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第29話

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 ギルドに入るとアクリスピが声をかけて来た。

「おはよ、いい朝、清々しい」
「やってくれたな」

「今日もアクアマリンとカノンを連れてうな竜を狩って来る。毎日メシウマ出来る」

 そう言って2人を連れてギルドを出ていく。
 メシウマの言葉にイラっとした。

「おかあ、ご主人様、行ってきます」
「おはようですわ。それでは行ってまいります」
「気をつけてな」

 俺は真っすぐ受付嬢の元に向かい、話を進めた。



「……新しい奴隷、ですか?」
「そうだ。今度は規模を拡大する」
「実は魔王さんが買ってくれることを期待して100人ほどの少女が集まっています」

「100、多すぎないか?」
「どんと行っちゃいましょう!」
「うーむ、だが、ギルドの宿屋が足りない気がする。講習の人も足りないだろう。訓練に支障が出てしまう」

「始めて見て問題がある奴隷は売ればいいんですよ。魔王さんの手で救える人から救っちゃいましょう」
「人を、選びたい。自由になりたい意志のある者は救えるが、働かない者は、救えない」

「ダメなら売ればいいんですよ」
「……うむ、分かった。すぐに始める」
「そうですね。ギルド長と話をしてみます」
「ん?すぐに始めないのか?」
「根回しで少し時間がかかると思います。ですが、魔王さんが買うと決めてくれたので進み始めますよ」

「……ゴレショ!起動!くっくっく、魔王だ。今から新しい奴隷を購入する」
「な、何ですか!?急に配信を始めましたね!」

「今からブルーフォレスト支部・ギルド長の元に向かい、直接交渉する」
「え?ちょ!ギルド長はそういうのが苦手ですよ?」
「分かっていて配信している」

「魔王さん、吹っ切れました?」
「ではギルド長の元へ向かう」

『急に始まったが待機していた俺参上!』
『お母さんはいつも通り答えないwwwwww』
『始まったな!』
『脅しつつ強引に進めるスタイル』
『急に始まるのはいつもの事だ』


 パアン
 俺は勢いよく部屋の扉を開けた。

「な、何ですか!い、イクスさん、今配信してます?」
「うむ、紹介しよう。ブルーフォレストのギルド長、エルフのメガネイだ」

 メガネイはメガネをかけた男エルフで、背が高く痩せている。
 人前に出るより裏方が得意でいつも事務処理に追われている。

『お母さん!もっとやれ!』
『ギルド長は人前に出るのが苦手そうだな』
『完全に分かった上でやっている魔王様』
『来た来た来た来た!魔王様来たあああああ!』

「やめ、名前を言うのはちょっと」
「うむ、あきらめるのだな」
「わ、分かりました。配信を止めて話をしましょう」
「文官は『検討します』とか、『それには時間がかかる可能性があります』とか言って時間がかかりすぎる。奴隷を100人買ってすぐに訓練を開始したい。すぐに始めるのだ」

「奴隷を売る為に用意はしました。ですが訓練をする人材が不足しています」
「一緒に来てくれ。冒険者と直接交渉する」
「い、一旦配信を止めて話をしましょう」

 俺はメガネイの両肩を掴んで振った。

「頼む!今来てくれ!すぐ終わるから!少しだけでいい!決めたら黙る!配信も止める!だから来てくれ!!」
「ちょ、やめ!」

 メガネイのメガネがずれて髪がぼさぼさになる。

『すぐやると言わなければ脅し続ける気だ』
『怖い怖い怖い!コミュ障怖い!』
『コミュ障が本気になって手段を選ばなくなればこうなるのか』
『奴隷を救うために必死なお母さんに感動するのは俺だけか?』
『俺も分かる。子供を守る為に前に出るお母さんの姿だ』

「わか!わかりました!行きましょう!」
「うむ、行こうではないか」

『おい、受付嬢が無言になって笑ってるぞ』
『それでいい』
『見守るのが正しい運用方法』

 俺は酒を飲んでいる冒険者の元に近づく。
 ギルドカードを見ていた冒険者が立ち上がる。

「まずい!逃げ遅れた!」
「来た来た!こっちに来たわ!」

『のんきにお母さんの動画を見ていて逃げ遅れてるwwwwwwwww』
『お母さんは急に動き出すから逃げるのは難しい罠』

「Bランク冒険者のギーク、パーティーも含めて依頼を出したい。奴隷として買った子供の戦闘訓練とスライムのダンジョンへの護衛を頼みたい」
「だが、俺はそういうのは慣れていない」

「とりあえず90日ほどだけどうだ?」
「長い!」
「期間が短ければ考えて貰える、そう取っていいか?」
「だが、子供は言う事を聞かない。何が起きるか分からない」

「それでもやってほしい。一定期間だけでいい」

 そう言ってギークの肩を掴んで揺さぶる。

「頼む!やってくれ!頼む!」

「わ、分かった分かった。やる!やる!」
「それでいい」

「Bランク冒険者エルナ」
「ひい!」
「同じく、子供の戦闘訓練とスライムのダンジョンへの護衛を頼みたい。頼む!やってくれ!やってくれなければ色々としつこくまとわりつくことになる!何度も配信中に声をかけて」
「やる!やるわ!分かったわよ!!」

「それでいい。助かる。さて、最後にBランク冒険者のセイン、同じく」
「や、やるよ」

「すまんな」

 これで優秀な3パーティーを確保した。
 前回は全部やって貰おうとして駄目だった。
 今回はやる事を細切れにして頼む方針に変えた。
 そして脅しも混ぜている。

『セインのライフはゼロだった』
『断れば前の2人みたいになる。受けるしかないんだろう』
『あきらめないお母さんが奴隷解放に動くと強い。アクリスピの言った意味が今分かった』

『強引すぎて引くわ』
『今まで奴隷を救えなかった。皆問題だと思ってそれでも変えられずに来た。逆に言うとここまでしないと既得権益を変えられない。動く人を潰すのは悪い癖だ。お母さんみたいな人間が100人いれば国が変わっていく。それをちょっとの駄目な部分を指摘して潰して来たのが今までの流れだ』

「ギルド長メガネイ、他に問題はあるか?」
「戦闘訓練はいいですが勉強の講師が足りません。1度に子供100人に講義を行うのは無理があります」

 半分は訓練を受けさせるとしてそれでも50人、面倒を見きれないか。

「他の支部から他の講師を呼べないか?」

「私がやりますよ?」

 今まで黙っていた受付嬢が発言した。

「それでは他の支部から受付業務の支援を呼びます」
「受付嬢なら問題無く出来るだろう。メガネイ、他に問題はあるか?」
「ギルドの宿屋が不足しているのと、初心者装備が足りません」
「1部屋に多めに押し込めばいい。毛布なら支給する。初心者装備なら俺が作ろう。他には?」

「金銭的に予算をオーバーする可能性があります」
「1憶をギルドにチャージしておく。そこから不足分を埋めてくれ」

「他に問題はあるか?」
「やってみれば何か違う問題が出てくるでしょう」
「今分かる問題は以上か?」
「そう、ですね」

「では、すぐに奴隷契約を始める!!」

『お母さんがかっこいい!』
『時代を変えてくれそうだ』
『絶対に面白くなる。お母さん動画に外れ無し!』

 俺は奴隷契約の準備を始めた。



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