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ブルー家の侵攻

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【王都】

 側近が王に報告する。

「王都のダークスフィア4つすべてが破壊されました。魔物は王都に向かい侵攻を開始しています。早い所は今日中に王都に到達します」

 カイも王に報告する。

「ブルー領からの塩と、レッド領からの鉄が入ってきません。恐らく意図的なものかと」

「ブルー家とレッド家の軍の動きは分かるか?」

「いえ、残念ながら斥候の手が足りません」
 側近の言葉に王は目頭を押さえた。
 王都は斥候の人手が足りなかった。

 特に今は魔物の襲撃に備え、今は出来るだけ多くの兵を王都に残した。
 今は猫の手も借りたい状況なのだ。

「いや、ブルー家の兵は来るのだろうな。来ないはずがない。しかし兄がここまで愚かだったとは」




 王都に魔物を引きつけている間に更に悪い知らせが届く。

「王よ、ブルー領の軍が王都の東に陣取っています」

「魔物と闘い疲弊した所を攻め入ってくるつもりか」

 王はため息をついた。

 どれだけ私が憎いのだ。

 私とて兄がまともなら王になどなりたくなかった。

 だが、兄はまともではなかった。

 街を馬車で移動し気に入った女性を捕まえ連れてくる。

 飽きたらいたぶって殺す。

 民に弓を打って遊ぶ。

 普通ではなかった。

 だから私が王になるしかなかった。

「王よ、どうなされました?」

「いやすまん。昔の事を思い出していた」
 いかん、気を抜いてはいかん。
 この数日が勝負の分かれ目、今は集中して防衛に専念する!





 3日間魔物を倒し続け疲弊した王都に、ブルー領の軍が侵攻してきた。

 激戦が続き王都のポーションは底をついた。

 ブルー領の侵攻から2日目、防衛は絶望と思われた。

「王よ!どうなさるおつもりですか!」

「このままでは防壁の門が破られます!」

「王よ!民をお救い下さい!」

 王は頭を抱えた。


 そこに側近が走ってくる。

「王よ!ホワイト領の援軍が到着しました!」

 王は椅子から立ち上がり走って出迎えに向かう。

 援軍の数は1000程度と決して多くは無い。

 だがそこにはハルトが居た!

「ハルトか!」
 王が駆け寄る

「待っていたぞ!本当に待っていたのだ!」
 王の顔は何才か老けたようにいつもよりさらにやつれていた。

「話は後だ!防壁の門を突破されそうなんだろ?今すぐアリスの魔法を使ってもらうぞ」

 アリスとニャム、キュキュクラブはすぐに東の防壁に登る。

 王が息を切らしながらついてきた。

「アリス、あの兵たちを魔法で攻撃してくれ」

「ブリザードアロー!」

 氷の矢が地上に向かって降り注ぎ多くの兵を倒す。

 更に、「ブリザードアロー!」

「ブリザードアロー!」

「ブリザードアロー!」

 何度も魔法を放ち、ブルー領の兵を倒していった。

 アリスの魔法でブルー領の兵は撤退し、一時期の平穏が訪れる。

 王は息を切らしていた。

「大丈夫か?」

「だい、大丈夫だ。アリス、おかげで助かった」

「全部ハルトが育ててくれたおかげだよお」

「アリスとニャムが国を助けるっていう予言は当たってたかもな」

「ハルトに言われるとてれるにゃあ」
 今魔法で活躍してるのはアリスだけどな。
 でも、ニャムもダークスフィアの魔物をたくさん狩ったし、ダンジョンの魔物を倒してみんなの肉供給にも貢献してきた。
 アリスもニャムもみんなを救っているか。

 そこにロックが上がってくる。
「王よ、ブルー領のダークスフィアを破壊すれば軍の侵攻を止められます。ご決断を!」

「確かに有効だろう。だがブルー領の力なき民が犠牲になる」

「しかし!このままではたとえブルー領の侵攻を食い止めたとしてもレッド領の侵攻が始まります!今相手の領民を気遣う余裕はありません!」

「ならぬ!」
 この甘さが王の弱点でもあった。
 今まで難民を見捨てず王都は衰退してきた。
 王がもっと非情なら王都はここまで衰退しなかっただろう。
 難民は王を非難し、求めるだけ求めて何も返さない。
 パンをください、服をください、住む場所をくださいとは言うが、手伝いますと言う難民は本当に少ない。
 それどころか治安は悪化し盗賊が増えスラムも拡大した。

 だが、そんな王を嫌いはなれない。

 だからこそ王の言う事は聞いてきた。

 ロックと王は揉めた。

 王は最後までダークスフィアの破壊を認めなかった。

 俺が割って入る。
「料理を受け渡したい。誰に渡せばいい?」
 俺の兵糧丸で事態を打開できるかもしれない。

 皆を助ける為、料理をたくさん作ってきた。
 だから今料理レベル10に到達できた。

 今までの人助けは無駄じゃなかった。

 今この時の為に俺は腕を磨いてきたのかもしれない。

「そうだな、ついてきてくれ」

 受け渡し場所に着き、料理をストレージから出す。

 王が驚愕した。
「何だこの量は!」

 俺は部屋を埋めるほどの料理を出したのだ。

「早くストレージ持ちに回収させてくれ。まだまだあるぞ」

「これなら状況を覆すことが出来るかもしれん」
 王都にあるポーションを使い切り消耗していたが、ハルトの料理が大量にあれば代用は可能なのだ。
 更にブルー領から塩の供給を止められているが、ハルトの料理のおかげで塩不足もしのぐことが出来る。

 周りの側近の目に光が宿る。
「これだけあればブルー領の軍を追い返せます!」

「ハルト1人の力で戦況が変わった。だがまだ武器が足りない。」

「鉄の供給も止められてるんだったな。ロックの部隊が多少武具を持ってきてたぞ」

 王と側近は急いでロックの元へと向かう。

 その日ブルー領の軍は攻めてこなかった。

 俺はその日ストレージで料理を自動で作り、更に実際に手で料理を作っていた。

 夜中になるとキュキュクラブ・ニャム・アリスがやってくる。

「もう休もうよ。明日もあるよ」

「ああ、そうだな。これが終わったら休むぞ」

「サウナの用意がしてありますよ。王様からの計らいで私たちの貸し切りです」

 こうしてみんなでサウナに入り、ゆっくり休み日が昇る。







【次の日の朝】

 ブルー領の軍が攻めてくるが、ブルー領の軍は苦戦した。

「なんだこいつら!昨日と違って元気になってるぞ!」

「バカな!疲弊しているはずだ!」

 明らかに防壁からの魔法攻撃の回数が増加し、兵の動きも見違えるように良くなっていた。

 王は戦場を見つめる。
 東の防壁に迫る敵兵を押し返しており、昨日までの苦戦が嘘のようだった。

「ハルトの料理でここまで変わるとは。ハルトには感謝しても感謝しきれんな」

「まだやることはこれからだぞ。まだニャムの力を見せてなかったな」
 俺は笑った。

「奇襲をかける」
 キュキュクラブとアリス、ニャムは街の南門の外に出て王都の南東から敵軍に迫った。

 敵兵はいきなり横から現れたハルト達に混乱した。

「ブリザードアロー!ブリザードアロー!」

 アリスの魔法を合図に皆が攻撃を開始する。

 奇襲と範囲魔法、更にありえない速度で迫るハルト。

 その後ろからもレイドボスクラスの力を持つエステル達が迫る。

 わずか数人の部隊に敵は陣形を崩す。

 更にハルト達が持つ武器はすべて光を放つ。
 伝説装備の効果だ。

 ハルトは高レベルの上敏捷アップ2つの効果で敏捷が400%になる。
 更に疾風迅雷のスキルを使えばその倍の800%まで敏捷を上げることが出来た。
 勇者を超えるレベルを持つ者が伝説装備を使い更に4倍のスピードで兵を斬り倒す。

 奇襲の中でハルトの動きだけは際立っていた。

 ハルトが通ると敵が倒れている。

 ハルト一人の力だけで常にブルー領の軍を混乱させ続けた。


 通常ではありえない事が立て続けに起こり敵軍の左翼は完全に崩壊。

 これにより王都側の勝ちが決まる。

 王都は東の防壁を自ら開け、軍を進軍させた。

 ロックが叫ぶ。
「ハルト、もう大丈夫だ!休め!」

「もういいのか?まだいけるぞ?」

「いや、大丈夫だ。ハルトのおかげで本当に助かった。ブルー領のダークスフィアを破壊しなくて済む」
 ロックも本当はダークスフィアを破壊するのは嫌だったんだな。
 敵の兵の命までは守れないけど、被害は減らせた。
 そんな気がする。

 俺達はゆっくりと王都で休み、ロック達はブルー領の兵を押し返すため進軍していった。
 ロックの方が疲れていると思うけど、休ませてもらおう。

 こうしてブルー領の兵を王都から押し返すに至る。

【謁見の間】
 俺がのんびりしていると王に呼ばれた。
 キュキュクラブとか他にも活躍してた人間は居たけど、俺だけ呼ばれたのか?

「ハルト、今回は本当に助かった」

「他にも頑張ってたやつは居るぞ」

「だが今回成果という点で見ればハルト一人が突出していた。料理による回復ブースト、敵兵を倒した数も圧倒的にハルトが突き抜けていた。そこで今回ハルトに褒美を贈る」

「いや、今は王都が大変な時、謹んでお断りします」
 何故か嫌な予感がした。

「そういうな、褒美はアリスとニャムだ」

「ちょっと待ってくれ、人を物のように扱うのは良くないぞ」

「実はアリスとニャムの望みがハルトの物になる事なのだ」

 話し合い、俺がキュキュクラブに2人を迎え入れることで話は落ち着いた。


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