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第16話

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 私の名前は姫野 姫。
 今はこの世界に転移してヒメになった。


 3日間の研修でレベルを思うように上げられず、私1人だけがお城に残っている。
 毎日兵士のお姉さんに連れられてダンジョンで魔物と闘った。

 私だけが追加の研修を受けているのだ。
 兵士の護衛が減っているので、念の為にとダンジョンの1階で戦っている。
 パーティーを組んで兵士が魔物を倒してくれる。

 この世界は元居た世界と大分違う。

 魔物が脅威で、人同士で争う場面はあまりない。
 お城の外には魔物から守る為の門番が居るけどお城の中の警備は厳重ではない。

 それに女性が多くて皆薄着だ。
 肌が見える服の方が高品質らしい。
 肌が見える服か体のラインが分かる服を身につけないと変人扱いされる。

 制服を着ているだけで皆に注意される。

「そんな貧乏人のような服は良くないわ」
「その服で魔物に襲われたらすぐお終いよ」
「胸元が開いてない服を着てどうやってストレージを使うの?早く立派な紋章装備を買いなさい」

 兵士だけでなく、街の女性も私を見ると注意してくる。

 クラスメートの女性も皆露出の高い紋章装備に変えていた。
 私は皆の足を引っ張っている。

 圧力に逆らえず、紋章装備を身に着ける。
 
 ワンピース型の防具で、胸元と背中が大きく空いている。
 下の丈は短く、チャイナドレスのような左右のスリットは腰まで開いている。
 色だけはオリーブグリーンの落ち着いた色だ。

 紋章防具を身にまとうと冬でも温かい。
 寒いと言い訳も出来なかった。

 最近王の視線に恐怖を感じる。

 私は城の廊下を歩く。
 王と王女の声が聞こえた。

 護衛も居ない。
 私は息を殺して話を聞く。

「ヒメをそろそろ宴に呼んでもいいのではないか?」
「そうですわね。もう他のクラスメートと引き離されていますわ。ヒメのレベル上げが遅れたおかげで自然と引き離すことが出来ましたわ」

 宴?
 何のことだろう?

「今日呼ぶ」
「分かりましたわ。ヒメの食事に媚薬を混ぜます。意識が混濁したら、後はお好きなように」

「ぐふふふ、ヒメはポーション錬金術師だ。ポーションの媚薬で快楽漬けにして楽しむのも一興だ。いや、紋章責め、触手責め、手足を拘束して快楽で狂わせるのもいいだろう。ぐふふふ。楽しめそうだ」

「今日の昼に仕込む手はずは整っていますわ」
「お前は分かっておるな」

 私は両手で自分の口を押えた。
 息が苦しい。

 息を殺してその場を立ち去る。



 王から距離を取ると、速足で城の外に向かう。

「そんなに焦ってどちらに向かうのですか?」

 女性の兵士が声をかけてきた。

「ポーションを買い忘れてしまって、買ってきます。忘れた事は皆に内緒でお願いしますね」

 そう言って外に出ようとする。

「待ってください」

 肩を掴まれた。

「今日のお昼の食事は会食になるようです」
「な、何の会食ですか?」

「分かりませんが、王と王女も出席されるようです。それまでにお戻りください」
「それは大事な会食ですね」
「はい、王に失礼があってはいけませんから」

「急いで買います!」

 私は走って城から離れた。
 頭が真っ白になる。
 早く離れよう。

 石畳につまずいて転ぶ。
 恐怖で痛みがどうでも良くなる。
 ケガを気にせずすぐに立ち上がる。
 すぐに走って離れた。


 城から距離を取ると止まって息をあげる。
 兵士には私に媚薬を飲ませる事は知らされていないようだ。
 そのおかげで助かった。

 でも、追手が来たら?
 手が震える。

「どうしたんだい?」

 恐怖で背筋が凍る。
 勇者アサヒが後ろにいた。

「な、何でもないわ」
「凄い汗じゃないか。また熱を出したんじゃないかい?」

 アサヒが私の体を触ろうとして後ろに下がる。

「そんなに下がらなくてもいいじゃないか。僕は君を心配しているんだ。研修が終わってから何度会いに行っても兵士に今は都合が悪いと言われて会えなかった。せっかくの再開じゃないか」

 アサヒが近づいてくる。
 アサヒは信頼できない。
 私はアサヒが怖い。

 この世界に来る前からアサヒからの視線を感じていた。
 顔も胸もお尻も見られていた。

 それにアサヒは私と話をする時とハヤト君たちと話をする時で雰囲気ががらりと変わる。
 危ないものを感じていた。

 今は不良グループとパーティーを組んでいるらしい。
 研修中の悪い話をクラスメートから聞いた。


 その時、ハヤト君が近くを歩いていた。
 後ろには2人の女性が居た。
 私は走ってハヤト君に声をかける。

「ハヤト君!?」

 私はハヤト君の腕にしがみついた。
 そして小さな声で言った。

「助けて」

 ハヤト君は小さな声で言う。

「何かあったのか?」
「今王様とアサヒから逃げているの」
「そうか、それなら、デートをする設定にしよう」
「え、ええ?」

「決まりだな」

 ハヤト君は私と他の2人にしか聞こえない声で言った。

「俺に合わせてくれ」

 皆が頷く。

「よし!4人で出かけるぞ!」

 アサヒに聞こえるようにハヤトが言うと、その場を立ち去る。
 アサヒの顔を見ると、鬼のような顔をしていた。

「待てええええええええええ!どこに行くうう!どこにヒメを連れて行くうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」

 アサヒの奇声で町人みんなが振り返る。
 ハヤトがそれを無視するように私を引いてその場を離れようとする。

「待てと言っているウウウウウ!ハヤトおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 アサヒが走って近づいてくる。
 そして私達の行く先を阻んだ。



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