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第118話

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 俺は早めに食事を摂って闘技場に向かった。

「ハヤトさん、こちらへどうぞ!」
 
 女性の兵士が俺を案内する。

「なんだか、顔色が悪いですね」
「うん、武具の耐久力が無くて、無理して魔力弾丸を作って耐久力を回復させたんだ」
「それはいけませんね。魔力ポーションを飲んでください」
「全部寄付した」

「差し上げますよ?」
「いや、でもそれは新兵を教育する時に使うだろ?俺はこのまま出るよ」

「耐久力が無いんですよね?」
「少しだけ回復したから大丈夫だ。少し休むよ」
「……分かりました」

 後でポーションを買っておこう。
 思ったより使う機会が増えそうだ。

 俺はボロボロの武具で、リングに上がった。

 先にリングに上がっていたアサヒが笑う。

「はははははは!なんだい!そのみすぼらしい装備は!」
「武具の耐久力を回復出来なかった」

「ぷ!くくくく、はははははははははは!ハヤト、君にお似合いだよ!そうだ!今日の戦いでも余興をしようか。前回のように君に乗せられて引き分けに持ち込まれたら困るからバトルモードが始まる前に済ませて置こうじゃないか!」

 えー!
 前回はアサヒが自分で気持ち良くなるように酔って話し続けたんだろ?
 俺のせいじゃないよな?
 いや、こいつは何かあると人のせいにする病気だ。
 スルーだ。

「何をするんだ?」
「お互いにステータスを開示するんだ。まずはハヤトからだ!」

 俺はステータスを開示した。


 ハヤト 男
 レベル:10
 ステータスポイント:0
 スキルポイント:4
 ジョブ:ハイブリッド
 体力:10
 魔力:12
 敏捷:16  
 技量:10  
 魅力:52  
 スキル・攻の紋章LV3・防の紋章LV3・銃の紋章LV3・収納の紋章LV3・カートリッジの紋章LV3・リジェネLV3・経験値取得増加LV4・強化の紋章LV0・きゅう???
 武器 刀:90 ハンドガン:30(最大10発) 防具 ミリタリージャケット:60

「ぷぷ!くくくく!なんだい!このステータスは!
 そんなにボロボロになるまで戦ってたったのレベル10なのかい!?
 それに、戦闘力に影響しない魅力だけに振って、そうか!無能だからここまで上げないと大変なんだね!
 回復力を上げないと体までボロボロになってしまうんだ!見た感じ戦闘に役立ちそうなスキルがほとんどないようだね?
 武具も弱すぎるよ!ははははははははははは!さすがだよ!さすが無能のハイブリッドだよ!ははははは!」

「じゃあ始めようか」
「待つんだ。僕のステータスがまだだよ!」


 アサヒ 男
 レベル:35
 ステータスポイント:0
 スキルポイント:2
 ジョブ:戦士
 体力:120
 魔力:30
 敏捷:130  
 技量:30  
 魅力:40  
 スキル・刀LV10・斬月LVLV5・三日月LV7・月光LV5・感知LV5・ステップLV5・カウンターLV5・隠密LV5
 武器 輪廻の刀:400 ・防具 輪廻の衣:300

 強い、能力値は最低限の部分を確保しつつ体力と敏捷を上げて戦士の強みを生かすよう考えられている。

 スキル枠もしっかり2枠開けて今後に対応できるよう余力を残しているし、効率よくLVアップ出来るLV5までしっかり上げている。
 LV10まで上げるには11レベル分のスキルポイントが必要になるが、LV5までなら3レベル分、15ポイントのスキルポイントがあれば効率よくLVを上げられるのだ。
 しかも輪廻装備は俺が転生前に装備していた。
 こいつは俺を悔しがらせたくてわざとやってないか?

「驚いたかい!僕の急成長を見て希望を無くすのは分かるよ!でもこれは女神の神聖な戦いなんだ!最後までやり遂げようじゃないか!」
「分かった。始めよう」

「待つんだ!前回と同じ3分の勝負は短すぎるんだ!5分に変えよう!おっと、勘違いしないでくれよ。倒そうと思えば一瞬で倒せるよ!でもハヤトには分からせてあげないといけないんだ!君は自分の無能を噛み締める必要があるよ!その為に僕が教えてあげよう!」

「5分でバトルモードを開始する。始めようか」

「「認証!」」

「バトルモードの始まりだよおおおおおおおおおお!!」

 アサヒが俺と刀で壁に吹き飛ばす。
 俺は必至でつばぜり合いをするが、アサヒは一瞬で後ろに下がってすぐ前に出る。
 そして何度もいたぶるように手加減をしつつ刀を振り回した。

「ははははは!どうしたんだい!手も足も出ないじゃないか!防ぐだけで精いっぱいかい?僕は手加減をしているよ!はははは!ははははははははははははははは!」

 アサヒは俺を苦しめるように手加減をしつつ刀で乱打を繰り返す。

「はははははははは!はははははははは!」

 アサヒが攻撃の速度を上げていく。

 時間の流れが遅くなる。

 視界に色が無くなる。

 俺はアサヒの動きがなんとなく分かった。
 次どう動くか、次どういう攻撃をして来るか分かるのだ。

 だが、能力値の差が大きすぎる。
 
 アサヒに攻撃を当てる未来が見えない。

「まるでカメのようだ!甲羅に引っ込んで守る事しか出来ないのろまのカメだよおおおおお!!」

 アサヒの攻撃が威力を増していく。
 俺の刀が悲鳴を上げて嫌なしなり方をし始めた。
 刀の耐久力がどんどん無くなっていく。

 連撃を何度も刀で受け、ついに俺の刀が破壊され、アサヒの横一線が俺にヒットした。

「あっけない!弱すぎるよ!ハヤトの無能を体で分からせてやりたかったのに!ははははははははは!」

『アサヒとハヤトのバトルモードはこれで終わりです。次のバトルモードはもうありません。お疲れさまでした』

「ハヤトがあまりに弱すぎて女神も呆れているんじゃないかい!?」
「そうか、お疲れ様」



【カムイ視点】

 アサヒとハヤトのバトルモードでを見てハヤトの凄さを分かった者は何人いるだろうか?

 セイコウコウボウはハヤトを見てにやにやと笑っている。
 俺と……セイコウコウボウだけはハヤトの力に気づいているか。

 ハヤトはあれだけの能力差で一切攻撃を受けていない。
 途中からアサヒが本気を出し始めて攻撃を受けはした。
 だがあれは刀の耐久力がゼロになった事によって武器破壊により攻撃を受けたに過ぎない。

 攻撃速度だけで考えてもハヤトの凄さが分かる。
 ハヤトの敏捷はたったの16だ。

 それに対してアサヒの敏捷は130、加えて刀LV10な事で攻撃モーションは1.5倍になる。そう考えればアサヒの攻撃速度は195と考えて良い

 ハヤトの攻撃速度16VSアサヒの攻撃速度195。
 攻撃速度だけでも10倍以上の差がある、それであれだけ打ち合えるか。
 普通なら瞬殺される。

 アサヒのプレイヤースキルは決して低くはない。
 徐々に強くなっている。
 だがそのアサヒにあれだけ打ち合って見せた。
 

 それと、ハヤトの能力値だ。
 ハヤトがダンジョンの1階でレベル上げをしている件は聞いている。
 魅力以外の能力値を10以上に上げてから魅力だけを伸ばしていたのか。
 これは、『ダンジョンの1階なら他の能力値はこれ以上必要ない』と言っているようなものだ。

 能力値以上に体を操ることが出来ている証拠だ。
 体を動かすのは魂だ。

 ハヤトの魂は強くなっている。
 ハヤトにダンジョン2階に行ってもらうようファルナに言おう。
 敵が弱すぎる事でハヤトの能力値が偏り始めている。

 セイコウコウボウがリングに飛び降り、嬉しそうにハヤトに質問をしている。
 ハヤト、セイコウコウボウに目を付けられているな。
 だが、これはセイコウコウボウが『ハヤトは強くなるよ』と暗に言っているようなものだ。

 アサヒが怒ってセイコウコウボウに詰め寄った。

「だから何でハヤトだけがもてはやされているんだ!おかしいんだよ!!」
「アサヒ、うるさいよ」

 セイコウコウボウがアサヒを殴って吹き飛ばした。
 
「ごぼおお!!」

 アサヒは壁にぶつかり気を失った。
 これでアサヒは、ハヤトではなく俺と、セイコウコウボウに目を付けるようになるか。

「経験値取得増加の効果は?」
「今LV4で、魔物を倒した時に4倍の経験値が入って来る」
「LV10になれば10倍の経験値が入って来るのかな?」
「多分、そうだと思う」

「ハイブリッドの能力はまるでバトルセンスの土台を鍛える為にあるようだね」
「そうなのか、俺には紋章魔法の特化に思えてきた」

「楽しみだ。早くレベルを上げようか」
「今頑張っているけど、まだダンジョンの1階にいるから大変なんだ。ファルナにダンジョンの2階に行けるように話をする予定だ」

「ファルナは?今どこ?」
「分からない」
「おーい!!ファルナは今どこにいるんだ!!?」

 女性の兵士が答える。

「今は城で政務を行っています!」
「よーし!すぐ行こう!今行こう」

 セイコウコウボウがハヤトを抱えて城に向かう。
 セイコウコウボウ、子供のように急に動き出すか。
 でも、ハヤトは質問攻めを抜け出せてよかったのかもしれない。

 このバトルモードを見て、ハイブリッドになろうとする者は出ないだろう。
 だが、4倍の経験値取得か。
 ハヤトは解き放たれ、目立たなくなってから一気に伸びる、そんな予感がした。



 カムイの予想通り、ハイブリッドを選択する者は1人も現れなかった。
 多くの者が扱いやすい魔導士にクラスチェンジした。
 だがそれは、多様性を損なう結果をもたらす事を皆が思い知るのはまだ先となる。

 そして、ハヤトはアサヒとのバトルモードが終わってから、急速に覚醒していく事になる。





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