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第72話

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【王国歴999年冬の月83日】

 朝になると、俺は儀式の間から出る。
 大部屋のテーブルに座るとトレイン娘が声をかけてくる。

「おはようございます!今日はお疲れさまでした!」
「おはよう、まだ朝だし、そこは今日も頑張りましょうとかじゃないか?」

 トレイン娘だけでなく、一緒にテーブルに座るエリス・ヒメ・シスターちゃん・ファルナが『何言ってるの?』という顔を俺に向けた。

「あれ?おかしいよな?朝いきなりお疲れ様ですはおかしいよな?」
「いえ!合っています!アオイの声が凄かったです!」
「そっち!そっちか!」

「おほん!食事にしますわよ」

 ファルナが気を使って話を逸らしてくれた。

「ハヤトさん、コーヒーでいいのです?」
「コーヒーを頼む」
「コーヒーで覚醒したら、私と儀式の間に行くのです?」
「い、いや、ダンジョンに行く」

「ハヤト、相談がありますわ」
「なんでしょう?」

 俺はファルナを向いて背を正した。
 すかさず話を逸らしてくれるファルナには感謝しかない。

「エリス・ヒメ・トレイン娘・シスターちゃんのレベル上げをお願いしたいのですわ」
「サポート役の育成って事か?」
「話が早いですわね。そうですわ」

「アオイを連れて、6人パーティーなら、危険は少なくなるか。全員レベル60以上にしたいよな」

 アオイ自体が危ない説はあるけどな。

「無理はしなくても大丈夫ですわ。安全に、出来る範囲でお願いしたいですわ」

「アオイも?大丈夫かな?」

 ヒメが言った。

「アオイは危険ではあるが、ヒメとエリスが危険になることはしないだろう」
「え?あ、そうじゃなくてね」

 ヒメが口を小動物のようにもごもごする。

「ハヤトさんのベッドの攻めで、アオイが今日行けるか心配なんですよね!」
「そう、だね」

「私なら大丈夫よ。もっとも、ハヤトがテクニシャンすぎて、失神したけれども」

 アオイはわざと言っている。
 テーブルの椅子に座ってにやにや笑う。

「それでは、今日は6人パーティーでダンジョンに行くと言う事で、よろしいですわね?」

「分かった」

 ファルナの進行がうまい。
 俺はこの短時間で3回フォローされている。
 俺は無言でファルナにお辞儀をした。

 ファルナは俺を見て苦笑いを浮かべる。

「そう言えば、ファルナの騎士団結成の洗礼はいつにするんだ?昨日聞きそびれた」
「今日済ませますわ」
「そうか、順調だな」
「皆と、特にハヤトのおかげですわ」

 こうして、ファルナは無難な話題をチョイスして会話が進む。

 俺はファルナのおかげで無事食事を終えた。

 6人でパーティーを組み、お弁当をストレージに入れてうさぎ亭を出た。

 トレイン娘のテンションが高い。

「久しぶりのパーティー探索ですね!」
「そうだな、一気に4階、いや、3階から行くか」
「4階からよ」

 アオイが即座に言った。

「ハヤト、今はすぐにレベルを上げた方がいいわ。少しのリスクを取って一気に前に進んだ方がリスクは少ないわ」

 アオイの言っている事がよく分かる。
 今慎重にゆっくり進むより、今後起きるかもしれないリスクに備え、早く強くなった方がトータルで見て安全か。
 アオイと俺が本気で魔物を狩れば、4人のリスクは少ない。

「アオイと俺で一気に魔物を狩るから4階のリスクは少ないって考えでいいか?」
「そうよ」
「分かった。一気に4階まで行く」

 アオイは大胆なようで、実は慎重だ。
 俺の考え方と似ているのか?

 俺達は一気に4階に進んだ。



【ダンジョン4階】

 俺とアオイ以外は疲れている。
 スタミナの問題だけじゃなく、4階は4人にとって未知の領域だ。
 精神的な部分もあるのだろう。

 グオオオオオオオオ!

「アサルトボア!ボスクラスだ!」
「私が行くわ!」

 アオイがボスに近づく。

「ソニックタイム!ロングスティング!ショートスティング!」

 アオイが高速で動き、連続アーツの後に通常攻撃を連撃した。
 一気にボスを倒す。
 やっぱ強い!

 アオイは俺より速い。
 俺が動く前に魔物を狩った。

 その後も魔物に挟み撃ちにされても俺が後ろの魔物を倒した。
 ボスが仲間を呼んでも、俺とアオイが素早く倒した。

「問題無さそうね」

「す!すごいです!」
「2人がいれば安心できるよ」
「私、何もしてない」
「ハヤトさん、アオイ、感謝するのです」

「5階に行こう!」
「5階に行きましょう!」

 俺とアオイは同時に言った。



【ダンジョン5階】

 グオオオオオオオオオ!!

「ゴブリンキングの仲間を呼ぶタイプだ!」
「4人で固まりなさい!」

 ヒメ・トレイン娘・シスターちゃん・エリスは一か所に固まる。
 
 その周りをヒメのスライム10体が囲み、俺のスケルトン2体も囲む。
 エリスは切り札の紋章銃をいつでも出せるように構える。

 俺とアオイが集まるゴブリンを倒していく。

 4人に剣を持ったゴブリンキングが向かいそうになった瞬間に俺はゴブリンキングに斬りかかる。

「こっちだ!」

 こうしてターゲットを取りつつ、俺はゴブリンキングを引き離し、周りのゴブリンを狩っていく。
 俺は意図的にゴブリンキングを倒さず仲間を呼ばせ、おびき寄せて倒した。



「仲間は打ち止めか!」

 俺はゴブリンキングに止めを刺した。

「す、凄いのです!もうレベル45になったのです!」
「おお、順調だな!」
「そろそろ、お昼休憩にしましょう」

 俺達は4階に降りて休憩する。

「6人パーティーは初めてだけれど、いいものね」
「ほとんどアオイとハヤトさんだけで戦っていましたよ!」
「それはいいとして、皆はレベルを上げてやりたい事とかあるのか?」

 トレイン娘が元気に手を上げた。

「私は聖魔導士をやりたいです!」
「罠や魔物が感知できる聖魔導士か」

 聖魔導士は火力が低い。
 だが、それを知ってトレイン娘はサポートをしたいと言っている。

 皆、優しいよな。
 エリスの紋章錬金とシスターちゃんの儀式と回復魔法。
 そしてヒメのポーションがあれば大体のサポートは出来る。

 更にトレイン娘の罠感知と敵感知と聖魔導士になれば、4人のサポート力はかなり高くなる。
 でもそれは、魔物を倒すスキルを取るのが遅れる事になる。

 自分が進むのを遅らせてもみんなを助けようとする4人は優しい。
 俺は、攻撃特化でとにかく敵を倒そうとしてしまう。

「アオイと俺は攻撃特化で、皆はサポートか」
「私とハヤトは優しくない人間のように聞こえるわね」
「そうは言ってないだろ」
「そう聞こえたのよ」

「ハヤトさん、もし落ち着いたら、私のレベルリセットを、手伝ってください!」
「ああ、そうだな。俺がもっと強くなったら手伝おう」

「わたし、取りたいスキルがいっぱいあるんです!」
「だよなあ。色々欲しくなる」
「そうなんです!たくさん役に立ちたいんです!」

「みんな優しいよな」
「だから、私とハヤトだけが優しくないように聞こえるわ」

「アオイとハヤトさんは、少し似ていますよね!」

 俺は、トレイン娘の言葉でハッとした。
 俺とアオイが似ている。
 
 アオイは、慎重で、リスクを天秤にかけて動く。
 一見大胆なように見えて、実は慎重だ。

 これは弱者の考えだ。
 最初から強い者は何もしない者が大半だ。
 何もしなくても勝てるのだから。

 アオイは、狂う前のアオイは、俺の写し鏡だ。
 そう思えた。

 もし、俺がアオイと同じ状況なら、俺はアオイのようになっていたかもしれない。
 俺はアオイが怖い、というか嫌なモノも感じていた。

 何でここまで嫌か分からなかった。
 
 不気味だった。

 怖かった。

 そうか!同族嫌悪か!

 俺が悪く出たのがアオイだ!

 ダンジョンに挑む考え方を振り返ると、思考パターンがアオイと同じだ。
 だから読まれやすい!
 そういう事だったのか。

 俺はアオイを見つめる。

「何を考えこんでいるのよ?なんなの?」

 考え込んでいる事は見抜かれている。
 俺は無言でアオイの後ろに回って頭を撫でた。
 両手で撫でた。

「な!何なの!」

 急に予想外の事をされると、怖いよな。
 俺が急に後ろに回って頭を撫でるとは思わないだろ?
 あえて予想できない行動に出た。

 俺も教会でジョブチェンジをする時、皆と寝ると割引すると言われて焦った事を思い出す。
 小心者は予想外の事をされると落ち着かなくなるのだ。

 軍師みたいなもので、作戦Aがうまくいかなかったときの為に作戦Bを用意し、それでもダメなら作戦Cを用意する。
 俺とアオイはそういう人間だ。
 でもそれは予想外の事が起きるのが嫌な事が不安であることの裏返しでもある。
 もっとも、この世界に来てから、作戦Aすらまともにこなせていない。

 俺は、アオイの事が、少しだけ分かった気がする。
 アオイは、俺の顔を見ようとするが、振り向かないように頭を押さえて頭を撫で続けた。

「さて、今日中にみんなのレベルを60に上げようか。6階に行こう」
「その顔何よ!何を分かった顔してるのよ!」

 アオイが少し焦っている。
 俺は何も言わない。
 このくらいの意地悪はいいだろう。

 俺達は、6階に向かった。




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