KANNAメンタルクリニック時間外診療日報

朋藤チルヲ

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ラストエピソード

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 夢を見た。

 それが夢だって気づけたのは、誠先生がいたから。

 今の姿じゃなくて、幼い子供の姿。以前に院長先生が見せてくれた写真の中の、きれいな顔をした男の子が自由に動いていた。現実ではあり得ない。だから、これは夢なんだってすぐにわかった。

 誠先生はこちらに背中を向けている。周りの景色は波打つミルク色で、フワフワしたベールに包まれているようにも見える。何かに正面から寄りかかって、片足がひょいと上がっていた。

 女性が一緒にいた。ボンヤリとした輪郭の中で、猫の瞳みたいなアーモンド型の目が、優しげに誠先生を見下ろしている。長い睫毛、横に広い口元、それらは、どことなく誠先生に似ていた。

 二人は笑い合う。女性はあまりに儚くて、だけど、凜々しさも感じられた。そして、果てしなく温かい。まるでマリア様みたい。美しい聖母と、無邪気な天使がそこにいた。

 見ていると、胸が締めつけられた。

 夢の中で、わたしはどこにいるか、存在しているのかさえ曖昧なのに、なぜか知っていた。この宗教画のような優美な世界に、間もなく終わりがくることを。

 女性はそれに感づいているのか、泣きそうに笑っている。

 誠先生が何かを尋ねたらしく、女性はちょっとだけ首を傾ける。それから、透明な微笑みを浮かべて、自分の唇を細い人差し指で差し示した。

 そして、不意にこちらを指さした。誠先生が振り返る。

 夢は、そこで終わった。




 わたしは、市営のオンボロバスでバイパスを南下していた。

 ひっきりなしにすれ違う車。大型の量販店。どこへ行っても見かける、某有名チェーンのハンバーガー店の看板が、車窓の中に顔を出したところで、わたしは立ち上がった。

 チャペルを構えたホテルへ向かう道を五分ほど歩けば、その場所に着く。二週間ぶりに訪れた『神名メンタルクリニック』は、あいもかわらず自己主張に乏しく、あんまり病院らしくない風貌でそこにあった。

 見上げれば、すいぶんと高い位置に太陽がある。じりじりと肌を焼きつけてくる。そろそろ雨の季節に入る頃合いだっていうのに、その気配は微塵もない。

 二週間前、方波見さんがどうかと提示してくれた予約時間は、ティータイムを少し回った頃だった。また最終の診療時間だと、帰り道が暗くて嫌だなって思っていたから、それはありがたいと即うなずいた。

 誠先生の出勤は午後からだし、その時間だって診察には問題ない。平日だけど、授業が終わった直後のバスに乗れば、ぜんぜん間に合う。

 前回の予約時間は、誠先生の指示だったはず。今回は、家まで送っていく必要がなくなったってことなのかな。今のところ、このクリニックの近辺には、邪霊の気配がないから安心ってことなのだろうか。

 ガラス面に書かれた名前で、ここが病院だってことを唯一教えてくれている扉。それを押そうとした時、院内から一人の患者さんが出てきた。

「――――お兄さん!」

 思わず呼びかけてしまって、すぐに両手で口を覆う。

 いけない。邪霊に取り込まれていた間の記憶はすべて消えたって、誠先生が言っていたじゃないか。

 鉢合わせたのは、邪霊に取り込まれたあのサラリーマン。わたしのことは、そういえば患者さんだったかな? 程度の認識なはず。

「あぁ。やぁ、こんにちは」

 お兄さんは明るい顔で笑いかけてくれた。

「いつだったか、ハンバーガー店の前でばったり会ったね。ここの患者さんだよね?」

 その辺の記憶はあるんだ、と驚きつつ、わたしは大きくうなずいた。

 今日のお兄さんは、淡いラベンダー色の半袖シャツにジーンズ。顔色が、初めて会った時より格段にハツラツとして見える。それはきっと、爽やかな装いのせいだけじゃない。言葉遣いまで違ってしまっている。

 悪いモノが祓われたというだけじゃなく、お兄さんの中で、何かが確実に変わったことが見て取れた。

 ところが、お兄さんは急に表情を曇らせる。

「でも……その後の記憶が曖昧なんだ。おかしなことに」

「え? あ、あぁ……そうなんですか?」

 ギクリ、とする。何て答えるのが正解なのか。

「そういうことが、最近多くてね。ほとんど夜のことなんだけど」

「ほ、ほぅ……」

「この前なんて、道路に一人で寝ていたんだ。夜中だよ。裏通りだったから、誰も通らなくて助かったけど。その時も、なんでそんなところで仰向けに寝ていたのか、それ以前のことをまったく覚えていなくて」

「そ、それは大変……」

 どうしよう。白を切るのも限界デス。これ以上話していたら、ボロが出てしまいそう。

「えっと……わたしはそろそろ」

 おいとまします、と病院の中へ消えようとしたわたしを、お兄さんのセリフが引き留める。

「そういえばその時、僕は夢を見ていて。不思議なんだけど、そこに君が出てきたんだ」

「――――え!?」

 わたしは肩を跳ねさせた。あの時の光景が、夢だっていう認識だとしても、お兄さんの記憶に消えずに残っていることに驚いた。

「あと、ここの先生も。先生はまだわかるとしても、君とは一回? しか会ったことなかったのに、不思議だよね」

 嫌な予感に返事も忘れてしまう。これ、記憶が完全に消え去ったとは言いがたいよね? 何かの拍子に、あれってやっぱり現実だったんじゃないかな、なんて思い出すパターンじゃないの?

 背中にじっとりと汗が滲み出す。でも、それを悟られるわけには絶対にいかない。

 誠先生、事後処理がぬるいよ! これじゃわたしが、完全に夢なんだって信じ込ませないといけないじゃないか。

「ほ、ほんと! 不思議で変な夢ですね! ほ、ほら、こういうところって普通はあんまりこないから、それで先生とかわたしとか、印象に残ったのかも!」

 わたしは両手を大きく羽ばたかせながら言った。飛べそうだ。笑顔が引きつっていることが、自分でもわかる。

 それを聞くと、お兄さんは少し悲しげな笑顔になった。

「……そうだよね。普通は、こういう病院にあまり通わないよね」

「あ……」

 しまった、と思った。失言だ。今の言い方だと、メンタルクリニックに通う患者さんは、普通じゃないって言っていることになる。

 同じ患者のわたしが言ったことだから、メンタルクリニックに近寄ったこともないって人が言うのとは、また受ける印象が違うと思う。でも、そんなつもりじゃなくても、お兄さんを異質扱いしてしまったことに変わりない。

 急いで弁解しようと口を開きかけると、先にお兄さんが切り出した。

「実は僕、会社でいじめに遭っていたんだ。ビックリするよね。大人になっても、そういうのってあるんだよ」

 わたしは口を閉じる。

 一度口から出ていってしまったものは、拾ってなかったことにはできない。それならば、わたしができることは、お兄さんが始めた話に最後まで耳を傾けること。

「すっかり参ってしまって、会社に行けなくなっちゃって。恥ずかしい話だけど」

 お兄さんは顔を歪めて笑う。

 わたしは弱く首を振る。あの夜、お兄さんの心からの叫びを聞いたわたしは、その辛さをよく知っている。一つも恥ずかしいことなんてない。

「でも、親には心配かけたくなくて。朝はいつも通りに着替えてから、普通に家を出ていたんだ。本当は、スーツなんて見るだけで震えてしまうのに」

「……わかります」

 知っています、と答えたいところだったけど、それは無理だから。でも、気持ちは理解できているって伝わって欲しい。

「状況をなんとか打破したくて、通院を決めたんだ。でも、最初は、僕はもうこのまま社会に復帰できないんじゃないかって思ってた。他人でしかないここの先生に打ち明けたところで、解決できるわけがないって」

 自分の辛さは自分にしかわからない。そうふさぎ込んでしまう瞬間って、きっと誰にでもある。わたしもそうだった。でも。

「でも」

 お兄さんの瞳に光が宿る。わたしは顎を上げる。

「君たちの夢を見たあと、不思議なくらいスッキリしたんだ。夢の内容なんて何も覚えていないのに」

 内容は何も覚えていない。その言葉に、わたしは内心ホッとした。

「どうせ一人では何もできなかったんだし、それなら、先生に頼ってみるのもいいか、なんて思えちゃったんだよね」

 そうにっこり微笑んだお兄さんの笑顔は、歪なものが一つもない、晴れやかな表情。

 わたしはつられて微笑んでしまう。あの神弾には、邪霊を祓うと共に、悪いモノを呼び込んでしまう弱い心も一緒に取り払う力があるんだ。きっと。

「打ち明けてよかったよ。先生はすごく親身になってくれて。すっかり他人を信用できなくなっていたけど、それは嫌な目にあったからで。優しい人は確かにいる。こういう場所にくるのは特殊な体験ではあるけど、そういう当たり前のことを再確認するためにはいいのかもなって」

「……うん。そうですね」

 本当に、そう思う。温かいものが心にジワジワと沁み広がっていく。この世界には、優しい心を持つ人が、自分が思っている以上にたくさん、驚くほど近くに、きっといるんだろう。

 お兄さんの魂があのまま消えてしまわずに済んで、本当によかったって思った。

「時々記憶がなくなる現象のことも、ストレスからくる一過性のものだろうって。心配ないって言ってくれた。確かに、それからピタリと治まったよ」

「よかったですね」

 誠先生、ナイスフォローだ。

「あ、ごめん。突然にこんな話されても、困るよね」

 お兄さんは慌てて口元に手をやる。

 わたしは「そんなことないですよ」と笑って手を振った。

「なんでなのかなぁ。君の顔を見たら、話してみたくなって」

 優しい目で見つめてくるお兄さんに、誠先生が言っていた、わたしのことを気に入っているという言葉を思い出して、なんとも居心地が悪くなる。まさか、ね。でも、次にお兄さんが発した言葉で、やっぱりそれは取り越し苦労だったんだなってわかった。

「君もさ、もし溜め込んでいることがあるんなら、全部吐き出しちゃったほうがいいよ。ここの先生は、特に信用できる」

 重ね重ね、わたしは安堵する。しかし、あれほど誠先生を拒絶していたのが嘘みたいな変わりよう。裏を返せば、それだけ人間の心をコントロールできる恐ろしい力が、邪霊にはあるんだって言えるのかも。

「じゃあ、足止めしちゃってごめんね」

「あ、いいえいいえ!」

「またね……は、ないほうがいいのか。場所が場所だからね」

 お兄さんはぺろっと舌を出す。

「あはは! 確かにそうかも」

 わたしは声を立てて笑ってしまった。

 お兄さんは軽くを手を上げてから、駐車場へ向かう。停めてあったシルバーのSUVに乗り込む姿を目で追いながら、この人はもう心配ないだろうなって思って、わたしは嬉しくなった。




「あれ? 誠先生じゃないんですか?」

 第三診察室に入ってすぐ。デスク前の椅子には院長先生が座っていたもんだから、わたしはとっさに尋ねていた。

「わたしじゃ不服かね」

 拗ねたように下唇を突き出して、院長先生は言う。

「あ、いえいえ! とんでもない! そういう意味じゃなくて、わたしの担当は誠先生だから……あ、もしかして、また具合でも?」

 ドアの前に立ったまま、急いで胸の前で両手を振るわたしは、二週間前を思い出す。誠先生はあまりにひどい腹痛のせいで、ここに倒れていたっけ。

 パパは、わたしがクリニックに向かうたびに帰りが遅いことを理由に、今でも誠先生への疑心暗鬼が止まらない感じだ。ママなんか、早く誠先生とどうにかなって欲しいって、期待しているくらいだっていうのに。

 呪いの五寸釘については、一度きっちり注意した。でも、そんなパパだから、またこっそりと儀式を復活させている可能性はある。でも、どうやらそのせいではないみたい。

「誠は、今日は休みだ。誠の患者さんは、わたしが受け持つことになっているんだ」

「お休み……?」

 クリニックの休診日は、確か日曜日と月曜日って、診察券に書いてあった。今日はそのどちらでもないし、わたしが通院の日なのに休みを取ったの?

 院長先生はカルテを広げながら、ニコニコと笑顔で隣の椅子を勧める。わたしはなんとなく不満を抱えながらも、そこに腰を下ろした。

「学校には行けたかい?」

「……あ、はい!」

 元気よく答えてから、あれ? どうしてわたしが学校に行く気になったことを知っているんだろうって思ったけど、おそらく誠先生から聞いているのだ。

 他の先生が担当している患者を受け持つってことは、事前に引き継ぎしているんだろうし、カルテにも書かれているんだろう。

「最初は緊張するだろうけど、行っちゃうと案外なんてことないよね」

「はい」

 本当にその通りで、最初こそビクビクしていたものの、あれから、わたしは不登校前の生活にすっかり戻っている。

「友達も、担任の先生までひどいんですよ。わたしの不登校をあえていじってからかってくるんです」

 わたしは不満を訴える時みたいに、唇を尖らせた。

 院長先生は笑ってうなずきながら、言う。

「いい先生と、お友達だね」

 そうなのだ。ハレモノに触れるみたいに扱わず、あえて痛いところを鷲掴みにしてきてくれることで、どんなにか気持ちが救われるか。君和田先生なんて、不登校の原因を追及しようともしない。

 わたしは、とても人に恵まれている。

「大きなストレスを受けたために、心が入り口を閉じてしまって、大事なことが見えなくなってしまうことは、よくあることなんだ」

「ストレス」

「心が疲れてしまう原因になり得るのは、大きなストレスやショック。甘奈ちゃんの場合は、失恋だね。重要なのは、そのストレスやショックの感じ方は、人によって違うってことなんだ」

「はい……」

「ストレスやショックの内容は、実はそこまで影響がない。負荷を感じる度合いには個人差があるからね。塞ぎ込んでしまうのが一時的か、残念ながら長引いてしまうか、それにも個人差があるってことなんだよ」

 院長先生は、一言一言をゆっくりと吐き出す。わたしが正しく理解できるように。

 そうか。わたしは、たかが失恋なんかでメンタルをやられてしまった自分が、ひどく恥ずかしいと思っていたけど、そうじゃない。痛みの感じ方は、人それぞれ。どれがいちばん苦しいとか、こっちのほうが辛いだとかは、一概に言えない。

「甘奈ちゃんは、他人よりメンタルが弱いって悩んでいたようだけど、そんなことはないと、わたしは思うよ」

「そう……ですか?」

「誠も言っていたけど、甘奈ちゃんはただ優しいだけなんだ。その優しさは、同じように優しい人間を引き寄せるし、時にものすごい強さに変わる」

「強い……ですか? わたし」

 勇気を持っている、とは誠先生が言ってくれた。それは、強いってこととイコールになるのだろうか。

「自分の中の強さを、甘奈ちゃんはすでに発見したはずだよ。だから」

 院長先生はカルテを閉じた。




「カウンセリングは、今日でもう終わりだ」




「……え?」

「誠からの報告書には、甘奈ちゃんはカウンセリングを継続しなければならないほど重篤ではないって書かれている。わたしもそう思う」

「え? あの……」

「ちょっと荒療治だったかもしれないけど、結果良ければすべて良しだ」

 院長先生はわたしの正面で、パン、と自分の膝を叩いてみせた。

「お疲れ様。これで、甘奈ちゃんにようやく静かな日常が戻ってくるね」

 それって。

 わたしは椅子に座ったまま身を乗り出す。穏和な笑顔を浮かべる院長先生を問いただしていた。

「そ、それって、これで終わり? あの、もう誠先生には会えないってことですか? え、だって、パートナーになる話は?」

 院長先生は目を丸くする。そのあと、口元をゆるませた。

「おや? 甘奈ちゃんは、誠を迷惑がっていたんじゃないのかい?」

「そ」

 わたしは身体を退かせる。

「それは……そうですけど……」

「甘奈ちゃんはいい子で、こういう子が我が家に入ってくれたらいいなぁと思ったのは本当だけどね。でも、あれは大人にだって危険な仕事だ」

 うん、確かにそう。何度死にそうだと思ったことか。

「甘奈ちゃんがどうしてもやりたいっていうんでなければ、わたしに無理強いする権利はない」

 どうしてもやりたいなんて、そんなこと言うわけない。もう二度とごめんだ。

 誠先生は傍迷惑な人で、もう引っかき回されないで済む。だから、これでいいはずなんだ。パパだって安心する。イケメンの義理のお母さんになりたかったママは、非常に残念がるだろうけど。

 それなのに、どうしてわたし、こんなに胸に隙間風を感じているの?

 口を真一文字に結んでしまったわたしを見て、院長先生は笑い声を立てた。

「さぁ、診察は終わったわけだから、わたしたちはもう、カウンセラーと患者という関係ではなくなったね」

 その言葉は、わたしをさらに追い詰めた。思いがけなく、わたしは傷ついた。

 そうだ。カウンセラーと患者という唯一の接点がなくなったら、わたしたちは無関係。院長先生とも、花井先生とも、方波見さんとも、会ったことも見たことすらないけど、岩崎先生とやらとも、おばあさんとも。

 誠先生とも。

 もう、会う理由がない。

 院長先生は続けて言った。

「カウンセラーと患者ではなくなったけど、いろいろ協力してもらったし、まったくの他人とも言えないな。言うなれば、友人?」

 いつのまにかうつむいてしまっていたわたしは、ハッと顔を上げた。

 院長先生はにっこり笑う。

「友人が自宅に遊びにくるのは、わたしは大歓迎だ。今家にいる誠だって、甘奈ちゃんが訪ねてきたとあれば、喜んでお茶でも出してくれるだろう」

 その瞬間、わたしは声にならない声を上げて立ち上がっていた。

 院長先生は驚きもしない。カルテに何やらすらすらと書き込みながら、平然と言った。

「薬は出ないから、お支払いだけして帰ってね」

「ふぁ……ふぁい!」




 舗装されていない砂利道をひた走る。

 この道を、嫌々歩いたのは約一ヶ月前。だけど、とわたしは思う。あの時、もう通らなくなる日のことは、不思議と考えなかった。

 磨いたばかりのローファーは、土埃で早々に汚れた。かまわない。汚れたものはまた磨けばいいのだし、今はとにかく気遣っておしとやかになんて歩けそうにない。

 晴れた日の昼下がりは、間近に控えた夏がちょっとだけ顔を出していて、汗ばむくらいの陽気。額に浮かぶ汗を時々ぬぐいながら、両側から倒れ込んでくるかのような木々を抜ける。やがて、立派な鳥居の前に出た。

 太陽の下で見る神名神社は、これが初めて。鳥居も、奥に鎮座するきらびやかなお社も、光の下でさらに神々しい。

 鳥居とお社との間には、広い境内がある。そこに、白い道着姿の誠先生がいた。左右のこぶしを交互に突き出すたび、汗が飛んでキラキラ光るのが、数メートル手前からでもよく見えた。

 誠先生は、肩で息を繰り返すわたしを見つけて、目を丸くする。

「甘奈!? なんでここにいるんだよ」

 わたしは急に腹立たしくなる。きゅっと口をへの字に曲げた。

「……最後の診察が終わったから、ご挨拶に」

 なんでここに、って。その言い方は、誠先生はわたしとまた会えても嬉しくないってことだ。わたし、あのまま誠先生ともう二度と会えないかもって思って、悲しかった。だから、また会えて嬉しいって思っている。

 でも、それはわたしのほうだけ。誠先生は違う。それが、とても悔しい。悲しい。

「……お、おぉ。そっか」

 誠先生は額から鼻筋へと流れてくる汗を、手の甲で拭いた。目も合わせてくれないのは、わたしが迷惑だから? わたし、きちゃいけなかった?

「……学校、行けたよ」

「おっ、そか!」

 わたしの報告に、誠先生は一瞬パッと顔を明るくして、でも、すぐに「しまった」って表情。目線を下げた。

「ど、どうだった?」

 砕けた口調ではあるけど、どこかよそよそしい。

 院長先生は、誠先生がわたしを喜んで迎えてくれるって言ってくれていたけど、そんなことなかった。

「寸前まで怖かったけど、みんなが優しく迎え入れてくれたから、大丈夫だった。もう普段通り。たぶん、てか絶対、もう登校拒否はしない」

「そか! よかっ……」

 誠先生はまた顔いっぱいに喜びを浮かべかけて、慌てて打ち消す。

「……うん。よかったよかった、な」

 なに、その一歩引いちゃう感じ。診察が終わったから? 院長先生は友人って言ってくれたのに、誠先生はそうじゃないの?

 今さら遠慮しているなら、バカみたい。そんな気を遣えるなら、最初からわきまえてくれればよかったのに。そしたら、きっとこの悲しさも違った。

 それでもわたしは、この場を去れなくて、さらに打ち明ける。

「……望月くん、フラれた相手にね、わたしと付き合うことを真剣に考えたいって言われたよ」

 それを聞くと、誠先生はガバッと顔を上げてわたしを見た。瞳孔が凍りついたみたいに固まって動かない。

「なんか、急に気に入られちゃって。自信がついたからかなぁ。だとしたら、先生のおかげだね」

 わたしはわざとらしく照れ笑いしてみせた。妖精さんの存在を認めたからだという真実は、口が裂けても言えない。

 自惚れているわけじゃないけど、あんなにわたしに迫りまくっていた誠先生だから、少しは何か言ってくれるかなって期待した。だけど、それは裏切られる。誠先生はまた睫毛を伏せてしまった。

「……そっか。恋が実ってよかったじゃん」




 ズッキン。バラバラに砕けてしまうかと思うほど、心臓が痛んだ。

 そして、こめかみの太い血管が切れた。ブッチン。




「――――ぶわぁかぁあ!!」




 わたしは思い切り振りかぶって、スクールバッグを誠先生の顔面に投げつけた。学校のテキスト類と、お茶のペットボトル。打撃は相当なはずだ。

「ぐふはぁ!?」

 こちらを見ていなかったことが敗因だ。誠先生は血でも吐いたような声を上げて、お尻から地面に倒れ込んだ。バッグが剥がれ落ちた顔には、大量の「クエスチョンマーク」が貼りついている。

 鼻の頭を真っ赤にした誠先生のそばにザカザカと歩み寄って、わたしは力いっぱい思いのほどを叩きつけた。

「先生のバカぁ! 断ったわい、そんなもん!」

「え、ええ!? こ、断った? マジで?」

 若干嬉しそうに見えなくもないけど、勘違いなんてしない。

「第一さぁ、なんで最後のカウンセリングが先生じゃないの!? 無責任!」

「む、無責任て……院長が受け持ってくれたろ? オレより経験豊かだし、信用できるじゃんかよ」

 今までほとんどの場合において、誠先生は自信たっぷりだった。すべてが自分の見せ場のような。そんな誠先生が情けないくらい目を泳がせて、しどろもどろにしている様なんて、見たくなかった。

「なんだよぉ! あんなにわたしのチューがいいとか言ってたくせに、急にもう診察終わりとか、パートナーも大丈夫とか、なんだよぉ!」

 これでは、拗ねているみたい。でも、止められない。

「急によそよそしいし、わたしはもう用済みってこと!? 友達でさえもいられないってこと!?」

 わたしではもうだめなの? わたし以外に、誠先生のパワーを増強させられる人でも現れたの? ヤバい。泣きそう。

 女子高生に言いたい放題されて、さすがに腹に据えかねたのか。誠先生はぐいっと唇を横一直線に引き結んだ。ジャンプするみたいにして、その場に立ち上がる。そして、怒鳴った。

「しゃあねーじゃんかよ、バカヤロー!!」

 ズバッとすごい勢いで、わたしに向かって人差し指を突き出したから、鼻の穴に入ってしまうかと思った。

「だって、オレがどんなに愛を伝えても、めちゃくちゃ嫌がってたじゃんかよ! いくら鋼のメンタルのまこっちゃんって言ったって、限界があるわぁ!」

「お、おう!?」

 いつも通りの威勢のよさに驚いて、思わずアシカみたいな声が出る。

「超絶イケメンを自負してるってのに、そんなオレが、好きな女の子に邪険にされまくる気持ちがわかるかぁ!?」

 誠先生は半泣き。心のダムが崩壊してしまったようだ。

「す、好きな……?」

「自分の彼女だったら、危険な目に遭っても命かけて守れるよ! でもな、その気がまるでない相手に身を削る虚しさは半端ねぇぞ!? パートナーなんて組めるかい!」

 ガラガラ、と引き戸が開けられる音が聞こえた。きっとおばあさんだ。あまりに外が騒がしいものだから、何事かと不審に思って出てきたのかもしれない。

 だけど、わたしは誠先生の赤く滲んだ瞳から、目が離せないでいた。

「診察を終わりにしたのだって、あの日のキッスで、オレにこれっぽっちも脈ないんだなって悟ったからじゃんか! だから、お父さんに頭を下げて替わってもらったのに!」

 あの日のキス。邪霊を無事に祓い終えたあと、二人で並んで立っていたバス停。あの時のキスは、確かにいつもと違っていた。

 いつもより数倍優しくて、数倍甘くて、数倍切なかった。

「諦めようとしたのに、なんできちゃうんだって!!」




 誠先生はバカだ。だけど、本当のバカは、わたしのほうだ。




 最初は、本当にショックでしかなかった誠先生とのキス。いつのまにか、ドキドキする気持ちのほうが上回っていた。そのことに、とっくに気づいていた。でも、恥ずかしくて。知らないふりしていたんだ。

 それが、誠先生をどれだけ傷つけているかなんて、わたし、考えもしなかった。

 誠先生と一緒にいる時間は、とにかくハチャメチャだったけど、気がついたら、いろんな大事なことを教わっていた。わたし、笑っていた。楽しかった。

 誠先生のそばで、ずっとドキドキしている自分を感じていたのに、認めたくなかった。そんな意地に、強さを発揮したってしかたないのに。

 わたし、誠先生のこと好きになっていた。他の誰にも渡したくないくらいに。

 誠先生に負けないくらい、わたしの目も顔まで真っ赤になって、堪え切れずに涙がポロポロとこぼれ出した。

「……きちゃうよ。きちゃうじゃん」

 さっきまでの勢いとはまるで違う、喉の奥から絞り出すような声で喋り始めると、誠先生のほうもヒートダウンした。

「だって、もう会えないなんて、嫌だったんだもん……」

 今度は誠先生が黙り込む。

「先生のパートナーは、わたしじゃなきゃ嫌……他の人がやるなんて嫌だよ……そう思っちゃったんだもん、しかたないじゃん」

 もう疲れていないのに、嗚咽のせいで肩で息をする。しゃくり上げる。鼻水がずるずる垂れる。

 黙りこくっていた誠先生が、恐る恐るといった感じで口を開いた。

「……あの、片想いのやつの……断ったって、本当に?」

 どうして今ここで、またそれを確認するのか。

「だから! しかたないじゃん! 望月くんのそばにいても、カッコいいなぁとは思うけどドキドキしないし、なんか違うなって思っちゃったんだもん!」

「か、カッコいいのか……」

 誠先生は打ちのめされる。

「んもう! いつものうざいくらいの自信はどこへ行ったのぉ! ちゃんと聞いて! それより、先生のそばにいたほうが、ずっとずっとドキドキするってわかったの!」

「甘奈ぁ!!」

 ブワッと涙を溢れさせた誠先生が両腕を広げた、と思ったら。あっという間にわたしはその腕の中。顔全体にぶつかる、道着のゴワゴワした生地の感触。汗の匂い。男の人の汗って、もっとしょっぱくて臭いものだと思っていたのに、ぜんぜん違った。

 ふわりと甘い。そうだ。誠先生とキスする時、いつもこんな匂いがしていた。とても魅惑的な、安心する匂い。

 女性は、自分の父親とか兄弟の匂いには惹かれないっていう。きっと、恋に落ちることのない人の匂いには興味が湧かないんだ。

 なんて温かい。幸せ。ずっとこうしていたい。




 ――――パァン!!




 突然。耳元で破裂音が炸裂。わたしと誠先生は、揃って悲鳴を上げた。

 心臓をバクバクさせながら、抱き合ったまま二人して音が響いた横を向く。おばあさんが、先端からもうもうと白い煙を上げたワインボトルを手に立っていた。

「おばばばばば」

 誠先生の顔色は、もはや赤とか青だとかを超えてしまった。真っ白だ。

「なんだい、その顔は。おめでたい時にはシャンペンだろうが」

「……しゃんぺん? シャンパンじゃないの?」

 わたしは混乱しすぎて、素朴でどうでもいい疑問を口にする。

「正式にはシャンペン。フランス語ではシャンパーニュ。まぁ、どちらにしろ、甘奈ちゃんは未成年だから飲めないがねぇ」

 アッハッハ、とおばあさんは高らかに笑った。

「気分だけでもね。だって、めでたいじゃないか。誠のこの顔でほいほいついてくる女の子はいくらでもいたけども、大抵すぐにフラれる。中身を知ってなお好いてくれる子なんて、今まで一人もいなかったからねぇ」

 一人もいなかったのか。邪霊に取り込まれたお兄さんに全力で愚痴っていたあのセリフが、がぜん悲しいものに思えてきた。

「いーの。今はこうして甘奈がいるもん」

 いつのまにか生身の人間らしい顔色を取り戻していた誠先生は、わたしを力いっぱい抱きしめる。

「そうかいそうかい。雛子が言っていたことが、まさか本当になるなんてねぇ」

「雛子……さん?」

「誠の母親だよ」

「お母さんは巫女だったからな。予言なんてお手のものさ。それを、オレはずっとよりどころにしてきた部分はあるんだ」

 二人が話している内容は、わからない。ただ、その瞬間、わたしの頭の中に、見たばかりの夢の場面が広がった。夢を見たことさえ忘れていたのに、あの胸が詰まされるような美しい世界が、鮮やかに脳内に蘇った。

 まさか、あの女性は、誠先生のお母さん……?

 わたしは信じられない心持ちで、誠先生の顔を見る。それに気がついた誠先生は、優しく目を細めて微笑んだ。その顔は、夢の中の女性と同じ。

「さぁて、誠の初めての彼女を祝って、家の中で乾杯しよう。甘奈ちゃんはジンジャーエールでね」

 おばあさんはくるりとお社のほうへ足を向ける。背中で言った。

「まぁ、誠の顔だけでついてきた女の子たちは、誠もどうせフラれることがわかっていたから、速攻でベッドに連れ込んでいたけどね。その手癖の悪さも、これで落ち着くことだろう。あぁ、めでたいねぇ」




 なんですと?




 腕を突っ張って押し返した誠先生の顔は、また色を失くしていた。わたしはきた道を戻るべく、身体ごと鳥居の外を向く。

「残念ですが、この話はすべてなかったことに」

「かかかかか甘奈!」

 歩き出したわたしを、誠先生が慌てて追いかけてきた。肩を掴む。

「ごめん! もうしないから、許して!」

「……本当にぃ?」

 ジロリと睨む。

 両手を合わせて拝む誠先生は困り顔。

「ほんとほんとほんと! もう絶対にしないって誓う! そんな必要ねーじゃん、オレの欲望を吐き出すのは甘奈のナカって決まって……フガッ」

 わたしは誠先生の顎に、下からアッパーをぶちかました。

 顎をカクカクさせている誠先生に、唇を曲げたまましばし考え込む。それから、モジモジと言った。

「……じゃあ、チューしてくれたら許す」

 誠先生は痛みに涙目になりながらも、本当に幸せそうに、まるで蕾が花開くかのようにフワッと微笑んだ。

「じゃあ、甘奈がとびきり元気になっちゃうやつを。今日はオレが」




 カルテナンバー2532番、橘 甘奈。ヒーリング完了。









(fin)
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名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

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