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リコの一日観察

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 祭りが終わった後、すぐにカイに声をかけられた。

「ハルト様、クレープをおいしくいただきました。ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

「所で、ハルト様はリコ様をストレスから解放したいとのことですね。」

「そうだな。」

「私も同じ考えです。協力をお願いしたいのです。」






「と、言うわけで、明日1日リコの付き人をする事になった。いや、付き人というより観察だな。」

「や、やりにくいですわ。」

「気にしないでくれ。いつも通り生活してくれれば大丈夫だぞ。俺はただ斜め後ろから見ているだけだ。」

「それがやりにくいのですわ!でも、分かりました。1日だけですわよね?」

「1日だけだ。」





 次の日の朝

 俺はリコの部屋の前で待つ。燕尾服と記入表、ペンを装備している。

 カイがリコの部屋をノックする。

「寝坊しましたわ~。」
 リコが出てくるが、俺を見た瞬間扉を閉める。

「す、少しお待ちください!」

 カイは「ほっほっほ、」と笑って俺と同じように待つ。

 リコはコーヒーを飲んで目を覚まし、軽めの食事を取るが、俺をちらちら見てくる。

「・・・やりにくいですわ。」

「気にするな。」

 学園に向かうが、燕尾服を着た俺は皆に見られ続ける。

 講義前に女性生徒がリコに話しかけようとするが、斜め後ろに俺が居る為話が出来ないようだ。

「みんな!気にせずリコに話しかけてくれ!」
 俺は大声で叫ぶ。

 相談しようとしていた生徒の体がビクンと跳ねる。
 そうして一人の生徒が恐る恐るリコに相談を始める。

 経済的な問題のようだ。
 俺は記入表に内容を書き込んでいく。

 講義が始まるまで相談は続いた。

 講義中も講師がこっちを良く見てくるが気にしない。
 小休憩時間もリコは相談を受けている。

 午前で講義は終わったが、生徒の相談は続く。
 今度は恋の相談のようだ。
 4人の女性生徒が相談の為リコの元に来る。

 リコが俺を見つめる。
「流石に恋の話は退出して欲しいのですわ。」

「気にしなくても大丈夫だぞ。」

「「気になるよ!」」




 俺は強制退場させられた。
 だが恋の話はリコも楽しそうだ。
 記入しておこう。

 相談が終わると、リコの表情は少しにこやかになっていた。
 恋の相談は大好きっと、記入終わり。

 ギルドに向かうが、リコは良く声をかけられる。

「おう、学園終わりか。」

「そうですわね。」

「ハルトは後ろで何してるんだ?」

「気にしないでくれ!俺は居ないものとしていつも通りリコと接して欲しい!」

「なんだそりゃ?」

 こうしてギルドにたどり着く。

 受付嬢がすぐに突っ込んでくる。

「ハルト君はリコの護衛なの?」

「俺の事は気にせず、いつも通りリコと接して欲しい。」

「わたくしの事を1日観察するのだそうですわ。わたくしの仕事を減らしたいようですの。」

「いつも通りねえ、ハルト君が居たらいつも通りにはならないんじゃない?」

「それは俺も思っている。だが、何もやらないよりはやったほうがいい。」

「食事にしましょう。リコは食べてないわよね。」

「そうですわね。」

 リコは領民と同じ食事を食べるのだ。
 少し遅い昼食もギルドの食堂で食べる。

 俺が食堂に入ると、コックが俺に挨拶をする。

「ハルトさん、こんにちわ!」

「こんにちわ、俺は今リコの1日観察をしているから居ないものとして扱って欲しい。」

「分かりました!皆には周知徹底させます!」
 コックはすぐに引き継ぐため厨房に戻る。

「ハルト、座ってください。今日は水しか飲んでませんわよね?食事位普通に食べるのですわ。」

 こうして俺は一緒に食事をしたが、受付嬢は俺を見て笑っていた。
「ハルト君、もっと普通にしてて大丈夫だよ、ふふふ、だんだん面白くなってくる。」

 食事が終わると、会議だ。

 建設と道路整備の会議が終わると、学園の講師補充の会議、それが終わると、ギルド員から相談を受けて19時に仕事が終わる。

 カイがやってくる。
「お二人ともお疲れ様です。」

「ハルトが居ると、肩が凝りますわ。」

「ですが、参考になりました。」
 俺の記入した紙を見て頷く。





 リコが解放された後、俺とカイは話し合いを始める。

「前より落ち着いたのか?前は21時くらいまで仕事してたな。」

「大分落ち着きました。しかし、まだ十分ではありません。」

「学園ではずっと相談を受けていたな。金銭的な悩みが多かった、恋の話は楽しそうだったぞ。」

「ギルドでは、会議と相談を受ける事が多いです。」

「俺が思いついたのは、困っている学園生向けの相談員が欲しいな。」

「そうですね。後はギルド員の人数がまだ足りません。人を増やしたくても資金が無いのです。」
 大規模な建設で雇用の確保は進み、ホワイト領の利益は増加したが、人材確保はまだ足りないようだ。
 しかも、学のある人材は少ない。

「金で解決できそうなのか?」

「ある程度は解決できるかと。ホワイト学園の3年生をアルバイトの名目で働いてもらい、卒業後にギルドに就職してもらうのです。」
 ギルド員はある程度の学力が求められる。
 学園卒業生なら問題なく学力をクリア出来るのだ。

「明日からダンジョンに行ってくる。本気で40階の魔物を狩ってくる。その後資金を出せると思う。」




 俺は家に帰る。

「今日1日リコを観察して、カイと話をしたんだけど、ギルド員が不足してるようなんだ。金である程度解決出来るみたいだから、明日からダンジョンの40階で魔物を狩ってこようと思う。ホワイト家の経営は安定してるから、リコの仕事さえ減らせればホワイト領の問題はほぼ解決できるぞ。」

「きゅうも行く。」

「私も行く!」

「私も行きますよ。」

 こうして明日からダンジョン40階に行くことになった。





 ダンジョン40階

 ダンジョンの階数と魔物のレベルは一致する。

 魔物のレベル40、奴らが話をしてくるのだ。

「どんな事をいってくるんだろうね?」

「一番多いのがマウントを取ってくるみたいですよ。」

「あれだ、テイカーみたいな魔物が多い。なんせ人の悪意やマイナスの感情で魔物は出来ている。」

 5体のアサルトボアが近づいてくる。

「貴様ら人間風情が俺に殺されに来たか。」

「くっくっく!なぶり殺しにしてくる。」

「最強であるこの俺様が力の差を見せつけてやろう!」


 俺達は全員顔を見合わせる。

「凄い!見事に予想通りだぞ!」

「テイカーそっくりだよ。」

「良いベーコンになりそうです。」

「疾風迅雷!」

 魔物の首を一撃で切り落としていく。

 こうして魔物の話をすべて無視して魔物狩りを続ける。

 メイとエステルは協力して1体の魔物を畳みかける。
 きゅうは2人のサポートをしつつ、風魔法で攻撃を仕掛ける。

 キュキュクラブが狩った魔物の報酬を寄付し、ホワイト領の学園からギルド員候補のアルバイトが雇われる。
 最初は教育の為にみんなの手間が増えたようだが、徐々に落ち着き、リコの負担は減っていった。

 こうしてホワイト領はリコを含むすべての者を救うことが出来た。

 ホワイト領は次の段階へと進みだす。

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