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テイカーの失敗続き④

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「ハルトは不合格だ!」
 ブラック学園の入学試験会議、そこでテイカーは高らかに宣言した。

 他の職員から見ればハルトは明らかに合格だ。
 ハルトが不合格ならそのハルトに腕を切り落とされたテイカーも不合格のはずである。

 腕を切り落とされても治療を受け元通りになるといつもの傲慢なテイカーに戻っていた。

 ほぼすべての職員は黙ったが、一人の新人教師は意を決して発言する。
「ハルト君は優秀です。もう一度考え直してはいただけませんか?」

 テイカーは机に置かれた資料を新人教師に投げつける。

「おい!この領地の統治者は誰だ?」
 今にも殺しそうな顔で新人教師を睨みつける。

「て、テイカー・ブラック様です。」

「お前は俺に意見できるほど偉いのか?」

「いえ、違います。」
 これ以上発言したら殺される。
 職員全員が下を向く。

「今回は許してやる。次からは黙れよ!」

「・・・はい。」

 こうして、ハルトはブラック学園の入学試験に落ちた。

 だが、これにより、優秀な教師の離職率が高くなる。




 テイカーは王に呼び出されていた。

 王からのペナルティーは一切考えず、期待に胸を膨らませる。

 これで俺は4つ星から5つ星貴族か。

 ふ、優秀な俺にやっと王が気付いたか。

 俺に任せておけばすべてうまく行く。

 周りの無能どもに足を引っ張られてきたがようやく俺が正当に評価される時が来た!

 謁見の間ににこにこしながら入ってくるテイカーを見て、王は深くため息をつく。

 先代のブラック家当主は立派な男であった。

 なぜこんな息子が生まれたのか不思議でならない。

 王は入学試験の経緯。

 ブラック家傘下貴族の相次ぐ星返上と少しずつ逃げ出す領民について把握していた。

 一つだけ気になることがあった。
「ブラック学園の入学試験を受けたハルトは合格したのか?」

「いえ、不合格です。」
 テイカーは笑顔で答える。

 王はまた深いため息をつく。

「ハルトは優秀な筆記試験の結果を出し、しかも貴様の腕を簡単に切り落とせるほどの実力者と聞いている。不合格の理由を聞きたい。」

「ハルトは卑怯な方法を使いました。」
 こいつは何を言っているのだ?現場にいた者の報告でも、鑑定による報告でも、ハルトとテイカーの実力差は明白だ。

「それは決闘の時の話か?」

「はい!」

「それは具体的にどのような卑怯な手を使ったのだ?」

「それは分かりませんが、卑怯な手を使ったに違いありません。」

「分からないという事は、次もう一度決闘をすればお前が負けるという事か?」

「いえ、次決闘をした際には絶対に私が勝利いたします。」

「・・・だが、どのような卑怯な手を使ったのかわからないのであろう?では次も同じ結果になるのではないのか?」

「いえ、次こそは見破り、必ず勝利して見せます。」
 なるほど、報告通りの無能か。
 職業やスキルには恵まれている。
 だが上に立つ者としての判断力は欠落している。

「なぜ貴様を呼んだか分かるか?」

「5つ星貴族への昇格の件でしょうか?」

「・・・・・ふう。」
 王はまたため息をついた。

「お前の星を1つはく奪する。」

「・・・は?」

「聞こえなかったか?お前の星を一つはく奪する!」

「な、なぜですか?わ、私が星をはく奪?」

 王は指を折りながら答える。
「理由は3つ。1つめが入学試験での決闘の際に、ルールを破り、ハルトを殺そうとしたこと。」

「2つめがブラック領の領民の死亡率の高さと、逃げだす領民が多い事だ。」

「3つめがブラック家の傘下貴族5家が相次ぎ星を返上したことだ。」

「今日からは心を入れ替え、ルールを守り、民を助け、傘下貴族と自身の領を発展させるように努めるのだ。」

「そ、それは何かの間違いです!」

「何がだ?」

「星のはく奪は何かの間違いです。」

「星のはく奪は決定だ。星が欲しくば、この国に貢献することだ。」

「金、お金!そうだ!1000億ゴールドを王家に寄付いたします。」

「足りんな。王家に5000億ゴールド。ハルトに1000億ゴールド寄付するなら星のはく奪を考え直そう。」

「は、ハルトに1000億ですか?あの平民の無能に?」

「嫌なら構わん。今すぐに星をはく奪する。」

「は、払います!」

「では、10日の猶予をやろう。それまでに6000億をここまで持ってくれば星のはく奪を取り消そう。」

「は、ハルトへは私が直接渡します。王にいらぬ手間はかけさせません。」

「もう一度言おう。10日後までに6000億をここまで持ってくれば星のはく奪を取り消そう。」

「か、かしこまりました。」

 テイカーはふらふらと謁見の間を後にする。

「まったく、疲れるわ。」
 王は側近に愚痴をこぼす。

「ハルト君への1000億は、明らかに踏み倒す気でしたな。」

「ああ、しかし、これでブラック家の資産は半減するな。」

「はい。」

 ブラック家、経済的には王家をも超える力を持つと言われる。
 だが王は、貴族の地位を餌にブラック家の資産を減らすことに成功した。

 ブラック家が先代の頃までは、ブラック家の経済力の高さは喜ばしい事であった。
 だが今はテイカーが当主となったことで状況が変わった。
 テイカーに資産を持たせたままではこの国の害となる。

 王はそのことを見抜いていた。

 王は、テイカーの星のはく奪という権威よりも、権力の衰退を望んだ。
 テイカーは星のはく奪という権威の没収を恐れる。そのことを王は利用する。



 この動きには王都の懐事情もあった。
 周りの貴族から難民を流され、王はその難民を救う為食事を施し続けた。
 このことによって王都は疲弊する。
 更に予算の一部を未来の投資の為使おうとするが、ほとんどの者に反対されうまくいかない。
 多くの者が未来の発展を捨てるように今日や明日食べるパンを優先し、今の給金の増加を求める。
 今日のパンも大事だが、ある程度未来の為に投資せねばいつまでも難民を維持するために疲弊し続けるが民の多くがその事を分からず聞く耳も持たない。
 そして多くの者が待遇の悪さの不平不満しか言わない。

 多くの民は、自身の未来の発展を自ら潰し、今の豊かさを優先し未来を食いつぶす。
 そして、うまくいかなければ王のせいにするのだ。

 多くの難民は。
「パンをください」
「服をください」
「住む場所をください」
 しか言わない。余裕がないのだ。
 そして1日1食しか食べられない鬱憤を王のせいにし、盗賊に身を落とすものが多くなる。
 難民が来ると治安が悪くなるのだ。

 王都の民は無意識に王の足を引っ張り続けた。



 それだけではなく周りの貴族も王の足を引っ張る。
 難民を意図的に王都に流すだけではない。
 王都の脆弱性である『斥候能力の低さ』を利用し、テイカーを監視し、王がテイカーを暗殺出来ないよう目を光らせる。
 暗殺しようものなら高価な水晶球を惜しみなく使い暗殺の現場を撮影する。
 これはテイカーを守る為ではなく、貴族の力を維持するためのものだ。
 王が簡単に4つ星貴族を殺せるという事は王の絶対的権力を意味し、周りの貴族を簡単につぶせるという事になる。貴族は王の権力増加を嫌うのだ。
 更に王家に大量のスパイを送り込み王都を監視する。

 貴族は有能な学園の卒業生を本来であれば一定数王都に迎え入れる習わしがあったが、理由をつけて有能な人材を囲い込み、王都に渡さないようにした。
 まともに卒業生を送り込んでいるのはホワイト学園くらいなのだ。
 これによりホワイト領と王都はハルトが来るまで発展できず、他の貴族を発展させる結果となる。
 他にも王都の領地近くの魔物は狩らず、放置することで足を引っ張る。



 王は追い詰められていた。
 内部の人間に王を助ける者は少なく、その時の自身の給金などの目先だけを見て行動し王の改革を無意識に阻み邪魔をする。
 周りの貴族は自身が王となる為、自身の力を拡大させるため王の没落を望み意識的に足を引っ張る。

 更にテイカーの特殊な行動が王の足をさらに引っ張った。





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