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第2話
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「フィール君、フィール君!」
「あ、はい!」
俺は思考状態から現実に引き戻された。
「状態異常はない様ね。でも様子が変だわ」
「その、思春期と言いますか、15才の多感な時期なので、色々気づきや考えたい事があるんです。一人で色々考えて整理したいです」
「まるで、大人のような事を言うわね」
「15才から成人ですからね。でも、心はまだ、大人ではなかったのかもしれません。学園を散歩してきます」
「……そうね、うん。学園でたっぷり悩んですっきりしなさい」
「はい!失礼しました!」
俺は学園を散歩する。
一番気になる点ははっきりしている。
『俺は本当に転生したのか?』
これによって俺の今後の行動は大きく変わる。
決闘敗北後の痛みや皆の俺への悪口はすべてがリアルだった。
美人な先生のいい匂いやこのドキドキもリアルだ。
フィールの記憶もゲームでは出てこない細かい部分まで覚えている。
でも、まだ転生したのか確信を持てない。
俺は本当に悪役貴族に転生したのか?
俺は学園を一周する。
結論、参考にならなかった。
ゲームは学園内をかなりデフォルメして表示している。
会話パートの背景はゲーム世界と同じだったが。ゲームの背景なんてよくある特徴のない風景だ。
ただ、分かった事は学園にいるモブキャラも、ヒロインに負けないほど可愛いし優しい雰囲気がある。
活気と笑顔、そしてゆっくり時間が進んでいくような独特の雰囲気があった。
ゲームの世界は魔法文明により中世ヨーロッパというよりは近世に近い。
このレディパール学園都市内は魔法文明により列車やバスが走っており、魔道具により夜でも街は明るい。
……ダンジョンに行ってみよう。
今が夢なのか現実なのか、ダンジョンに行けば分かるような気がする。
【初級ダンジョン・入り口】
恋愛シミュレーションゲームなので簡略化されているダンジョン攻略だが、実際に見るとリアルだ。
入り口の魔法陣の前に石碑があった。
『ダンジョンに入ると死ぬかもしれない。入るか戻るかは自分で決めろ』
簡単な文章を選んで石碑が彫られている。
死んでも自己責任か。
こういう考え方は嫌いじゃない。
ゲームにはなかった表示だがリアルだ。
俺は魔法陣に乗ってダンジョンにワープした。
『助けて』
「頭の中に、声が聞こえた?」
『助けて、私を、助けて』
不思議と、頭に響く声がどこから聞こえてくるか分かった。
その方向に進む。
「「ガルルルルルルルル」」
3体のウルフが白い光の球体を攻撃していた。
「助けて!お願い!」
ウルフはレベル上げさえしていれば雑魚だ。
だが、初級ダンジョンの中では強い魔物でもある。
主人公にあっけなくやられた記憶がよみがえる。
俺がやられる可能性もあった。
だが、夢を見ているような感覚が残っていた。
まるで、この体が自分のものではないようなふわふわした感覚だ。
俺は奇襲をするように声を殺してウルフに飛び込む。
腰に差していた両手持ちのサーベルを抜いて斬りかかった。
ザシュ!ドス!ドスドス!
袈裟斬りの後に連続で突きを放ち1体を倒す。
戦いによって俺の力が増した。
残り2体が俺を威嚇する。
「「ガルルルルルルルル」」
左手で魔法を使う。
「ウインド!出た!」
自分で魔法を使っておいて驚いてしまう。
風の刃が2体にヒットする。
「ウインド!ウインド!」
2体のウルフが倒れた。
「ありがとう。助かったわ」
光の球体が消え、中から女性が姿を現す。
「妖精?」
完璧な見た目の女性。
非の打ちどころの無い曲線的な体だがサイズは小さい。
オリーブ色の瞳、そして同じ色のロングヘアで背中からは魔力で出来たような羽をばたつかせて光を放ちながら俺の手に乗った。
薄くて無防備な衣は丈が短くサイドにスリットが入っている。
屈託のない笑顔と輝くその姿に目を奪われる。
「そう、私は愛と風の妖精、チンカウバインよ」
「ん?ん?ティンカーベル?」
妖精は珍しいとか色々あるがその前に名前が気になる。
「チ・ン・カ・ウ・バ・イ・ン・!」
「そ、そうか、チンカウバインか。もう覚えた」
純粋そうな笑顔からかけ離れた名前で印象に残る。
そう、とても印象に残る名前だ。
「助けてくれた君にまた頼みたいことがあって」
「何でしょう?」
「距離を取る感じの敬語は傷つくなあ」
「悪かった。なんだ?」
「ダンジョンから出して欲しいなあ」
「そんな事か。すぐに出よう」
「ありがとう。お礼。チュ!」
頬にキスをされた。
素直に嬉しい。
チンカウバインが俺の肩に乗って、羽を消した。
ダンジョンの外を目指すがチンカウバインは賑やかだ。
「さっきは危なかったよ。あと少しで殺されるところだったから君は僕の恩人だね。所で君の名前は?」
「フィールだ」
「フィール、いい響きね」
「話をしていると魔物が寄って来る」
「フィールは魔物と戦いに来たんだよね?」
「それもあるけど、お前を巻き込むだろ」
「私は戦いが始まればすぐ後ろに下がるから大丈夫!」
チンカウバインは身振り手振りで話をするが、そのたびに胸がばいんばいんと揺れる。
丈の短い服がふわふわと舞い上がりパンツが見えそうになる。
俺は前を向いてダンジョンの外を目指した。
ダンジョンから出ると辺りは薄暗くなっていた。
チンカウバインが俺の人差し指を取って両手で握手をする。
「またお願いがあって、私と妖精契約をして欲しいの」
妖精契約。
契約を結んだ者は妖精の加護を得る事が出来る。
邪悪な者は契約を結ぶ事が出来ない。
選ばれし者のみが契約を結ぶことが出来る。
物語に出てくる知識だ。
だが実際に妖精契約をしている者の話は聞いた事が無い。
「すまないが、俺には邪悪な心がある。完全な悪人ではないと思いたいけど、いい人間でもない」
「確かに真っ白な人間はいないよ。でも、妖精の私にも少しだけ黒いモノはあるし、それに自己申告は当てにならないよね?自分がまともだと思っている人間ほど邪悪だったりするものだよ」
「マジで、俺は、いい人間ではない」
「う~ん、口でいくら言っても分からないと思うよ?まともな人ほど自分に厳しかったりするでしょ?契約をして駄目ならダメでいいんじゃない?」
「そうだな」
「フィール、チンカウバインと契約を結ぶと言って」
「チンカウバインと契約を結ぶ」
「フィールと契約するよ」
チンカウバインが俺の唇にキスをした。
俺と、チンカウバインの体が輝き周囲を昼間のように照らす。
「契約成功だよ。フィールはそこまで悪い人間じゃなかったね」
「……そうか」
俺は善人ではない、そう思っていた。
自分の事を駒のように使い使いつぶす会社の同僚や上司、そして人のせいにばかりする学校時代のクラスメートは困っていてもスルーする人間だ。
今までそういう人間を可哀そうだと思い助けようとすればひどい目に合う、それを何度も繰り返してきた。
俺を助けてくれる人間は助けたいと思う。
だが攻撃してくる人間には近づかないしそれなりの対応する。
……俺は、そこまで悪い人間じゃないのか。
チンカウバインに認められたような気がして嬉しくなった。
俺の表情を読み取ってか、チンカウバインはまた言った。
「大丈夫、君は悪人じゃないよ」
チンカウバインが幻想的な光に包まれて両手を広げた。
「さあ、風に乗せて愛を運ぼう!まずはこの学園を愛で満たすよ」
この光は学園まで届いていた。
俺は後で思い知る事になる。
こいつの言っている『愛』は俺の思っている『愛』と意味が違う。
そして、チンカウバインはトリックスターだ
「あ、はい!」
俺は思考状態から現実に引き戻された。
「状態異常はない様ね。でも様子が変だわ」
「その、思春期と言いますか、15才の多感な時期なので、色々気づきや考えたい事があるんです。一人で色々考えて整理したいです」
「まるで、大人のような事を言うわね」
「15才から成人ですからね。でも、心はまだ、大人ではなかったのかもしれません。学園を散歩してきます」
「……そうね、うん。学園でたっぷり悩んですっきりしなさい」
「はい!失礼しました!」
俺は学園を散歩する。
一番気になる点ははっきりしている。
『俺は本当に転生したのか?』
これによって俺の今後の行動は大きく変わる。
決闘敗北後の痛みや皆の俺への悪口はすべてがリアルだった。
美人な先生のいい匂いやこのドキドキもリアルだ。
フィールの記憶もゲームでは出てこない細かい部分まで覚えている。
でも、まだ転生したのか確信を持てない。
俺は本当に悪役貴族に転生したのか?
俺は学園を一周する。
結論、参考にならなかった。
ゲームは学園内をかなりデフォルメして表示している。
会話パートの背景はゲーム世界と同じだったが。ゲームの背景なんてよくある特徴のない風景だ。
ただ、分かった事は学園にいるモブキャラも、ヒロインに負けないほど可愛いし優しい雰囲気がある。
活気と笑顔、そしてゆっくり時間が進んでいくような独特の雰囲気があった。
ゲームの世界は魔法文明により中世ヨーロッパというよりは近世に近い。
このレディパール学園都市内は魔法文明により列車やバスが走っており、魔道具により夜でも街は明るい。
……ダンジョンに行ってみよう。
今が夢なのか現実なのか、ダンジョンに行けば分かるような気がする。
【初級ダンジョン・入り口】
恋愛シミュレーションゲームなので簡略化されているダンジョン攻略だが、実際に見るとリアルだ。
入り口の魔法陣の前に石碑があった。
『ダンジョンに入ると死ぬかもしれない。入るか戻るかは自分で決めろ』
簡単な文章を選んで石碑が彫られている。
死んでも自己責任か。
こういう考え方は嫌いじゃない。
ゲームにはなかった表示だがリアルだ。
俺は魔法陣に乗ってダンジョンにワープした。
『助けて』
「頭の中に、声が聞こえた?」
『助けて、私を、助けて』
不思議と、頭に響く声がどこから聞こえてくるか分かった。
その方向に進む。
「「ガルルルルルルルル」」
3体のウルフが白い光の球体を攻撃していた。
「助けて!お願い!」
ウルフはレベル上げさえしていれば雑魚だ。
だが、初級ダンジョンの中では強い魔物でもある。
主人公にあっけなくやられた記憶がよみがえる。
俺がやられる可能性もあった。
だが、夢を見ているような感覚が残っていた。
まるで、この体が自分のものではないようなふわふわした感覚だ。
俺は奇襲をするように声を殺してウルフに飛び込む。
腰に差していた両手持ちのサーベルを抜いて斬りかかった。
ザシュ!ドス!ドスドス!
袈裟斬りの後に連続で突きを放ち1体を倒す。
戦いによって俺の力が増した。
残り2体が俺を威嚇する。
「「ガルルルルルルルル」」
左手で魔法を使う。
「ウインド!出た!」
自分で魔法を使っておいて驚いてしまう。
風の刃が2体にヒットする。
「ウインド!ウインド!」
2体のウルフが倒れた。
「ありがとう。助かったわ」
光の球体が消え、中から女性が姿を現す。
「妖精?」
完璧な見た目の女性。
非の打ちどころの無い曲線的な体だがサイズは小さい。
オリーブ色の瞳、そして同じ色のロングヘアで背中からは魔力で出来たような羽をばたつかせて光を放ちながら俺の手に乗った。
薄くて無防備な衣は丈が短くサイドにスリットが入っている。
屈託のない笑顔と輝くその姿に目を奪われる。
「そう、私は愛と風の妖精、チンカウバインよ」
「ん?ん?ティンカーベル?」
妖精は珍しいとか色々あるがその前に名前が気になる。
「チ・ン・カ・ウ・バ・イ・ン・!」
「そ、そうか、チンカウバインか。もう覚えた」
純粋そうな笑顔からかけ離れた名前で印象に残る。
そう、とても印象に残る名前だ。
「助けてくれた君にまた頼みたいことがあって」
「何でしょう?」
「距離を取る感じの敬語は傷つくなあ」
「悪かった。なんだ?」
「ダンジョンから出して欲しいなあ」
「そんな事か。すぐに出よう」
「ありがとう。お礼。チュ!」
頬にキスをされた。
素直に嬉しい。
チンカウバインが俺の肩に乗って、羽を消した。
ダンジョンの外を目指すがチンカウバインは賑やかだ。
「さっきは危なかったよ。あと少しで殺されるところだったから君は僕の恩人だね。所で君の名前は?」
「フィールだ」
「フィール、いい響きね」
「話をしていると魔物が寄って来る」
「フィールは魔物と戦いに来たんだよね?」
「それもあるけど、お前を巻き込むだろ」
「私は戦いが始まればすぐ後ろに下がるから大丈夫!」
チンカウバインは身振り手振りで話をするが、そのたびに胸がばいんばいんと揺れる。
丈の短い服がふわふわと舞い上がりパンツが見えそうになる。
俺は前を向いてダンジョンの外を目指した。
ダンジョンから出ると辺りは薄暗くなっていた。
チンカウバインが俺の人差し指を取って両手で握手をする。
「またお願いがあって、私と妖精契約をして欲しいの」
妖精契約。
契約を結んだ者は妖精の加護を得る事が出来る。
邪悪な者は契約を結ぶ事が出来ない。
選ばれし者のみが契約を結ぶことが出来る。
物語に出てくる知識だ。
だが実際に妖精契約をしている者の話は聞いた事が無い。
「すまないが、俺には邪悪な心がある。完全な悪人ではないと思いたいけど、いい人間でもない」
「確かに真っ白な人間はいないよ。でも、妖精の私にも少しだけ黒いモノはあるし、それに自己申告は当てにならないよね?自分がまともだと思っている人間ほど邪悪だったりするものだよ」
「マジで、俺は、いい人間ではない」
「う~ん、口でいくら言っても分からないと思うよ?まともな人ほど自分に厳しかったりするでしょ?契約をして駄目ならダメでいいんじゃない?」
「そうだな」
「フィール、チンカウバインと契約を結ぶと言って」
「チンカウバインと契約を結ぶ」
「フィールと契約するよ」
チンカウバインが俺の唇にキスをした。
俺と、チンカウバインの体が輝き周囲を昼間のように照らす。
「契約成功だよ。フィールはそこまで悪い人間じゃなかったね」
「……そうか」
俺は善人ではない、そう思っていた。
自分の事を駒のように使い使いつぶす会社の同僚や上司、そして人のせいにばかりする学校時代のクラスメートは困っていてもスルーする人間だ。
今までそういう人間を可哀そうだと思い助けようとすればひどい目に合う、それを何度も繰り返してきた。
俺を助けてくれる人間は助けたいと思う。
だが攻撃してくる人間には近づかないしそれなりの対応する。
……俺は、そこまで悪い人間じゃないのか。
チンカウバインに認められたような気がして嬉しくなった。
俺の表情を読み取ってか、チンカウバインはまた言った。
「大丈夫、君は悪人じゃないよ」
チンカウバインが幻想的な光に包まれて両手を広げた。
「さあ、風に乗せて愛を運ぼう!まずはこの学園を愛で満たすよ」
この光は学園まで届いていた。
俺は後で思い知る事になる。
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