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第139話

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 俺が帰ると、カムイ、俺、ファルナでプチ会議が行われた。

「今回の会議は犯罪者ギルドが勢力を増している件についてですわ。
 今5つの犯罪者組織が力を持ち始め、更にその5つがお互いを飲み込もうと勢力争いをしていますわね」

 ゲームだと盗賊ギルドやアサシンギルドは序盤でサクッと倒せるレベル上げ用の相手だ。
 でも、転生後短剣が戦士に統合され強化され、使いにくかった闇魔導士は魔導士になり強くなった。
 そして犯罪者ギルドの天敵である教会は権力闘争で機能しておらず、結果犯罪者の勢力は急拡大している。

「次は犯罪者ギルドを潰すのか?」
「そうですわね。と言ってもたった1回の襲撃で解決できるほど簡単な敵ではありませんわ」

「まあ、大きい組織が5つあるんだもんな」

 5回は襲撃しないといけない計算になるし、犯罪者は不利になると我先に逃げだす。
 実質数十回攻める必要があるか。

「今、最も力を持つギルドが暗殺ギルドですわ。ここは教会のデーブと闇のつながりがありますわね。更に退学になったドリルも盗賊ギルドと繋がっていますわ。特に最近わたくし達が魔物狩りに出かけたタイミングで組織的に盗みを働くようになり、思うように魔物狩りに出かけることが出来ませんわ」

「隙はついてくるだろうな。それなら出かけたふりをして急いで戻ればいいんじゃないか?」
「そうですわね。ただ、それよりも厄介な問題がありますわ」

「ん?」
「犯罪者を捕まえようとすると、『妹が病気だからどうしてもポーションが必要なんだ!』と泣きながら訴えかけてくるのですわ。新兵が多く、そうやって注意を引き付けている内に後ろから奇襲を受けて逃げられるケースが頻発していますわね」

「新兵か、レベル自体低くて犯罪者より弱い場合もある。更に泣き落としで同情を誘って漬け込んでくるか」

 この国はアルナやスティンガーなどのやばい奴もいるが、兵士はまともな者が多い。
 それに新兵は元々一般人だ。
 奇襲への耐性は低いし、時間をかけた兵ではなく、レベルを上げただけで、対策訓練や教育は行っている最中だからそういうのには弱いか。
 
「難しい、問題だな」
「ん?元の世界じゃ、もっと厳しい対応をしていただろ?日本以外を見れば答えはあると思う」

「すまないが、思い、つかない」
「ハヤト、教えて欲しいですわ。どのように対策をしていたのか」
「それは……」



 ◇



「そこまで、多く、案が出てくる、ハヤトは、軍師だな」
「俺は弱き者だからな。普通に対応してたらやられるだけだ」

「確かに効果的ですわね。ですが、最初に前に出て汚れ役を買って出る者がいなければ成立しませんわ」
「それは、俺がやろう。でも、対策はすぐに実行してくれ」
「分かりましたわ」



【王国歴1000年春の月64日】 

 昨日はゆっくり休み、朝になるとエースが出かけて行った。
 遠征して魔物を倒してくるんだそうだ。

 ヒメはまだ療養中だけど、様子を見に行こうかな。
 ベッドで寝ているなら逃げられる事も無いだろう。

 俺はヒメの部屋に行った。

 コンコン!

「ハヤトだけど、今入っていいか?」
「え!ちょっと待ってて!」

 がさがさと音が聞こえる。
 俺は10分程待った。

「いいよ」

 ヒメを見ると髪がセットされていた。

「体の調子はどうだ?」
「ほとんど良くなったよ、でもファルナに休むように言われていたんだよ」
「ふ、ファルナ母さんか」
「そう、ファルナ母さん」

「やっと普通に話してくれたな」
「そ、そうかな、あ、逃げちゃってたから?」
「うん。朝食を一緒に食べに行かないか?」
「そ、そうだね。いこっか」

 ヒメは髪を何度もいじりながら言った。


 その後の食事を一緒に摂るがヒメはあまり話さなかった。
 食事が終わると、外が騒がしい。

 庭園にはガラの悪そうな集団が刃物や杖を持って叫んでいた。

「てめーらあ!学園だか何だか知らねーけどよお!調子に乗ってんじゃねえぞお!」
「噴水を壊そうぜえ!」

 こん棒で噴水を破壊していく。
 まるでヤンキーの殴り込みのようだ。
 学園の護衛をする女性兵士2人が止めに行って短剣で斬りつけられた。

 まずい!
 兵士が殺されるぞ!

「全員武装して前に出るんだ!」

 俺は大声で叫んだ。

 学園生が武器を構えて外に出るが、誰も仕切る者がいない。
 俺が前に出た。

「おいおいおいおい!暴力で解決するのかよ!」
「お前らは兵士に斬りかかっただろ?ここは立ち入り禁止だ」

 俺は斬られて倒れた兵士を後ろにいるヒメの所まで下げた。

「治療してくれ」
「分かったよ」


「俺はよお、抗議しに来たのよ!」
「何がだ?」

「俺の母親はなあ!魔物に殺された!」

 ガラが悪い者たちは続いて一斉に叫び出した。

「私のお姉は兵士になって戻ってこなかったんだよお。国のせいだ!」
「あたいの弟は食べ物が無くて死んだ!王が何もしなかったからだよお!」
「国が俺達から吸い上げているおかげで俺達は貧乏なんだよお!」

「そうか、よく分かった」

 俺は前にいる一人を斬り殺した。

 国のせい、人のせいと言い、人に斬りかかる。
 こんなことは許されない。
 それが許されるなら、国のせいだと言って周りの人を皆殺しにしていい事になる。

「てめえ!何しやがる!」

 俺は叫ぶ男を斬り殺す。

「こいつらは兵士を殺そうとした!全員倒せ!責任は俺が取る!今は緊急事態を発令中だ!生死は問わない!全力で犯罪者を鎮圧しろ!」

 会議で出した案その1
 緊急事態の発令だ。

 元の世界では似たような事が普通に行われていた。
 
・東南アジアのある国で麻薬が蔓延し、大統領が麻薬を持っている者は裁判無しで射殺して良い事にした結果、犯罪者が大量に自首しに来て、麻薬問題は解決に向かう事となった。

・ヨーロッパのある国では緊急事態として警察官がアサルトライフルを装備し警備を強化した。

 今のままこちらが攻撃をしないとなれば犯罪者の行動はどんどん過激になっていく。
 新兵や学園生は殺しに慣れていない。
 誰かが責任を取って最初に斬り倒し、『俺が責任を取る』と言う必要がある。
 ここまでしても攻撃出来ない者もいるだろうけど、出来る事はやる。

 そして緊急事態の発令をしても、実際に犯罪者は攻撃を受けなければ思い知る事は無い。
 その為もあって俺が前に出て斬り倒したのだ。

 俺の体が黒いオーラで包まれる。
 ヒメのソウルスキルだ。

「みんな!戦って!」

 ヒメが身を削って俺にカースウォーをかけながら必死で叫んだ。
 その事で攻撃を始める者が出て来て、ヒメを守るように盾持ちがガードする。

「強化弾丸!」

 ストレージから強化弾丸を取り出し、手の甲に押し付ける。

『武具の性能が2倍にアップしました』

 俺は奴らを斬り倒していく。

『レベルが33から34に上がりました』

「な、何でだ!ここにエースはいねえはずだ!」
「話が違うわよ!これじゃ殺されるわ!」

 会議で出した案その2
 情報操作だ。
 カムイ達エース部隊が今日魔物狩りに出かける噂を意図的に流した。
 引っかかるかどうかは分からなかったけど見事に引っかかったか。

 俺は黒いオーラをまといつつ、犯罪者を斬り殺していく。

『レベルが34から35に上がりました』

『レベルが35から36に上がりました』

『レベルが36から37に上がりました』

 行ける、こちらの攻撃的な対応で相手が動揺している!

『レベルが37から38に上がりました』

 後ろから知った顔が姿を現す。
 アサシンギルドのボス、ファングか!
 と言う事は今戦っているのは暗殺ギルド。

「てめーら!舐められてんじゃねー!こんな雑魚は俺が瞬殺してやるよ!」

 ファングはゲームに出てくるけど、序盤で簡単に倒せる敵だ。
 だが、短剣の強化で、厄介な相手に変わっているらしい。
 会議で出した3つ目の案を使うか。

「セイコウコウボウ!後は頼む!」
「やっとかー!暴れたくてうずうずしていたんだ」

 学園の屋上からセイコウコウボウが飛び降りて地面がめり込む。

 背が高く、鬼の金棒に見える大きい武器を右手に持ち、ファングをにやにやしながら見る。

 会議で出した案その3
 伏兵の配置だ。

 犯罪者が出てこなければセイコウコウボウの機嫌が悪くなる所だったが、引っかかってくれて助かる。

 俺が倒す必要はない。
 セイコウコウボウが倒してもいいのだ。

「てめー、何かっこつけてんだよ!舐めてんじゃねーぞ!」
「ハヤト、殺しても良いんだろ?」

「いい、俺の責任だ!」

 セイコウコウボウは口角を釣り上げた。

「ファング、お前犯罪者なんだろ?それにそこそこ強そうだ」
「ああ!だから何なんだよ!?」

 セイコウコウボウは更に口角を釣り上げた。
 そして武器ファングに近づき武器を振った。

 ドゴオオン!

 ファングが吹き飛び、塀に衝突して壊れた。
 セイコウコウボウがこん棒を振る姿はまるで鬼のようだ。

「ははははははははははははははははははは!!!」

 セイコウコウボウは笑いながら犯罪者を殴り殺していく。

「犯罪者が罠にはまってくれたねえ!これで堂々と殺せるよ!」

 犯罪者と一緒に噴水が壊れ、庭園が壊され、吹き飛ばされた犯罪者とその武器が学園の建物を破壊していく。

「俺達は嵌められたのか!」
「まだ死にたくないわ!」

 犯罪者が逃げ出す。

「もう終わりだ!帰るぞ!」

 ファングが逃げ出したことで他の者も逃げ出す。

 ファングか、セイコウコウボウの攻撃を受けて生き残ったか。
 ファングは俺より強い!

「ああ、楽しかったなあ」

 セイコウコウボウは満足したような顔をして風呂に向かった。

 周りを見ると塀も噴水も庭園も所々爆撃を受けたようにボロボロになっている。
 ほぼセイコウコウボウの仕業だ。

 俺の責任か。
 ダラダラと汗が出てきた。
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