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第8話 ギリギリの戦い

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 ガキン!

 ロックショットの杖と俺のステッキでつばぜり合いをする。

「貴様!ナイフを使えたのか!」
「見ての通りだ。どうして魔法を使わない!?」
「ふん、貴様如きに魔法を使うまでも無い!」
「使わないんじゃなくてもう使えないんだろ!」

 杖とステッキで打ち合う。

「やかましい!調子に乗るな!」
「質問に答えろ!」

 思った通りだ。
 こいつは会社にいた時の上司と一緒だ。
 自分に甘く他人に厳しい。
 答えられない事があると話を逸らして相手を攻撃し始める。

 上司と似ていて行動パターンを読みやすい。
 こいつはもう魔力切れだ。

 対して俺のステッキは10秒のチャージ時間さえあればナイフかパラソルが使える。
 地味ではあるが息の長い戦いが出来る。
 それが遊び人のメリットだ。

 ロックショットが振った杖を躱して後ろに飛んだ。

「ナイフ!」
「ぎゃああああああああああああああ!」

 ロックショットに9本中6本のナイフが突き刺さった。
 そしてすかさず前に出てステッキで腹を突いた。

「ごぼおおお!調子に、乗るなよ!」

 またステッキと杖で打ち合う。

「遊び人のステッキはラッパだのクラッカーだの戦闘に使えん技が多い!それに魔法のナイフは射程10メートル程度だ!」

 俺は戦いに集中した。
 杖の攻撃を1回でもまともに受ければ無事では済まないだろう。
 能力値ではロックショットに負けている。

「魔法を使わないで戦うこの俺に貴様は打ち負けている!理由は簡単だ!俺がエースでお前が雑魚の遊び人だからだ!」

 
 ユウタ・男・15才
 ジョブ:遊び人
 体力:16 
 魔力:13 
 速力:21 
 器用:12 
 幸運:25
 スキル:ステッキレベル9、曲芸レベル3
 固有スキル:???

 ロックショットと打ち合うたびに力が増していく。

『体力16→20』

 俺はロックショットが振った杖を仰け反りながらギリギリで躱す。
 命を賭けた極限状態が俺を引き上げていく。

『速力21→22』
『器用12→14』

「ナイフ!」

 仰け反ったまま強引にナイフを発動させた。

『曲芸レベル3→4』
『魔力13→15』

「ぎゃあああああああ!貴様、なんだ?なぜ力が増している!?なぜ急に速度が上がった!なぜ身のこなしが良くなっている!?そうか!転生者か!その成長率は転生者だな!」

 戦うほどに動きが洗練されていく。

『器用14→25』

 押し負けていた体力が追い付いていく。

『体力20→22』

 10秒に1回ステッキでナイフを飛ばすたびに魔力が上昇していく。

『魔力15→23』

 呼吸が苦しくなるのに比例して能力値が上昇し、ギリギリで戦いの均衡を保つ。
 時の感覚が曖昧になり、能力値アップの情報も感じ取れなくなり、戦いに集中していった。


 ◇


「……ているのか!貴様!聞いているのか!今日はこのくらいで勘弁してやると言っているんだ!」

 ロックショットが杖を振ってつばぜり合いをする。
 俺を押して弾き飛ばした。
 ロックショットが後ろに下がり逃げようとする。
 俺は反射的に動いた。

「ナイフ!」

 9本のナイフがロックショットの背中に突き刺さる。

「ぎゃあああああああ!覚えていろよ!」

 そう言ってロックショットが走って逃げて行った。
 極度の疲労で視界がぼやける。

 周りから歓声が聞こえた。
 みんながいる方に歩こうとするとがくんと膝が折れるように転んだ。
 もう、力が入らない。

 街のみんなが俺の周りに集まって来る。

「大丈夫か!おい!ポーションは無いのか!」
「もう無いよ!みんなの治療で全部使ったわ!」
「いや、傷は無い!だが、気絶しそうになるまで動き回ったんだ!」
「……俺はどのくらい戦っていたんだ?」
「分からない。5分くらいかな?」

 たった5分、それでもう俺は動けなくなったのか。
 5分でステッキを何度も当ててナイフを何度も飛ばした。
 これだけステッキとナイフを使ってロックショットを仕留めきれなかった。
 ナイフをヒットさせても先端が刺さる程度で威力不足だった。

 ナイフの威力は魔力に依存する。
 ステッキを振る力は体力依存だ。
 俺の能力値不足か。
 あれが、エース、1体だけで、戦況を覆す力を持った存在か。

 狡猾なロックショット、俺は、あいつに勝ちたい。
 俺は、気を失った。
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