上 下
5 / 64

第5話

しおりを挟む
 冒険者組合に帰ると受付の奈良君が皆にコーヒーを渡す。
 そして俺は囲まれたまま質問責めにあった。

「みんな1度に1つずつ質問してくれ。そうしないと達也が困るだろう?」
「はい!」
「じゃあそこの君」

「どうして杖を使わないの?」
「杖は威力を高めてくれるけど発動が遅くなるから杖無しでも威力が出るように訓練した」
「その訓練って何ですか?」
「こうやって魔法の黒い球体を出したままキープする基礎訓練を続ければ出来るようになるよ」

 俺が黒い魔力球をいくつも出すと歓声が聞こえた。

「補足するが黒魔法や白魔法を使うなら杖を使ってくれ。杖無しで威力アップするのは高等技術だぜ」
「はい!」
「はい、どうぞ」

「今みたいに魔法の球体を貯めずに指から撃ちだす理由を教えてください」
「こうやって球体を作ってキープすると集中力を使うから一瞬で魔力を撃ちだして終わりにした方が楽なんだ」
「達也の言う事を補足するが連射は高等技術だ。慣れないやつがそれをやろうとすると一気に魔力を持って行かれる。皆は強くなるまで基本通り魔法の球体を作ってから撃ちだしてくれ」

「はい!」
「どうぞ」
「連射のコツを教えてください」
「これも今やっている基礎訓練を続けよう。3年もやれば連射を出来るようになるから」
「えええ! 3年も!」

 質問をした男性がやる気を無くしたような顔をした。

「はい!」
「どうぞ」
「達也さんは剣士でしたよね? どうして黒魔法を使うんですか?」
「俺って戦士の才能がないから仕方なく両方を使うように練習中、かな」

 ざわざわざわざわ!

「そろそろいいだろう。達也、ありがとう。そろそろ沙雪が学校から帰って来る時間だ」
「そっか、お疲れ様です」

 帰ろうとすると受付の奈良君がメガネをくいっと上げて話しかけてきた。

「冒険者として帰って来てくれないんですか?」
「すまない。俺は訓練と沙雪を育てる事だけに集中したいんだ」
「そう、ですか」

 俺は冒険者組合を出た。


【豪己視点】

「奈良が言っても駄目だったか」
「ええ、達也さんの意思は固いようです」

 冒険者のみんなが話し始めた。 

「あ、あの奈良さんが人を引き留めるなんて! 始めて見たかもしれない」

 奈良は新人の受付だが妙に落ち着いており冒険者としての力も持っている。
 いつも笑顔なのに威厳があるんだよなあ。

「そうね、達也さんはきっと凄い人なのよ」
「知らないのか? あの人は伝説のパーティー『ウエイブライド』の3人目だぜ?」

「「ええええええええええええええええええええええええ!」」

「豪己さん! 本当ですか?」
「本当だ!」

 ざわざわざわざわ!

「ど、通りで凄いわけだ、でも、みんなが顔を覚えてないのはおかしいよね?」
「それな、ウエイブライドが有名になったのは2人が冒険者レベル7になったからだ。入れ替わるように達也さんはパーティーを抜けて訓練に集中するようになった」

「え? 待って待って私新人だから冒険者レベルを良く知らないの」
「ええ! よく知らないってあるか!」
「レベル6以上は関係ないから、うろ覚えで……」

 俺と奈良が話に割って入る。

「この紙をご覧ください」

 奈良がテーブルに紙を出した。


 冒険者レベル
 レベル1 初心者
 レベル2 研修終わり
 レベル3 初心者卒業
 レベル4 中級
 レベル5 ここからはガチ勢
 レベル6 上位勢
 レベル7 今日本にはいない
 レベル8 海外のトッププレイヤーで最終到達点
 レベル9 いないし無理


「僕が前にまとめた用紙です。納品数や招集に応じた回数によって冒険者の格がレベル分けされています。見て頂いて分かるようにレベル7は今日本にいません。そして豪己さんがレベル6になります」
「言っておくが達也は俺より強い」

「じゃ、じゃあ達也さんはレベル7になるんじゃ!」
「そ、そうだ! 豪己さんより強いならレベル7になるんじゃ!!」
「残念ですが達也さんはレベル4です」

「「えええええええええええええええええええええええええ!」」
「な、なんで!」
「おかしいだろ!」
「間違ってる!」

「達也はなあ、ウエイブライドの市川黒矢と市川白帆いちかわしほの子を引き取って育てている。だから招集に応じられない。元々レベル5だった達也は最近降格された」

 みんなの顔が曇った。
 そう、招集に応じなければ冒険者のレベルに必要なポイントがマイナスになる。
 招集=人命がかかっている。
 招集に応じない事によるマイナスは大きいのだ。

「暗い顔をしなくていい。子供が学校に行っている間達也は基礎訓練を続けている。結構楽しそうに過ごしている」
「あの辛い基礎訓練が楽しいって、達也さんは武士のような人ですね」

 奈良が唐突に話しだした。

「ダブルプロジェクトの話を聞いた事はありますか?」
「あります」
「知ってますよ」
「名前しか知らない」

「ダブルプロジェクトとは、通常のジョブは黒魔法使い・白魔法使い・戦士の3つがある中でその内の2つを訓練して複合的なジョブを持った次世代のジョブを生み出す試みです。すでに先進国共同で実験的に訓練が行われています」
「戦士と黒魔法使いを両方訓練して魔法戦士にする、みたいな感じ?」

「そうです」
「でも、魔力の質的に中途半端じゃないとそれは出来ないよね?」
「はい、魔力の質的に才能が無いと言われる人間を開花させることが目的です」

「ええ、でも1つのジョブを訓練するだけでも時間がかかるのに2つも覚えるのは大変なんじゃない?」
「そうですね、なのでそのデメリットを打ち消すために子供の頃から複合ジョブに向く魔力適正の人間を集めて訓練をしています。何年も経てばダブルの人間が当たり前のように冒険者になる未来が来るかもしれませんよ?」

「成功例はあるんですか?」
「正式な成功例は無いと言われていますが、実際に見ましたよね? ダブルを」
「ああああああ! 達也さん!」
「そうです。彼1人だけがダブルの成功例と呼べる存在でしょう」

「奈良、オチを言っていいか?」
「いいですよ」
「達也が目指しているのはダブルのその先だ」
「え? ダブルの先?」

「そうだ。身体強化の戦士と攻撃の黒魔法使いと防御の白魔法使いすべてを使いこなすトリプルだ!」

 冒険者組合に驚きの声がこだまする。

「だがな、出来れば時が来るまであまり人には言わず黙っていて欲しい。ダブルの成功例はまだ出ていない事になっている。バレれば子育てをしたい達也の元に人が集まってくる」

 国は達也の存在に気づいていない。
 冒険者として直接戦わないトップは達也を見ても異質さに気づかないだろう。

 そしてここにいる誰も気づいていない、達也の目標はトリプルじゃない。

 トリプルの向こう側だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる

みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」 濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い 「あー、薪があればな」 と思ったら 薪が出てきた。 「はい?……火があればな」 薪に火がついた。 「うわ!?」 どういうことだ? どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。 これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

僕の宝具が『眼鏡』だったせいで魔界に棄てられました ~地上に戻って大人しく暮らしているつもりなのに、何故か頼られて困ります~

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 この世界では、三歳を迎えると自身だけが使える『宝具』が出現する。グーブンドルデ王の血を引くゲイルにもその日が訪れた。武功に名高い公や臣下が集まる中、ゲイルに現れた『宝具』は『眼鏡』であった。強力な炎を纏う剣や雷の雨を無数に降らせる槍、気象を自在に操る杖など強力な『宝具』を得ていた兄や姉に比べてゲイルの『眼鏡』など明らかに役に立たないどころか、『宝具』と呼ぶことさえ疑問に思われるほどの存在だった。『宝具』はその者の才を具現化した物。国王はそんなゴミを授かる無能が自分の子だということが恥ずかしいと嘆き、自身を辱めた罰だとゲイルの眼前で母を殺しゲイルを魔界に棄ててしまう。  そうして闇に包まれた魔界に棄てられたゲイルだったが、初老の男性エルフと初老の女性ドワーフに出会う。そしてその二人はゲイルが持つ『宝具』の真のチカラに気がついた。  そのチカラとは魔法の行使に欠かせないマナ、そして人の体内を流れるチャクラ、その動きが見えること。その才に多大な可能性を見出した二人はゲイルを拾い育てることになるのだが……  それから十余年ばかり過ぎたとある日のこと。ゲイルは地上へと戻った。  だが、ゲイルは知らなかった。自分を拾ってくれた二人の強さを。そして彼らの教えを受けた自身の強さを……  そして世界は知らなかった。とんでもない化け物が育ってしまっていたということを……

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

処理中です...