上 下
54 / 191

第54話

しおりを挟む
 昨日はアマミヤ先生と食事が出来て時間を潰せた。
 放課後が暇だ。
 毎日ハザマに行かないと気持ちが落ち着かない。
 まるで歯磨きをしないで眠るような感覚だ。 

 マイルームが進化するまで時間がかかる。
 早くハザマに行きたい。
 ……今の内に服や、欲しいと思っていた物を買っておこう。
 俺は街に出た。


 ショッピングセンターに入ると偶然アマミヤ先生とばったり会った。

「あら、オオタ君、偶然ね」
「先生?いつもと口調が違いますね」
「今はプライベートだから、素で話してしまってるわね」

「プライベートを邪魔してしまいました」
「そう言う意味じゃないのよ……一緒にお店を回る?」
「いいんですか!?行きたいです!」
「ふふふ、行きましょう」

 アマミヤ先生がいつもと違う。
 いつもより柔らかくて優しい雰囲気だ。

 この雰囲気で生徒と接したら、生徒は言う事を聞かないだろうな。
 いつもの先生はキャラを作っているのか。
 俺は、こっちの方が好きだ。
 服を選ぶとアマミヤ先生がコーディネートを考えてくれた。

「オオタ君はこの服が似合うんじゃない?」
「いいですね!買います!」

 俺は調子に乗って多めに買い物をし、一緒に食事を食べる。

「買い物に付き合って貰えて助かりました」
「いいのよ。先生でいる時間は残り少ないから」
「……え?」

「私ね、来年の3月いっぱいで先生を辞めるのよ」
「なんで、いえ、聞くのは悪いですね」
「オオタ君は気を使うわよね」

「まあ、一応は」
「そういう所はとてもいいと思うわ。少ない時間になるけど、一緒にハザマに行きましょう」
「迷惑じゃないですか?次の事も色々ありますよね?」
「大丈夫よ」

 先生がきれいな笑顔を見せた。
 きれいな笑顔に胸が締め付けられる気持ちになった。

 先生に辞めて欲しくない。
 でもそれは俺の事情だ。
 アマミヤ先生には先生の人生がある。
 ……俺に出来る事はあるだろうか?
 
「俺に手伝えることはありますか?」
「気を使わなくていいのよ」
「毎日は無理でも、週に1回くらいなら何かできると思います」

 これが俺の本心だ。
 俺にはランクを上げる目標がある。
 でも、週に1日くらいならアマミヤ先生に時間を使いたい。

「そう、そうね。一緒にハザマに行きましょう。そうしてもらえると助かるわ」
「え?」
「ごめんなさい、説明不足よね。放課後に暇が出来ると他の先生から飲みに誘われるのよ」

 聞いた事がある。
 アマミヤ先生は少なくとも3人の先生に言い寄られている。
 学校の生徒もアマミヤ先生に告白している。
 無理に決まっているだろうと思いはするが、でも告白したくなる気持ちはよく分かる。
 アマミヤ先生は忙しい方が都合がいいのだろう。

 俺のスキルは都合がいい。
 俺のスキルはあまりにも特殊なカウンタースタイルだ。
 気が短い生徒は俺とパーティーを組みたがらないだろう。
 気が短くて考えるより行動するタイプ=アマミヤ先生に告白するタイプの可能性が高い。
 俺の引率を引き受ける事で男避けになる。

 更に特殊なスキルを持つ俺は先生の付き添いがあっても不思議ではない。
 突発的に予測できない危機がある。
 実際に俺はベビーガーゴイルにシャドーランサーをやられて、リトルゴーレムに壁を壊される予想外の事態に見舞われた。

 確立された戦士系や魔法系の戦い方と違い、召喚系の俺は予想できないトラブルが起きたりする。
 俺のスキルは召喚系の中で更に特殊で何かあった場合先生に責任が発生するため他の先生は俺の面倒を見たがらない。

「レンとユイにも話せば協力してくれると思います」
「そこまでじゃないのよ。それに、スキルを授かったのは運が良かったけど、スキルを持っている人の中で私は弱い方よ」

 アマミヤ先生の力ではレンやユイについて行けないのか?
 スキルを授かった時点でラッキーだ。
 でもスキルを持っている者の中でも才能の差はどうしても出てくる。

 漫画の世界が分かりやすい。
 漫画家になれなかった人が漫画の講師をしていて、才能がある人が漫画家になる。
 冒険者の世界も似たようなものだ。
 冒険者の才能が無い人が先生をやったり、講師をやったりする。
 才能のある冒険者はハザマで効率よく億を稼ぐ。

「それにね、多くの人とハザマに行けば、オオタ君と一緒に他の人もハザマに行く流れになるわ」
「あ!」

 一緒にハザマに行き、マイルームを使えば俺のスキルの秘密がバレる。
 あまり交流を広げすぎると良くないか。
 
 あくまで俺のスキルは面倒でトラブルが起きる可能性が高い特殊スキル、そう思わせたままの方が良い。
 

「だからね、オオタ君がランクを上げる為に私が協力する、そう言ってもらえると助かるわ」
「俺のランクを上げる為に協力をお願いします!!」
「ふふふ、反応が早いわね」
「俺は調子がいいので」
「そう言う事にしておくわ。ありがとう」

 助かったのは俺だが、先生が俺にお礼を言った。
 ……多分、色々なタイミングが合わなければ、先生は教師を辞める話をする事すらなかっただろう。
 一緒にハザマに行く約束も出来なかっただろう。
 俺は運がいい、運がいいだけなんだ。

 食事を終えると先生が手を振って俺を見送った。
 運がいいだけじゃ駄目だ。

 実力もつけよう。
 もし、運だけで試験を乗り切れたとしてもいやな気持ちになるだろう。
 マイルームの進化が終われば、グレートオーガのハザマに行こう。
 新しい事にチャレンジしてみよう。
 今の内に勉強も買い物も気になる事は全部終わらせる!
 消すべき雑念は全て消す!

 ハザマに集中するんだ!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 俺が叫ぶと周りにいた人が俺を見た。

「すいません!」

 逃げるように家に走った。



【アマミヤ先生視点】

 フトシ君が帰って行く。
 その姿が見えなくなるまでフトシ君を見送った。

 私が教師を辞める理由を、フトシ君は勘違いしているだろう。

 私は、フトシ君に、恋を、してしまった。

 心の中でだけフトシ君と呼ぶ。

 教師を辞めたら、名前で呼べるかな?
 それより前にツムギさんやアオイさんと付き合う事になるかもしれない。
 それでもいい。
 恋が実らなくても、フトシ君と呼ぼう。

 先生を辞めるまでが、あまりにも長い。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...