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3連続追放

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「これはクリムとリンの分だ!」

 俺【ハルト】は殴られ壁に吹き飛ばされる。
 俺はヤマトからの移民でこのグレー王国にやってきた。
 この国で俺のような黒目黒髪は珍しい。
 平民で、両親は居ない。

 殴ったのはパーティー【ブラックセイバー】のリーダー、テイカー・ブラックだ。
 大貴族でしかも才能もある。将来の剣聖候補と言われている。
 ただ、性格は最悪だ。

「お前が金を盗んだせいで、俺たちは依頼を失敗した!お前のせいで恥を掻いたじゃねーか!」

「俺はやってない!」

「嘘ついてんじゃねーぞ!依頼中に単独行動を取ったのはお前だけだ!お前しかいねーんだよ!」

「それは魔物の見回りをしてたんだ!それにいつも金を持ち歩いているのはテイカーだ!」
 そう、いつも金を持ち歩いているのはテイカーだ。俺が金を持ち歩いたことは一度もない。

「お前が持ってたんだよ!」
 テイカーが俺の腹を蹴り上げる。

「クリム、リン、お前らもそう思うだろ?」
 クリムとリンもテイカーの意見に賛同する。

「ハルト、あんたが持ってて盗んだんでしょ?移民で平民のあんたなら盗んでもおかしくねーわよ!」
 魔法使いのクリム・ポーション。
 貴族の娘で、10本の指すべてに大きな宝石の付いた指輪を付けているのが特徴的だ。

「私もテイカーと同じ考えだぜ。パーティー5人の内3人がハルトが盗んだって言ってるんだ。多数決で決めるのが良いと思うぜ」
 斧使いのリン・ハウス。
 女だが、男っぽいしゃべり方をする

 こうして俺はいつものように、貴族である3人に責任を押し付けられる。

 テイカーは二人の答えに口角を釣り上げる。
「エステルはどう思う?」

「わ、私は別に……」
 俺をちらっと見た後俯く。
 木こりのエステルは、パーティーの中でたった一人のまともな存在だ。
 犬族の美少女で、桃色の髪を肩まで伸ばし、赤い瞳を持つ。
 エステルを見ると犬耳と尻尾がぺたんと垂れている。

「ち!平民が!」
 テイカーは露骨に不快感を露わにした。
 俺とエステルは平民で他の3人は貴族。
 エステルは逆らえない。

「それになあ、お前の無能っぷりにはうんざりしてたんだ」

「確かに俺は戦闘職じゃない料理人だ。でも俺だって頑張ってるんだ」
 テイカーの剣士やクリムの魔法使いは戦闘職と呼ばれ、優遇されている。
 戦闘職以外の職業は非戦闘職と言われ、不遇の扱いを受ける。


「それだけじゃねーよ!スキルも無能だろ!経験値低下のスキルを2つも持ってんだろーが!」
 俺は経験値低下のスキルを2つ持っているせいで、スキルとステータスレベルの取得経験値が25%まで減少している。

「待ってくれ!俺だってストレージ収納のスキルで荷物を持ったり、料理を作ったりして貢献しているんだ!」

「は!ストレージのスキル持ちなんてどこにでもいるんだよ!料理なんて誰でも作れる!お前は役立たずなんだよ!」

「俺の料理はレベル6で回復力を高める効果があるんだ!」
 料理スキルはレベル6を超えると料理に回復力を一定時間高める効果が付与されるのだ。

「経験値低下スキルを持っててレベル6に出来るわけねーだろ!嘘つくな!」

 テイカーは俺の腹を蹴る。

「お前と話をしても時間の無駄だ!お前をパーティーから追放する!」

「賛成よ!」
「ようやくだぜ!」
 クリムとリンがテイカーに続く。

「……分かったよ。俺はパーティーを抜ける」

「はっはっは!やっと自分の無能を認めたか!」
 俺はゲラゲラと笑うテイカーに背を向けてその場から立ち去った。
 学校敷地内の学生寮に戻ると、すぐに学校に呼ばれた。

「どうしました?」
「ハルト、お前パーティーの金を盗んだらしいな。お前を退学処分とする」
 意味が分からなかった。

「え?」
「お前をこの学校から追放する」
「俺は盗んでない!」

「決定したことだ!出て行きなさい!」
「俺はやってないんだ!本当だ!」

「この学校の運営をしているテイカー君が嘘をついたというのかね?あまりうるさくすると殺されるぞ。」
 俺は理解した。
 テイカー・ブラック。
 あいつは子供だが、ブラック家の当主だ。
 運営は執事が代行しているとはいえ、あいつの発言一つで白が黒になる。
 いや、最初から薄々分かっていた。でも、皆まともだって信じたかった。
 俺がバカだったのか?

 俺は黙って先生と一緒に歩きだす。

 部屋の近くに行くと、テイカーが俺のバックパックを持って不気味に笑う。
 バックパックを地面に投げ捨てクリムに合図する。

 クリムが俺のバックパックに炎の魔法を放つ。

「ファイア!ファイア!ファイア!」

 口角を釣り上げて笑う、テイカー・クリム・リン。

 使い物にならなくなる俺の持ち物。

 何事も無かったように無関心な先生。

 遠巻きで視線を外す生徒。

 俺は絶望した。
 また期待しようとしてしまった。
 もう何を言っても何をしても結果が悪くなるだけだ。
 殺される前に立ち去ろう。

 俺はテイカーに良く思われていない。

 俺はヤマトから流れてきた移民。

 黒目黒髪の異端者。

 そして使えない無能。

 そう思われている。

「!ハルト!このブラック家の領地からの追放だけ・・で許してやる!ありがたく思えよ!はっはっはっは!」

 俺は学園の外に向かって歩き出す。

 エステルが走って俺の方に向かってくる。
「ごめんなさい!なにも出来なくてごめんなさい!」
 エステルの目には涙が溢れ、犬耳と尻尾がぺたんと垂れる。
 エステルの耳を撫でたくなる。が、

「・・・・しょうがなかったんだ。俺に近づくと巻き添えを食らうぞ。」
 俺がのんびりしているとエステルまで危ない目に合う。

 俺はまた歩き始める。

 学校を出ると、雪が降り始めた。

「今日は寒いな。」

 俺は街道を進み南のホワイト領を目指す。
 領民ににやさしい領主が治めると評判の領地だ。

 しかし12才になったばかりの子供を受け入れてくれるだろうか?
 それだけではない。俺は移民だ。

 不安がよぎる。
「いや、それしか出来ることを知らない。行くしかないんだ。」


 頭に積もった雪を手で払い落し、手を見つめる。冷たい。

 コートを燃やされてしまった。

 お金もない。

 歩く。ひたすら歩く。

 暗くなり木をによりかかりながら休む。

 朝から何も食べていない、体が冷えて眠れない。

 早く朝にならないかな。




 ◇




 ホワイト領

 街道をパトロールする兵士達。
 盗賊や魔物、倒木が無いか定期的に見回るのが彼らの任務だ。
「今日は寒いな。早く帰りたいぜ。」

「パトロールを始めてまだ1時間も経って無いわよ。まだまだ始まったばかりじゃない。」

「そうは言ってもこんなに寒いと心まで冷えちまうぜ。女性のぬくもりに癒されたいもんだ。」

「そんな相手が居れば良いわね。」
 レナはプイっとそっぽを向いて答える。

「おいおい!俺のプロポーズに気づいてくれよ!この中で女はレナだけだろ?本当に心まで冷えちまうぜ。」
 おどけた言い方のジン周りの兵がくすりと笑う。

「面倒でワザとスルーしたのよ。」

「レナ、ジン、静かにしろ。人が歩いてくるぞ。」
 足取りに力が無い。

「・・・・・子供!?」
 レナが急いで少年の元に走り出す。


 黒目黒髪の子供が軽装で歩いているのが分かる。
 衰弱している!


「雪で体が濡れて体温を奪われてる!大丈夫!?今助けるわ!」

「まず服を脱がせて体を拭くぞ!このままじゃ体温を奪われる!」
 ジンが素早く対処を決める。

 少年は意識を失った。

 この時助けた少年、ハルトがのちに何度も覚醒し、大きな力を手に入れていく。
 そしてホワイト領に多大な利益を生み出し、多くの人を救う事となる。


 逆にハルトを追放したテイカーは、大きなしっぺ返しを食らう。
 テイカーは冒険者としても貴族としてもじわじわと居場所を失い没落していく。

 ハルト、覚醒の時は近い。


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