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第6話
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夢を見ていた。
俺は魔力の質がどのジョブにも向いていなかった。
偏りが無い中途半端な魔力。
生まれ持った魔力の質は変えられない。
それでも冒険者になると決めたのは高校に入る頃両親が交通事故で死んだからだ。
剣士になった理由は短い訓練期間で戦えるようになると知ったからだ。
才能の無い俺は期待される事無く地味に弱いモンスターを倒して訓練を続けた。
ごうは最初から俺の面倒を見てくれた。
そしてウエイブライドを紹介してくれた。
『よろしくな、パーティー『ウエイブライド』の市川黒矢だ』
2人だけのパーティーだけどと冗談を言って俺の緊張をほぐしてくれた。
市川黒矢。
市川白帆。
2人は沙雪の両親だ。
2人はとても優しかった。
黒矢が俺の手を握った。
握手をしたその手は、
とても力強くて、
大きかった。
「……きて! おじさん! 起きて!」
沙雪の小さな手が俺の体をシェイクする。
「新しい、技か」
「起きて! 朝だよ!」
「あれ? 沙雪、今日は学校なのに起きるのが早いな?」
「私は起きられるよ!」
「そっか。よしよし」
沙雪はどんどん大人になっていく。
「おじさん今日はやる気満々だ。すぐに起きるぞ」
「ほんとうに?」
「ああ、本当だぞ?」
立ち上がり1階に降りるとおいしそうな和食が並ぶ。
「おばあちゃん、ありがとう」
「さあ、食べましょう」
「「頂きます!」」
「おばあちゃん、おじさんが酷いんだよ? 自分は朝起きないのに『沙雪、今日は学校なのに起きるのが早いな?』だって」
「まあ、失礼しちゃうわね」
「失礼しちゃうわ」
「「ねー!」」
おばあちゃんと沙雪が笑う。
沙雪は冗談を言って笑いたいお年頃か。
「味噌汁がうまい」
テレビを見ると沙雪が通う学校の子供が特集されていた。
『雄太君は戦士と黒魔法使いの訓練を受けています。訓練を受ける姿は真剣そのものです』
「あ、テレビの子、知ってる!」
「同じ学校の子供か」
2つのジョブを幼いころから訓練するダブルプロジェクト。
新たな試みとか言ってるけど冒険者が足りないから才能が無いと言われる子も有効活用して冒険者不足を何とかしたい思惑もあるんだろうな。
「私もダブル出来るよ!」
「沙雪ちゃんは偉いわね」
沙雪は頭を撫でられながら食事を摂り、手早く準備を終えて学校に向かって行った。
「沙雪が楽しそうだな」
「学校に新しい友達が出来て朝集まって遊ぶんですって」
「……だから今日は学校なのに早起きなのか」
おばあちゃんが笑い出すと俺も笑った。
「学校が楽しいのは良い事だ」
「そうね、今日から毎日早起きしてくれるわ」
「手が、かからなくなっていくな」
「沙雪ちゃんはどんどん大人になっていくわ」
「……」
「大人になるのなんてあっという間よ。そうなればこの家を出て行くかもしれないわ」
「……沙雪は成長が早い」
成長して欲しい気持ちとこのまま子供でいて欲しい気持ちがぶつかり合う。
沙雪を見ると黒矢と白帆を思いだす。
「おし! 訓練をするか!」
俺は頬を両手でパチンと叩いた!。
人差し指だけで逆立ちをする。
基礎訓練が未熟な俺は戦士の身体強化を意識するために体に負荷をかける。
体を強化しつつ黒い球体を100個作りそれもキープする。
やっと身体強化をしつつ黒い球体を100維持できるようになった。
黒い魔力は100個から数を増やせなくなった。
いくら基礎訓練を続けてもこれ以上増やせない。
魔力出力の低さを痛感する。
黒矢は100を超える黒い魔力球を余裕で出していた。
ジョブの才能は魔力の質で決まっている。
どのジョブの才能にも恵まれなかった俺は3つのジョブすべての魔力出力が低い。
ならば3つの魔力を束ねて同時に出せばいい、それが俺の仮説だ。
だが成功例が無い。
2つ以上の魔力を同時に使用すれば難易度が一気に跳ね上がる。
次は、白い魔力球を出そう。
白い魔力球を出そうとした瞬間に黒い魔力球が消えた。
駄目だ、白い魔力を出すのが苦手、いや、違う。
ただの訓練不足だ。
俺は座って白い魔力球を作り維持するが球体の数が少ない。
魔力の質に偏りが無いなら100程度まで白い魔力球を出せるはずだ。
やはり訓練不足だな。
白い魔力球を出す基礎訓練を続け自分の内面を観察し続ける。
まずは3種類の魔力を伸びなくなるまで伸ばそう。
呼吸をするように使えなければ同時使用は出来ない。
まだだ、まだ基礎が足りない。
魔力訓練を続けた。
沙雪が帰ってくると俺の隣に座った。
そして白と黒の魔力球を1つずつ出してキープする。
歪みのないきれいな魔力球でよどみも無い。
沙雪は特化型じゃない。
黒矢と白帆の才能を半分ずつ受け継いだ。
それでも7才で黒と白の魔力を同時にコントロールしている。
沙雪は天才だ。
訓練を続けて思った。
3つの魔力を同時に使うのは思ったよりも難しい。
俺の年齢的にもタイムリミットがある。
冒険者を続けながら沙雪を育てて訓練を出来るほど簡単じゃない。
3つの同時コントロールが出来なければあのモンスターを倒すことなど出来ない。
明日、冒険者の免許を返しに行こう。
消せる雑念はすべて消す。
俺は魔力の質がどのジョブにも向いていなかった。
偏りが無い中途半端な魔力。
生まれ持った魔力の質は変えられない。
それでも冒険者になると決めたのは高校に入る頃両親が交通事故で死んだからだ。
剣士になった理由は短い訓練期間で戦えるようになると知ったからだ。
才能の無い俺は期待される事無く地味に弱いモンスターを倒して訓練を続けた。
ごうは最初から俺の面倒を見てくれた。
そしてウエイブライドを紹介してくれた。
『よろしくな、パーティー『ウエイブライド』の市川黒矢だ』
2人だけのパーティーだけどと冗談を言って俺の緊張をほぐしてくれた。
市川黒矢。
市川白帆。
2人は沙雪の両親だ。
2人はとても優しかった。
黒矢が俺の手を握った。
握手をしたその手は、
とても力強くて、
大きかった。
「……きて! おじさん! 起きて!」
沙雪の小さな手が俺の体をシェイクする。
「新しい、技か」
「起きて! 朝だよ!」
「あれ? 沙雪、今日は学校なのに起きるのが早いな?」
「私は起きられるよ!」
「そっか。よしよし」
沙雪はどんどん大人になっていく。
「おじさん今日はやる気満々だ。すぐに起きるぞ」
「ほんとうに?」
「ああ、本当だぞ?」
立ち上がり1階に降りるとおいしそうな和食が並ぶ。
「おばあちゃん、ありがとう」
「さあ、食べましょう」
「「頂きます!」」
「おばあちゃん、おじさんが酷いんだよ? 自分は朝起きないのに『沙雪、今日は学校なのに起きるのが早いな?』だって」
「まあ、失礼しちゃうわね」
「失礼しちゃうわ」
「「ねー!」」
おばあちゃんと沙雪が笑う。
沙雪は冗談を言って笑いたいお年頃か。
「味噌汁がうまい」
テレビを見ると沙雪が通う学校の子供が特集されていた。
『雄太君は戦士と黒魔法使いの訓練を受けています。訓練を受ける姿は真剣そのものです』
「あ、テレビの子、知ってる!」
「同じ学校の子供か」
2つのジョブを幼いころから訓練するダブルプロジェクト。
新たな試みとか言ってるけど冒険者が足りないから才能が無いと言われる子も有効活用して冒険者不足を何とかしたい思惑もあるんだろうな。
「私もダブル出来るよ!」
「沙雪ちゃんは偉いわね」
沙雪は頭を撫でられながら食事を摂り、手早く準備を終えて学校に向かって行った。
「沙雪が楽しそうだな」
「学校に新しい友達が出来て朝集まって遊ぶんですって」
「……だから今日は学校なのに早起きなのか」
おばあちゃんが笑い出すと俺も笑った。
「学校が楽しいのは良い事だ」
「そうね、今日から毎日早起きしてくれるわ」
「手が、かからなくなっていくな」
「沙雪ちゃんはどんどん大人になっていくわ」
「……」
「大人になるのなんてあっという間よ。そうなればこの家を出て行くかもしれないわ」
「……沙雪は成長が早い」
成長して欲しい気持ちとこのまま子供でいて欲しい気持ちがぶつかり合う。
沙雪を見ると黒矢と白帆を思いだす。
「おし! 訓練をするか!」
俺は頬を両手でパチンと叩いた!。
人差し指だけで逆立ちをする。
基礎訓練が未熟な俺は戦士の身体強化を意識するために体に負荷をかける。
体を強化しつつ黒い球体を100個作りそれもキープする。
やっと身体強化をしつつ黒い球体を100維持できるようになった。
黒い魔力は100個から数を増やせなくなった。
いくら基礎訓練を続けてもこれ以上増やせない。
魔力出力の低さを痛感する。
黒矢は100を超える黒い魔力球を余裕で出していた。
ジョブの才能は魔力の質で決まっている。
どのジョブの才能にも恵まれなかった俺は3つのジョブすべての魔力出力が低い。
ならば3つの魔力を束ねて同時に出せばいい、それが俺の仮説だ。
だが成功例が無い。
2つ以上の魔力を同時に使用すれば難易度が一気に跳ね上がる。
次は、白い魔力球を出そう。
白い魔力球を出そうとした瞬間に黒い魔力球が消えた。
駄目だ、白い魔力を出すのが苦手、いや、違う。
ただの訓練不足だ。
俺は座って白い魔力球を作り維持するが球体の数が少ない。
魔力の質に偏りが無いなら100程度まで白い魔力球を出せるはずだ。
やはり訓練不足だな。
白い魔力球を出す基礎訓練を続け自分の内面を観察し続ける。
まずは3種類の魔力を伸びなくなるまで伸ばそう。
呼吸をするように使えなければ同時使用は出来ない。
まだだ、まだ基礎が足りない。
魔力訓練を続けた。
沙雪が帰ってくると俺の隣に座った。
そして白と黒の魔力球を1つずつ出してキープする。
歪みのないきれいな魔力球でよどみも無い。
沙雪は特化型じゃない。
黒矢と白帆の才能を半分ずつ受け継いだ。
それでも7才で黒と白の魔力を同時にコントロールしている。
沙雪は天才だ。
訓練を続けて思った。
3つの魔力を同時に使うのは思ったよりも難しい。
俺の年齢的にもタイムリミットがある。
冒険者を続けながら沙雪を育てて訓練を出来るほど簡単じゃない。
3つの同時コントロールが出来なければあのモンスターを倒すことなど出来ない。
明日、冒険者の免許を返しに行こう。
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