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第32話

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 おばあちゃんとテレビをつけると俺の話題が流れる。

「また達也さんのお話ね」
「俺はただただゴーレムを倒しただけなんだけどな。同じことの繰り返しなのにおかしい」
「テレビを見て見ましょう」

 女性アナウンサーと男性アナウンサーが2人で番組を進行する。

『またまた赤目達也さんが、世間をお騒がせしています。今回は冒険者に復帰してマウンテンカノン7体を討伐し世間をお騒がせした赤目達也さんのその後に迫ります』
『何と言うか、ふふふ、話題に困らず、いつもサプライズを欠かさない方ですよね?』

 コメント役と思われる男性が笑う。

『そうなんです、まずはこのテロップをご覧ください』

 たばこの箱とドロップ品の山の写真が映し出される。
 これって奈良君が撮った写真か。
 煙草の箱がある事でドロップ品の山の大きさが分かりやすくなっている。
 なんでたばこ? と考えたけどみんなにとっては見やすいんだな。

 同じような事を前もテレビで見た。
 これではネットでバズらない。
 いつもの日常が戻ってきた気がする。

『ドロップ品の税引き報酬を番組独自で予測してみました。後出さん、いくらだと思いますか?』
『そう、ですねえ、少なくとも億は行くんじゃないですか?』

『具体的に、何億でしょう?』
『ん~、2億!』
『んー、惜しいです、正解は何と! 4億6千万です!』
『全然おしくないですよ! ええええええええええええええええええ! 4億6千万!』

『そうなんです、しかも何と、1日のダンジョン探索で倒したドロップ品との事です』
『これは、ゴーレムダンジョンが枯れるんじゃないですか?』
『そうなんです。赤目さんの凄すぎるダンジョン攻略によって、防衛省も動きました。VTRをご覧ください』

 ん?
 今度は新が撮った動画か。
 ただ配信を始めただけでバズる要素はない。
 俺がドローンを貰う時の会話が流れる。

 VTRが終わるとアナウンサーが笑顔で話しを振る。

『達也さん、今回はまさかの防衛省まで動かしてしまいました。流石ですね』
『いやあ、これほど影響力のある冒険者は達也さん以外に知りません』

『後出さん、赤目さんはこの短期間で多くのお金を手に入れました。このお金をどうすると予想しますか?』

『彼の行動は多くの人に寄付をするというより、この人だと決めた人を助ける癖があります。美人過ぎる、もしくは美少女過ぎる高校生の市川沙雪さんを引き取り、おばあちゃんを助け住居と生活費まで提供しました。その気になれば余裕で億を稼げることが分かっていてもお金ではなくダブル候補生10人を無償で育て、今まで冒険者に復帰せず指導を続けていました。時間を人に与える、それは言い換えれば100億、1000億と稼げる時間を人に使っているとも言えます。そしてダブル候補生全員に武具をプレゼントしてもいます。その事から考えるに』

『考えるに?』
『一旦CM行きます』

「後出さんはよく人を見ているわね」
「……」

「達也さん、本当に感謝しているのよ。お金の面もだけど、沙雪ちゃんがいなくなって家が静かになると思うの、一人でいるのはさみしいわ。安心できる人が私の作った食事を食べてくれる。それだけでうれしいの」
「食事を作ってくれて沙雪の面倒を見てくれて、感謝しているのは俺の方だ」

「そう言う達也さんだからみんながついてくるんでしょうね。あ、CMが終わったわ」

 おばあちゃんに家に住んでもらってよかった。
 おばあちゃんは小さなことでもいつも感謝してくれて沙雪の面倒を見てくれた。
 沙雪の上品なしぐさや言葉はおばあちゃんの影響だ。

『後出さん、赤目さんのお金の使い道、その予想をお願いします!』
『この人だと思った人にお金を使うでしょう。今いるのか、それともこれから現れるのかは分かりません。ですが、彼は自分がいいと思った人に即決でお金を使う。それが私の予想です』

 お金の使い道か。
 お金が貯まりに貯まっているけど考えていなかった。
 俺がいいと思った人は何もしなくても自分の力で上に行く事が多い。

 ……そう言えば、奈良君がまたダブル候補生を押し付けられそうになって断っていたな。
 俺と一緒に基礎訓練をした10人の顔を思い浮かべる。
 レベルの高いパーティーにスカウトされた子。
 先生になりたいと言って、それでもお金の為に冒険者として活動する事にした子もいた。
 でもその子は教えるのに向いていたと思う。

 噛み合わない感覚がする。
 なんだこの違和感は。
 ……ああ、そうか、お金の使い道があったわ。

 俺は奈良君に電話をした。

「もしもし、実は相談があって……」
『何でしょう?』
「次の冒険者を育成するために10億寄付したい」

『大歓迎です』
「うん、頼むね」
『出来れば、大まかな方針、イメージを聞きたいです』

「そっか、ダブルで先生になりたがってた子が1人いたよね? その子に頼みたい、1年1億の契約で様子を見たい」
『なるほど、ただ、1年で1億を渡すためには税金、管理費などがかかります。手取りで年1億ですか? それとも経費で1億ですか?』

「手取りで1億にしたい」
『はい、1年1億の契約でも1年で2億以上かかると思います。もちろん世論に税金を取る事で未来の損失になる事を訴えて国をバッシングをして貰うとして、何年で10億を使い切るイメージですか?』

「3年くらいかな」
『ダブル1期生1人の費用が仮に3年で8億かかるとして、ダブルだと2系統の魔法しか指導できません、基礎訓練だけの訓練をする、その認識でいいですか?』
「うん」

『3系統の基礎訓練をする為に1人、私が選んだ冒険者を1人追加してもいいですか? 半日だけでも1日1回の指導だけでも1人入れたいです』
「うん、きっちり3年で使わなくていいし、1年程度使い切るまで前後してもいいから2人に声をかけて欲しい」
『あまりに口やかましくて訓練の邪魔をする訓練生は私が排除しますがそれでいいですか?』

「うん、1人の為に訓練が止まるようなら追い出して欲しい、奈良君の手間を増やす人間は立ち入り禁止でいいよ」
『分かりました、後は任せてください。イメージとしてはダブル候補生は1日1時間30分の訓練を3セットで月曜から金曜出勤で祝日休み、冒険者による指導は希望を聞きつつ調整するイメージです。1回の指導で30人程度の規模大きめの質より数を重視した訓練にしようと思います』
「迷惑をかけるね」
『いえいえ、腕がなります』

 2人で笑った。

「奈良君、ありがとう」
「いえ、こちらこそ助かります」

 俺は電話を切った。

「10億も、いきなり決めていいの?」
「いいんだ。これがいい。明日は冒険者を休もう」
「それがいいと思うわ。記者さんが集まってくるもの」

 テレビから流れる俺のチャンネル登録者数の伸びなどの話が続き俺はテレビへの興味を失った。
 その日は何事もなく終わった。


 次の日、基礎訓練を終えてリビングに向かうとおばあちゃんと目が合った。

「やっぱり、達也さんはまたテレビをお騒がせしているわ」
「え? 俺ここにいるけど? 今度こそ何もしてないぞ?」

 テレビには奈良君と一緒に基礎訓練をしたダブルの冒険者が並ぶ。
 教えるのに向いていて冒険者になった子だ。
 記者がカメラを向けて集まっている。

『奈良さん! ホームページに記載された『赤目達也、後世の為10億寄付』の真相を教えてください』
「えええええ!」

 これもニュースになるのか!

『はい、赤目達也さんが育てたダブル一期生に達也さんが10億を寄付しました。10憶の報酬で彼は次の世代を担う冒険者の基礎訓練を指導します』

 カシャカシャカシャカシャ!

『赤目達也さんの狙いを教えてください!』
『詳しく教えてください!』
『どのような話し合いがもたれたのですか!』

 記者が一斉に質問を始める。

『質問をする場合は挙手をして指名した方が答えるようお願いします。その前に昨日あった事をすべてをお話しします。昨日達也さんから電話がかかってきて電話を取りました。そして赤目達也さんは10億寄付するから彼に基礎訓練を依頼して欲しいと言いました』

 カシャカシャカシャカシャ!

『その後に私は理由を教えてくださいと言いました。すると達也さんはこう言いました。彼は教えるのに向いている、とだけ言いました。以上です』

 すると横にいたダブル一期生が泣き出した。

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!

 泣いている顔に無遠慮にシャッターの光が浴びせられた。
 そして記者の質問が殺到し場が騒がしくなる。

 泣き続けたダブル一期生がマイクを取って話し始めた。

『僕は、達也先生に基礎訓練も、戦い方もタダで教えてもらいました。僕は先生に言いました、達也先生のように人に教えられる人になりたいと、でも教師になるには大学に行って教師になっても給料が低いと知りました。貧乏だった僕は教師を諦めて冒険者になりました。でも、先生は僕を違った形で教師にしてくれました』

 大学に行くと奨学金の形で借金をする事になる。
 頑張って先生になっても安い給料で何でも屋のように膨大な仕事が回ってくる。
 今教員免許を持っていても教師にならない人が多くいる。
 人を、それも子供を相手にするのは大変だ。

 彼は教える事が向いていた。
 でも家族を大学に行かせる為にはお金がかかる。
 結局彼は冒険者になった。

 彼は教師を諦めた、でも違う形で、冒険者を指導する形で教える事は出来る。
 俺は時間を使いたくない。
 だから10億で彼に指導をお願いする事にした。

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!

 奈良君の記者会見は続いた。
 話を聞いていると彼は冒険者を抜けようとしてパーティーに引き止められたらしい。

 そこで奈良君は国に圧力をかけた上でネットであった事を拡散させた。
 それにより間接的に冒険者パーティーに強い圧力をかけて強引にパーティーから抜けさせて冒険者組合の教育係として契約を結んだ。

 そして冒険者の基礎訓練が進むなら10億は安い、本来なら国が予算を出して動く案件だと訴えたが今は予算が少ない事情も説明した。

 記者会見が終わった後もまたバズった。
 奈良君が10億の依頼で基礎訓練を行った場合における将来の国益を簡易的にシミュレーションし、グラフをホームページに載せバズらせた。
 たった1つの簡易グラフは国家予算を効率的に使えない国へのバッシングに変換された。

 奈良君……上から怒られるぞ。
 いや、怒られたら辞める気なんだろうな。
 いつ辞めてもいいと思っている奈良君の方が国を変えている。
 皮肉な話だな。

 次の日俺は新聞の一面に載った。

『赤目達也、10億の寄付で国の予算に問題提起』

『また国会を動かす赤目達也』

『赤目達也、10億の寄付で将来の国益1000億円の未来を作る』

 どう考えても手柄の大部分が奈良君の手腕だ。

 奈良君は凄いわ。



 赤目達也は自分の影響力の大きさを過小評価していた。
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