上 下
52 / 82

第52話

しおりを挟む
 ひまわりはパソコンの腕を上げていった。
 本人はあまりできないと言っていたけど最初から簡単なエクセル操作やタイピングは出来たようだ。
 ひまわりにノートパソコンを買い家でも練習をして貰った。

 更にひまわりはおばあちゃんに料理も習っていた。
 PRが控えめでやればできるタイプか。

 ひまわりは前の職場でセクハラとパワハラを受けていた。
 怒られれば調子を崩すけどそういうのが無くなって力を発揮しつつあるんだろう。
 引っ越しの時に物が多かったのはストレスがあった影響かもしれない。
 俺の基礎訓練はで成長が無くなった。
 でも若いと伸びる。

 自分の成長が止まっているのにやる気が出てきた。
 基礎訓練だけじゃなく、実践で出来る事があるかもしれない。
 前からそうだった、訓練方法に失敗して試行錯誤を続ける。
 その繰り返しは今も変わらない。


 3人で食事を摂る。
 ひまわりが俺の顔をじっと見ていた。

 俺は肉じゃがを口に入れた。

「うん、美味しいよ」
「よかった」
「この肉じゃがはひまわりが作ったのよ」

「うん、おいしい、ひまわりは料理もうまいな」
「えへへへへ」

 ひまわりは素直だ。
 昔の沙雪を思いだした。

「ひまわり、パソコンスクールの方は順調?」
「うん、色々覚えたよ」
「そっか、良かった」
「でも、まだ仕事が見つかって無くて」
「いいんだ、ゆっくりでいい」


 食事が終わりスマホの電源を入れると連絡があった。
 童子から何件も連絡がある。
 しつこいんだよなあ。
 豊香からは2件、食事のお誘いとコラボの誘いだ。

「また、童子と豊香か」
「2人とも悪い子じゃないと思うわ」
「悪くは無くても面倒ではあるからなあ」

「豪己さんに連絡してみたら?」
「ごうは忙しいからな……でも、話してみる」

「もしもし、ごう」
『おう、今丁度家の近くにいるぜ、行っていいか?』
「いいぞ」
『おう、今から行くぜ』

 ごうは5分もせずに家に来た。
 ごうとひまわりが自己紹介をする。

 ごうが座るとひまわりが不安そうにラーメンの器に山盛りの肉じゃがを盛ってごうの前に置いた。

「ほ、本当に食べきれるのかな? 量が多すぎると思うけど」
「大丈夫だ、ごうなら行ける」
「おう、助かるぜ。うん、うまい」

「ご飯も多めでいいのかな?」
「ご飯もラーメンの器で盛って欲しい、ごうなら行ける」

 ごうが口に物を入れたままサムズアップをした。

 俺は黙々と食べるごうを見つめた。
 毎日きっちり食べているのか?
 ごうの事だ、相談を受ければ食事を抜いてでも相談に乗るだろう。

 俺もごうに頼っている。
 ごうの負担が大きすぎる気がした。

「ふう、うまかった。ごちそうさん、この家は落ち着くぜ」

 ごうは家族と仲が良くない。
 詳しく聞いた事は無いが家族にお金を払った後また家に行くとお金を要求されるらしい。

「いつでも、と言ってもおばあちゃんかひまわりの余裕がある時だけだけど来て欲しい」
「おう!」

「ごう、疲れてないか?」
「へへ、俺は体だけは丈夫だからよう、大丈夫だぜ! 達也の方は訓練の成果は出たか?」

「いや、伸びが無くなった。もう年かもしれない」
「レベルマックスだろ」
「違うな。何かをすれば伸びるかもしれないけど、基礎訓練はもう練度を維持するトレーニングだけでいい気はする」

「時間が出来るか?」
「出来るかもしれない。ただそこなんだけど、最近童子が弟子にしてくれとしつこい。それと豊香からは2回連絡が来た」

 2人はレベル6冒険者パーティー、デュラハンキラーのエースだ。
 デュラハンを倒すために協力はして欲しい。
 能力は高いし優秀だ。
 悪い人間ではない。
 でも面倒ではある。

「実はな、デュラハンキラーから何度も達也の指導を受けたいと連絡を受けている」
「童子はごうの所にまで連絡をしてたのか、迷惑をかけたな」
「いや、童子はいつもの事だ、だが工藤が連絡してきた」
「工藤さんか」

 デュラハンキラーのリーダーは童子だ。
 でもデュラハンキラーを仕切っているのは工藤さんだ。

「それにハンドスピナーからも達也の指導を受けたいと連絡を受けている」

 ハンドスピナーはデュラハンキラーと同じレベル6冒険者パーティーだ。
 
「そっか、うん、定期的にウエイブウォークに指導をしてるんだけど、みんなが良ければ呼んでみたい」
「達也がいいならデュラハンを倒す宣伝もしたい」

「いいぞ」
「助かるぜ、宣伝はいくらしてもいい。俺がまとめていいか?」
「頼む」
「おう! 達也、少し外で歩かねえか?」
「行こう」

 2人で外に出た。
 そして公園に入る。
 8年前、沙雪を遊園地に連れて行こうとしたあの時も同じ公園でごうと話をした。

「覚えているか? 2人でデュラハンを倒す約束をよう」
「覚えている」

 8年前にゴーレムがダンジョンから溢れたあの日、

 沙雪を遊園地に連れて行こうとしたあの日、

 2人で話をした。 

『俺は人を育ててまとめる。達也は自分を高めてくれ。一緒に沙雪の両親を殺したモンスターを倒そうぜ!』

 あの言葉をごうは守り続けた。
 それがどれほど大変な事だっただろう?
 ごうは、本当に頑張ったんだと思う。

「俺はよう、威勢のいいことを言っておきながら結局人を育てる事が出来なかった。結局は達也の力でデュラハンを倒す宣伝をしなければ人すら集められなかった。達也には頼りっぱなしだぜ」
「そんな事は無い、頼っているのは俺の方だ」

 心がざわざわして落ち着かない。
 ごうは出来る人間だ。

 でも1人で出来る事は限られている。
 結果を振り返れば俺は人をまとめる手助けをほとんどしていない。
 ごうは地道に仲間を増やしてダブル一期生の引率も剣の指導もしてきた。
 
 ごうはどれだけの苦労があっただろう?
 実際に俺は今日話をするまでデュラハンキラーとハンドスピナーの指導の話を知らなかった。
 ごうは俺が集中出来るようにと考えて言わなくていい事を言わなかったんだ。
 俺はごうに守られている。
 そしてごうはそれにより時間を失っていた。

 ごうは本当なら俺の配信で色々と宣伝をしたかったはずだ。
 デュラハンを倒す仲間を集め、国をいい方向に導きたいはずだ。
 今の国の在り方は厄災クラスのモンスター、デュラハンを発生させやすい状況だ。

 デュラハンの発生は人災だ。
 でもごうは昔の約束を守る為に俺に言いたい事を言えなかった。
 ごうは1度決めたら頑なにそれを守ろうとする。

 俺の成長が止まった。
 デュラハンを倒すための準備は出来ていない。
 溢れ出しが起こるダンジョンはまだある。
 俺は一週間も休んだ。

 ごうはデュラハンを倒す時に他のダンジョンで溢れ出しが起きないようにと考えている。
 もしもそれが起きてしまえば良かれと思って協力してくれた冒険者がバッシングを受けかねない。
 批判の言葉は予想出来る。

『冒険者を集中させたせいで被害が出た!』

『冒険者は人の事を考えていない!』

『お祭り騒ぎをして人が死んだ! これは間接的な人殺しだ!』

 ごうは未来を見ている。
 でも今だけ、その時だけの人間はいる。

 批判を受けるリスクがある為に国会では自衛隊を防から攻に変える議論だけが行われて議論は進まない。
 『攻撃をしている間にモンスターが溢れたらどうするんだ!』と主張する人間が多い。

 自衛隊を防から攻に変えた瞬間に他の場所でモンスターの溢れ出しが起きて犠牲が出れば最悪国会議員は辞職に追い込まれる。
 結果が出て当然、出なければ徹底的に批判する、それが世論だ。

 だがモンスターが増えれば溢れ出しが起きやすくなる。
 巡り巡って議論を潰す勢力がモンスターの溢れ出し対策を遅らせる構造になっている。
 自衛隊の配置転換が進み少数の自衛隊が練度を上げる口実や溢れ出し調査の名目でモンスターを倒してはいるものの大きな成果は出ていない。

 みんなをまとめて結果を出す事は本当に難しい。
 ごうの役に立ちたい、そう思った。

「ごう、俺に出来る事は無いか?」
「今回の達也指導を配信したい、デュラハンを倒す仲間を集める宣伝をしつつな」
「それ以外にないか?」
「指導の結果を見てからだな」
「分かった」

 俺とごうは分かれて家に帰る。

 出来る事がまだある。

 例え成長が止まったとしても、出来る事はたくさんある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

婚約破棄で落ちる者

志位斗 茂家波
ファンタジー
本日、どうやら私は婚約破棄されたようです、 王子には取りまきと、その愛するとか言う令嬢が。 けれども、本当に救いようのない方たちですね…‥‥自ら落ちてくれるとはね。 これは、婚約破棄の場を冷ややかに観察し、そしてその醜さを見た令嬢の話である。 ――――――― ちょっと息抜きに書いてみた婚約破棄物。 テンプレみたいなものですけど、ほぼヒロインも主人公も空気のような感じです。

処理中です...