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第15話

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【薬草ダンジョン】

 次の日の朝、僕とティアは薬草ダンジョンにやってきた。
 攻撃能力はもう見せたから隠しても意味ないけど、鞘の収納能力は隠している。
 ファフとステップはインスティが預かり、後は僕とティアおばあちゃんが薬草を取って来るだけだ。

 ティアおばあちゃんは若い人のようにきびきびと歩く。
 老人の歩き方じゃない。

 ゴーストが3体出て来る。

「アイス!アイス!アイス!」

 ティアおばあちゃんが氷の塊を飛ばす。
 ゴーストにアイスがヒットしてゴースト3体が倒れた。

「魔導士だったの!?」
「う~ん、そ、そんな感じ、つ、次に行こうよ」

 何故かティアおばあちゃんは焦っていた。

「そうだね」

 僕とティアおばあちゃんはまた歩き出す。


「いた!ハーブトレントだ!」

 僕が攻撃する前にティアが魔法を使った。

「アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!」

 ハーブトレントとスライムが倒れるけど、ティアも倒れた。

「具合が悪い」

 ダンジョン初心者が良くやる魔力切れだ!
 魔力を使い切るとこうなる。

 僕は残った魔物を急いで倒した後、ティアおばあちゃんを休ませた。
 スライムとハーブトレントは魔石だけ取って、他の素材は諦めよう。

「僕が薬草を採取するから休んでて」
「カモンは強いのね。それに採取も早いわ」
「普通だよ」
「まるでレベル10のようね」
「そ、そそ、そんな事無いよ。少し奥まで来たけど、そろそろ引き返そう」

 僕は焦って話を逸らした。
 スキルの事はあまり言いたくない。

 僕はティアおばあちゃんを背負って前にバッグを背負いつつ入り口を目指した。

 スタンプイノシシやチキン、ホーンブルが1体ずつ出てくる。
 すぐに荷物とティアおばあちゃんを下ろしてスタンプイノシシに接近する。

 斬撃を浴びせて1撃で倒し、向かって来るチキンを1撃で倒した。

 ホーンブルが少し大きい。
 ホーンブルは角が大きい牛だ。
 僕は2回斬撃を当てると、ホーンブルに赤いマーキングが発生する。
 すぐにナイフを鞘にしまった。

 少し間をおいてホーンブルに追加の斬撃が発生してホーンブルが倒れた。
 マーキングスラッシュだ。

「全部食べられるよ!持って帰ろう」
「ええ?重いわよ」

 僕は素早く倒した魔物を血抜きをしていく。

「凄いのね。プロの解体みたいだわ」
「そんな事無いよ」
「凄いと思うわ」

 ティアが立ち上がる。

「うん、そろそろ自分で歩けるわ。ありがとう」

 僕は無理をして3体分の肉と薬草を運ぶ。
 鞘に収納したい。
 でも、スキルをばらすのは嫌だな。

 運びにくいし無駄に疲れる。
 ストレージ系のスキルは希少だから冒険者や魔物討伐系の会社ははこうやって魔物を運んでいる事も多い。
 たまに荷車を引いている所もあるけどそれでも不便だな。

 でも、頑張って運ぼう。



 ダンジョンを出るとティアが話しかけてくる。

「私も持つよ?」
「い、良いよ。僕が勝手に運んでいるだけだから」
「でも、ちっちゃいのにたくさん持ちすぎだよ」
「だ、大丈夫。慣れてるから」

 昔はよくこうやって運んでいた。
 収納スキルを手に入れて、自動採取も出来るようになった。
 自分で運ぶこの感覚を忘れていた。
 スキルのおかげで狩りと採取の効率が良くなっている。

 こうやって荷物を自分で運ぶと僕の成長を実感できる。

 
「そう言えば、ティアおばあちゃんは強いスキルを持っているけど自己投資はしないの?株でもなんでも投資すればたくさんの人を助けてお金に余裕も出来るでしょ?」

「そうね。でもそうすると今困った人を助ける事が出来ないわ」

 確かにそうなんだ。
 クラッシュは自己投資をしてからたくさん助ける方がいいと何回も言っていた。
 でもそれは今困っている人を助けない事になるんだ。
 ティアおばあちゃんは今困っている人を助けたいんだ。

「私の魔力を上げればもっとお金を手に入れる事が出来るけど、目の前に困っている人がいたら魔石を売って小麦を買いたいわ。株も配当金を貰い続ける方法もあるけど、余裕は無いのよ」

 ティアおばあちゃんの話を聞いて分かった。
 どうすればお金持ちになれるか分かっている。
 分かっているけど目の前にいる人を助けようとしている。

「防壁が気になるの?」
「うん、防壁を見ると落ち着くんだ」
「変わってるいるわね。でも、私も防壁は好きよ。防壁のおかげでみんなが安心して暮らせるわ」
「初めてそう言ってもらえた気がするよ!」
「そうかしら?」

 何気ない話をしながら歩く。

「おじいちゃんの家はそこよ」

 僕たちはギルドを通り過ぎておじいちゃんの家に入った。

「うん、納品しよう」
「これで荷物が軽くなるわね」

 おじいちゃんの家に着くと、おじちゃんが出てくる。

「薬草10束を納品します」
「うん、ありがとう。ちょっと待っていておくれ」

 おじいちゃんがお金を持って来る。

「はい」
「え、多いですよ……15000ゴールドも!」

 薬草10束で3000ゴールドだけど、おじちゃんはその5倍のお金を僕に渡した。

「良いんだよ。安い値段で引き受けてくれた良い子にはお小遣いをあげたいんだ」
「でも」
「返されても受け取らないよ」

「じゃ、じゃあお肉を貰ってください!」
 
 僕はチキンをおじいちゃんに渡した。

「うーん。貰いすぎになっていしまうね。こんなに食べきれないんだよ」
「でも、何か返したいんです」
「食べきれないからね。そうだ、モモ肉だけを貰おう」

 こうしてチキンのもも肉をおじいちゃんに渡した。
 お礼を言って家を後にするとおじいちゃんは笑顔で見送った。

「優しいのね」
「普通だよ」

「調合スキルか~。私も調合スキルのレベル1を持っているからいつか練習したいな」
「ええええええええええ!!!持ってるの!?ポーションを作ったら簡単にお金を作れるよね!?」

 調合は希少スキルだ。
 色々スキルを覚えないと習得できない。
 生活魔法のレベル3、それと6属性魔法すべてを習得してその後にやっと習得できる。

「でも、レベル1だと失敗するから」
「3まで上げたらいいよ!」

「そうしちゃうと困っている人を助けられないわ」
「そ、そうだけど、今より未来を見た方がいいよ」
「でも、お金があったらみんなの為に使いたいわ」

 ギルドに帰るとインスティとプロテクタは何故か汗を掻いていた。

「汗を掻いてどうしたの?」
「何でもないですよ?」
「それよりも納品はうまくいったか?」

「うん、薬草代をたくさん貰ったんだ」
「良かったじゃねえか」
「報酬は山分けね」

 僕は貰ったお金の半分をテーブルに置いた。

「私はあまり役に立っていないわ」
「魔物を川で捌きたいんだ。行って来るね」

 僕はお金を置いたまま川に向かう。

「ティア、報酬は半分と決めてある。ルールはルールだ」

「そうだけど」
「ルールを守らねえとカモンの時間を奪う事になる」
「そのお金があれば子供にパンを食べさせることが出来ますよ。宿代も払えます」

 僕はお金を返されないようにその場を離れた。



 肉を解体してティアの所に持って行くと、ティアは報酬で麦や野菜を買っていた。
 寒い中釜に火をつけてパンをこね、スープを作っている。

「ティア、肉を解体してきたんだ。スープに入れよう」
「ありがとう。カモンも一緒に食べましょう」

 ティアはパンを釜に入れて薪を足して、スープに肉を入れていく。

 子供たちが集まって来てスープとパンを配る。

 僕はティアおばあちゃんを見つめる。

 ヒールは1回で5000ゴールドは貰えるのに1000ゴールドで治していた。
 調合スキルを持っているのにスキルを使わず子供にパンを与える事に使っている。
 でも、ティアおばあちゃんは投資の知識や自己投資の大事さは分かっている。

 小さい釜で何度も料理を作って時間も無くなっている。

 おばあちゃんなのに動きが良くて腰も曲がっていない。
 
 ティアおばあちゃんを見ていて、アンバランスな、そんな感じがした。
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