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第40話

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 おばあちゃんがため息をついた。

「どうしたんだ?」
「ごめんなさい。何でもないのよ」
「……」

 俺は魔眼を含む五感すべてでおばあちゃんを観察した。

 そしておばあちゃんの過去も含めておばあちゃんの事を考える。

 おばあちゃんは上品な人だ。
 人の嫌がる行動は取らない。
 無意識レベルでマナーが染みついている。

 そんなおばあちゃんがため息をついた。
 普通ではない。
 沙雪がいなくなってからおばあちゃんの元気が無くなった。
 さみしいんだ。

 いや、前から気づいていた。
 俺はやれることをやって来たのか?

 全然やっていない。
 沙雪を家に戻す事は出来ない。
 でも、何か他の方法はあったはずだ!
 最適な答えを探す事に集中しろ!

 なんだ?
 俺は何が出来る?
 どうすればおばあちゃんのさみしさが和らぐ?

「達也さん、どうしたの?」
「いや、おばあちゃん、動物で何が好きなんだ?」
「私がさみしそうだからペットを飼おうと思ってくれたと思うの。でもペットは私より早く死ぬかもしれないわ」

 おばあちゃんは気を使う。
 早く死ぬのが嫌、それはその通りだと思う。
 でもそれは良い面と悪い面がいくつもある中で1つの悪い面を言っただけだ。

 おばあちゃんがペットを飼えばきっと心は安定する。
 俺、諦めるなよ。
 これはおばあちゃんの遠回しな遠慮だ。

 諦めるなら手を尽くしてからだ。
 俺はまだ手を尽くしていない!
 まだ俺は本気を出していない。
 諦めるなら出来る事をやってからだろう!

「そっか、無理だとしてもどんな動物が好きなんだ? 犬とか、猫とかさ」
「そうねえ、犬や猫よりもうさぎが好きね。でもうさぎは世話が大変で飼えないわね、面倒を見切れないわ」

 俺は頭をフル回転させた。
 おばあちゃんは俺に気を使っている。
 うさぎが好きなのは本当だろう。

 そしてその上でうさぎの世話には手がかかる点を挙げて俺が不快にならないように遠回しに気を使わなくていいと言っている。
 そしてペットが途中で死ねばおばあちゃんは本当に悲しむだろう。

 モンスター、うさぎがいた!
 モンスターのうさぎをテイムすればいい。
 モンスターでも見た目はうさぎと何も変わらない!
 黒魔法さえ使えればテイムできる。

 モンスターなら寿命で死なない、テイムをすれば危害を加えない、丈夫、護衛にもなる。
 完璧な作戦だ。

 自分の顔がにやけてしまう。

「そっか、出かけてくる」
「トカゲダンジョンに行くの?」
「今日は気分を変えて違うダンジョンでリフレッシュして来る」
「そう? 行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」

 俺は山に入り走った。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 木の枝をバキバキとへし折りながら進み最短距離でダンジョンに走る。

 ドローン5機を起動させて配信を始める。

「配信スタートです」

『1番ゲット!』
『1番げとー!』
『いつも不意打ちのように配信が始まる』
『不意打ちなのに同時接続が伸びる不思議』

『あれ? 今日はドラゴンのダンジョンと違うよな?』
『うさぎダンジョンって奥に書いてあるで?』
『ええええええええええええええ! 初心者ダンジョンやん!』
『あかん、達也がダンジョンに入れば根絶やしにしてしまうで!』
 
「根絶やしにはしません。気分を切り替えてリフレッシュしたいので。スマホをしまいます」

『リフレッシュしたいのにダンジョンに来る不思議』
『あれだ、漫画家であるだろ? 連載に疲れたのでお絵かきしました的な、根っからの冒険者なんだろう』
『だから休まないのね』

『あ、うさぎがいた!』
『ん? 走ってスルーした?』
『どゆこと? 達也が見逃すっておかしくない?』
『みんなの迷惑にならないようにダンジョンの中で全力ダッシュランニングとかかな?』

『またスルーした!』
『うさぎはスルーなのか』
『いや、待て! うさぎのまえで急に止まったぞ!』

「この個体は、ぷっくりしてて可愛いな」

『意味が分からん』
『モンスターに可愛いとか可愛くないとかどうでもいいだろ』
『目つきが怖いだろ、殺意を感じる』
『達也の行動は後にならないと分からなかったりする。見守ろうぜ』
『うさぎに悲報、飛び掛かって片手で捉えられる』
『なんか、こう見ると可愛く見えてくる』

「テイム」

『いやいや、テイムは普通モンスターをボコった上で低確率で成功する。ボコってないのにテイムは出来んて』
『達也氏、意味不明行動を取る』
『さっきから何がしたいんだろ? ストレスがたまってんのかな?』

『こういうリフレッシュ方法なん?』
『待て! 待てって! テイムが成功しておる!』
『はあ! おかしいだろ! 基本全無視で1発でテイム成功だと!』
『でもうさぎの目がきゅるんとしてて殺気が抜けている!』
『ほんまや!』

 うさぎを下ろすと俺の足にまとわりついてぴょんぴょんと跳ねる。
 殺意が消えてきゅるんとした顔が可愛い。

「よーしよしよし!」

『やりたいことがだんだん見えてきた』
『達也の行動は結果を見ないと分からないよな』
『何でテイムに成功したんだろ?』
『仮説だけど、達也は技量が異様に高い。テイムはジョブ才能より黒魔法のコントロール技術の方が重要だ。高すぎる技量で基本を省略できた。でだ、達也の動きを見る限りうさぎなら100%、もしくは高確率でテイム可能なんじゃね?』

『あれ? ダンジョンから出たぞ? うさぎを肩に乗せておる』
『野生成分が消えて可愛い』
『もっちりしてるな』

「配信終わります」

『え、ちょっと!』
『終わるの早くないか! 絶対この後何かやるだろ!』
『結末を知りたい』
『そのうさぎどうすんの!』

 俺は配信を終わらせて家に帰った。


 家に着くとうさぎを背中にすっと隠す。

「ただいま」
「達也さん、お帰りなさい。沙雪ちゃんとその友達が来てるわよ」
「そうか」

 リビングに入るとおばあちゃんが作ったお菓子の甘い香りがした。

「おばあちゃん、プレゼントがあるんだ」
「あら、なにかしら?」
「これ」

 背中に隠していたうさぎを前に出した。

 モコッとした愛くるしい姿。

 おとなしい性格。

 モンスターだから丈夫で寿命で死ぬ事は無いはずだ。

 おばあちゃんより沙雪が連れてきたJKが反応してうさぎを囲む。

「わあ、かわいい」
「ぷっくりしてていいよね」
「フワフワしてる」

「おじさん、木の枝が付いてるよ」
「お? 気がつかなかった」
「達也さん、お腹が空いたでしょう? 何か作りますね」
「うん、お願い」

 おばあちゃんが食事を作ってくれた。 
 おばあちゃんが作った飯がうまい。


 午後になると俺はトカゲダンジョンでドラゴンを倒して家に帰る。
 沙雪とその友達が家にいた。

「おじさん、お願いがあって」
「このうさぎを私に下さい! お金なら払います! うさぎをテイムするのが夢だったんです!」

 このJKは悪い人間には見えない。
 でもまだ子供と言うか、物事を深く考えない無邪気な面がある、そう見えた。

「すまないがこのうさぎはおばあちゃんにあげたいから」
「……私は、いいわ。この子にあげましょう」

 おばあちゃんが遠慮した。
 これはいつも通りだ。

 だがいつもならしっかり説得する沙雪が何も言わない。
 そう言えばこの子は最近家族の誰かを亡くしていた。
 しっかりと聞いたわけじゃない。
 でも落ち込んでいて沙雪が相談に乗っていた。
 おばあちゃんが美味しい物を作って慰め、泣いている事があった。

 俺はこのJKをあまり知らない。
 俺のJKに対する解像度が低すぎる。
 沙雪が何も言わない、その点を考えるとJKは本当にさみしいんだろう。

 俺も高1で両親を失った。
 その時の俺はもっと子供だったんじゃないか?
 あの時、ごうの凄さがいまいちわからず、後になてから凄さが分かった。
 俺はあの時、もっと子供だった。

 沙雪は優しい子に育ってくれた。
 俺は基礎訓練の伸びが終わってダンジョンでモンスターを倒している。
 でも、もっと出来るだろう。
 1日もかからずうさぎをテイムで来た。
 俺は、本気を出していなかった。

「ぐ! そ、そうか。うん、テイムの契約を移そう」

「やったあ!」

 うさぎを貰ったJKが喜んで飛び跳ねた。
 さっきのやり取りで沙雪は俺の意図を察したようだった。

「おじさん、おばあちゃんも、ごめんね」
「は、はははは、いや、いいぞ」

 俺は詰んでいない。
 全然詰んではいない。

 明日また行けばいい。

 またうさぎをテイムすればいい。

 1体だけでは駄目だったんだ。

 たくさんテイムすればいい。


 ◇


 次の日達也はテイムに向かった。

 JKのSNSによりネット名探偵が動き出し達也の行動は推理されていた。

 そして達也が動く動機まで読み取られていた。

 ネット名探偵が掲示板で推理を開始する。
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