妹、異世界にて最強

海鷂魚

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三十五話

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「前方に敵——」
 というヴィルランドールさんの声は、
「馬車を降りろおおおおおおおお!」
 前方にいる魔物の轟音で掻き消えた。
 轟音というか。
 大音声。
 それが声に聞こえたのは、魔物と僕らに距離があったからではないだろうか。
 いつの間にか馬車を降りていたシロとクロが特攻。
「馬車が攻撃されない程度まで近づいてください!」
「慣れてますよ」
 自信気にいうヴィルランドールさん。なぜ慣れているのかは言及しない。それどころではないからだ。
 灯も遅れて馬車を降りて特攻した。
 そして馬車から半身を乗り出して前方を確認すると、戦いは始まっていた。
 道を塞いでいたのは複数の魔物だが、それを次々殴り倒して行くシロとクロ。だが、敵もしぶとく、その程度では死なない。二人は囲まれていた。そこに灯が突入。まずは一体の魔物をパンチで粉々にした。その凄まじい威力に全員が驚愕し、その隙をついてシロが魔物の首に蹴りを繰り出し、その斬撃のような蹴りは魔物の首を跳ね飛ばした。クロも応戦しているが、相手が悪い。かなりの巨体を持つ魔物だ。
 馬車が限界まで近づいて止まったところで、前のめりに馬車から僕とシバリアとザギは降りる。
「馬車は私が守っておく。行け!」
「はい!」
 ザギの指示で、ザギを置いて僕も前線に参加した。その後ろで、シバリアが援護する形だ。
 シバリアは回復魔法を得意とするが、攻撃的な魔法も扱えるようだ。クロが手こずっている巨大な魔物に、火の玉を発射した。それを魔物はギリギリで回避。その隙でクロが攻撃を仕掛けるが、体格差がありすぎる。クロの攻撃もあまり効いてなさそうだった。僕も見計らって突撃。木刀を抜いて、クロが相手する巨大な魔物の膝に木刀を振った。しかし、この攻撃は無力だったと言っていい。かなりの力で木刀を振ったが、ビクともしなかった。むしろその攻撃で、僕に隙が出来てしまい、気づいた頃には、その足は大きく振り上げられていた。このまま足を振り下ろされ、それが僕に直撃するだろう。すると、僕の体より太い足でのフルスイングの威力は、甚大。
 即死は免れない。
 なんて考えていると、右足を振り上げて、僕をあの世というゴールにシュートしようとしている魔物の、その右足を、灯が目にも留まらぬ速さで、地面からジャンプして、あり得ない方向にへし折った。
「グオオ!」
 足を折られた魔物は崩れるように倒れ、その倒壊から免れるように後ろへ下がった僕は、一命をとりとめた気分でいた。
 そして倒れた魔物の頭部を蹴って吹き飛ばした灯は、
「他の魔物も十体くらいやっといたよ。もういないと思う」
 と、笑顔でピースするのであった。
 いつの間にか、灯がほとんどの魔物を殺していた。その間十秒も満たない。凄まじい速さに、その威力。
 蹴られて脳みそが散らばった魔物の姿を見て、ぞっとする。
 自分が蹴られたらと思うのと、シュバルハで滅んでいた村の人々の死体を見たのを思い出す。だが。
 人間の死体よりはマシだと。そう思ってしまった僕は、よっぽどの悪人だ。
「つ、強いわね、アカリ」
 クロが口を開く。シロも含めて二人とも、灯の強さの片鱗を見ているので、そこまでの驚きはないだろうが、やはり実戦で目の当たりにすると、感想も違うだろう。僕も正直、灯の強さには引いている。
 巨大な魔物の死体が道の中心に転がっているので、それを灯の怪力でどかしてもらい、馬車で通過した。その際にも死体を馬車で踏み潰しながら走行したが、それについては、人間の死体を踏み潰すよりはマシだと考えることで、暗い気持ちを塞いだ。
「作戦というには幼稚だが、聞いてくれるか」
 ザギが口を開いた。
「後ろから見ていて——シロさんやクロさんには失礼だが、アカリさんの強さは、私たちの何百倍もある、と考えた」
「その考えに異論はないわ」
 言うのはクロだ。シロも隣で頷いている。僕は初めから戦力外のような言い方をされているが、それで僕も文句を言うほど何かを考えるわけではなかった。戦力外であるのは事実だし。
「そして、私たちが前線に出て、もし私たちより強い魔物が現れた場合。私たちでは苦戦する魔物も、アカリさんなら一撃で殺せるだろう。その時、弱い私たちはアカリさんの足枷にしかならない。そうとも考えた」
「続けていいわよ」
 ザギの目配せに応えるクロ。
 ザギは話を続けた。
「なら、私たちにできることは、前線で戦うことではなく、アカリさんの援護だと思う。それならアカリさんの足手まといになることもないだろう」
「まあ、理に適っておるな。儂としてみたら、儂より強い人間がいること自体、悔しいしありえないとも思っとったが、実力を見れば悔しさよりも、アカリの戦力をどう活かすかを考えてしまうな」
「賛成ね」
「私も異論はないです。もともとみんなの援護役だし」
 皆、ザギの言うことに賛同した。最後は僕だが、言うまでもない。
「賛成だ」
 まあ、言うのだが。
「みんな、ありがとう。私、精一杯頑張るよ」
 灯もやる気を出していることだし、話はまとまった。
「少々相談があるのですが」
 まとまったところで、運転席から聞こえてきたのはヴィルランドールさんの声だった。
「奇妙なことに、この道はシュバルハの王都と、アルバの王都を繋ぐ道のりになっております。つまりは、戦争の最前線。また魔物に道を塞がれているでしょう。回り道をしようと思うのですが、ルートは如何しますかな」
「あ、それで思いついたことがあるよ」
 灯が挙手をしながら発言した。
「私が先頭を走って、馬車を先導する。道が王都に続いているなら、単純な道なんでしょ? で、また道が塞がれてたら私が全部その塞がりを潰す」
 それでどう? と、灯。
「そんな体力——」
 と、言いかけたところで、灯にならあるだろうな、という結論が瞬時に出た。
「後ろからの魔物なら、私の魔法で応戦できますし、いい案じゃないでしょうか。まさにぶっ飛んだ作戦ですけど、アカリさん自身がぶっ飛んでいますから、適材適所でしょうね」
 シバリアが納得するように頷いていると、
「早速、前方に魔物です!」
 と、ヴィルランドールさんの声が響いた。
「じゃあ、しばらく前で戦って、もし疲れたら馬車に戻るよ。その時にその時の作戦を考えよう!」
 なんて言って、灯は出て行った。その時にその時の作戦を考えていたら遅すぎるので、灯が前方で道を切り開いている間に、僕らで考えなくてはならない。
 しばらく前方で灯を見ていたが、一瞬で馬車を追い抜き、瞬間で敵を殺していく。雑に、灯は敵を拳で殴るだけだが、その威力が尋常ではない。拳の触れた部分が粉々に吹き飛ぶのだから、そんな奴が戦っていると、十数体の魔物の集団なら、三秒で片がついた。恐ろしい力を持っている。
「この作戦で灯がへばった場合、僕たちが前線に出るしかないな……」
「だが、いちいち馬車から降りて戦闘するよりは、こっちの方が効率的だ。秒で集団を皆殺しにするアカリさんの力は甚大で偉大だな」
 まるで僕たちが出る幕のないような言い方をするザギ。だが、もしものことがあった時の状況を考えて行動しなければならないのも確かだろう。
「まあ、儂らが全力でアカリの休む時間を稼ぐしかあるまいな。一日中走り回って敵を殺すだけの体力があるとは思うが」
「どんな体力だよ……」
「戦士として言わせて貰えば、彼女の力は、魔物も一撃で殺せるのではないかと想像させるわね」
 クロが言う。だが、僕はそれに異論を唱えざるを得ない。
「そんな、魔物の力も魔王の力も未知数なのに」
「いや、あいつらの力は知れておる。お主らが異世界人だから知らんだけじゃ。魔王は一晩で、シュバルハの三大都市一つを潰した実力を持っている——が、アカリを主観に置くと、一晩かけてやっと都市一つを潰せる程度の力しか持っておらんとも言える」
「魔物でも、小さな村一つ潰すのに何時間もかかるものね」
「人間も、魔法という武器を使ってかなりの戦闘力を持っておる。だから魔物と戦えるのじゃ。それでも少し魔物が勝る……。その魔物を数秒もかからずに何十体も殺戮できるアカリを見ていると、その牙は魔王に余裕で届くであろう」
 シロとクロが説明してくれて、この戦いにおいて灯の強さというものを、なんとなく実感しつつあった。
 魔王も余裕で倒せるのか、灯は?
 この世界で生き抜いてきたハーフのシロとクロが言うのだから、灯の実力に遜色はないだろう。
 だが、心配になってしまうのは、理屈でなく、家族愛から来ている。
 本当にもしものことは起こらないのだろうか。そんな不安は、灯が魔物をいくら倒したところで、消えやしないだろうと思う。
 もやもやする不安を胸に残しつつ、話している間にとっくに魔物を殺して馬車を先導する灯を見て、また、違うもしもを考えていた。
 灯が、魔王になってしまう可能性を。
 そんな突拍子も無いことを、頭のどこかで、考えていた。
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