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第127話
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【ヒメ視点】
ハヤト君は私の叫びを無視して防壁の外に出て刀を構えた。
ハヤト君は強い。
私とは心が違う、ハヤト君は自分の弱い心と向き合える強さを持っている。
4体の大ボスが後ろからハヤト君を見つめ、他のボスがハヤト君を攻撃する。
マジックブルの魔法攻撃をハヤト君は最小限の動きで出来るだけ避けるけど、ちょっとずつハヤト君の服が血で赤くなっていく。
動きの速いスピードラビットが群れで走り地面が揺れる。
魔法攻撃が止むとハヤト君だけを狙ってスピードラビットが攻撃をしている。
ハヤト君はまるで仙人のように最小限の動きで刀を振る。
ボスに囲まれたハヤト君が小人のように見える。
ボスが大きすぎるんだ。
ハヤト君を囲んだスピードラビットの巨体が少しずつ魔石とドロップ品に変わっていく。
周りからは歓声が聞こえた。
「凄い!ハヤトさんに任せておけば大丈夫ですよ!」
「一人で倒せるんじゃない?」
「死ぬかと思ったけどもう安心だよ」
違う。
ハヤト君はあまり攻撃を受けていないけど、刀で攻撃を受けるだけで少しずつHPを削られている。
刀と服が少しずつボロボロになって、ハヤト君は死に向かっている。
能力値が足りない。
ハヤト君は私と違って強い。
でもこのままじゃ死んじゃう。
もっとハヤト君のレベルが高ければ負けないのに。
私は、今までの事を一瞬で思い出していた。
私はパパにもママにも『ぼーっとしている』と言われていた。
多分その通りなんだと思う。
勉強も運動も普通で、得意な事はなにも無い。
なんとなく生きていて、特にやりたい事も無い。
この世界に転移してからも何となく生きていた。
でも、そんな私をハヤト君は何度も助けてくれた。
何度も助けてボロボロになって、そんなハヤト君を私は好きになった。
私は、ハヤト君を独占したいと思った。
こんな気持ちは初めてだった。
『ハヤト君を私だけのものにしたい』
それだけははっきりしていて、それ以外は転生してからもぼーっとしていた。
転生する前に女神さまとお話をした。
「ヒメ、ハヤトを独占したい気持ちは分かりますが、そうですね。ここにチョウチョがいます」
女神さまは魔法で作った輝くチョウチョを飛ばせて自分の指と上に止めた。
「きれいなチョウチョを捕まえようとして掴んでしまうと」
女神はチョウチョをつかもうとする。
チョウチョの光がばらばらになって砕けるように地面に落ちて行った。
「ヒメがしたいと思っているのはこういう事です。ハヤトはあなたの物ではありません。自由にすることは出来ないのです。ヒメ、意味が分かりますね?」
「はい」
「チョウチョが指にとまってくれたなら、眺めて楽しむことは出来ます。ですが、いつ飛び立つか、それは操作できません。捕まえてがんじがらめにしようとすればするほどチョウチョは離れていきます」
「わかり、ます」
女神さまの言いたい事はよく分かった。
でも、自分を変えることが出来ない。
転生してからも何となく魔導士を選択して、なんとなく生きて、なんとなく人を助けた。
助けてお礼を言われるのは嬉しいけど、その時の感覚で生きていたように思う。
暇が出来るとハヤト君の事を考えて、だんだんうまく話すことも出来なくなってくる。
ファルナに助けられてレベル50を超えた頃、私はソウルスキルを覚えた。
『健康体』
すべての回復力が上昇して、状態異常に強くなる。
もやっとしたような能力で、何をしたいのか分からない私の心のようだと思った。
ファルナにソウルスキルの事を話すと気を使われた。
「おめでとうございます。その、効果範囲が広い能力ですわね。魔導士としては有用ですわね。MPの回復力が高いのは強みですわよ」
多分、私がぼーっとしているからどうしたいか分からないようなソウルスキルになったんだ。
ソウルスキルは私の心を現している。
ソウル、魂は私の写し鏡だ。
私は現実に引き戻された。
私は死んでいくハヤト君を見て思った。
ハヤト君を救いたい。
MPが無い、でも、それでもハヤト君を救いたい。
私の力をハヤト君に分けてあげることが出来たなら、どんなにいいだろう?
ハヤト君が失った力を私が与える事が出来たらどんなに幸福だろう?
私の中にある温かい何かが燃えるのを感じた。
「ヒメ!体が光ってるよ!」
「大丈夫!?」
『ソウルスキルを取得しました』
ああ、そうか、私の心は……
でも、それでいい。
私の心が黒くても、ハヤト君の助けになれる。
私はハヤト君のように強くない。
でも、それでも助けになれる。
私は、ソウルスキルを使った。
「カースウォー・ギフト」
ハヤト君の体が黒いオーラをまとった。
ハヤト君は私の叫びを無視して防壁の外に出て刀を構えた。
ハヤト君は強い。
私とは心が違う、ハヤト君は自分の弱い心と向き合える強さを持っている。
4体の大ボスが後ろからハヤト君を見つめ、他のボスがハヤト君を攻撃する。
マジックブルの魔法攻撃をハヤト君は最小限の動きで出来るだけ避けるけど、ちょっとずつハヤト君の服が血で赤くなっていく。
動きの速いスピードラビットが群れで走り地面が揺れる。
魔法攻撃が止むとハヤト君だけを狙ってスピードラビットが攻撃をしている。
ハヤト君はまるで仙人のように最小限の動きで刀を振る。
ボスに囲まれたハヤト君が小人のように見える。
ボスが大きすぎるんだ。
ハヤト君を囲んだスピードラビットの巨体が少しずつ魔石とドロップ品に変わっていく。
周りからは歓声が聞こえた。
「凄い!ハヤトさんに任せておけば大丈夫ですよ!」
「一人で倒せるんじゃない?」
「死ぬかと思ったけどもう安心だよ」
違う。
ハヤト君はあまり攻撃を受けていないけど、刀で攻撃を受けるだけで少しずつHPを削られている。
刀と服が少しずつボロボロになって、ハヤト君は死に向かっている。
能力値が足りない。
ハヤト君は私と違って強い。
でもこのままじゃ死んじゃう。
もっとハヤト君のレベルが高ければ負けないのに。
私は、今までの事を一瞬で思い出していた。
私はパパにもママにも『ぼーっとしている』と言われていた。
多分その通りなんだと思う。
勉強も運動も普通で、得意な事はなにも無い。
なんとなく生きていて、特にやりたい事も無い。
この世界に転移してからも何となく生きていた。
でも、そんな私をハヤト君は何度も助けてくれた。
何度も助けてボロボロになって、そんなハヤト君を私は好きになった。
私は、ハヤト君を独占したいと思った。
こんな気持ちは初めてだった。
『ハヤト君を私だけのものにしたい』
それだけははっきりしていて、それ以外は転生してからもぼーっとしていた。
転生する前に女神さまとお話をした。
「ヒメ、ハヤトを独占したい気持ちは分かりますが、そうですね。ここにチョウチョがいます」
女神さまは魔法で作った輝くチョウチョを飛ばせて自分の指と上に止めた。
「きれいなチョウチョを捕まえようとして掴んでしまうと」
女神はチョウチョをつかもうとする。
チョウチョの光がばらばらになって砕けるように地面に落ちて行った。
「ヒメがしたいと思っているのはこういう事です。ハヤトはあなたの物ではありません。自由にすることは出来ないのです。ヒメ、意味が分かりますね?」
「はい」
「チョウチョが指にとまってくれたなら、眺めて楽しむことは出来ます。ですが、いつ飛び立つか、それは操作できません。捕まえてがんじがらめにしようとすればするほどチョウチョは離れていきます」
「わかり、ます」
女神さまの言いたい事はよく分かった。
でも、自分を変えることが出来ない。
転生してからも何となく魔導士を選択して、なんとなく生きて、なんとなく人を助けた。
助けてお礼を言われるのは嬉しいけど、その時の感覚で生きていたように思う。
暇が出来るとハヤト君の事を考えて、だんだんうまく話すことも出来なくなってくる。
ファルナに助けられてレベル50を超えた頃、私はソウルスキルを覚えた。
『健康体』
すべての回復力が上昇して、状態異常に強くなる。
もやっとしたような能力で、何をしたいのか分からない私の心のようだと思った。
ファルナにソウルスキルの事を話すと気を使われた。
「おめでとうございます。その、効果範囲が広い能力ですわね。魔導士としては有用ですわね。MPの回復力が高いのは強みですわよ」
多分、私がぼーっとしているからどうしたいか分からないようなソウルスキルになったんだ。
ソウルスキルは私の心を現している。
ソウル、魂は私の写し鏡だ。
私は現実に引き戻された。
私は死んでいくハヤト君を見て思った。
ハヤト君を救いたい。
MPが無い、でも、それでもハヤト君を救いたい。
私の力をハヤト君に分けてあげることが出来たなら、どんなにいいだろう?
ハヤト君が失った力を私が与える事が出来たらどんなに幸福だろう?
私の中にある温かい何かが燃えるのを感じた。
「ヒメ!体が光ってるよ!」
「大丈夫!?」
『ソウルスキルを取得しました』
ああ、そうか、私の心は……
でも、それでいい。
私の心が黒くても、ハヤト君の助けになれる。
私はハヤト君のように強くない。
でも、それでも助けになれる。
私は、ソウルスキルを使った。
「カースウォー・ギフト」
ハヤト君の体が黒いオーラをまとった。
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