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第72話

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「配信を終わりします」

『お疲れさまー!』
『ナイス、バズリ散らかし!』
『ナイス、バズリ散らかし!』
『ナイス、バズリ散らかし!』

 豊香が俺の隣に立った。

「少し相談があります」
「分かった。配信が終わったら聴こう」

『配信続行!』
『配信を続けようぜ!』
『続きが見たいです』
『放火の監視が必要だと思うの』

「でも、相談なら配信無しの方がいいだろ?」
「いえ、みんなが見ている前でも構いませんよ」
「そうか、うん、分かった、でも家の場所を教えるのはまずいから家に帰ってからだな、一旦ドローンは止めるから」
「分かりました」

 デュラハンキラーのみんなは礼をして帰っていった。
 ハンドスピナーはこっちを向いたままハンドスピナーを回してバックするように去っていった。
 ダブル1期生のみんなもアドバイスの訓練をする為に帰っていく。
 

 家のみんなと豊香をごうの車に乗せて買い物をして家に帰る。
 
 ごうは「俺は宣伝があるから帰るぜ」と言って帰っていった。

 ドローンを起動し俺の対面に豊香とひまわりが座った。
 おばあちゃんが飲物とお菓子を出して俺の隣に座った。

「それで、相談というのは?」
「はい、その前にひまわりさんと達也さんは付き合っていますか?」
「いや、付き合っていない」

「良かったです。相談ですが、私が達也さんに愛されるようにするにはどうしたらいいでしょうか?」
「ええ、普通、本人に聞く?」

『直で聞きに行った!』
『流石豊香だな、面白い』
『放火は大分マシになったけどまだ叩かれている』

『放火はあれだ、みんなのうっぷん晴らしをする生贄要素が強いからな』
『まともな行動をすると叩かれたりしてるよな』
『でも、大分マシになったぞ』

「私もそう思います、しかし、どこを直せばいいか分からないんです」
「良くなったと思うぞ、前よりはかなり」
「それです、悪くはないみたいなその感想ではなく、好きと思われたいです」
「言っておくけどデュラハンを倒すまでそういうのは考えないと決めている」

「はい、分かっていますが人はすぐには変われません。準備期間が必要です」
「今の所そこまで酷いと思える部分は無い。俺自身も独特だとか特殊だとか言われる事はある」

『達也は武者なんよな』
『仙人感がある』
『浮世離れしてるよな』

 おばあちゃんが口を開いた。

「達也さんは極端に自分に厳しい所があるわ。豊香さんに悪い所が無くても、せめて達也さんの好きなタイプや好みのタイプ、これは駄目だとか、こういう人は嫌いだとか言える事はあると思うの。今だけは自分の事を棚に上げて言ってみましょう」

「好きなタイプか、気を使えて、一緒にいて安心できる人が良いかな」
「……」

『それっておばあちゃんやひまわりじゃないか』
『しろまろ「僕もいるよ」』
『炎上は嫌だよな、安心が欲しいんだろう』

 豊香はコメントを見てひまわりを見た後汗を掻きだす。

「嫌なタイプは、そうだな」

 豊香の炎上はただのミラー返しだ。
 急に悪意の乗った批判コメントをする方がおかしいとは思っている。
 豊香のその行動自体はそこまで気にならない。
 コメントをする側は何を書きこんでも良くて悪意に対してミラー返しをするのは許さないとなればコメントをする側に多くの問題があると思う。
 ただそれで炎上するのが嫌ではある。
 
 ……嫌なのは、いたな。
 奈良君をつけ回す黒塗りの車、陰で動いて表には出ず、足を引っ張るあの行動は嫌いだな。

「嫌なのは前に奈良君をつけ回していた黒塗りの車の組織かな。裏で足を引っ張って潰すみたいなのは嫌だ」

『ワイもやで!』
『裏で隠れて奈良君を潰しに来る、悪意あるコメントと何も変わらない』
『組織の方が悪いだろ、悪口だけでなく社会的にも潰そうとしてるし』
『これ、ニュースになんじゃね?』
『具体的にもっと言って欲しい』

「達也さん、具体的に黒塗りの車についてどう嫌なのか言って欲しいって」
「そうだな、まず完璧な人間はいない、悪く言おうとすれば何とでも言える。出来ればそうやって人を叩くんじゃなくて自分で良くするように動いて欲しいとは思う」

『天下り組織涙目』
『また達也の発言で公金を吸う組織が叩かれるで』
『俺も黒塗りの車で監視するのは気色悪いと思ってた』

「なんだろう、うまくいって当然、失敗すれば潰されるとなれば挑戦する人を潰すのと同じことになる。挑戦をすれば必ず失敗するからだ」

『ちょっとの失敗で人を叩いて潰していけば何もしない人だけが残るよな』
『挑戦する行為自体に失敗のプロセスが含まれているよね』
『後から叩くのは全部後出しじゃんけんだからな』

「後は頑張っているごうを叩くのは本当にやめて欲しい。これが良いと思う事があるんなら自分で冒険者になって動いてみて欲しい。今なら国の補助があるし、死ぬ可能性はあるけど頑張れば報酬は多くもらえる。50代でも冒険者になれる。細かい所を叩くよりみんなで行動して良くする感じがいい」

『俺は兄貴の味方だ』
『何でも悪く言う人間っているよね』
『てか、弁護士を雇って訴えたら? 裏で言ってくるやつは訴えられると黙るし、言っているのは1部の人だけだ』

「達也さん、弁護士に言えば訴えられるって」
「いいかもな、うん、ごうの悪口が酷い場合訴えよう、ひまわり、弁護士さんを探しておいて酷い場合訴える準備をして欲しい」

 今までなんで気づかなかったんだろう?
 あまりに悪質なコメントは訴えてもいい。
 こういう細かい部分でごうの助けになれる。

「うん、準備をしておくね」
「ひまわりさんは達也さんの秘書なんですか?」
「う~ん、どうだろう?」
「ほぼ秘書のように何でも頼んでいる。ごうのサポートも昨日頼んだ」
「そ、そうですか」

『放火が焦っておる』
『いつもニコニコしている放火が汗を掻くの珍しいな』
『放火の事が可愛く思えてきた』
『見た目はいいからな』

『ひまわりの声もいいよな』
『しろまろ大活躍の時も犯人を捕まえたのにふわっとした雰囲気で終わった。ひまわりの声がいいわ』
『放火が焦っておる』

「そろそろ食事の用意をするわ。豊香さんも食べて行くわよね?」
「達也さん、いいですか?」
「良いぞ」
「いただきます」
「私も手伝うよ」

 おばあちゃんとひまわりが料理を始める。

 俺は配信の質問に答えて時間を潰した。


 豊香は悪い事をしていないのにコメントで叩かれている。

『日野ひまわりは優しい木漏れ日のような優しさで火野放火はすべてを燃やし尽くす暴力』

『放火、ネコを被っても達也さんは尻尾が見えている。あんた見切られてるから』

『放火、今おとなしいからって今までの炎上はゼロにならないからな』

『何だよ、放火の癖に早く炎上しろって』

 豊香は黙ってコメントを読んで何かを考え込んでいた。

 みんなストレスが溜まっているんだろうな。
 会社から帰って来るだけで疲れたり、子育てで疲れたり、色々あるのかもしれない。

 豊香が前に言い返していた節約・投資・冒険者になる行動のすすめは一切通用しないだろう。
 自分で行動して人を助けたいと思う人間は言われる前に自衛隊か冒険者になっているか批判をしない。

 行動して冒険者になってみれば向いている人は結構いると思う。
 会社で色々押し付けられたり、悪くなくても責任を押し付けられて謝り続けたり、会社員は大変だと思う。
 冒険者は最初頑張れば死ぬ確率は下がるし自分のペースで生きていける。
 それでも死ぬ時は死ぬから……やっぱ怖いのか。

「ご飯出来たよ」
「今日は和食で、ご飯はお赤飯よ」

『赤飯には何かしらのメッセージ性を感じる』
『おばあちゃんの圧力かな?』
『おばあちゃんの世代は結婚するのが当然の価値観だ』
『たまたまかもしれん』
『でも赤飯だぞ。めでたい事があればいいですね的な感じだろう』

 みんなで食事を摂る。

「く、美味しいです」

 豊香がひまわりを見て言った。

「うん、ありがとう」

 ひまわりは笑顔で返した。

「本気で花嫁修業をする必要があります。ネタ発言もやめます」

『嘘つけ、お前言わずにはいられないタイプだろ!』
『その発言自体がネタなんだよ!』
『放火の高度過ぎるネタ発言』

 放火が炎上した。



 そしてこの配信が切り取られてバズった。

 ごうの批判コメントは弁護士が動く前に前よりマシになった。

 そして奈良君を監視した天下り組織へのバッシングが再燃する。
 天下り組織は冒険者を育てる改革案を打ち出す対応に追われた。



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