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第77話

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 俺達がうさぎ亭に帰ると、皆が俺を讃えた。

「ハヤトのおかげで犠牲者はげろゼロでしたわ!感謝しかありませんわ!」
「ちょ、ちょっと考え事がある」

 周りのファルナ兵も俺を讃える。

「カッコ良かったよ!」
「ハヤト君の後ろは安心感が違うよね」
「ちょっと考えたいことがあるんだ!」

 なかなか話が終わらない。

「考える事がある!今余裕が無いから儀式の間で1人で考える!」

 俺は儀式の間に入った。
 次の敵はファルナ姉妹の次女イルナになると思っていた。
 でもイルナはエクスファックにやられた。

 エクスファックは強くなっている。
 インフィニティウイップ改まで使って来た。
 それはまだいい。

 1番の問題はファルナ姉妹の長女アルナだ。
 今まであった中でで1番やばいと思っていたのがスティンガーだった。
 でもアルナは本当にまずい!
 今はエクスファックより人がまずい!

 今のファルナ以外の勢力は、ざっくり言うと、

 教会騎士団

 エクスファック達の魔物集団

 そしてアルナ騎士団だ。


 教会騎士団は今の敵対していないけど、人の勢力としては最強だ。
 こいつらを敵に回してはいけない。
 アルナと敵対してくれればいいけど、奴らは表では正義の集団となっている。
 表立って動くと思えない。

 教会騎士団は力を持っているのに封印されたエクスファックを倒さなかったりと、官僚のような硬直した体制を持っている。

 魔物の軍勢も強いけど、暴れ出す時期はゲームでは後になる。
 ゲームと違って早めに暴れ出す可能性はあるけど、どこに何体程度魔物が出たら戦うか避難誘導するかは考えてある。

 魔物の件は後だ。

 教会騎士団と魔物の勢力が規模が大きいけど、アルナ騎士団が危険度で言えば厄介だと思う。
 アルナはファルナや俺達をターゲットにしてくると思う。
 今の危険度で言えばアルナがダントツで高い。

 もう少し考えてみよう。
 エースの存在も無視できない。
 前回のスティンガー戦で、スティンガーが生き残り、俺が殺されていれば、ファルナ騎士団は全滅していたと思う。

 騎士団全員で死を恐れず切り込めば倒せる可能性はあるけど、現実ではそうはならない。
 最初に切り込んだ者から死ぬと分っていて突撃出来る者はいない。

 今出て来た中で強い順に並べると、

 アルナ
 アルナ4昇天
 スティンガー

 となる。

 スティンガーと闘った時の槍で突き殺されるイメージが頭をよぎった。
 スティンガーは今までの敵と比べて別格だったけど、4昇天ですら一人だけででスティンガーより強い。
 そしてその上にアルナがいる。

 今は死を遠ざける必要がある。
 ヒメが異世界に来て心が不安定になっている件や、トレイン娘がレベルリセットしたがっている件は後回しだ。

 闇魔導士の上級スキルをフル取得する。
 そしてきゅうのLVを10に上げる。
 そうしないと話にならない。

 今は出来る事を選んで特化してやって行く。

 今ヒメの心やトレイン娘のレベルリセットは後回しだ。
 ここは安全な日本とは違う。

 優先順位を間違えて人を死なせる間抜けにはならない!
 日本の価値観は捨てて今俺はこの世界に適応する。
 ここには死が近くにある!
 そして油断した一瞬に死はやって来る!

 この世界はゲームとは違う。
 ゲームのように誰が敵が分かりやすく教えてくれない事が多い。
 リアルと同じで、交通事故で突然死ぬように、いきなり事件が起きる。

 ある日突然俺や周りの誰かが死ぬこともあるのだ。
 死なないと思っていたカインですら、いつの間にか死んでいた。

 バアン!
 勢いよく扉が開けられた。
 トレイン娘が大きな声で言った。

「ハヤトさん!すぐ来てください!教会騎士団がやってきました!」

 今度は教会騎士団か!
 俺は大部屋に向かった。

 教会騎士団はすでに大部屋にいて、ファルナが対応していた。

「今お茶の用意をしますわ」
「いや、結構、それより資金援助の話をしたい」
「資金、援助?」

「教会から10億魔石を支援する」
「代償は、何ですの?」
「必要無いのだ」

 そうか、教会騎士団にとって1番の敵はアルナだ。
 だが、教会騎士団はアルナと直接闘いたくない。
 教会騎士団は本気を出せばアルナに勝てるが、教会騎士団の犠牲を出したくないのだろう。

 ならどうするか?
 対決状態になったアルナの敵対勢力であるファルナに資金を援助してアルナの力を削ぐことが目的だ。

 元の世界でも国単位で同じことは行われてきた。
 ある時は邪魔な勢力の敵に武器を流し、ある時は金を流す。
 この世界もやる事は同じか。
 
 だが、これは『教会騎士団は手を出さない』と言っているようなものだ。
 少なくとも表では手を出さないだろう。

「貰っておこう。今は少しでも魔石が欲しい。思惑通りアルナの対抗勢力として強くなろう」

 教会騎士団の男が俺に目を向けた。

「うむ、中々頭が回るようだ。隠す必要は無いのだな。この資金でアルナの力を削るのだ。所で、この騎士団は転移者がメイン戦力のようだが、代償への備えはしてあるのか?そうは見えないのだが?」

「代償?何のことですの?」
「まさか知らんのか?いや、だがあの王とアルナなら……やるか」
「何のことですの?」

「うむ、伝える必要があるな。転移者は、どの程度かは分からんが、ある期日に力を失うと言われている」
「それはいつですの!?」

「王国歴999年冬の月90日が終わると同時に転移者は力を失うと聞いた。だが、繰り返し言うが、どの程度の代償があるかは分からんのだ」

 王国歴999年冬の月90日が終わると同時に代償が来るのか!
 今は王国歴999年冬の月84日!

 一週間か!
 いや、もうまる7日を切っている!

「それともう1つ、アルナからファルナへの勝負の申し込みがあったのだ」
「勝負……ですの?」

「そうだ、闘技場で、騎士団による試練だ。封印されたエクスファック1体戦とダミーファック10体戦の2本勝負だ。もちろんこれはアルナからの私的な勝負だが、ファルナが断れば、ここを襲撃すると言っている」

「そんな!理不尽ですわ!こんなことは女神の信仰の厚い教会騎士団としても看過できない案件のはず!」

 教会騎士団は見過ごすつもりだ。
 その為の今日の資金援助だ。

 そして、教会騎士団としても、封印されたダミーファックとエクスファックの管理が無くなるなら、喜ぶ状況だろう。

 こいつらは自分で封印を解いて面倒ごとになるのは嫌うが、王家の意向で封印を解き、王家が倒すと言うなら喜んで封印を解くだろう。 

 ゲームでは、教会騎士団のエースだけは狂っているやつもいたけど、教会の勢力の多くが現状維持を望むのだ。

 こいつらは悪い官僚のような顔をしている。
 教会騎士団としては、王家の力を削ぎ、封印の責任を王家に押し付けつつ厄介な封印コストを無くすことが出来る。

「直接介入は出来ん。が、この勝負はあまりにファルナ陣営が不利だ。そこでファルナ騎士団が戦うダミーファックの数を少なくするよう今アルナと調整中だ」

 この教会騎士団の男の言い方は『ファルナ騎士団の生き死により、アルナの疲弊が大事だ』と言っているように聞こえる。

「いつやるんだ?」
「まだ正式には決まっていないが、王国歴999年冬の月86日の予定だ」

 明後日か!
 早すぎる!
 それに代償も早すぎる!

 さっき考えたプランが駄目になった!
 アルナ対策以前にダミーファックやエクスファック戦が控えている!

「用は終わった。失礼する」

 教会騎士団が帰っていくと、大部屋は静寂に包まれた。
 騎士団のレベルを上げるのは間に合わない。

「思ったんだけどアルナはひどい事をする人なんだよね?なら、神様の天罰は無いのかな?」

 ヒメの言葉にファルナが素早く返す。

「残念ですが、女神エロスティアは愛の女神ですわ。人に試練は与えても、罰は与えませんの」

 そう、女神は人を憎まないし罰も与えない。
 人間とは異なる存在だ。
 ゲームと同じなら女神は絶対に罰を与えない。

 自分達でやっていくしかない。
 ……レベルを上げるなら特化してあげる必要がある。
 俺は口を開いた。

「提案がある。

 アオイ・ファルナ・ヒメ・エリス・シスターちゃん・トレイン娘でパーティーを組んでレベル上げをして欲しい。

 空いた時間に俺用の輪廻の衣を作って欲しい。

 俺は、上級スキルをフル取得する。
 今思いつくのはこのくらいだ」

 エクスファックとダミーファック、奴らを犠牲無しで倒せる方法、それはエースの育成だ。
 たった2日で騎士団全部の質を上げて試練に対処するのは難しい。
 エースを強化するのが今は効果的だろう。

 俺がもっと強ければダミーファックにシャドーバインドを使って連続で動きを封じることが出来たかもしれないけど、無理だな。
 スティンガーの団員に効いていたシャドーバインドはボスクラスのダミーファックには通用しない。

 アオイはすでに強い。
 レベルが上げにくくなっている。
 一気にレベルアップを目指すなら死のリスクを大きく取る必要がある。
 今は他の5人のレベルを上げてもらう。

 厄介なのはダミーファック10体だ。
 普通に戦えば俺とアオイで倒せるけど、騎士団の団員の犠牲が多くなる。

 現状俺もアオイもダミーファックを10体足止めすることは出来ない。

 俺やアオイが1体を倒す間に団員が死ぬ。

 
 犠牲を無くせる可能性があるのは、俺の上級スキル。
 そして他のエースの育成だ。

 エースの育成はエクスファック戦でも有効だ。
 だが、時間が無い。
 間に合うか?

 皆の顔を見る。
 全員が無言で頷いた。
 他に案も無いか。

「俺は、ダンジョンに行って来る」

 迷っている暇はない。
 俺はダンジョンに走った。


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