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第50話
しおりを挟む「俺とニャリスだけの配信か、いいだろう」
「移動するよ」
俺は空いている席に座った。
ニャリスは俺の隣に座る。
ニャリスは対面に座るのではないのか?
肩が触れるほどニャリスが近い。
「この方が配信しやすいから」
離れた位置にいるみんなはこっちをちらちら見てギルドカードを覗き込んでいた。
なんだこの空気は?
「色々質問が来てるよ。レッドドラゴン戦でダイヤグラムを直さなかったのは何で?ゲームでは切れ味を回復させながら戦えるよね?」
「ゲームと一緒にするのは良くない。疲れてきつかった」
「お母さん一人で逃げて奇襲を繰り返せばレッドドラゴンを一人で倒せたよね?」
「カイザーがいたから無理だ。それに下手に奇襲を仕掛ければ急いで街を攻めだす可能性もあった。長く生きた竜は人のように何をするか分からない」
「今回の調査虚偽報告についてどう思う?」
「クランの問題だけではない。明らかに国にも落ち度はあった。問題になるのが遅すぎた事を考えると裏金とか色々あったのかもしれない」
俺は色々と質問に答えていく。
「……というわけで、ドラグとアクリスピの連携はかなり良かった。2人の身体強化は凄まじいの一言だ」
『ニャリス、お母さんが疲れている』
『そろそろ魔道列車レストランの配信に切り替えないか?見ながら食事をしたい』
『魔道列車レストランは名物だよな』
「一旦配信を終わるね。いいと思えて貰ったらチャンネル登録といいねボタンをよろしくね!バイバイ!」
配信が切られた。
「ニャリスだよ!今から魔道列車レストランに行くね」
もう次の配信を始めたのか!
俺との対談配信は動画で投稿され、ニャリスがレストランに向かう。
「お母さん!アクア!みんなで行こ!」
パーティーを連れて行けば数字が取れる。
特にアクアマリンが人気だ。
「俺は、少し休む」
『お母さんのライフはゼロよ!』
『お母さんは疲れると置物になっていく』
『混雑時を避けて食事をしたいんだろうな』
俺は休んだ。
昼時を避けてレストランに向かうとニャリスがレストランのおすすめメニューを試食していた。
「おおおお!濃厚だよ!」
「新作レシピです。濃厚たっぷりお肉のシチューセットは冬季限定メニューとなっております」
「これは!魔道列車に乗るしかないね!今なら冒険者割引でCランク以上なら50%オフ、Dランクまでなら30%オフで食べられるよ!しかも魔物の討伐数に応じて魔道列車補助金も出るから絶対お得!」
今度はグルメレポートか。
俺は反転して席に戻った。
俺が食事に向かうとニャリスとすれ違う。
「今から食事かな?」
「そうだが?」
「配信するね」
「ゆっくり食べたい」
「今日の配信拒否は駄目だよ。もう休んだよね?」
「……分かった」
ニャリスが俺の隣に座る。
「本日は濃厚たっぷりお肉のシチューセットがおすすめです」
「うむ、確かにおいしそうではあるが、今回はオムライスハンバーグとデザートセットを頼む」
「かしこまりました」
『お母さんがぶった切った』
『シチューを頼まないお母さんwwwwww』
『いや、むしろ気を使って配信されていないオムライスを頼んだ可能性がある。オムライスは定番で人気があるし子供連れでも安心して旅行出来るだろ?』
『ドラゴン戦でもその後のコメントでもめちゃめちゃ気を使っていた。気を使って定番を頼んでいる可能性は十分ある』
『子供が頼みそうなのに行ったな』
『糖分不足なんだろう』
『糖分不足=もう疲れた』
『糖分不足=ニャリスに疲れた』
『いつもならコーヒーを頼むのにな』
『早く切り上げたいんだろ』
『ああ、そう言う事か』
食事を始めるがニャリスは何も食べない。
お腹がいっぱいなのに配信の為に食べていたのが分かる。
食事を様子をニャリスが実況している。
俺は無言で食べた。
食事が終わった瞬間に話が始まる。
「コーヒーは飲まないの?」
「戻って休む」
「戻ったら対談配信だね」
「……コーヒーを貰う」
『お母さんの顔wwwwww』
『あの間がいいよなwwwwww』
『逃げられないのが分かってコーヒーを頼むお母さん』
「ニャリス、どうしてそんなに配信にこだわるんだ?もう、借金は返した。1度奴隷になった事で親と縁は切れている」
「配信が好きだから、かな?」
「安心して良い。ニャリス、慕ってくれるみんながいる。お前はみんなを手伝って来た。お前が孤立する事はもう無い」
ニャリスの様子が変わる。
目に涙を溜めて泣き出した。
「う、うえええええええええええん」
「にゃ、ニャリス?きゅ、急に!?」
『お母さんがニャリスを落としたwwwwww』
『何となく感じていたけど、核心に触れたか』
『泣く意味が分からん』
『ニャリスの両親はニャリスが働いて稼いだ金が欲しかった。ニャリスの両親は自分では魔物を狩らずに小さかったニャリスにはダンジョンに行かせるクズだ。借金を押し付けてニャリスが売られたのもそういう経緯』
『ニャリスの両親は結局ギャンブルと服やブランド物を辞められず借金奴隷になっているぞ』
『ギャンブルとブランド物の方がニャリスより大事な親だったのか』
『SNSを頑張る=一人になりたくない。愛に飢えていたんだよ』
『フォロワー数や登録者を増やそうとするのは本能的な欲求だ。人は1人じゃ生きていけない。孤立を恐れる生き物だ。両親から貰えない愛をフォロワー数で補おうとしていたんだろう』
『お母さんは鋭いのか鈍感なのか分からん』
『鋭くて鈍感、英雄なんて矛盾してなきゃなれないだろ?』
ニャリスは泣き続け、俺は何も言わず、ただそこにいた。
言葉は必要ない。
頼んだホットコーヒーは、冷たくなっていた。
◇
「これからは、配信だけじゃなく、皆をもっと手伝うね」
「それがいいだろう」
ニャリスは借金を返済した。
お金は十分にある。
力もある。
与える事で返って来るモノがある。
ニャリスが涙を拭いて笑顔になった。
ニャリスは、もう大丈夫だ。
2人でレストランを出た。
ニャリスと共にみんなの席に戻る。
ほっと、肩の力が抜けた。
「配信を終了してなかったね。ゴレショ、配信終了」
ニャリスは新しく生まれ変わった。
そう思える。
「これからみんなで私の反省会配信をするよ!」
「ええええええええええええ!今までの流れはどうなった!心を入れ替えたんだろ?」
「心を入れ替えて配信をするよ。皆をもっと手伝って寄付や協力者を集めるね!ゴレショ、配信スタート!」
お、おかしい。
思ってたのと違う。
「お母さん、いやな事はちょっとだけ手加減するね」
ちょっとだけか。
でも、前よりは、いいのか?
俺はもやっとした気持ちを抱えたまま配信を続けた。
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