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第9話

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 勇者アサヒが転移した次の日、研修を受ける前の話にさかのぼる。
 クラスメートと共に王に呼び出された。

 この僕を先頭にみんながついてくる。
 気分がいい。
 僕は勇者、当然の役目と言える。
 しかし、王の説明とは何だ?
 まあいい、行けば分かる。


 全員が席につき、前に立つ王に注目した。

「皆座ったまま聞いて欲しい。これより3日間、英雄の皆に研修を受けてもらう」

 クラスメートが騒ぎ出す。

「そんな!まだ私達は戦うって決めてないわ!」
「僕は戦ったことがありません」

「皆、まずは王の言う事を最後まで聞こう」
「アサヒ殿、すまない。アサヒ殿にワシは助けられておる。話を戻すが皆には英雄の力がある。1度魔物と闘えば、不安も消えよう。英雄の力を体感して欲しいのだ。何か質問はあるか?」

「研修がたった3日?それは短いように感じるんだ。その点についてはどうなっているんだい?」

 王は大げさに驚いた。

「何と!ワシらの常識と異世界の常識は大分異なっているようだ。まずこの世界の常識を説明させて欲しい。

 英雄は大きな力を持っている。
 だが、ワシらがあまりに世話を焼くことで英雄の足を引っ張りかねん。

 そこで英雄の皆には自立してダンジョンの魔物を倒し、自活して欲しいのだ。
 
 それと我が国は何度もダンジョンから魔物があふれ出し、被害を受けておる。
 国の力が衰えておるのだ。

 更に英雄は魔物を倒し、皆に尊敬される稀有な存在だ。
 ワシらが世話を焼きすぎるのも失礼に値する。

 例えるならそう、生まれて間もない赤子が立派な大人の世話をしようとするようなものだ」


 僕なら問題無くこの世界でやって行けるだろう。
 だが王の説明が異様に長い。
 そこだけは気になった。

「皆、まだダンジョンに行ってもいないんだ。ダンジョンで魔物と闘ってから判断しよう」

「アサヒが言うなら、そうしてみよう」
「そうね、ダンジョンに行ってみないと分からないわ」

 クラスメートが僕に同意していく。

「何度も重ねて言おう。3日間の研修中は絶対に皆を死なせはせん!万全の守りでダンジョンに向かってもらう」

 こうして皆ダンジョンで戦う事で話はまとまった。

「では、すぐにダンジョンに向かうのだ!英雄の諸君なら必ず良い結果をもたらすだろう!」




 クラスメートが出て行くと、王は邪悪な笑みを浮かべた。

「うまくいきましたわね」

 隣に居た娘がワシに声をかける。

「うむ、3日間の研修が終われば自活し、ダンジョンの魔物を狩り続けてもらう」
「この国はダンジョンから魔物が溢れて多くの男が死にましたわ。女だけは救出されましたが、それでも国は衰えました」

「まったくだ!そのせいで魔物と闘う者は激減した。せっかくダンジョン討伐者を育成する学園に補助を出し、無償の学費で学園生を募っておるのに一向に戦う者が増えん」
「誰かが肉壁になり、魔物と闘わなければまたダンジョンから魔物が溢れますわね」

「うむ、冬の月が終われば、転移者には学園に通ってもらう。もちろん学費は無償だ」
「そうですわね、命をかけて学園のルールで競い合い、魔物を狩って貰いましょう」

「それで死んだとしても、研修さえ終わればすべておのれの責任だ」
「学費を無料にするだけで魔物と闘ってもらえるなら安いですわね」
「うむ、英雄殿は持ち帰ったドロップ品の売却や武具の販売などでこの国の経済は回る。無料にした以上に金が返って来るわい。英雄殿には頭が上がらんよ」

「更に貴重な男も多く召喚出来ましたわ」
「子種としても優秀だ。英雄殿はまさに益虫。がはははははははは」

「そろそろ宴の用意が出来たのでは?」

「そうじゃな。良い料理、良い酒、そして良い女で楽しむとするか。そろそろ転移者のヒメを呼んでもいいのではないか?」
「いけませんわ。転移者の多くの男があの女に目を付けています。勇者アサヒもその一人」

「研修が終わり、皆を切り離してからか」
「切り離す必要も無いかもしれませんわ。喧嘩別れする者は必ず出ましょう。それに今回の転移は1人召喚するはずの儀式で無理に多くの者を呼びましたわ」

 王が口角を釣り上げる。

「転移者に代償が来てからの方が都合が良いか。仕方ない、メインディッシュに取っておくか。それか、皆バラバラになるのを待つか。くくく、どちらが先か?まあいい。すぐに向かうぞ」
「そうですわね」

 2人は宴に向かった。



【勇者アサヒ視点】

 重鎧と双剣の紋章を両手の甲に付けた。
 付き添いの兵士は重鎧には剣などがおすすめだとか、双剣には軽い防具がいいとか色々言っていた。

 だが勇者にも当てはまるか聞いたら分からないと言われた。
 皆何も言わなくなったので好きな紋章装備を選んだ。

 この世界で男は貴重らしい。
 兵士は僕を見て顔を赤くする。
 
 更に英雄である僕に最大限の配慮を払う。
 後でベッドに呼んでやろう。

 自分の事は自分で決めよう。
 高い防御力の重鎧。
 連撃性能の高い双剣。
 この2つに決めた。

 ステータスは体力・魔力・敏捷・技量に振ろう。
 後で様子を見ながら調整する。

 魅力と名声は言われた通り後回しにする。

 最後のスキルは、素晴らしい。
 回復・攻撃魔法・近接武器・アーツ、色んな種類のスキルが取れる。
 まさに万能!

 スキルをどう取ればいいか聞いたが、勇者の事はよく分からないらしい。
 基本は決めたスキルに絞って上げているようだ。

 だがそれは効率が悪い。
 スキルレベルが上がると消費するポイントが増える。
 それに僕は勇者だ。
 
 回復も。

 武器も。

 魔法攻撃も。

 そして勇者のスキルさえ使いこなせる。

 何でもできる。
 武器スキルも魔法攻撃スキルも回復魔法スキルも全部取ろう。

 ダンジョンに行くのが楽しみだ。
 すぐに皆で出発しよう。


 ダンジョンに入るとボロボロのハヤトが居た。
 皆に見えない位置からハヤトをさげすんだ顔で見る。
 色々言って追い詰めてやった。
 気分がいい。

 ハヤトは立ち直れないかもしれない。
 落ちたハヤトを見つけたらまた笑ってやろう。
 本当に気分がいい。

 1階も2階も3階も簡単に魔物を倒せた。
 研修の3日だけでここまで進めるのか。

 ステータスが上がって力が湧いてくる。
 上の階に進むとトラップや奇襲があったが、僕の力なら魔物は簡単に倒せた。

 ヒメは研修初日の出発前に寝込んで、2日目から研修に参加した。
 ヒメは戦闘に苦戦し、追い詰められているようだった。
 都合がいい。
 弱った所で僕の物にする!


 3日間の研修は余裕で終わり、兵士の女は居ない。
 皆それぞれの判断でダンジョンに挑み、宿も自分で探す。
 パーティーを組むのも個人の判断だ。
 
 すぐに僕がナンバーワンになる。
 パーティーはレアスキル持ちの男を誘った。
 僕たち4人パーティーをこの世界の女が見つめる。

 その視線は僕だけが貰う。
 途中からパーティーを全員女に変えよう。

 皆は僕の踏み台だ。

 まずはこの4人でダンジョンに向かう。
 1階は余裕で進める。

 2階に行くと息が上がった。
 皆より疲れやすい?
 いや、皆顔に出していないだけだ。

「皆、疲れたんじゃないかい?そろそろ休まないかい?」

「いや?どんどん行ける」
「先に行きたい」
「問題無い」

 そうか!
 僕は今までみんなのリーダーとして苦労してきた。
 疲労が溜まっているんだ。
 重鎧が重い。

「すまない、僕は少し疲れたんだ。少しだけ休もう」

「おいおい!大丈夫か?」
「仕方ない。休むか」

 問題無い。
 疲労が溜まっていただけだ。
 少し休むだけでいいんだ。
 
 2階に進もう。




「ああああああああああああ!!」

 なんでだ!なんで何で何で!
 痺れトラップの魔法陣の上に乗った!
 その瞬間僕に矢が放たれる。

「痛い!いた!ぐう!」

 ゴブリンが何度も遠くから矢を放つ。

「みんな!僕を助けるんだ!」

 周りを見渡すとみんなは違うトラップに引っかかっていた。

「まずい!魔物を呼びよせるトラップだ!」
「毒の罠か!」
「魔法陣を踏んだら中ボスが出て来た!!」


 何が起きているんだ?
 ここはまだダンジョンの2階。
 なぜ勇者である僕がゴブリンになぶり殺しにされそうになっているんだ!?
 普通に戦えばこいつらは簡単に倒せる!

 僕は簡単に魔物を倒せるんだ!
 何で危ない目に会っているんだ?
 僕は選ばれた人間!

 なんでなんでなんで!!

「て、撤退だ!!」

 そう言って全力で1階の魔法陣に逃げ込む。
 後ろから矢を受け、魔法の攻撃を浴びつつ何とか1階にたどり着いた。

 おかしい。
 こんなはずじゃない。

 僕は大の字になって地面に寝転がりながら息を上げた。
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