KANNAメンタルクリニック時間外診療日報

朋藤チルヲ

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5 ファンタジーがやってきた!

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 まったく予想もしていなかった方角から、その展開はやってきた。




「……シンジュウの『シン』って、もしかして『神』ですか?」

 指で空中にその漢字を書き示してみせながら、わたしはおずおずと訊いた。

 当てずっぽうってわけじゃなかった。おばあさんの口から飛び出た、そのワードの意味は掴めていないけど、神名先生の名前、そして、実家が神社ということにも何か関係があるんじゃないか、と思った。

 おばあさんは、ドリルの問題が解けた孫を褒めるような、優しい微笑みを浮かべて、深くうなずいた。

「神様から天命を受けて授かった銃ってことだよ。言わば神具なのさ」

 神様から授かった銃。『神銃』。

 やっと頭の中に、その文字が意味を持った形として表れた。でも、正解を喜ぶ気になんて当然なれなくて、わたしは黙ってしまう。

 混乱していた。

 あれは本物の銃。神様から貰ったもの。この神名神社に伝わる神具。

 人を救うって言った。カウンセラーの先生が? 困っている人を助けてあげるってこと? 本物の銃を使ってどうやって?

 それとも、わたしたち一般の人が知らないだけで、宇宙からエイリアンが入り込んできていて、地球は侵略の危機に瀕しているとか? それを救うヒーローが神名先生? カウンセラーは仮の姿? んなバカな。

 第一、本物の銃なんて、警察官でも自衛官でもない人が持っていていいわけがない。そもそもどこで手に入れるの?

 あぁ、疲れていて、考えがまとまらない。

 ただ、わかることは、神名先生ならまだしも、おばあさんがそんな壮大なジョークを言うはずがないってこと。

 そして、たぶんだけど、これこそが方便を使ってまで、わたしに聞かせたかった話なんだってことだ。

 ただの患者の一人であるわたしに、どうして?

 まるでアニメか映画のストーリーさながらのファンタジー。これは、本当に現実なの?

「にわかには信じられないだろうね」

 おばあさんがそう言ったから、心の中を読まれたのかと思ってギクリとした。反射的にウンと大きくうなずく。

「だけど、本当のことだよ。この神名神社を継ぐ者は、あのデザートイーグルもまた受け継ぐんだ。本来なら、現当主である誠の父親が持つのだが、訳あって引退した。神様からの天命を実際に承っているのは、今は誠なのさ」

 テーブルの向かい側を窺う。院長先生はわたしと目が合うと、にっこり微笑んでくれた。息子のほうはなぜかそっぽを向いて、どこか物憂げだ。

「神様からの、天命って……?」

 なんだかフワフワした心持ちで、わたしは尋ねていた。

 あまりに現実感がないのだ。さっきまでよりは、徐々に話を信じ始めているわたしがいる。だけど、どうしてもリアルなことだと脳が完全肯定しない。

 その質問に答えたのは、イレギュラーにあの銃を受け継いだという息子。

「甘奈。お前、この世のものではないモノって、信じるか」

 神名先生はあぐらをかいたまま、怒っているのかと思うくらい強い眼差しで、じっとわたしを見つめてきた。これまでのアホ全開の表情とは違う。

 その雰囲気に引っ張られて、こちらまで神妙になってしまう。ゴクリと唾を飲み込む。

「こ、この世のものではないって……お、オバケ、とか?」

「それぴょん」

 厳しい顔つきも低い声のトーンもそのままに、やたらとバカっぽい相槌を吐いて、神名先生は人差し指を立てた。

 肩の力が抜けるどころじゃない。全身から高速エレベーター並みに脱力する。

「あら、なんだろう。これからいいところなのに」

 神名先生は眉間にシワを寄せた。

「……アレなのかな。ここぞという時に緊張感をなくさせるっていうのは、もはやこのお人の癖みたいなものなのかもしれないな」

 うっかり正座の足まで崩してしまった。行儀が悪いけど、そろそろ痺れて臨界点が近かったので、助かったと言えば助かった。

「この世には、俗に言うオバケやらユーレイやらってやつが存在する」

「わたしの嫌みは完全シカトなんだ。いっそ清々しい」

「霊にも様々な種類がある。そうだな、例えば、守護霊なんかはランク的には高位で、これは問題ナシ。厄介なのは、低級霊に分類されるやつらで」

 いかにもお医者様らしく、人差し指をピンとまっすぐ立てて講義していた神名先生だけど、そこで、身体どころか顔の筋肉までだるだるに弛緩させたわたしに気づく。

「おい、お前。重要な話をしてるっていうのに、なんでそんなに気の抜けた面してんだ。おばあちゃんの時と、ぜんぜん態度が違くねーか?」

 誰のせいだと思っていやがるんだ。

 口答えしたいのはやまやまだけど、機嫌を損ねられて話が進まなくなっても面倒。わたしは、自分の頬を手のひらでペチペチと叩いてみせる。はいはい、ちゃんと聞きますね、という意思表示のつもりだ。

 しかし、ここにきてオバケとは。

 百万歩くらい譲って、神様からのお達しで、ピストルを使って人助け、そこまではいいとしよう。それだって、肝心な部分はまだ何の説明もされていないから、納得するにはかなり無理がある。

 それに追加して、守護霊? 低級霊? とたんに滲み出る嘘臭さ。語り手の人望にもよるんだろうけど。

「あぁ、もう十時過ぎたからな。ガキンチョはそろそろおねむの時間か」

 柱時計を見上げたあとで、見下した高慢な笑みをこちらに向ける神名先生。

 なんだ、やっぱり初対面の時のままじゃん。ムッとして、反論しようと口を開きかけたところに、神名先生が思ってもみなかったことを言った。

「詳しい話は二週間後にしよう」

「え!? 二週間後って、またここにくるの!?」

 思わず両方の肩を弾ませてしまう。嬉しいんじゃない。ガッカリを含んだ驚きだ。

「は? ちげーよ。お前、うちのクリニックに通院するんだろーが。二週間後に予約入れといてやったから、今度はバックレずにこいよな」

 神名先生は呆れて言った。

 そうだった。わたし、クリニックに行くのが嫌で、と言うか、この先生に再会するのが嫌で、途中で戦線離脱したんだった。

 まさか、その会いたくない相手に、結果的に捜し出されてしまうことになろうとは。

 話の続きはちょっと気になる。でも、それは不可思議な世界が舞台のコミックの、次巻が気になるのと一緒。オバケとか神様とか、現実ではできるだけ関わりたくない。

「え、えっと、昨日の診察代は払います」

 わたしはスクールバッグの中を漁る。

「迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。だから、あの、予約は取り消しということで……」

 頑張れ、わたし。

 メンタルクリニックは他にもある。払うべきものを払って、この人たちと縁を切ろう。ママには土下座してでも、病院を替えてもらおう。

 脳天気と言われたっていい。ヘタレでもいい。わたしは平穏に生きたいのだ。

 神名家の面々は揃って顔を見合わせて、そのあと、神名先生が口を開いた。

「だめだ」

「ぅええ? あ、あの、わたし、見たものも聞いたことも、誰にも話さないし」

「それはもちろんだし、甘奈には、これからもオレと関わっていかなきゃいけない義務がある」

「なんと!?」

 どういう義務だ。

「とりあえず、詳しいことは二週間後だ。家まで送っていってやるから、帰ろう。ご両親も心配なさってるだろうからな」




 森の中の一本道には、街灯がない。神名先生の持つLEDライトの明かりを頼りに、細くて暗い砂利道を、不本意にも並んで歩いた。

 見上げれば、木の枝に揺れるたくさんの黒い葉っぱが、星空を隠している。街の中ではあんなに輝いていた月なのに、恩恵である明かりはわずかにしか漏れてきていない。ライトが届く範囲以外は真っ暗だ。

 ホテルやクリニックがある通りは、先でバイパスに繋がることから、この時間でもそれなりに車の往来がある。そこまでなら、大した距離じゃない。バス停からは、バスに乗ってしまえばオートマチックに家に着く。一人でだって頑張れば帰れるって思っていた。

 でも、今となっては、院長先生やおばあさんに説得されてよかったって思う。

 夜が更けると、この道がこんなにも闇に支配されてしまうだなんて。想像以上だ。道なりに歩くことさえおぼつかないし、犯罪者がまぎれていたってきっと見つけられない。

 それに。

 先生は、オバケとかユーレイとかは存在するって言い切った。

 神名家で聞かされた話を、まるきり信じ切れたわけじゃないけど、そんなことを聞いたあとじゃ、独りぼっちはやっぱり心細い。

「で、甘奈はあんな時間までどこにいたワケ?」

 砂利道の中間くらいの場所で、神名先生が訊いてきた。

 ハッと顔を上げる。気がつけば、爪先から一メートルほど先で、ゆらゆらロウソクの灯みたいに揺れる、LEDライトの白い光をボンヤリ見つめていた。

「あ、ご、ごめんなさい今日は。バックレちゃって」

「あぁ、いいよもう」

「でも、忙しいのに……」

「いいって。済んだことだ。それより、どこにいたんだよって」

 グレーの髪をわしゃわしゃと掻きむしる神名先生の顔を、ぼんやりと見上げる。恐ろしく整った目鼻立ちって、暗い中でもちゃんとわかるんだなぁって知る。それに比べて、わたしの顔立ちはさぞやぼやけていることだろう。

「い、インターネットカフェに……」

「あー、なるほどなるほど。見つからねーわけだ。そういや、あの近くに新しくオープンしていたな」

 神名先生は納得してうなずいた。

「ずいぶん長時間ステイしたなぁ。場所柄、時間潰す方法には困らなかっただろうけど」

「はは……」

 乾いた笑いしか出せない。

 自分でも気がつかない間に意識を失って、一日のうちの四分の一も爆睡していたとか、この人にだけは絶対にバレたくない。バレたら、何て言ってバカにされるか。

「そっか。よかったよかった。変なやつらに声かけられて、フラフラついていったんじゃないかって心配したぞ」

「……そんなに隙ありそうに」

「見えるね」

 ですよね。

「あぁいうとこなら、飲食メニューも充実してたろ? なんで食わなかったんだよ? 金は持ってたんだろ?」

「ふ、ふぇええ!?」

 全身に電流が走ったみたいに痺れる。食べる間もなく寝ていたなんて、言えない。

「そ、それは、食欲がなかったので……」

 真実には違いない。あの時は、食べたら食べた分、リバースしてもったいないことになりそうだった。でも、言ってから気づく。コレ、完全に墓穴だ。

 先生の家で、おばあさんの手料理をバクバク食べていたわたしが、食欲がなかっただなんて。嘘だって突っ込んで欲しいって言っているようなもの。

 でも、しかたない。テーブルに並んだ料理はどれも、最高にわたしを誘惑するビジュアルとグッドスメルだったし、久しぶりにぐっすり眠ったおかげか、胃腸がすこぶる良好になってしまったんだもの。

 案の定、先生は今日いちばんの不機嫌をその顔に浮かべた。だけど、わたしが心配した展開にはならなかった。

「あんな時間まで飲まず食わずでいられるほどって、お前、どんだけクリニックにくるの嫌なんだよ」

「うぇ!? そこ? いや、だって」

「何が嫌なわけ」

「そ、それ、本当に言っていいの……?」

 アナタですけど。

 喉元まで出かかったけど、飲み込む。正直に言いたい気持ちは大いにあるけども、告白したあとのわたしの身の安全を保証してくれる人は、誰もいない。

 わたしにあんなことをしておいて、自分が拒絶されている自覚がないなんて、この人はどこまで自分に自信があるんだろう。羨ましい。

「ま、まさか」

 先生はハッと目を見開いた。わなわなと唇を震わせる。

「あ、やっと気づいた?」

 わたしに嫌われていることに。

「まさか甘奈、クリニックにきている他の女性患者を見て、この人たちもオレが診ているんだと思ったら、嫉妬してしまうんじゃ……」

 ガクッとうなだれるわたし。どこをどう解釈したら、そんな盛大な勘違いに繋がるの。

 先生はライトを持っていないほうの手で額を覆い、もう片方は感情のおもむくままに宙に掲げるから、白い光は木々を照らしてそこだけ丸く緑が映えた。

「しかたないよな。自分で言うのもなんだが、オレは素材の段階からスペシャリティ。しかしながら、そのオトコマエさに甘んじることはない。生きている限り自身の魅力を磨き続ける、向上心まである男」

「……どうしよう。どこをどう突っ込むべきかわからない。常人と思考が違いすぎて怖いよぅ、ママ」

 挙げ句、先生は眉をひそめながらも嬉しそうに、わたしの肩に手を置いた。

「でも、安心してくれ。どれだけの女性が言い寄ってこようと、オレは甘奈以外の女性には見向きもしない」

 むしろ、お願いだから見向きしてください。とは、百パーセント晴天のスマイルが怖くて言えない。

「……とりあえず、わたしに浮気の心配をさせたくないっていうなら、見た目にもう少し手を抜かれてはいかがでしょうか……?」

 イケメンがさらにランクアップしようと、まったく彼に興味のないわたしからしたら、どうでもいい。逆にダウンしようと、然り。

 どうしてわたし、この人にこんなに執着されているのだ?

「バカ言うなよ」

 そう言って、先生は自分の顔をライトで顎の下から照らす。ライトアップされた美術品ばりにキレイな顔が、まっすぐ目で射抜いてきた。

「手を抜いたら、モテなくなるだろ」

 知らんがな。ていうか、やっぱり他の女性からもキャーキャー言われたいんじゃん。

「女性にモテないってことは、どういうことかわかるか?」

「スミマセン、先生。わたし、モテたことないのでわかりません」

 わたしはシュバッと右手を挙げた。

「バカ。イコール、甘奈にもモテないってことだろ。嫌だ、そんなの」

 ロックオンされたまま、わたしの心臓に、スコン! と穴が開いた気がした。

 真顔で、しかも超がつく美形で、至近距離で、なんてことを言うのか。鼓動が速くなる。顔が熱くなる。一生の不覚。

「……も、ももももももも!」

 わたしはググッと先生の顎を押し返す。ひき潰されたカエルみたいなうめき声を出して、彫像みたいな顔が視界からそれた。

「もぉ! ここまででいいです! 一人で帰れる! お疲れ様でした!」

 道路に出るまであと半分。まっすぐな道だし、ダッシュして行けば暗くても大丈夫。わたしは先生の手が離れた隙をついて、きびすを返すと駆け出した。

「ま、待て待て待て! 家まで送っていくって」

「いいってば! 追いかけてこないでぇ!」

 わたしは後ろを振り返ることなく、手だけを後方に向けてブンブン振った。

 顔がいいって、タチが悪い。まったくそんなつもりなくても、不意打ちでときめかされてしまう。

 そう。わたしは、あの顔の造りにドキドキしただけ。神名先生自体に、じゃない。断じて、そんなことはない。

 わたしの心の中にいるのは、今でも望月くん。さっきみたいなこと、望月くんに言われたら、その余韻だけで三日は何も食べないで過ごせる。

 走るわたしのあとを、サカサカと小走りで神名先生が追ってきた。

「こんな時間に甘奈を一人で帰らせるとか、行方知れずになっただけでは飽き足らず、またオレを心配のドン底に突き落とす気か!」

「お願いだから、その顔でそんなこと言うなぁ!」

 わたしは走りながら、両方の耳をふさいだ。

「その顔で言うなって無理だろ! くっついてんだから! 着脱式じゃねぇぞ! 心配しちゃいけないのかよ!?」

「毛の先ほども心配してないクセにぃ!」

 わたしに医療従事者とは思えないような暴言を吐いてきたのは、つい昨日じゃないか。見下していたし、診察さえ面倒臭そうだった。あのチューが、そんなにも心境を引っくり返させたっていうの?

「それはどんな毛だ? 毛の種類にもよるぞ! 赤ちゃんの産毛ほどのか細さだって言うなら、そんな薄情なことはないって反論するし、もしもオレのパンツの中の縮れた」

「ぶわぁはぁあああ!! わたしを自己嫌悪のドン底に突き落とすなぁ!!」

 こんな下品でバカな、顔だけの男に一瞬でもときめいたとか、末代までの恥!

「甘奈が帰ってこないって聞いて、作業そっちのけでクリニックを飛び出したんだぞ! 財布もスマホも持たずに! そんなオレが、甘奈を本気で心配してないって言うのか!?」

 わたしの手首を掴んで、先生は言った。

 振り返ったそこにあった顔は、きゅっと眉毛が吊り上げられた、でも真っ赤な顔。その表情とセリフの内容に圧されて、わたしは怯んでしまう。

「……な、なんでそこまで」

 会ったばかりなのに。

「そ、それは……お母さんが」

 モゴモゴとつぶやく先生の顔は、ものすごく気まずそうに変わる。

「お母さん?」

 自分のお母さんのこと? この場面でお母さん?

 あれ? そういえば、あの家に神名先生のお母さんの姿はなかった。留守だったのかな。

 バカな上にマザコンなのかと、さらにウンザリしてきた矢先。目を閉じた見た目には天使のような先生の顔が、わたしの顔に覆いかぶさってきた。

 次の瞬間。

 腰の入ったフルスイングで、先生の横っ面にスクールバッグをぶち当てていた。ジレを身につけたイケメンが衝撃で吹っ飛ぶ。

 交通事故でも起きたみたいな音を立てて、砂利道に頭から突っ込んでいったけど、自業自得だ。知ったことではない。

 そもそも、初日にかましたスーパーキックで少しもダメージを受けていないようだし、今回も平気だろう。

 わたしはギュンッて空気を切るみたいにして反転。お尻を突き出して倒れ伏している先生に背中を向けた。

「帰ります!!」

「……ま、待って……甘奈ひゃん。一人で、帰るなって……きけん」

 弱々しい声が必死でわたしを止めていたけど、シカトした。




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