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第20話

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 俺は暗くなると同時に盗賊のアジトに入った。
 昼の戦いから疲れが抜けていないのか、見張りさえいない。

 まさか、激戦の後に盗賊が奇襲を受ける側に回るとは思わないだろう。
 俺はこの日の為に準備してきた。

 どうすれば盗賊を全滅できるか計画を考えてきたんだ。
 この洞窟は狭く、入り口が1つしかない。

 ゲームなら洞窟に全員入れず、テント暮らしの者もいたが、盗賊の数が減り、全員洞窟に入っているはずだ。

 睡眠ポーションをありったけ使い睡眠ガスを発生させる。
 更にストレージから木と油の入った樽を大量に取り出し、火をつける。

「ファイア!」

 素早く外に出て、洞窟の入り口を岩でふさぐ。
 ストレージに大量の岩と土を集めておいたのだ。

 俺の侵入がバレなかったのは、盗賊の数が減り、空いたベッドをいつもと違う者が使う事になったからだろう。

 俺の気配と仲間の気配を間違えやすくなる状況だ。

 外には落とし穴トラップを設置しつつ、入り口の様子を伺う。



『レベルが44から45にアップしました』

 昼の盗賊戦と、今回の窒息攻撃で経験値が貯まったか。

 ゴンゴンゴン!

 入り口が崩れ、人の手が見えた。

 俺は油の入った樽を入り口に投げ入れる。

「ぎゃああああああ!卑怯者があ!!」

 悲鳴が聞こえ、盗賊が炎に包まれる。

 盗賊たちは俺と村のみんなを殺そうとした。
 どんな手を使ってでも盗賊を殺してやる。
 特にゼスじいとアリシアを殺しかけたのが許せない。

 赤く燃える入り口を眺めると、勢いよく扉が壊されて、ボスのギルスが出て来た。

「てめえ!舐めたマネしてんじゃねえぞ!」
「元気そうだな、お前だけは高みの見物をしていた。だから助かったのか」

「何勝った気になってやがる!お前はこれから殺されるんだよ!言っておくがなあ!俺は斧使いのゴーダーより強い!ブラックウルフより強い!ゴーレムより強い!俺が一番強いんだよ!」

「時間稼ぎか。息苦しさは無くなったか?」
「殺す!!ぶっ殺す!何度も何度もダガーで貫いてやる!」

 ギルスは鞘からダガーを2本抜き二刀流で構える。

「ふ、お前の考えている事は分かる。俺を落とし穴に落とす気だろう。だが地面の跡を見りゃあどこが落とし穴か丸わかりなんだよ!アジトを焼いて明るくしてくれたおかげで地面が良く見えるぜ!卑怯者すぎて策に溺れたなあ!はははははははは!」
「時間稼ぎは終わったか?」

「殺すぞごらあああああああ!!」

 ギルスが落とし穴を避けて俺に迫る。

 俺は盾にメイスを隠して魔法を唱える。
 アジトの炎に照らされて俺の魔法はギルスに見えにくい。
 その上更に盾でメイスを隠しているのだ。

 そしてギルスは落とし穴を避けて誘導されるように俺に迫る。
 酸素不足で頭が働かないのだろう。

 俺は、5才のころからどうやってお前を殺すかを考えてきた。
 5才の頃からずっとだ。

 お前が素早いのも、器用なのも分かっている。
 その上で火責めと落とし穴で下に注意を向け、更に炎魔法を使ってもバレにくい様考えてきた。

 ギルスがダガーで斬りかかる寸前でゼロ距離の魔法を発動させた。

「ハイファイア!」

 勢いよく飛び込んできたギルスの動きがハイファイアの直撃で止まる。

「ハイファイア!」

 そこに更にハイファイアを使って更に攻撃をする。
 ギルスが吹き飛ばされて地面に転がる。

 俺はメイスを振り下ろすがギルスに避けられた。

「く、くそ野郎!殺す!」

 ギルスがダガーを突き出す。

 ゼスじいの声が聞こえる気がした。

『盾じゃ!』

 俺は盾で突きを防いだ。
 不思議と怖さはなかった。

『メイスじゃ!』

 もう片方のダガー攻撃を無視して腕をきりつけられつつメイスを振り下ろす。
 ギルスの右肩をメイスで潰すと、ゼスじいの声通りに動く。

『盾!メイス!メイス!メイス!盾!メイス!メイス!メイス!』

 小さな傷は受け続けるが、俺はギルスを何度も殴り、何度も盾で突き飛ばした。

「な、何なんだ!貴様はあ!」
「後ろは落とし穴だ」

 ギルスが落とし穴に落ちた瞬間に止めを刺す。

「ハイファイア!」

『ハイファイアのLVが39から40に上がりました』

『エクスファイアLV1を習得しました』

 俺は落とし穴にジャンプして降りつつ渾身のメイス攻撃を繰り出す。
 そして何度も殴り、ギルスの息の根を止めた。

『レベルが45から46にアップしました』

 ギルスは強敵だった。
 ゲームでは村人が束になってギルスに矢の雨で弱らせ、更にゼスじいと闘って弱ったギルスを主人公のダストとアリシアが2人がかりで倒す。

 ギルスはスキルを早く取得できる固有スキルを持っており、様々なスキルを覚えている上、ゲームではレベル40だった。
 だが、奇襲され、酸素不足と火傷と怒りで冷静さを失い、しかも地面に意識が向きすぎた結果隙が出来たのだ。

 ギルスから大量のアイテムが吐き出される。
 ギルスはストレージのスキルも持っているのだ。
 ギルスの宝と、少し焦げたツインダガーをストレージに入れて帰ろうとした。

「ゲット、お、俺達だけは疲れていないから、た、戦いに参加するよ!」

 3人の村人が武器を構えて立っていた。
 3人は臆病者だったが、物音にすぐ気づいたりと几帳面で斥候の適性があった。
 きっと死を覚悟して来てくれたんだろう。

「もう終わった」
「そ、そっかー」

 3人は力が抜けたように脱力する。

「お、俺!伝えてくる!」
「俺も!」

 3人は元気になって走って帰って行った。



 村に入ると朝になっており、村人全員が出迎えた。

「盗賊は倒したのか?」
「ああ、もう大丈夫だ」

「よくやってくれた!ゲットは英雄だ!」
「皆感謝してるのよ」

 皆が俺を讃える。

 俺はギルスの持っていた宝の一部を村に寄付した事で皆はさらに俺を讃えた。

 だが、奴が人込みを押しのけて俺の前に出た。

「嘘だああああああああああああああああ!!ゲットは嘘をついているううううううううううううううううううううう!!」

「何が嘘なんだ?」
「ダスト、もういい。お前は引っ込んでいろ!」
「嫉妬は良くないわ!」

「俺が倒すはずだったんだあああああ!お前は死んで俺が倒すはずだったんだああああ!!!」

 ダストはわめき散らし、収拾がつかない状態となった。

 傷を負ったゼスじいとアリシアが前に出る。
 アリシアは元気になっていたがゼスじいはまだ調子が悪そうだ。


 俺はダストを無視して父さんと話をする。

「ギルスが持っていたツインダガーだけど、少し焦がしてしまったんだ。直してアリシアにプレゼントしたい」
「任せてくれ!手伝いが出来て嬉しい!」

「ほう、その持ち手は、確かにギルスが持っておったツインダガーじゃのう。これはゆるぎない証拠じゃ。ダスト、認めたくないのは分かるが、ゲットはおまえより強い。そしてギルスを倒したんじゃ。反省して一から修行し直すんじゃ」

「やっぱりダストは口だけでちゃんと皆を助けるのはゲットだにゃあ」

 ゼスじいとアリシアは俺を持ち上げてダストを落とす。

 その事でダストがブチ切れた。

「……ってやる」

 俺は聞き取れず聞き直した。

「何だって?」
「使ってやる!使ってやる!ざまあチケットを使ってやるよ!お前は死ぬ運命だ!俺が讃えられずこんな目に合っているのはおまえのせいだ!全部お前が悪い!ざまあチケット!発動!」

 ダストはざまあチケットをストレージから取り出し、俺に向ける。

 く、ストレージスキル、使えたのか!
 盗賊のアジトで見つからなかったが、ダストのストレージにあった。

 やはりダストは勇者、才能がある!

 俺の体が輝き、バッドステータスを受けた。

『30日間魔呼びの状態異常を受け続けます』

「30日間、魔呼びの状態異常を受け続ける。俺はここに、いられない」

「ぎゃはははははははははは!お前は死ぬ運命なんだよおおおおおおおお!」

「ダスト!何という事をするんじゃ!お前はもうこの村の人間ではないわい!出て行け!!!」

 ゼスじいがダストの胸倉をつかもうとするが、ダストが弱ったゼスじいを投げ飛ばす。

 それを見ていたみんなが一斉にダストを怒鳴り、何を言っているか分からない状態になる。
 俺はゼスじいを庇うように間に入って武器を構えた。

「は!こんな村出て行ってやるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 人を押しのけつつダストが出て行く。

「俺も、皆に迷惑はかけられない。出て行くよ」
「はあ、はあ、ゲット、すまん。何もできなくて、すまん」
「ゼスじい、そんな事は無い。ゼスじいのお陰で今俺は生きている。……時間が無いから急いで出て行く」

 俺とダストは村を出る。
 だが村を出る理由は全く違う。

 俺が村から離れると、ダストが後を追って来た。
 そして剣を抜く。

「俺に状態異常をかけて、剣まで抜くか?今魔物が迫ってきている!戦っている余裕はないはずだ」
「お前は死ぬ運命なんだよ!へ!お前今弱ってるんだろ?日が落ちる前に戦って夜になってからは奇襲を仕掛けた。今のお前は簡単に殺せる」

「そこまでするとは思わなかったにゃあ」

 ダストが追ってきたアリシアに振り返る。

「アリシア!こっちに来い!俺と一緒に来ればいい思いが出来る!」
「アリシア、傷はもういいのか?」

 俺とダストが村を出る理由は全く違っていた。

 俺とダストがアリシアに言った言葉は全く違っていた。

 そしてアリシアは何も言わずに俺の隣に来た。

 がさがさと魔物が迫り、草木が揺れる。
 大量の魔物が集まって来る。

 ダストの行動が予測出来ない。
 魔物が迫っている今、戦う状況ではないが、あり得ないタイミングで俺を殺そうとする。
 ざまあチケットで俺を殺したいのか?直接剣で殺したいのか?
 いや、こいつはこういう奴だ。


「ゲットおおおおおおおおおおおおおおお!!!殺すううウウウウウ!!!!」

 ダストは勇者だ。
 動きがぎこち無いようにも見えるが、油断は出来ない。
 本気で相手をする!

 俺はダストの攻撃を円盾で防ぎ、メイスで腹を攻撃した。

「ごふうううううううううううううううううう!!」

 ダストが吹き飛んで地面に倒れた。
 地面が土煙を上げる。

「はあ?」

 ダストがあっさり吹き飛ばされて拍子抜けした。
 そして周りに魔物が集まって来る。

 ダストは素早く起き上がり、吹き飛ばされた衝撃を利用して素早くこの場を離れた。
 そして見事な隠密スキルで景色に紛れ気配が薄くなっていく。

 くそ!魔物が集まってきた!
 ダストめ。

 最初からざまあチケットを持っている点、

 嫌なタイミングで攻撃を仕掛けてくるあのタイミング、

 簡単にスキルを覚えられるあの才能、

 極めつけはあの性格だ。

 隠密とストレージ、ダストが使うとまるで窃盗団のように見える。

 厄介すぎる!

 ダストは奇声を上げながら逃げ出す。

「お前はもう終わりだああああ!!ここで死ぬんだよおお!ざまああみろおおおお!」

 ダストの声が小さくなっていく。
 逃げ足が速い!

「アリシア、俺と一緒にいると危ない」
「私はゲットに守って貰ったにゃあ。今度は私が守るにゃあ」

 アリシアが俺の右手を両手で握った。

 魔物が迫って来る!

 俺とアリシアは村を離れて歩き出す。





【ダスト視点】

「うあああああああああ!」

 俺はゴブリンに追われて逃げ出す。
 またゴブリンか!
 ゴミどもが!俺様の隠密を見抜く暇があったらゲットを倒せよ!

 だが、ざまあチケットの効果は抜群だ!
 モブのゲットは今度こそ死ぬだろう。

 ぎしゃああああああ!

 くそ!まだ追ってくるのか!

「ハイウインド!」

 その時、ゴブリンが風の刃で真っ二つに斬り殺される。

「こっぽー!君も転生者だね?」
「お、お前は!帝国六将、疾風のガルウイン!」






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