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第31話

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 家で訓練を終わらせるとおばあちゃんがテレビの前で正座をしていた。

「おばあちゃん、どうしたの?」
「見て、沙雪ちゃんが取材を受けているわ」
「おおお! ほんとだ!」

『このように美少女過ぎる天才高校生、市川沙雪さんは白と黒の魔力球を宙に浮かせるダブルの基本訓練を欠かさず行っています』

 沙雪が座禅を組んで基礎訓練をする映像が流れた。

「黒矢と白帆の娘だからな。注目されるのは当然だ」
「違うと思うわ。達也さんがらみね」
「俺は何も……」
「しているでしょう?」

『達也おじさんの事をどう思いますか?』
『最初はおじさんの凄さを全然わかりませんでした。白と黒の魔力球を浮かせるのも普通の事だと思っていましたし、ウエイブウォークを育てた事も、ウエイブウォークが何故パーティー名をウエイブウォークにしたのかも何も考えず生活していました。でも』
『ウエイブウォークの意味ですか? あ、すいません。最期までお願いします』

『いえ、どうぞ』
『では、ウエイブウォークのメンバーがなぜパーティー名をその名前にしたのか聞かせてください』
『私の予想です』

『いいですよ。予想を教えてください』
『はい、ウエイブライドにいたおじさんから取ってウエイブウォークのウエイブを貰い、そしておじさんには遠く及ばない、それでも私達は歩いていく、そう言う意味でウエイブウォークにしたんだと思いました』

『深いですね、達也おじさんに対する考え方がよく分かりました』
『い、いえ全然言ってません』
『では次に』
『はい』

『今日またやらかし、ごほん』
『やらかし?』
『失礼しました。今日もいい意味で世間をお騒がせしている達也おじさんの件についてはどう思われますか?』

『えっと、また、何かやったんですか?』
『ゴーレムのダンジョンに行き、7体のマウンテンカノンをソロ討伐して1人当たり億越えの報酬を1日で貰いました』

 沙雪と記者の少し噛み合わない話が続き、取材が終わった。

 俺、またバズったのか。



【次の日】

 ゴーレムのダンジョンでモンスターを狩り冒険者組合の建物に入ると奈良君が笑顔で新聞を数冊とタブレットを持って来た。

「おつかれさまです。見てください」
「ん? ……ええ!」

 新聞の1面やタブレットを見るとおかしな見出しが並ぶ。

『達也氏、またやらかす』

『大暴れの達也おじさん、マウンテンカノン7体を瞬殺する』

『達也氏、冒険者組合支部の仕事をパンクさせる』

『俺の日給は億越え! 赤目達也バズリ散らかす』

「見事なバズリっぷりで更に冒険者組合の効率についてもみなさんに知らしめる結果となりました。これを見てください。『IT化に遅れ、冒険者組合職員にしわ寄せ』『ゴーレムダンジョンの自衛隊、配置移動ままならず』流石達也さん。社会問題に切り込んでいますね」

 自衛隊は防御の為ダンジョンが多くある地域に配置されている。
 溢れ出しが起こるダンジョンのモンスターを狩って安全が確保されても自衛隊はトップの命令は緊急時で無ければ移動できない。

 上はかなり保守的だ。
 もし自衛隊の配置を移動させた後でダンジョンからあふれ出しが起きたとする。
 自衛隊でも、招集を受けた冒険者でも対処できず被害が出た場合トップの首が飛ぶ可能性は十分ある。

「何も切りこんでないけど! あれ? マスコミがいない?」

「仕事の邪魔になる為出て行ってもらいました。達也さんのおかげで冒険者組合の業務を遅延させるマスコミへのバッシングが強くなりとてもやりやすかったです」
「一切自覚が無い」

「昨日の配信は国家の在り方について皆に考えさせる素晴らしい配信でした」
「何もやってないけど結果的にそうなったか。ドロップ品の納品処理をお願いします」

 ジャラジャラジャラジャラ!
 俺は多すぎるドロップ品の山を出してちらっと奈良君を見た。

「ありがとうございます」

 奈良君があらかじめ用意していたたばこの箱を前に置きドロップ品の写真を撮る。
 誰でもサイズが分かるようにたばこの箱か。
 煙草の箱に何かメッセージ性があるのか?
 いや、適当に借りたんだろう。

 お金で比較してもいいのではとも思ったが、1万円を一緒に表示する画像だけ切り抜かれて『このドロップ品の山が1万円!?』とかやる人が出てきそうだ。

「ホームページに載せますが、迷惑ですか?」
「今更隠す事もないな」
「良かったです、ホームページにアップします」

 ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ!

 その後俺はゴーレム狩りを続けた。
 そしてまたバズった。

 たばこの箱とその奥にドロップ品の山の画像がテレビで取り上げられる。

 おかしい、俺は配信をしていないのに!

 前と同じようにゴーレムを倒しているだけなのに!

 何かがおかしい!


【数日後】

 冒険者ギルドに行くと奈良君がスーツを着た男数人を連れてきた。
 新がその様子を配信している。
 今日も何かが始まる気がする。

「防衛省の者です。願いしたいことがあって来ました」
「はい? 分かりました」

「佐藤です」
「佐伯です」
「遠藤です」
「鈴木です」

 みんなが名札と名刺を見せる。

「どうも、赤目です」
「早速本題に入ります。赤目達也さん、ダンジョン配信をしていただけませんか?」
「……ん?」

「今から順を追って説明させてください」
「……はい」
「もしも赤目さんが配信を行いITの力で現地に行かずともダンジョン内部の情報を入手できれば防衛費の削減、自衛隊の配置を速やかに、そして効率的に組み替えることが可能となります」

 国のITやってますキャンペーンか。
 配信は新しい技術ではない。
 でもこういう活動をやっている事を広める事で知られていなかった活動をPR出来る。
 おじいちゃんおばあちゃんはITっぽい事をやっているだけで政府が動いていると思ってくれる。

「配信、ですか」
「はい、最新型のドローンが5機あります。もしよろしければ今後ダンジョンに入る際はドローンを起動し、配信をしつつモンスターを倒すついでにダンジョン情報をネットに開示して欲しいのです。よろしければ配信の端末、使用料はすべてこちらで負担します。魔石を動力として動いているので充電などの手間もありまません。ドローンが破損した場合こちらで無料による交換をする事が出来ます。配信やその後の動画投稿により収益も生まれます。いかがでしょう?」

「その、ドローンの配信をやった事が無いので、操作に不安があります」
「問題ありません、初期設定はすべてこちらで行います。そして操作は何度も繰り返し教えさせてください」
「分かりました。やってみます。とりあえず1機使ってみます」

「出来れば5機を同時に使用していただきたいのです。戦闘が始まればどうしてもドローンが壊れる事もあるでしょう。壊れる前提でメインが壊れれば即座に次のドローンが配信を継続出来ます」

 俺はその日、ドローンのテスト配信を行った。

 おかしい、俺のチャンネル登録者数がテスト配信だけで10万を超えて、さらに増え続けていた。

 俺は、配信者になった。



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