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名前持ちのベアード②

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 空が赤く染まり、アーサー王国の王都、南門に向かうと、ベリー・ルナ・エムルが後についてくる。
 周りが騒がしい。
 南門の防壁の近くでは、入場料を払いながら防壁に登っていく国民が目につく。

 この国ではとにかく入場料を取りたがる。
 国民も気にせず入場料を払う。
 
「商売してるのか?」
「はい、大盛況ですわ」
 ルナが嬉しそうに答える。

「死ぬかもしれない。危ないだろ?」
「自己責任で覚悟の上ですわ。それに、英雄ウインが居ますから安心している国民が多いのですわ」
「ベアードの斬撃は結構遠くに飛ぶぞ!危ないだろ!」

「しかし、ベアードの要求を満たす為に大量の見物人が必要ですのよ。いう通りにしない方が危険ですわ。さ、時間がありませんわ。行きましょう」

 俺が南門の近くに来ると騒がしくなる。
「英雄だ!英雄ウインが来たぞ!」
「並べ!早く!」
 音楽隊の音楽が鳴り響き、パレード状態になる。

 門の近くまで来ると、「かああいもおおん!」と兵士が叫び、南門がゆっくりと開けられる。
 何これ?
 祭り?

「ただいま、英雄ウインとその一行が南門を通過しました」
 魔道マイクでいちいちお知らせされる。
 歓声が大きくなった。

 門をくぐると、ウォールとメアの周りを間隔を空けるように騎士が布陣する。
 騎士同士が間隔を空けているのはベアードの斬撃で一気に騎士がやられないようにする為のものだ。

 100を超えるかがり火が燃える。
「きれいね」
「そうだな、ベアードが来なければ楽しめた」
「来ましたわね。私の魔眼ならスキルの詳細を見極めることが出来るかもしれませんわ」


 丁度辺りが暗くなると、ベアードの後ろには300体の群れがついてくる。
 爪の長い熊が行進してくる。
「熊か」
「サーベルベアの群れね」

「ウイン、固有スキルの筋力アップですが、攻撃力・防御力・速度を5割アップさせる効果がありますわ。後は情報通りの能力です」
 ルナが耳打ちする。

「ミラクルアップの強化版がパッシブでかかるのか。強いな」
 ミラクルアップの魔法だと2割の能力上昇。しかも3分で効果が切れる。
 だが筋力アップの固有スキルは5割の能力上昇で効果が切れる事は無い。


「ウイン、約束通り準備は出来ているようでござるな」
「ベアード、一騎打ちを申し込む!」
「良いでござるなあ!!だが拙者にも考えがあるでござる。まずは軍と軍のぶつかり合いと喧騒を望む。かかれえええい!」

「エムル、ブラックホールだ」
 俺はエムルを睨みつけた。

「はあ、はあ、いいよ!その射殺すような目!最高だよ!……ブラックホール!」
 二大最強攻撃魔法の一角で熊の群れが半壊した。
「ベリー、ルナ、エムル、殺れ」
 半壊した熊はベリーとルナ、エムルの攻撃ですぐに全滅するだろう。

「……ウイン、お主とは分かり合えぬようでござる。お主には風情が無い!戦場とは剣と槍でおこなうもの!」
「それは残念だ。ベアードと闘う為に刀を用意してきたんだがな」
 俺はいつものショートソードではなく、刃渡りが長めの刀を帯刀している。

「少しは分かっているようでござるな。美しき刀。刀にはサムライの魂が宿るでござる」

 お前刀持って無いだろ。
 サムライでもないだろうが。

「……ウイン、勘違いしているようでござるが、拙者はこの爪に刀を内包しているでござる。この爪こそが刀!そして拙者はサムライの塊でござる。これ以上の能書きは不要!魂と魂の斬り合いをはじめるでござるよおおおおお!きえええええええええええええええええええええええいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 ベアードは腕を何度も振って斬撃を飛ばす。
 俺は避けながらミラクルアップを使い、ベアードの懐に潜り込む。
 下半身を斬り刻み、ジャンプして後ろから連撃を食らわせた。

 余裕で倒せるが、倒す前にキャンプファイヤをベアードに使う。
 最後に背中に刀を突きさし、素早く抜いた。

 着地すると剣を振って血を払い、納刀する。

「武士とは、死ぬことと!!みつけたりいいいいい!!」
 ベアードが倒れる

「一瞬で名前持ちを倒したか!!」
 ウォールが驚愕する。

「まだだ!二段階目が始まる!魔石を破壊できなかった!」
 名前持ちは固有スキルの他にもう1つの特徴を持つ。

 それが二段階目だ。
 1度倒しても体内の魔石を活性化しつつ完全復活してくる。
 魔石を限界まで活性化させる為活動時間に限界はあるが、復活すると、スキルと固有スキルが変容し、違う特性を持った状態で襲い掛かってくる。

 過去の伝説では多くの英雄が二段階目で死んでいる。
 戦士系の能力を持った名前持ちが急に魔法特化に生まれ変わって殺しに来る。
 そうなれば今までの対策がすべて無駄になり、対応しきれず倒される。

 名前持ちの二段階目に事前対策は出来ない。
 更に怖いのは二段階目の名前持ちは呪いや毒などの状態異常攻撃をしてくる場合がある事だ。
 過去に圧倒的なレベル差で名前持ちを倒し、二段階目に変容した名前持ちの固有スキルで英雄は殺されてきた。


 ベアードの体が黒い光に包まれ、傷が時間が巻き戻されるように塞がっていく。
 ベアードが立って俺を睨む。
 ベアードの目に狂気が浮かぶ。

 キャンプファイヤの炎も消えた。
 二段階目の完全復活で、キャンプファイヤの炎が消えるか。
 切り札を潰されたか!


 俺はすぐにベアードのステータスをチェックした。
 ____________________
 ベアード オス
 レベル300

 スキル
 斬撃

 固有スキル
 筋力アップ
 復活
 狂化
 ___________________

 ルナが叫んだ。
「気を付けてください!狂化の能力で戦闘力がレベル600相当になります。その状態に筋力アップの効果が上乗せされて攻撃力・防御力・速度はウインに迫る力を持っています」

「残りの活動時間は分かるか?」
「2時間近くです!」

 名前持ちの二段階目には限界活動時間がある。
 二段階目の本質は体内の魔石を超活性させるオーバーブーストだ。
 命を削りながら自爆攻撃を仕掛けてくるのが二段階目となる。

 だが、活動時間が長すぎる!
 逃げて限界活動時間までやり過ごすのは難しいだろう。

「倒すしかないか復活のスキルの効果は!!」
「後4回倒しても完全復活します!」
 5回倒す必要があるのか!

 俺はベアードに斬りかかる。
 さっきよりベアードの動きが早い。
 ベアードを斬るが斬った感触が浅い。
 防御力がアップしている。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「きょえええええええええええいいいいいいい!!」
 俺は連撃を叩きこむ。
 ベアードは何度も斬撃を飛ばす。

 俺はベアードに張り付くようにしてベアードを斬っていく。
 ベアードの斬撃がある。
 距離を取るのは愚策!

 張り付いて斬撃をすべて躱して斬り刻む1
 それだけだ!

 ベアードが俺の連撃で倒れる。
「後4回!!」
 俺は張り付くようにして何度もベアードを斬り、復活するたびにまた連撃を食らわせる。

 ベアードの力が抜けて倒れる。
 倒した、か。

 大歓声が鳴り響いた。

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