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第115話

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 シスターちゃんに事情を説明する為エリスの元へと向かう。

 シスターちゃんは自分の身長より大きい両手剣をぶんぶんと振り、笑顔を浮かべていた。

「シスターちゃん、今から会議に出席するんだけど長引くかもしれない。状況次第では明日も明後日も出席する」

「それはいけないのです!私も会議に参加するのです!」

 エリスがなだめるように言った。

「シスターちゃんが参加しても、会議が短くなるか分からないよ?」

「それでも動くのです!デートの邪魔はさせないのです!」

 こうして俺とシスターちゃんは王城の会議室に入った。

 細長いテーブルの左を見ると教会の重鎮が4人並び、セイコウコウボウとセイコウコウケンもいた。

 反対側にはカムイとヒロインの2人、そして奥にはファルナと書記役のクラスメートが2人が座り俺を一斉に見る。
 教会側の顔を見てもうやる気が無くなってきたぞ。

 教会の重鎮4人は多くが同じ表情をしていた。
 冷酷さとボス猿のような傲慢さを合わせたような表情だ。
 

 俺は無言で椅子に座る。
 隣のカムイが微笑んで言った。

「緊張しなくていい。危ないと思ったら、黙っていてもいい」
「良いと思った事は言っていこうと思う。恨まれてもな」
「そうか」

 カムイはまともだよな。
 カムイはさっきまで魔物狩りに行っていたため居なかった。
 魔物狩りから帰ってきたばかりだろう。

 どうやら高難易度クエを進めているようだ。
 ゲーム序盤の敵を飛び越えて先に進んでいるらしい。
 ダンジョンや魔物が変容始めているからうまくいかない事もあるだろう。
 精神的にも疲れているはずなのに俺に気を使うか。

 俺と一緒に座ったシスターちゃんは何故かさっきまでの威勢は無く、小さくなっていた。

 教会側の男がシスターちゃんを向いて話し出す。

「おお!シルビア嬢ではないか。父からの寄付には感謝している」
「シスターちゃんの事か?」

「何だ、知らんのか。シルビア嬢は不動産で富を築いた資産家、ウッドの一人娘だ。そんな事も分からんとはな。ふん」

 思った通り感じが悪い。

「会議を始めますわ」

 ファルナは会話を遮るように会議を開いた。
 喧嘩にならないように気を使っているな。

「今回の議題は、誰が教会ギルド長となるか、ですわね」

 教会側に座る重鎮4人はすでに睨み合っている。
 お互いを名前では呼ばず、ちび・デブ・はげ・ぎょろ目とお互いに罵り合った。

「会議を始めますわ!今回の議題は、誰が教会ギルド長となるか、ですわね」

「その通りだ、我がギルド長になることは決まっているが、一応筋を通しておこうと思ってな」
「うるさいデブが!ギルド長にはこの我がふさわしい!太りすぎて頭も脂肪だけになったか!」
「デブと言うな!ちびが!」

 ちびがデブに紙の資料を投げつけた。

「ふん、2人とも威厳が無いな。やはりギルド長は我がふさわしい」
「黙れはげが!はげである貴様に威厳は無いわ!」
「お前がギルド長になろうものなら教会の威光が地に落ちるわ!」
「黙れ貴様らちびとデブが人の事を言える立場ではない!」

「器の小さい3人は無視して、我をギルド長にする儀式を行おうではないか」

「「黙れぎょろ目が!!」」

 資料の紙が飛び交い、1人が資料の紙を破り捨て取っ組み合いの喧嘩が始まる。

 見た目は4人とも違うが、口調や傲慢な性格は似ている。
 名前を覚える気にもなれない。
 いや、覚える必要は無いか。

 まるで動物園だ。
 動物園のボス猿争いだ。

 教会側に座るセイコウコウケンはため息をつき、セイコウコウボウは露骨に機嫌が悪くなっていた。

「落ち着くのですわ!」

 まったく収拾がつかない。
 4人がお互いを罵り合い、ローブを掴み合って喧嘩になっている。



 ◇



 結局4人の息が上がるまで喧嘩は続き、俺は止めずに見ていた。
 俺だけではなくカムイもセイコウコウボウも止めない。

 あ、これはいつもの事なんだな。

「ファルナ、黙っていてくれ」
「しかし喧嘩が終わりませんわ」
「いや、いい。タイミングを伺う」

 カムイとセイコウコウボウは同時に俺を見た。
 カムイは考え込み、セイコウコウボウは、面白い事を起こすようにと期待するように俺をにやにや見ていた。



 俺は4人が疲れ切ったタイミングで口を開いた。
 4人の重鎮は息を荒げ、言い合いに勢いが無くなる。

 怒りは体力を消耗させる。
 ずっと怒り続けることは出来ないのだ。
 

「提案があるんだ。王決と同じ手順でギルド長を決めたい。
 教会は最も力を持った組織だ。
 そのギルド長は王決と同じ神聖な儀式を持って執り行うのが良いと思う。

 王決に倣って最初に人々を多く助けた者を勝者にして、落ちた2人で敗者復活戦をするのはどうだろう?神聖で高貴な教会ギルド長ともなればこれくらいした方がいい」

 王選の1回目では皆を助けた者が勝者となる。
 これは資金を出せる者が有利な、マネー対決だ。
 今はファルナ側に金が無い。
 教会に慈善活動をしてもらえれば都合がいい。

「王決と同じ神聖な儀式か。悪くはない」
「我の勝ちは決まったか」
「いや、我だ」
「うむ、我がギルド長になるのは決まっているが、ここまでせねば皆は分からんだろう」

「決まりですわね。正直わたくしとしても余裕が無い今、教会の力によって人々を救ってもらえれば助かりますわ。衣食住。そして教育の提供をポイント化してこちらで判定を行いますわ」

「すぐに寄付してやろう。教会の仲間は我の味方だろうからな」
「貴様!抜け駆けするな!」

「ふん、2人で一生争っていればいい。その隙に我の派閥を最大限に増やしてやる」
「「待てーい!」」

 こうして4人は我先に外に出て行った。

 ファルナは椅子に座ってため息をついた。

「1日で無事会議が終わり、助かりましたわ」

 ファルナが俺にお礼を言った。

「迷惑をかけたな」

 そう言ってセイコウコウケンが帰っていく。
 入れ替わるようにセイコウコウボウが俺に近づく。

「中々面白い。一瞬であの4人の性格を見抜いて、うまく持ち上げて誘導したね『王決と同じ神聖な儀式』か。あの4人が喜びそうな言葉だよ」

「いや、出来るだけ関わらないで済ませられるよう頭をフル回転させただけだ。それに、ファルナは判定をする側になって負担がかかるだろう」

「いえ、事態は好転していますわ。最近教会内部の犯行と思われる毒殺や暗殺が多発していましたわ。今まで毒耐性を持っていた者がいなくなり、状態異常には脆弱になっていますわね。今転生者に聞きつつ対策を取っていますわ」

 俺達が元居た世界は、多くの血と命を犠牲にして、それに対抗する為に対策を積み上げた事で今の安定がある。
 その下には無数の血が流れ、殺し合ってきた無数の犠牲があったからこそそれに対抗する形で法整備が進んできた。

 ましてやこの世界の人間は少ない。
 数十億の人がいて、アイデアが無限に湧いてくる世界とは違う。
 人口が多いほど文明は発達する。

 この世界は人が少なすぎるのだ。
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