上 下
2 / 82

第2話

しおりを挟む
「さて、そろそろ遊園地に行くか」

 俺はスマホの電源を切って玄関に立った。
 おばあちゃんは疲れるからとお留守番だ。

「おばあちゃん、お土産買ってくるね」
「はい、楽しんで来てね」

 おばあちゃんが笑顔で手を振った。

 玄関を出るとごうがいた。

「うわああ! びっくりした」
「沙雪、驚かせちまったな」

 ごうはマッチョで背が高い。
 普通に話すだけでも声が大きく迫力がある。
 ごうががしがしと頭を撫でると沙雪がセットした髪が乱れる。

「達也、少しだけいいか?」
「……分かった。沙雪、ちょっと待っててな」

 ごうと2人で公園に向かい歩く。

「今日は天気がいいぜ」
「そうだな」
「……」
「……」

 ごうは俺を見て言った。

「なあ、招集に来る事はできないか?」
「俺は沙雪に時間を使いたい」
「このままじゃ冒険者レベルが下がっちまう。招集に応じなければポイントが大きく下がる。今から10分でもダンジョンに入ってゴーレムを狩るだけでいいんだ」

 ごうは面倒見がいい。
 俺が高校に入り冒険者になった頃から面倒を見てくれた。

 ごうは俺の為を思って言ってくれている。
 ダンジョンから溢れるモンスターを倒した後はダンジョンの中にいるモンスターを倒す事が多い。
 
 ごうは俺の為にモンスター狩りを切り上げて俺の所に来てくれた。

「沙雪を育てたいのは分かる。だがよう、10分でいいんだ。招集があれば10分ダンジョンに来てすぐ帰ればいい。それだけで済む」
「ごう、ありがとう、でも俺は沙雪と遊園地に行きたい。俺は沙雪の両親のように出来なくても、いや、うまく出来ないからこそ出来る限りのことをしたいんだ」

「時間を全部沙雪に使うのか? 達也、前言ってただろ? 目標はそれだけじゃねえだろ?」
「変わっていない」

 俺の目標は2つある。
 沙雪を立派に育てる事、そして沙雪の両親を殺したモンスターを倒す事だ。

 1番に沙雪を育てる為に時間を使う。
 それ以外の時間は訓練に使う。
 モンスターと戦っても基礎が身につかない。
 まだ訓練が足りない。

 俺は何度も奴の、あのモンスターの動画を見た。
 今の俺では奴に勝てない。

「一緒にやろうぜ! 俺はよう、次の世代を育ててんだ、一緒に人を育てて10年、いや、20年もすれば冒険者のレベルは上がる。20年前にダンジョンが出来てから訓練の効率は上がってんだ! 時間をかければ次の世代が育つ。一緒にやろうぜ!」

 ごうは両手を握り締めながら言った。

「俺は、自分を鍛えたい。まだ出来ていない事があるんだ」
「良いじゃねえか。道が違っても最後のゴールは同じだぜ! 一緒に行こうぜ! な!」
「ごう、みんなには言ってなかったんだけど、俺、一旦冒険者の資格を返そうと思う」

「沙雪の事ならメイドを雇えばいいじゃねえか。全部をお前がやる必要はねえよ」
「俺は出来る事は全部やりたい」

 俺は託された。
 出来る事は全部やりたいんだ。

「そう、か、悪かったな。時間を取らせちまった。沙雪がまた怒っちまうな」
「ああ、ごう」
「ん?」
「ありがとな」
「おう、いいって事よ!」

 ごうはガッツポーズで笑顔を向けた。
 そしてガッツポーズのまま言った。

「俺は人を育ててまとめる。達也は自分を高めてくれ。一緒に沙雪の両親を殺したモンスターを倒そうぜ!」
「ああ、そうだな」

 俺達は公園に着く前に家に戻った。

 沙雪が家の前に立ったままジト目で俺達を見る。

「はっはっはっは! お嬢様を待たせちまったな!」
「おーそーい!」
「悪かった。すぐに遊園地に行こう」

「なんのお話だったの?」
「仕事の話で達也に分からない事を聞いていただけだ。もう分かったから大丈夫だぜ!」

 ごうは気を使って嘘にならないように答えた。

「遊園地、楽しんできな!」
「豪己さんにもお土産買って来てあげるね」
「おう、そりゃあ楽しみだぜ!」

 ごうは明るく手を振って見送った。

 ごう、悪いな。
 俺は沙雪を優先するし、ごうのように人を育てるのも苦手だ。

 沙雪の手を繋いで遊園地に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】知らない間に《女神様のお気に入り》だったようです

Debby
ファンタジー
 この世界に『魔法』そのものはない。《ギフト》と呼ばれる力が存在するのみだ。しかし人々は《ギフト》を知る術を持っていない。  《ギフト》とはその名の通り女神から与えられる「贈り物」。それは生まれながらのものであったり、後天的に授かったりもし、貴族平民なども関係がない。もちろん《ギフト》持ちから《ギフト》持ちが生まれる訳でもない。それこそ神のみぞ知る、というヤツである。  何故そんなことをクレア・オリーブ伯爵令嬢が知っているのかというと、彼女が《他人のギフトが何か分かる》という一見使えそうで全く使えないギフトの持ち主だからである。  そんな彼女の通う学園で、前代未聞の大問題が起こってしまった。  その中心人物が、アリス・キャロットという美しい男爵令嬢らしいのだが、話してみると意外と良い子で── ★予約投稿済みで、全13話11/28に完結します ★12/12におまけを追加しました

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

婚約破棄で落ちる者

志位斗 茂家波
ファンタジー
本日、どうやら私は婚約破棄されたようです、 王子には取りまきと、その愛するとか言う令嬢が。 けれども、本当に救いようのない方たちですね…‥‥自ら落ちてくれるとはね。 これは、婚約破棄の場を冷ややかに観察し、そしてその醜さを見た令嬢の話である。 ――――――― ちょっと息抜きに書いてみた婚約破棄物。 テンプレみたいなものですけど、ほぼヒロインも主人公も空気のような感じです。

処理中です...