上 下
12 / 116

第12話 アキラの記憶

しおりを挟む
 転機は10才の頃だった。

 冒険者だった両親が死んで、2歳上の兄さんに育ててもらった。
 子供でも暮らせる、補助金が貰える第13ゲート市に引っ越したのもその頃だ。

 施設には入れなかった。
 俺と兄さんは、まだ余裕があるとみなされたのだ。

 ワンルームの部屋に2人で住む。
 10才になるとスキルに目覚めた。

 ソウルスキルが壊れていて冒険者の才能が無い事も分かった。
 適正を調べたら闇魔法と光魔法と剣だった。
 兄さんが無理をして出してくれたお金で適性を知る事が出来た。

 必死で努力した。
 ソウルスキルが壊れていてもスキルで補えば何とかなる、光魔法さえ覚えればパーティーに入れる、回復魔法を使える光魔法は重宝される。

 光魔法を練習しても覚えられなかった。
 覚えられたのは剣術と闇魔法のサモンモンスターだけ。
 魔力が少なく、サモンモンスターを使ってもモンスターはそこまで出せない。

 実力主義の日本で才能の無い俺にコストはかけない、国は効率的だ。
 新しく出来た友達をいじめから助けたら、今度は俺がいじめられるようになった。
 その時兄さんは奇声をあげながら飛び込んできた。

「きああああああい!」

 兄さんは決して暴力を振るわずただ前に立って殴られた。
 何度も何度もだ。
 そして終わると必ず言った。

「アキラ、自信を持て、お前は素晴らしいんだから」

 次第にみんなが決して暴力を振るわずただ前に立って殴られ続ける兄さんを怖がるようになりいじめられる事は無くなった。
 俺は兄さんに守られていた。
 守られっぱなしだった。

 兄さんは道場でバイトをして俺を食べさせてくれた。
 そのおかげで俺は道場に無料で通えた。
 兄さんがいたからスキルを覚える事が出来た。
 俺の面倒を見なければ兄さんはもっと強かった。

 兄さんは弱い俺とパーティーを組んでくれた。
 兄さん1人なら、兄さんはもっと強かった。
 誰もパーティーを組んでくれない俺をいつも気にかけてくれた。

 兄さんは学校でも俺の面倒を見てくれた。
 俺の面倒を見なければ兄さんはもっと強かった、前に進んでいた。

 俺と違って兄さんには冒険者の才能がある。

 頑張ればソウルスキルが覚醒するかもしれない。
 剣と闇魔法を覚え生活費を稼いだ。
 光魔法は頑張っても覚えられない。

 冒険者用の制服は中学高校で共通だった。
 制服に補助が付きはするがそれでも防御効果が付与されていて高い。

 結局俺は、兄さんに制服を買って貰った。

 兄さんに負担をかけたくなかった。
 ダボダボな服を選び、俺は中二病になった。

「くっくっく、この制服は我の魂! ボロボロになるまで使い続ける!」

 その時兄さんが悲しそうな顔をしていたのは今でも覚えている。


 兄と一緒にゲートに行ってモンスターを倒し、道場にも通った。
 体力が無く、スキルの訓練をしてもすぐに動けなくなるため勉強だけはした。
 高校卒業までの単位はすべて取ってある。
 実技さえクリアすればすぐにでも高校を卒業できるがそれが難しい。
 このままだと、実技の飛び級が出来ないまま普通に卒業する事になるだろう。

 力があれば飛び級出来た。
 
 強くなりたかった。

 兄さんの負担になりたくない。

 周りは色々言ってくる。

「ふ、才能が無いから勉強しかやる事が無いんだろ?」

「雑魚が何をしても無駄なんだよ」

「ソウルスキルが壊れているんだろ? 可哀そう、ははははははははは」

 俺は才能が無い、弱いと言われても言い返せない。
 でも、兄さんは違う。
 俺がいなければ兄さんはもっと強かった!

 俺は、人生を諦めてかけていた。
 それでも兄さんが刃こぼれした脇差を腰に刺して笑う。

「アキラ、自信を持て、お前は素晴らしいんだから」
 
 この言葉を言う時、兄さんには一切の迷いが無かった。

 高校1年の冬、俺に光が降りそそいだ。

 そして、俺にクラックが憑依した。

 強くなってやる!

 兄さんに負担をかけないくらい強くなってやる!
 強くなってたくさん稼ぎたい!

 頑張るだけで願いが叶う!

 力と、金が、欲しい。


 現実に引き戻された。

『よく、分かった。今も強くなりたいか?』
「強くなりたいより、兄さんの足を引っ張りたくないが、先にある気がする」
『分かる、気持ちは伝わってきた。強くなる以外に成り上がる方法はあるのか?』

「思いつかない」
『俺も同じ考えだ。強くなる事は兄様の重荷を取り除くことに繋がる』
「……兄様?」
『俺の望みも強くなる事だ。力が無ければ、人はあっけなく死ぬ』

 兄さんが兄様になった。

『もっと心を開け。それだけで、俺が持っていたスキルを覚えられる。魔法をチャージしながら剣で戦う事も出来る。感じているはずだ、お互いに心を開かねば魂の融合は進まない。出来る事はすべてやる、分からなくても可能性があれば全部やる! それが俺の考えだ』
「お前の記憶を見せてくれたら、心を開けるかもしれない」

 スマホが鳴った。
 兄さんからだ。

『アキラ、大丈夫か?』
「大丈夫、今はウサギのゲートで休んでいるよ」
『まずくなったら、すぐに連絡してくれ』
「うん、兄さん、ありがとう、それじゃあ」
『ああ、またな』

 兄さんが電話を切った。

『アキラ』
「なんだ?」
『心を開け! 兄様を安心させたいとは思わないのか!』
「何で怒ってるんだよ?」

『今はそういう話ではない! 兄様を安心させたいとは思わないのか!』
「思うけど、お前を信頼できるかどうかは別問題だ」
『分かった、今すぐに記憶を見せる、何度も死にかけた記憶だが、心を強く持て、取り乱すなよ』
「あ、モンスターだ」

『早く殺せ!』
「そういう所が信頼しきれないんだ」
『うるさい! 早く殺せ!』

 俺とクラックはちまちまとモンスターを倒し続けた。
 結局昼になりメイが起きるまで時間は潰れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...