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第115話 フェイクフェイクフェイク

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「んん? どうした? 来ないのか? ああ、そうか、皆ボロボロだ。ここにいる貴様らにもう満足に戦える力は残っていない」

『そ、そう言われると、もうみんな限界だ』
『みんな無理に無理を重ねて戦ってきた。それにブラックハンドはパープルフォグより強い』
『ここはゲームじゃない。死んだら終わりだ。そんな中でボロボロなのに命を賭けて突撃するのは自殺しに行くようなものだ』

「ハンダ、皆もマガジンに弾をセットしておいてくれ!」
「くっくっく、話を逸らすか。まあ、気持ちは分からんでもない。ここには絶望しかないのだからな」
「それはお前だろ?」

「くっくっく、図星を突かれ苦し紛れの言い訳か。見苦しいものだ。我が追い詰められているのならなぜかかってこない? それが答えだ。追い詰められているのはお前たちだ!」

「いやお前何度も逃げただろ? パープルフォグの時も喧嘩をする振りをして後ろに下がって逃げた。余裕な振りをして逃げた。さっきまで理由が分からなかったけど、お前何度も魔力が少なくなってそのたびに後ろに下がって回復を待っていたよな? 負のエネルギーを吸って、魔力を回復する時間を稼いでいたんだろ?」

 ブラックハンドの瞬発力はかなり高い。
 でも、あれほど状態異常の効果をつけた魔法を連射して魔力が切れないわけが無い。
 同じ六角のパープルフォグは魔力が切れていた。
 ゲームと現実の違いは魔力切れだ。

 失った魔力は負の感情を吸収して徐々に回復していたんだろう。
 そして休憩を悟らせないようにうまく人を脅しつつ休んでいた。
 こいつはゲームでも軍師のような能力が高かった。
 
『そう言えばブラックハンドの動きがおかしかった』
『喧嘩をしたり余裕ぶったりして魔力が少なくなった事を隠して回復していたのか!』
『六角の力の源は負の感情だ。やたらとみんなを脅していたのはその為か』
『余裕で皆を生かしていたんじゃなくて、生かす必要があったと、そういう事か!』

『だから最初に西高校を襲撃したのか。あそこは負の感情が集まっている。六角からしたら居心地がいいだろうな』
『なんだ、強者感を出していたのは全部演出か」
『そう言えば精鋭を殺すとか言っておいてまだ殺せてないよな? そういう事!?』

 みんなが答えを推理してくれる。
 いいぞ、この声を聞いたここにいる人間もブラックハンドの弱点を知っていく。
 みんな、怖がるな!

「くっくっく、見当違いの想像をしているようだな」
「おっし、銃を使える冒険者はみんな構えて欲しい一斉に撃ってくれ」
「話を遮るな! ゴミが我に話を遮るなあああああ!」

「どうした? 焦っているのか?」
「話を遮るな! 言われた事だけに答えて口を閉ざせ!」
「焦っているよう」
「黙れ! 我の話を遮るな!」

「ハンダ、頼む」
「任せるべ」
「黒き翼!」

 パン!
 黒い翼が弾丸を受け止めた。

 パン!
 時間を空けて撃たれた弾丸をまた黒い翼が受け止めた。

「は、はははは! 俺も攻撃するぜ!」
「私も撃てるわ!」
「俺も行ける!」

 隠れていたみんなも戦いに参加する。
 この闘いには希望が必要だ。
 絶望はいらない。

 隠れていたみんなが本気で反撃していたら六角でも苦労していただろう。
 そうさせない為に恐怖で皆をコントロールしつつ負の感情を集めていた。
 六角にそこまでの余裕は無かった。

 特にこいつはスキルを使えなればとたんに弱体化する。


「ハンダ、いいねいいね、流石西高校の4強だ。ブラックハンドをイラつかせるいい攻撃だ」
「それ褒めてないべ?」
「褒めてる。狙いが正確で発射のタイミングもばっちりだ」

『狙撃の技量が高いのがいいね』
『ブラックハンドが語りだした瞬間に撃つあのタイミングが敵を馬鹿にしている感じで良い』
『ハンダ君、いいよいいよ!』
『なんだろう? バラックハンドが小物に見えてきた』

「皆もハンダを見習って欲しい、雑魚を馬鹿にするように撃ち続けて欲しい」

 他のガンナーも魔法弾を撃っていく。

「今まで脅された恨み! は! ざまあみろ!」
「あれええ? 攻めて来ねえなあ! 怖いか、ブラックハンド!」
「見ろよ、ブラックハンドが怒ってるぜ!」

「ブラックハンドは意地でもこっちに来ないみたいだ。ならゲームをしよう。ブラックハンドが本当に動かないままでいられるか勝負だ! 逃げるかブチ切れてこっちに向かってきたら俺の勝ちな。遠くから攻撃すれば黒い翼を使い続けて魔力が無くなる!」

 ブラックハンドは強い、だが間抜けであるように見せて弱点を強調する。
 お前が作り上げた強者感を打ち砕く!
 みんなは恐れるな!

「雨が晴れて射撃日和になってきた」
「無駄だ、黒き翼ですべてを防ぐ」
「黒き翼で防げないとやっぱ痛いか。黒き翼で防ぎきれないように扇状にガンナーが散って撃てばいいのか」

 俺はガンナーを誘導しつつブラックハンドを追い詰めた。
 この隙に皆の傷が癒えていく。

「ふむ、なるほどな、我が直々に相手をしてやろう」
「ブラックハンドが負けを認めて動くぞ!」

『ブラックハンドのメッキが剥がれてきた。こいつ強く見せていただけだわ』
『演技派なだけだったんか』
『確かにな、振り返って考えるとブラックハンドの言ってることが支離滅裂だったけど、何度もごまかして逃げていたと考えれば辻褄が合う』


 ブラックハンドの手が黒く光った。

「殺す! 魂砕き!」
「効かない」

「痺れのいかずち!」
「当たるか!」

「燃え続けろ!」
「無駄だ! ハンダ! リツカ! マナ!」

 ガンナーがブラックハンドを狙う。
 俺とメイも前に出て攻撃する。

 黒き翼がブラックハンドの全身を守るが球体のガードが歪んで小さくなっていった。

「ぐほおおおおおおおおおおおおお! 貴様ああ! 我の真の力を」
「二段階目だろ? ゲームと同じだ。早く使え!!」

 二段階目を使われる前に言う事で小物感を演出する。

「二段階目になれば魔力を含めたすべてが回復する!」
「二段階目を倒せばこいつは終わりだ! どんどん撃て!」
「恐怖をみせ、ぐおおお!」
「おりゃああああああ!」

 ザンザンザン!

 防御の消えたブラックハンドを3度斬りつけた。

「ぐおおおおお! 二段階目えええ!」

 ブラックハンドの体が膨れ上がり、身長3メートルに巨大化した。
 ゲームではすべての能力値が引き上がり、全回復状態で襲い掛かって来る強敵だ。

「二段階目の我こそが六角、真の最強! 我が皆殺しにしてくれる! 燃え続けろ!」

 俺に向かって炎が連射され避けきれず攻撃を受けた。

『これはまずいぞ! 二段階目のブラックハンドはゲームではパープルフォグより強い!』
『あのデカいデーモンは流石にきついだろう。 すべての能力値が上がって状態異常の攻撃も高頻度で使うようになる』
『アキラが攻撃を受けて燃焼状態になったぞ!』

 俺は火だるまになりながら叫んだ。
 腕が痺れて感覚が無くなってきた。

「的が多少でかくなっただけだ! 撃ちまくれ!」
「甘いわ! 黒き翼!」
 
 黒き翼が銃撃を防いだ。

「ゲームと同じで全身をガード出来ていない! マトが大きくなって当て放題だ!」
「ぐぼおおおおおおおおおおお!」

「トリックスターで踏みつけます!」

 メイがジャンプしてブラックハンドを踏みつける。

「私もこの剣で戦うよ!」

 リツカが剣でブラックハンドを斬りつけた。

「私の弾丸も食らいなさい!」

 マナが魔法弾を撃ちまくる。

「ダークソードを使う!」

 キュインキュインキュインキュイン!

「くっくっく、いいのか!? 我を殺せばあのお方が目覚めるトリガーとなる! あのお方が目覚めれば貴様らは終わりだ!」
「負けを認めたか!」

 ガンナーの攻撃が緩んだ。

「怖がるな! 限界まで追い込んでくれ! 俺が倒す! みんなは弱らせるだけでいい!」

 みんなの集中攻撃でブラックハンドは俺に近づけない。
 責任は俺でいい。
 俺のせいでいい!

「ダークソード!」

 ドッコーン!

「がは、やめ、あのお方が、怖く、ない、ぐぼおおおお、話をさえぎるな、ぐおおお!」

 ブラックハンドの体に大きな切り口が出来たがまだ倒れない。

「負のエネルギーが集まればどうせラスボスは復活する! お前を生かしておいてもどうせ負のエネルギーを集め始める! ここで殺しても殺さなくてもどうせラスボスは復活する! ならここで殺す!」

 みんなの弾丸が切れ始めた。
 そしてみんなのスタミナも切れていく。
 強い冒険者は元々限界だった。
 俺が終わらせる。

 キュインキュイン!

「スティールソード!」

 俺は連続でブラックハンドを斬りつけた。
 苦しくなればなるほど底力で攻撃力が増していく。

「ディフェンスダウン!」

 俺の魂と心が追い詰められてディフェンスダウンの威力が上がる。

 攻撃力が上がる。

 俺は自らを追い込んで連撃を繰り出し続けた。
 
 後先考えない連撃でブラックハンドが悲鳴を上げる。

「ぎゃああああああああああああああああああああ!」

 ブラックハンドが黒い霧に変わって消えた。

『アキラああああああああああああああ! TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!』
『何でだろう? アキラを見てると涙が出てくる』
『心が震えるような攻撃だ。俺も涙が出ている』

 気が抜けると一気に力が抜けた。

 体が、寒い。

 俺は地面に座り込み、そして寝そべった。

 歓声が、聞こえなくなっていく。

 守れた、守れ、たんだ。

 俺は、意識を失った。


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