなるものなんだな。
「何歳くらいの人?」
「うーん、たぶん、わたしたちと同じくらい」
「二十代半ばか」
「何している人なんだろ? 曜日を問わず現れてる気がする」
「多恵子と同じアルバイトなんじゃないの?」
「そうかも。話しかけてみたいけど、目が合うと逃げちゃうんだよね」
「それ」
発せられた声は、わたしとも奈保とも違う。
「うちの上司っすね」
「すわぁ! びっくりした!」
気がついたら、わたしのすぐ真横に、ストローを口の端にくわえた男性の顔があった。
「何者ですか!」
「うちの上司っすか?」
素なのかわざとなのか、男性の返答はすっとぼけている。
「あなたです!」
突っ込む声が、わたしと奈保でかぶった。
「俺は料理人で。厨房で働いていて」
彼の話し方はぶっきらぼうに聞こえる。言葉が単発のせいもあるし、愛想がないからというのもある。
料理を作る人なんだ。なんとなく勝手に、和食っぽいなと思った。これもまた勝手なイメージだけど、フランス料理のシェフは物腰も表情も柔らかい気がするから、たぶん違う。陽気なイタリアンも違う。
「上司ってことは、あのストーカーはお店のオーナーか何か?」
料理のジャンルを分析することが忙しいわたしに代わって、奈保が質問した。
「それっすね」
「え。オーナーさんなの?」
目を丸くしてしまう。そんなちゃんとした肩書きのある人だったとは。
「そっちが話していた人物と、俺の思う人物が同じなら。まぁ、間違いないと思うけど」
奈保は眉をひそめる。
「そのお店、大丈夫?」
その心配は、わたしも同感だ。女性をつけ回す人が代表を務める飲食店なんて、しっかり利益を上げられるのか。そもそも問題なくお店が回るのか。
わたしたちと同年代に見える彼は、グラスに残っていたアイスコーヒーをストローで、ずごご、と音を立てて吸い込んでから答えた。
「平気っすよ。なんで?」
「なんでって」
「見にきます?」
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