上 下
14 / 105

第14話

しおりを挟む
【ダスト視点】

 俺は17才になった。
 勇者に選ばれてしばらくすると村に教育用の人員が配置された。

 目的は俺を訓練して最高の勇者にする為だ。
 俺は特別な対応を受け、訓練を続けているだけで多くのスキルを手に入れた。

 さすが俺!
 勇者である俺はどんなスキルでも覚えられるし、人を魔物から助ける事で才能値は上がっていく。

 今日は少し休憩だ、ん?ゲットのやつが村に帰ってきたのか?
 ふ、ボロボロじゃねーか、円盾はぼこぼこにへこみ、ローブは擦り切れている。
 モブのあいつには外の世界は厳しすぎるんだろう。

 俺はすでに始まりのダンジョン深層付近にまで迫っている。
 そこでざまあチケットを手に入れてやる。

 ゲット、お前は一生かかっても始まりのダンジョンすら攻略できねーだろうが、俺にかかればソロでも攻略できる。
 お前はモブで、俺は最高の勇者だ。

 お前とは後1年ちょっとの付き合いになるか、18才でゲットは死ぬ。
 それまでせいぜい勘違いしたまま生きていけや。
 最近訓練ばかりで飽きてきた所だ。
 もうすぐ死ぬモブだが、話しかけてやるか。

「いよお!ゲット」
「ダストか、今疲れているんだ」
「待ーてーよおおお!お前ボロボロじゃねーか、ゴブリンやオーク共に苦戦でもしたか?」

「そうだな、じゃあな」
「まあてえよおおおおおお!へへ、折角久しぶりに会ったんじゃねーか。お前が危険だと言っていた始まりのダンジョンがあるよな?覚えているか?」

「……覚えている」
「お前には無理だろうが、俺はそこの深層地帯に迫っている。おっと、勘違いするなよ、勇者である俺だから出来るんだ。お前がこれから行っても無駄だよ」

「そうだな。始まりのダンジョンに行くことはもう無いだろう」
「分かってんじゃねーか。お前雑魚狩りごときで危ない目にあって逃げ帰ってきたのか?どうなんだ?」

「魔物は危ないよな」
「ぎゃははは!これからどうすんだ?」
「今からゼスじいの所でスキルの訓練をする」

「ぷ!くくくく!はははははははははは!身の程をわかってきたようだなあ!お前のようなモブは必死になってスキルの訓練をしねーと外に出るのもあぶねーよなあ!」

 ゲットは何も言わずに去って行った。
 あーすっきりした。

 あいつゴブリンやオークと闘っただけであんなにボロボロになってやがる。
 いや、あいつのことだからスライムにボコられた可能性もあるか。
 俺と違って無能はどんなに努力したって無駄だ。
 ようやくそれが身に染みたみてーだな。

「またサボっていますね!早く訓練に戻ってください!」
「クレアか」

 こいつはゲームパーティーキャラのダークエルフだ。
 銀髪のロングヘアと赤い目、そして褐色の美人だ。
 白いビキニアーマーとマントが褐色の肌と合っていて良い眺めだ。

 女としては背が高めだが俺よりは低く、俺の隣に置けば栄えるだろう。
 動きに無駄が無くてスマートだが、そんな事より姿勢がいい。
 突き出した胸と尻を早く堪能したい。
 もちろん俺が頂くが、18才まで待ちきれねーぜ!

 しかもクレアの後ろにいる2人の女もレベルが高い。
 クレアと同じ19才で、攻撃魔法と回復魔法を教える俺の指導役だが、もう俺は魔法を覚えている。
 訓練は必要ねーんだがな……少し言い返してやるか。

「お前らが俺の性奴隷になるならもっと頑張ってやるよ」
「ふざけないでください!あなたは剣も魔法も基礎が出来ていません!すぐに訓練を始めてください!」

「クレア、もうほっとこうよ。王様にも無理しなくていいって言われてるでしょ」
「そうだよ、勇者が訓練は要らないって言ってる。勇者の意思を尊重して訓練は終わり」

「もう俺は訓練しなくても最強なんだよ」
「まだ基礎訓練が足りません!」

「は!今からダンジョンを攻略して来てやるよ!」
「待ちなさい!」

 追って来ようとするクレアを2人が止める。
 クレアよりモブの方が俺の力を分かっているようだな。
 俺は始まりのダンジョンに向かった。


 ダンジョンに入ると『隠密』スキルで素早く隠れる。
 ふ、この華麗な動き、俺は独学で隠密スキルさえ手に入れることが出来る。
 このスキルで魔物に気づかれにくくなる最高のスキルだ。

 魔物の注意を逸らす為遠くに石を投げる。

 そして向こうに魔物が反応した隙に一気に奥に進む。
 今日は始まりのダンジョンを攻略してやる!

 ゴブリンキングを倒し、ざまあチケットを手に入れる!
 俺はゴブリンキングのいるボス部屋に入った。
 ……いない?

 まさか!無い!無い!無い無い無い無い!
 ざまあチケットが無い!

 ゴブリンキングもいない!
 どうなってるんだ!

「くそおおおおおおおおおおお!誰が取ったああああああああああ!」

 俺の叫びで魔物が集まって来る。

「ひい!魔物が来る!お、隠密!」

 俺は部屋の隅でじっと耐え、魔物がいなくなるまでうずくまった。
 か、勝てねえわけじゃねえ、だ、だが、馬鹿正直に戦うだけが道じゃねえ。


 ◇


 俺はしばらくしてダンジョンを出た。
 息苦しかったぜ。
 ま、勝てるけど、魔物は見逃してやったぜ。
 なんせ俺はつええからな。



 俺はステータスを開いた。

 レベル:  20
 HP:   140      B
 MP:    140    B
 物理攻撃: 140    B
 物理防御: 140    B
 魔法攻撃: 140    B
 魔法防御: 140    B
 すばやさ: 140    B
 固有スキル:勇者
 スキル:『剣LV9』『隠密LV15』『ヒールLV2』『リカバリーLV1』『ファイアLV3』
 武器 鉄の剣:150
 防具 鉄の鎧:70 バトルブーツ:40


 しかしおかしい、魔物から散々皆を守ってやってるのに、勇者のブレイブポイントが貯まらない。
 あれだけ魔物を倒したんだ。
 全部の才能値がSSになっていてもおかしくないはずだ。

 俺への感謝が足りないんじゃないか?
 そうに違いない。
 せっかく助けてやってるのに報われねーよなあ。
 俺ほどまともな人間はいねえのによお。



 勇者ダストは、サボって人を助けず生活していたが、自分だけは親切な人間だと思い込んでいた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ぶりっ子男好き聖女ヒロインが大嫌いなので悪役令嬢やり遂げます!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:3,407

人間不信の異世界転移者

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,356

前代未聞のダンジョンメーカー

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:346

転生した悪役令嬢の断罪

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,321pt お気に入り:1,633

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:4,848

処理中です...