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第64話

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【現政府対策会議】

「総理の支持率は次の調査で10%を下回ると思われます」

「分かっている。検察に冒険者の誹謗中傷を止めるよう要望は出しているのか?」
「はい、検察はすでに動いています」

「バカな!国民の言論を規制するのは民主主義に反する!ワシを総理にしていればこんなことにはならなかったのだ!」

 化けタヌキのような雰囲気を持った老人議員が総理に激怒した。

「今は緊急時だ!国家転覆の危機なのだ!争っている暇はない!今すぐにベーシックインカムの導入を」

 他の議員も怒鳴りだした。

「弱者である老人をいたぶるのか!!」
「年金を廃止しては皆選挙で負ける!」
「冒険者課税制度を復活させて高齢者の年金を増やすのが先だ!」
「老人いじめだあああああああ!!!」
「弱者をいたぶるのかああああ!!!」

「いい加減にしろ!今は国の一大事だ!」



【総理視点】

 この党はまとまりがない。
 何をするにも必ず反対される。
 総理になれなかった無能たぬきが私を引きずり下ろそうとしてくる。
 ここにいる議員は表と裏で言う事が変わり、マスコミの前ではいい顔をしている。

「私を防衛大臣にしておけば良かったのだ!」
「うるさい!黙れ!」

 ベーシックインカムの法案を進める事も出来ない。

 議員の怒鳴り声が響き、喧嘩が終わらない。

「ワシに名案がある。カゲオの両親を家宅捜索してもらう」
「これ以上彼を刺激するべきではない!」
「うるさい!黙れ!更にカゲオのハーレムは議員であれば知っている。その情報をマスコミにリークする」

「そんな事をしても意味がない!それどころか彼を刺激するだけだ!」
「政府に従わないクズには嫌がらせをすればいい!国家権力の威厳を見せつけておかねば愚民はつけあがる!まったく!そんな事も分からんのか!」

 私は喉が枯れるまで会議を続けた。
 結局、ベーシックインカムを進める事は出来なかった。



【次の日】

 テレビをつけるとカゲオの両親が家宅捜索を受けていた。
 あのタヌキめ!


 マスコミの前で私は質問を受けた。

「総理!カゲオ氏の両親が家宅捜索を受けている件についてどう思われますか?」
「カゲオ君に対する嫌がらせのように見えます」
「ですが総理の党からリークがあったと議員自らが発言していますが、認めますか?」

「本人が言ったのなら、否定は出来ません。もしそうなら総理としてカゲオ君に謝罪します」

 カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!

「総理!総理!カゲオ氏のハーレムについても同じ議員から暴露がありました!総理の考えをお答えください!」
「今は日本の危機で有事です!それどころではない!ベーシックインカムを成立させ、冒険者に戻って頂く時です!カゲオ君、迷惑をかけました。どうか戻って頂きたい!どうか戻ってきてください!」

 私は画面に頭を下げた。

 カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!

「すぐに問題の議員と話をします」

 私は現場を立ち去る。

「総理!総理!逃げるんですか!」
「逃げないでください!総理!総理!!!」
「まだ質問は終わっていません!!」

 議員と会うと私が怒鳴られた。

「ワシが折角カゲオを追い詰めてやった!貴様はバカか!」
「バカはお前だ!カゲオ君の帰国を邪魔する気か!」
「ふん!どちらにしろベーシックインカムは認めん!そんな事をしたら選挙で落選する!貴様が言うネット選挙も認められん!あんなことをされたらワシが落選する!IT化などもってのほかだ!!!」
「IT化は国政のコストを下げる重要案件だ!」

「ふざけるなあああああああああああああああああああああ!ワシを選挙で落とす気だろう!魂胆は見え透いている!」
「違う!国の為に考えた結果だ!」

 胸倉を掴み合う私達を周りの人間が止めた。
 その後も更に事件は起きた。


 カゲオチャンネルの動画を見る。

『うわあ!怖い!日本に戻るのが怖い。このままじゃ帰れないな。お前ら、自分達でレッドハットに対処してくれ。じゃあな』

 こうなる事は分かっていた。
 あのタヌキは意地でも私の足を引っ張りたいのか。
 これで私の支持率は確実に10%を下回る。



 更に事件は続いた。

 テレビのニュース中継が入った。

『見てください!タワーマンション前に100体ほどのレッドハットが現れました!しかし、討伐隊の到着はまだなようです。レッドハットは不気味にゆらゆらと揺れながら、タワーマンションを見つめています!レッドハットは空中に浮いてただ、タワーマンションを見つめています』

 遅れて討伐隊が登場した。
 だがそこで更に事件が起きた。


『速報が入りました。今いるタワーマンション前から数キロ範囲内に1000体規模のレッドハットが現れ、街を襲撃しています!……はい、はい、はい、訂正します。1000体規模のレッドハットがこのタワーマンションの10キロ範囲内5カ所に出現し、街を襲撃しています!」

 陽動か!
 あのレッドハットはおとりだ。
 だが、もう手遅れだ!

『タワーマンション前にいるレッドハットは今もまだ、動きを見せません。あ!レッドハットに討伐隊が突撃を!突撃を開始しました!れ!レッドハットがワープで消えました!』

 確定だ。
 完全に陽動だ。

 このニュースの後、内閣の議員が国民にナイフで刺し殺された。
 そして私の支持率は8%に落ち込んだ。



 私はマスコミに囲まれる。

「総理!冒険者課税によって冒険者が逃げ出し、国民の多くに被害が出ました!総理の支持率は8%まで落ち込んでいます!辞任しないのですか!責任は取らないのですか!!?」
「内閣は全くまとまっていないと国民から批判が出ています!総理!責任を取らないのですか!」


 私は後ろから耳打ちをされた。

「なに!ボスレッドハットが現れてそのボスが作った魔法陣からゴブリンの軍勢が出てきただと!」

 カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!

「至急対策会議を開きます!」

 私は騒ぐマスコミから逃げるように立ち去った。



 すぐにレッドハットへの対策を決めた事で自衛官と警察の力によって何とかゴブリンの軍団は倒す事が出来た。

 だが、政府へのバッシングは止まらない。

 私は、決断をした。

 この党は、もう駄目だ。



 マスコミを集め、記者会見を開いた。

「総理大臣の権限を使い、解散総選挙を行います!立候補する議員は、ベーシックインカムカゲオ案に賛成か、反対かを表明し、正々堂々と選挙で戦いましょう!立候補する議員は、ベーシックインカムに賛成か、反対かを表明していただきたい!もう一度言います。ベーシックインカムのカゲオ案に賛成か反対かを表明していただきたい!」

 カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!カシャ!

 政治家は選挙で負ける事を恐れてベーシックインカムに賛成できない。
 何故なら年金をやめてベーシックインカムに制度変更をすれば、高齢者を敵に回し、票を失う事を意味する。

 だが、今は流れが変わって来た。
 急に現れたボスレッドハットがゴブリンを召喚し、人を殺しに来る状況だ。
 つまり、国民の首にナイフが突きつけられている。
 金以前に命の危険に晒されている。

 ベーシックインカムに反対すればカゲオ君と現勇者は帰ってこない。
 国民は魔物の強襲に怯えながら暮らし続ける事になる。


「私はベーシックインカム、カゲオ案に賛成します!このままカゲオ君が帰らなければ!現勇者が帰らなければ、日本は魔物の襲撃に脅かされ続け、何も手を打てない状況が続き、人命を失い続けるのです!今は有事です!どんな手でもいい!魔物を倒す対策が!効果のある一手が必要です!たとえ野党に落ちても!私が選挙で落選しても!その程度の事は、国民の命には代えられません!どんな手でもいい!有効な手を1つでも打つ!多く打つ!それが私の想いです!!」



 私はマスコミの厳しい批判にさらされ、その後議員に怒鳴られ、胸倉を掴まれた。

 そして、ネット選挙が出来ないせいで多額の税金を使い、選挙中魔物から守る為警察をフル動員した事で更にコストが膨れ上がった。
 事で私は更に叩かれた。


 選挙が行われ、私は野党に落ちたが、再選した。
 そして、私を怒鳴り、ベーシックインカムに反対した議員は途中から手のひら返しを行ったが落選した。

 これでいい。

 クズが政治の世界から多く退場した。
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