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第44話

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 学校にいるユズキを見ていると忙しそうだ。
 そういえば昨日『来年から生徒が増えるのよ』

 と言っていた。
 新入生のクラスを増やし、生徒数を増加する事がすでに決まっているのだ。
 物置に変わって使っていない教室を整理し、更に他にも色々準備があるらしいけど、ユヅキが仕事を振られ過ぎな気がする。

 来年度から廃校の為新入生を取らない高校が出て、更にこの高校の人気も高まっているらしい。
 校則を変えて制服を自由化したりと、今の時代に合った校則に変わっているし、髪を染めるのも自由だ。
 例えば金髪のイギリス人に『金髪は校則違反だ!』と言おうものなら問題になる。
 そうなって来ると髪を染める校則があるだけでおかしくなってしまうのだ。

 この学校付近は田舎で治安もいい。
 不審者対策としても安心できる。
 不安ならこの近くに生徒を下宿させればいいのだ。

 放課後になり、忙しく仕事をしているユヅキ先生に声をかける。

「秋月先生、手伝えることはありますか?」

 周りに先生がいる為、ユヅキを名字で呼んだ。

「お願いできるかしら?」
「先生、細田、太田、剛田も一緒に手伝いのと思いますが、どうでしょう?」

 3馬鹿の事だ。
 細田=ガリ
 太田=ブタ
 剛田=マッチョだけど、覚える必要はない。

 黒い服をまとった3馬鹿が局員室の入り口で半分顔を出して串団子のように縦に顔を並べる。
 なんだろう?
 キモ怖いけど、つい見てしまう中毒性を感じる。

 周りの先生もちらちらと3馬鹿を見ている。

「ふふ、そうね、4人にお願いしようかしら」

 3馬鹿がガッツポーズを取る。
 先生方は3馬鹿を見て苦笑いを浮かべる。

 先生も3馬鹿が悪い者ではないと分かっているけど、癖があって扱いにくいため、首を突っ込むことはしない。
 先生も先生である前に人間なのだ。

 ややこしい案件には関わりたくない。
 人間だもの。

 ユヅキ先生の後ろに付き従うように3馬鹿がついていくけど、ユヅキのお尻が見られている。
 僕も人のことは言えないからこの件については何も言えないけど、

「みんなユヅキ先生に迷惑はかけないでくれよ」

「「了解しました!全力でミッションを遂行します!」」

 3馬鹿が僕に敬礼する。
 廊下にいた女子がすっと離れていく。

 僕が話をつけた事でユヅキ先生の手伝いが出来る。
 この事で今だけは3馬鹿が僕に敬語を使っているのだ。

 30分も持たないだろうけど。


「整理したい教室はここね」

 先生が物置小屋と化した教室に僕たち4人を入れると、物に付箋が張られていた。

「赤い付箋で処分と書かれた物をゴミ捨て場に移動して欲しいわ、結構重いから大変だと思うけど、お願いできる?」

「「お任せください!」」

 3馬鹿は一糸乱れぬ敬礼を行い、熟練の工作兵のごとく動き出した。
 ガリは代車を使って運ぶが、マッチョとブタは力に物を言わせててきぱきと校舎外にあるごみ捨て場に粗大ごみを捨てに行く。

「ええ!!30分も経たずに終わるんじゃないか?」

 僕もあわてて粗大ごみを外に運び出すけど、3馬鹿の仕事が早すぎる。

「ちょ、ガリ、ブタ、マッチョ、そんなに頑張らなくていいんだよ。助かるけど」

「モブよ、ユヅキ殿の使命、燃えないはずがないでおじゃろう!」

 ガリから熱い感情を感じる。

「モブ、筋肉の声が聞こえるのだ、動けと、今この為に我は筋肉を苛め抜いてきた」

 マッチョは筋肉を発揮できる機会を手に入れ、喜びに震えていた。

「おめー!今やらねーでいつやるんだよ!これだからモブは!」

 ブタが熱血キャラに変わっている。
 お前いつもそんなじゃないだろ?

「山田君!細田君!剛田君!太田君!、あだ名は禁止です!やめなさい!」

 ユヅキ先生が先生っぽく僕たち4人を注意する。

「「申し訳ありませんでした!!」」

「気をつけます」

 3馬鹿のレスポンスが早い!

 僕たち4人は粗大ごみを運んで校舎の外に出ると3馬鹿が無言で僕に敬礼する。

「やめてくれ、それどういう敬礼?僕が軍服を着ているから?」

「違うでおじゃる、ユヅキ先生に注意されるご褒美、はあ、はあ、一生の思い出にするでおじゃる」
「ユヅキ先生のあの目、最高だ」
「いい経験、させてもらったぜ」

「3馬鹿、その気になれば注意してもらうように誘導できるよね?」

「モブよ、分かっていないでおじゃる。最大限迷惑をかけぬよう気配りを続けた上、それでもなお、予想を覆す所からのユヅキ先生の注意、これこそが至高!」
「うむ」
「へへ、ガリ、分かってんじゃねーか」

「そ、そうか。あれ、ゴミ捨て場が満杯じゃないか?」
「そうでおじゃるな。まだ続けたいでおじゃる」

「先生に聞いてみる」


 こうして、今日の所は仕事が無くなり、僕たち4人は帰宅した。
 でも、ユズキ先生に叱られご褒美をもらい、そして最後にお礼ご褒美をもらった事で3馬鹿のテンションは高かった。



 僕は帰ってからユヅキと話をする。

「明日も手伝えることはあるかな?出来れば3馬鹿も一緒にね」

 一応3馬鹿も仲間に入れる。
 のけ者にはしないのだ。

「実はね。今週ずっと手伝ってもらえると助かるけど、迷惑よね?」
「いや、良いと思うよ。それに3馬鹿は手伝いたがっていたから」
「でも、悪いわね」

「それなら、提案があるんだ」

 僕はユヅキに提案をした。
 ユヅキは「え?それだけでいいの?」と言っていたがいいのだ。



 ◇



【次の日の放課後】

 3馬鹿は活性化してテンションが上がる。

「今日も手伝いでおじゃるううううう!!!」

 空いたゴミ捨て場に粗大ごみを運び、教室を掃除し、机といすを磨き上げ、壊れた机といすを仕分けする。



 今日の手伝いが終わるとユヅキは机を5つくっつけて皆を座らせる。

「今日はありがとう。皆にサンドイッチを作ってきたわ」

「て、てててて、手作りの、さ、サンドイッチ!ふぉおおおおおおおお!」
「細田、怖い怖い!少し静かにしよう」

 僕はガリを落ち着かせる。

「コーヒーもあるわ」
「ユヅキ先生が使っている水筒のコーヒーだと言うのか!」
「剛田、黙ってくれ」

 そう、出した提案はユヅキ手作りのサンドイッチとコーヒーだ。
 サンドイッチはレタスを挟んだ卵サンド1種類だけだ。

 でも、それでいい。
 3馬鹿にとって味がどうとかとかそういう問題ではない。

 ユヅキの作ったサンドイッチで、しかもユヅキの使っている水筒から恵まれるコーヒー、ここに価値がある。
 水筒は僕が父さんから貰った大きい水筒だけど、3馬鹿に言わなければいい。

 3馬鹿の妄想、それが大事で足りない情報は3馬鹿が勝手に妄想で埋めてくれる。

 3馬鹿はまるで茶道のように両手で水筒のカップでコーヒーを注いでもらい、浸るように飲んでいく。
 まるで砂漠の中に一杯だけある水を体に染みわたらせるように。

 そしてサンドイッチを味わい目を閉じる。

 ミッション成功!
 予想通りの反応だ。



 3馬鹿が堪能して帰宅した後、ユヅキが僕を呼び止めた。

「シュウ君、その、悪い顔をしていたわよ?」

「何のことかな?僕は3馬鹿に思い出を提供してユヅキ先生は手伝ってもらい助かったよ。ウインウイン、そう、お互いが得をする素晴らしい行いなんだ」

「企んでいる顔が表に出ていたわ」
「皆の幸せに浸っていたんだよ」

「……シュウ君、腹黒い所があるのね」

「何のことか分からないな。さ、帰ろう。今週は3馬鹿が手伝い続けてくれるよ。良かったね」
「私は嫌いじゃないけど、腹黒いわ」

 ユヅキ先生は素に戻って言った。

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