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第68話

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 俺に会いに来た男は、年は同じ位だと思うが、難しい表情をしており眉間にしわが寄っていた。
 何か苦しみを抱え込んでいるような、そんな印象だった。

 重鎧と大楯、更に片手剣と、典型的なタンクタイプのように見え、背が高く、体格は良いが、気配りが出来そうにも見えた。

「初めまして、ゲット卿。私の名はライターと申します。朝早い面会に感謝します」

 そう言って丁寧な口調で話を始めた。

「所で私は、小説を読む趣味があるのです」
「ん?」

 ライターは丁寧に手のひらを出して俺に待つよう合図を出した。

「もう少しだけ聞いていただきたい。私の好きな小説は日本と言う架空の世界が出てくる物語です。もしゲット卿もよくご存じでしたら、2人だけで歩きながら話をしたいと思いやってまいりました。そして、ガルウインのその後についても話しておきたいのです」

 転生者でガルウインがどうなったか知っている者。
 ガルウインは川に流されて行方不明だが、何か分かるかもしれない。

「始まりの街を歩きながら話をしよう。2人だけでな」
「おお!これは光栄でございます」

 俺は村人と離れて距離を取った。

「ふー!OK、お互い普通に話をしましょう。いや、話をしようか。遠慮は無しでいつも通りに話そう」
「私もその方が助かるよ。所でゲット君」

「呼び捨てでいい」
「ゲット、ゲームは好きかね?」
「ブレイブクエストファンタジーならプレイした」
「君もか」

 波長が合うのか、ライターの言いたいことが先読みできた。

「転生者は全員ゲーム経験者か?」
「私があった中では、全員がそうなるのだよ」
「最初に村を案内すればいいか?それともライターから話をするか?」
「出来れば君を見極めたいのだ」
「正直だな。言わない方が見極められると思うけど?」

「私は面倒な性格なのだよ」

 嘘はつきたくないし、隠すのも嫌か?
 そうだとしたらかなり誠実な性格だと思う。

「始まりの村を案内しよう」

「ゲームとはずいぶん変わったようだ」

「皆のおかげだ。まずエムルが何でもやってくれる。レンガを作るのも、畑を開墾するのも魔物狩りもぬかるみに石を撒くのも色々やってくれる。エステルはみんなを癒して内政の中核人物になっているし、クレアとアリシアが居るおかげで村人の訓練や斥候、魔物狩りの心配はない。父さんは鍛冶だけじゃなく大工もやってくれるし、母さんは忙しいみんなの為に大量の料理を作り、洗濯や掃除もしてくれる。他のみんなも協力的だ」

「うむ、話しているだけで君の事が少しわかってきた。橋は新しくなり、畑は増えて、家もたくさん建って街のように見える」

 俺の受け答えだけで何かを察したようだ。
 受け答えだけで人間性を見極める方法を知っているのかもしれない。



 ゲットは後で知ることになる。
 手柄を語る際に自分の手柄として語る者は信頼できない。
 その逆で人の功績を讃えたり、チームによる力を強調する者は信頼できる。

 この考え方はゲットの土台を作る事となり、ゲットが言語化できなかったダストの正体をひとことで言い現す考えともなる。




「領主になって1年経ったけど、皆協力をお願いすれば毎日働いてくれる」

「私が聞いた話によれば、英雄、ゲット・オールラウンダーは狂ったように皆の為に働き、今でも自らが最前線に立ち、皆を魔物から守っていると聞いた」
「皆でやった事だ。俺の力だけじゃない」

「ふむ」

 そう言ってライターは俺の顔を見て表情が少し和らいだ。

「私が体験してきた話をしよう。私の罪と、ガルウインの話、いや、ガルウインが亡くなってから数日までの話を」
「分かった、所で、朝食は済んでいるか?」

「まだなのだが、早めに話しておきたいのだ。だが、長くなるとは思う」
「内政館の応接室で食事を摂りながら話をしよう」

 俺はライターを新しく出来た内政館に案内して、パンサンドとコーヒー、サラダとスープを持って来てもらうと、ライターはまた少しだけ眉間にしわを寄せて話し始めた。

「私の他に登場人物は3人いる。

 1人目はアミュレットだ。
 優しい女性だがおしゃべりで警戒感が薄いヒーラーで、亜麻色の髪と瞳、白いローブと白い杖を持っている。

 2人目は、ルンバだ。
 人当たりの良い男だが、自分が利益を得る事を第一に考える剣士、いや、テイマーだ。
  黒紫の髪と瞳で、軽装の防具と軽量のロングソードなのかショートソードなのか判断がつきにくい長さの剣を使う。

 3人目がガルウインだ。
 人当たりの良い、いや、良いとは言えない。
 自分の利益を得る事を第一に考えるルンバと似た内面を持つものだ。
 詳しい紹介は不要だろう」

 ライターはまるで教師が小説を読み上げるような口調で話を始めた。


 ゲットはこの話がきっかけとなり今後の行動指針を大きく決定する事になる。
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