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第59話

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【白金豪己視点】

 達也が出かけた次の日、昨日のメンバーでバーベキューを行う。
 新が炭に火をつけてうちわで仰ぐ。

 昼前だが達也はダンジョン配信でモンスターを倒している。
 北海道の遠くにある溢れ出しダンジョンを間引く事で緊急時の遠征を押さえる事が出来る。
 達也は関東以外のダンジョン溢れ出しを抑制する作戦だろう。

 ひまわりは熱心にスマホを見ていた。
 昨日の印象では率先して料理を作るイメージだったが様子がおかしい。

「ひまわりさん、それしろまろ?」
「うん、バズってるよ」

「何がバズってるんだ?」
「昨日しろまろがひったくりを捕えた動画を達也さんのチャンネルにアップしたらバズったの」

 みんながひまわりのスマホを覗き込む。

「待ってて、今ノートパソコンを持って来るね」

 しろまろを見ると庭で葉っぱを食べている。
 勇敢なイメージは全くない。

 ひまわりがノートパソコンをみんなに見せた。

 スーパーマーケットの前でしろまろが撮影されている。
 小さなしろまろをしゃがみこんで映す。

『お手』

 しろまろがお手をした。

『よしよし、しろまろはいい子でちゅね』

 ひまわりがしろまろを撫でるとおばあちゃんがスーパーマーケットから出てきた。

『終わったわ』
『おばあちゃん、そんなに持って大丈夫?』

 おばあちゃんは両手にたくさんの食材の入った袋を抱えて手に財布を持つ。

『大丈夫、帰りましょう』

 そこに男がすれ違いおばあちゃんの財布をひったくった。

『ああ! 財布が!』
『しろまろ、財布を取って来て!』

 シュン!

 しろまろが素早い動きで財布を咥えて取り戻し戻ってくる。
 犯人の男が振り返るとスマホを見て怒鳴りだした。

 『おい! 俺にカメラを向けるな!』

 やましい事をしている人間は撮影されると怒り出す事が多い。
 あの反応を見る限り今までも犯罪を重ねてきたのかもしれない。
 しろまろがひまわりの後ろに隠れた。

『カメラを向けるなよ! 殺すぞおお!』

 カメラのアングルがしろまろから犯人に戻るとスマホを奪おうと手を伸ばして詰め寄ってきた。
 顔を撮影されたままだと捕まると思ったのだろう。
 その時カメラ前に巨大化したしろまろが現れた。

『ひいいい! な、何なんだよ! きゅ、急にでかくなりやがって!』
『し、しろまろ、犯人を捕まえて』

 しろまろの前足がちょんと犯人の前足に置かれる。
 犯人が足を動かそうとするがしろまろの力で抑えられ抜け出せない。

「離せ! 離せ! 離せよおおおおおおおおおおおお!」

 犯人の男は足を引き抜こうとし、しろまろを思いっきり押すがしろまろが頭で押し返し一歩も引かない。

 すぐにスーパーのスタッフが駆けつけて犯人が取り押さえられた。

『この後犯人はスマホの映像が証拠になって無事逮捕されました。しろまろ、偉い』

 ひまわりのふわっとした言葉で犯人を捕まえているのに暗い雰囲気にならないまま動画が終わった。

「動画終わり~」
「「おおおおおおお!」」

 達也のチャンネルな事もあってか動画は100万再生を超えていた。
 しろまろが抱きかかえられて女性陣がモフモフする。

「しろまろって女だと暴れないんじゃないか?」

 新が目を細めて言った。
 沙雪がしろまろを抱えたまま言った。

「新さんだけ駄目なんだと思う」
「そんな事ねえって!」
「うん、試してみるね」

 沙雪が俺の前にしろまろを寄せる。
 俺が抱っこするとおとなしくなでられる。

「可愛いじゃねえか」
「豪己さんは大丈夫、次は樹さん」

 樹もしろまろを抱く。
 全く抵抗しない。

「やっぱりね」

 次は沙雪が一歩一歩じわじわとしろまろを持って新に近づける。

「俺も大丈夫だな、1日経ってしろまろは忘れてるぜ」

 新まで後5歩の所でしろまろが体を捻って暴れる。
 そして沙雪の手から脱出しシュタッと着地して走って逃げる。
 全員が笑い出した。

「「やっぱり!」」
 
 しろまろは家に隠れて顔を半分出している。

「面白いから配信しよ!」

 凜がドローンで配信の準備を始めた。

 ウエイブウォークの3人で配信を始める。
 新だけ離れ、凜がしろまろを抱っこする。
 樹はしろまろの盾になるように中心に立っていた。
 見せ方がうまい。
 あの立ち位置なら少し説明するだけで新がしろまろに嫌われている事が分かるだろう。

「配信開始! ウエイブウォークの凜です」
「樹です」
「ふう、新だ」

 新の反応も分かりやすい。
 配信が伸びるわけだ。

「今日は達也先生の使い魔であるしろまろの配信を始めます。と、その前に、しろまろは新だけを怖がっています」

 凜は樹にしろまろを抱かせてその後にしろまろを新に近づける。
 しろまろが暴れそうになると後ろに下がり笑い出す。

「ふふふふ、どうやらこれ以上近づくのは怖いようです」

 新も含めた全員が笑う。
 凜はひまわりとおばあちゃんを呼んで事件の事を説明しつつ達也のチャンネルに誘導する。
 人に物を伝えるのがうまい。

「豪己さん、感想をお願いします」

 みんなが手招きをして俺は配信に参加する。
 凜が俺にしろまろを抱かせた。

 達也の名を売るチャンスだ。

「今回しろまろがひまわりを救った。だがしろまろがそれを出来たのは達也がしろまろを育てたからだ! 達也は何かあった時の為に売れば億を超える魔石をしろまろに食べさせた!」

 ここから話を進展させる。
 達也の偉業を知らしめる。
 短い言葉で伝える!

「ここにいるみんなが達也に救われている! 俺もその一人だ。達也は長い時間1人で種を蒔き続けてきた! その成果が時間差で現れている! 達也は長い目で皆の未来に期待した! 俺も達也のようにありたいと思う! 以上だ!」

 話を終わらせてスマホでコメントをチェックしようとしたその時、豊香が訪ねてきた。

「こんにちわ~。豊香です」

 いいタイミングで来た。
 恐らくしろまろ配信は更に伸びる。

 その上でまたバズらせる。




 あとがき
 次の話から3日に1回更新です。
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