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第44話

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 おばあちゃんはしろまろを大事にした。
 ゆたんぽにすると言って一緒に寝て起きて世話をする。
 おばあちゃんの顔は明るくなった。

 俺はまた変なバズリをしたがそれは小さな問題だ。
 ドラゴンを倒して冒険者組合に行くと黒魔導士、しかも女性が多くいた。
 男性もいたが優しそうな人が多い。

 奈良君が真剣なまなざしで女性にテイム契約の説明をしていた。
 奈良君は自分専用のうさぎにブラッシングをしていた、あのブラシは買ったのか?

「説明にもあった通り、この子を大事に出来ない場合はテイム契約の移し替えは出来ません。大事に出来ますか?」
「大丈夫です。大事にします」
「分かりました。契約をあなたに移します」

 テイム契約を移して契約が完了した。
 女性がうさぎを抱きかかえる。

「大事にします」
「ええ、良い使い魔ライフを」

 奈良君が笑顔で女性を見送った。
 そしてうさぎを持って俺の所に歩いてくる。

「お疲れ様です。納品ですか?」
「うん」
「奥にご案内します」

 俺はドロップ品を出した。

「固有ドロップ品より魔石が少ないようですね。そういう方針ですか」
「しろまろ、使い魔にあげるんだ」
「良いと思います」

 そう言いながら奈良君が自分のうさぎを抱いている。

「しばらく魔石の納品は少なくなると思う」
「ええ、気持ちは分かります」
「料金の受け取りはいつものように、じゃ」
「お疲れ様です」

 家に帰るとおばあちゃんが出迎えた。
 しろまろも後ろをついてくる。

「お帰りなさい」
「ただいま」
「もうすぐ食事が出来るわ。しろまろにはニンジンをあげるわね」

 おばあちゃんが笑顔でしろまろに話しかける。
 テイムして良かった。

「おばあちゃん、食事の合間にこれも食べさせてほしい」

 ジャラジャラジャラジャラ!
 魔石を箱に入れた。

「こんなに、億はするんじゃないかしら?」
「うん、そうだけど魔石を食べると強くなるから」
「たくさん食べたら大きくなりすぎないかしら? せっかくこんなに可愛いのに」

「大きくなる話は聞かないな。でもスキルは覚えるかもしれない」
「様子を見ながらあげてみるわね。美味しく食べてくれるかしら」

 俺は試しに魔石を1個しろまろの前に置いた。
 しろまろが魔石を飲み込んだ。

「まだ食べたそうにしているわね」
「大丈夫そうだな」
「しろまろは大切に育てるわね、食事の用意をするわ」

 俺はその日は休みドラゴン狩りを続けた。


【次の日・冒険者組合】

 奈良君が抱きかかえるうさぎにリボンが付いていた。

「リボンが似合っているね」
「そうでしょう、この子の毛が白いので黒いリボンにしようかとも思いましたが赤にして正解でした」
「う、うん、納品をお願いしたい」
「分かりました」

 奈良君のうさぎ愛が凄い。


【更に次の日・冒険者組合】

 ロビーの一角がうさぎ専用スペースになっていた。
 間に合わせで作られている感はあるが子供が遊ぶカラフルな遊具が備え付けられておりうさぎが滑り台を滑りぴょんぴょんと跳ねまわっている。
 奈良君、冒険者組合に来るたびに何かを変えている。
 うさぎへの思い入れの強さを感じた。
 そして今日もうさぎを引き取る為に冒険者が来ている。

「さすが達也さん、気づきましたか」
「奈良君、予算が下りたんだな」
「ええ、入りずらい冒険者組合のイメージを変える目的とテイム冒険者が活動しやすい環境を整える目的ですぐに許可が下りました。早速使い魔を連れた冒険者がここを見学に来ています。うまくいけば拠点をここに移して活動してくれるでしょう」

 周りにはネコや犬などのモフモフモンスターを連れた黒魔法使い、そしてうさぎのモンスターを買いたい黒魔法使いも居てにぎわう。

「本当は皆が求める環境があるんです。それが日本の成長に繋がります。ですが安全でがんじがらめになった日本では中々物事を変える事は出来ません。達也さんの影響力が無ければここまで早く物事は進まなかったでしょう」
「悪目立ちし過ぎている気もするけど、役に立てて良かった」

 どんどん改革を進め賑わう冒険者組合を見て、

 奈良君を見て思った。

 安全と成長はトレードオフ、か。

 日本は安全や安定を維持する事で成長を潰してきた。
 安全に振りすぎて改革を潰す日本の在り方、でももう少し成長に振って失敗してもいいから挑戦できる空気と環境があれば本当はもっと成長するんだろうな。

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