深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ

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安い時に買って高くなったら売る。それが出来れば金持ちだ

王は矢面に立つ

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 貴族会議の後、俺はすぐに領に帰る。
 会議室で皆が俺を讃える。

『アイテム投資のスキルが強化されました』

『限界突破の条件が満たされました。これより限界突破モードに移行します』

『限界突破モード中は全魔力を体の組み替えに使用します』

 ま、まずい!

『フィル!限界突破モードに入ったらフィルがまずくないか!?魔力を使えなくなる!』
『大丈夫です。省エネモードがありますから。ですがしばらく眠りますね』
『そうか、大丈夫ならいいんだ』

 俺はすぐにストレージにあるアイテムを放出した。
 更にアイテム投資と経験値投資も解除する。

「ど、どうしたですか?」
「フィルが眠った。しばらく俺は魔力が使えなくなる。俺も力を使えなくなる」
「む、それは大事件ですな」
「皆、限界突破って分かるか?」

 皆が首を横に振る。
 俺はあった事を皆に説明する。

「話は分かりました。王には私から伝えてまいります」
 
 ウサットはいつものように走って戻っていく。




【王視点】

「ジュン殿が力を失っただと!」

 私はウサットの言葉を聞いた瞬間に王座から立ち上がった。

「間違いありません。ジュン様は皆の為に今まで無理に無理を重ねてまいりました。その上でさらに無理を重ねた事で今回の事が起きたのでしょう」

 私は力なく王座にもたれかかる。
 当然だ!
 不遇な投資家の身で今までジュン殿は苦しんできた。

 その上で女神と言葉を交わし、天使まで託された。
 人の身の力を大きく逸脱している!
 更にジュン殿はチートスキルを授かっていない!
 普通の人の身で内政の英雄と言われる偉業を成し遂げた。
 神に迫るスキルもその代償かもしれない!

 
 体に異常をきたすのが自然!
 今まで気づかなかった。

 ジュン殿の深い苦しみを。
 ジュン殿の苦悩を。
 私が追い詰めた!
 私が身を削らせたのだ!

 私はどうすればいい!
 どう考えればいい! 
 いや、答えはもう出ている。

 私が身を削ろう!
 私が命を燃やそう!
 
 そうで無ければ私は王ではない!
 いや、真っ当な人ですらない!

 幸運値など知った事ではない!
 私のすべてをこの国に捧げる!
 私がいいと思ったことを全力で成し遂げる!
 
「話は分かった。ジュン殿には深く謝罪しよう。下がってくれ」

 ウサットが下がる。

「王?泣かれているのですか?」
「すまん、少し、一人にしてくれ」

 全員が謁見の間から無言で出て行く。
 その時から王の態度は明らかに変わった。
 それは貴族の訪問時の対応で皆がすぐに察した。




 次の日、王の元に貴族が訪ねてきた。

「カントリー男爵、遠路はるばるご苦労だった」

 カントリー男爵は礼をすると王の問いかけを待たずに早速切り出した。

「我の領地から王都までの道に橋を作って欲しいのです」
「それは王家と共同出資と考えていいのか?」
「いえ、王家に全額の負担をお願いします」

「大臣、費用は大体どのくらいかかる?」
「そうですな。30億ゴールド前後かと」
「無理だな」

「な!なぜですか!我が領民は王都に作物を届けるだけで大きな負担を強いられています。更に必要な物資を買い戻れば何も残りません!」
「言いたいことは分かるが無理だ」

「何故ですか!」
「カントリー男爵、お前の領民は何人ほどいる?」
「300人ほどです」

「今この国には余裕が無い。300人の民の為に30億ゴールドを払う余裕はないのだ」
「し、しかし民の命がかかっています!そもそも王都が人口を吸い上げている為民が200名ほど減っているのです!」

「カントリー男爵、王都への移民を考えるなら領地を提供する余裕はある。それならポーションを王都で買える。王都で暮らせば王都に移民した民も戻るかもしれん」
「しかし、故郷に愛着を持つ者もおります!」

「今この国には余裕が無いのだ。民の命を守る為更なる発展が必要だ。さもなくば魔王に国ごと滅ぼされるだろう」

 ゆっくりと言う私の言葉にカントリー男爵はひるんだ。

「ぐう、しかし」
「少し咀嚼して考えるのだ。次の貴族を呼べ!」

 カントリー男爵と入れ替わるように次の貴族が入ってきた。



 お互いの挨拶が終わるとパソナ子爵は声を荒げる。

「今私の領の領民が王都に吸い上げられています!」
「確かにその通りだ。所でパソナ子爵、お前の幸運値はマイナス35のようだな」

「な、なぜそれを!」
「お前も貴族会議に出ただろう?内政の英雄のジュン殿が紙に書いているのを見なかったか?」

「で、ですがそれと何の関係があるのですか!」
「幸運値がマイナスの者が良い領地経営を行っているか疑問だ。そのマイナス分を説明してもらおう」

「い、今は王都への民の吸い取りの話を、し、しています」
「その話をしている。お前の幸運値のマイナスが良い領地経営と言えるか?まだこの話を続けるか、それともこのまま帰るか選ばせてやろう」

「……し、失礼しました。帰ります」

 パソナ子爵はだらだらと汗をかく。
 幸運値の追及を恐れているようだ。

「パソナ子爵、民に喜ばれるような経営をするのだ。そうすれば領を出る領民は減っていく」

 パソナ子爵は礼をして足早に立ち去った。

 私は貴族に厳しい対応を迫った。
 周りの者は私を止めた。

『殺されるかもしれない』
『暗殺の危険がある』

 何度も言われた。
 だがもう決めたのだ!
 殺されるなら私はその程度の人間だ。
 私は!命を燃やす!

 その後も王は経営状態の悪い貴族への指摘と提案を繰り返した。
 更に幸運値の低い貴族の爵位を取り上げ、見せしめにした。
 貴族の経営は良化していった。




【近衛視点】

 2人の近衛が話をする。

「最近王様に凄味を感じる。まるで命をかけているようにも見る」
「奇遇ね、私もよ。前よりきりっとしてて私は好きだな」

「お前は王様が何をしてもかっこいいしか言わないだろ。話を戻すが、内政の英雄の影響か」
「そうだと思うわ。内政の英雄が力を失ったって聞いて泣いたみたいよ。私も見て見たかったわ。はあ~、尊い」

「その発言は不謹慎だ。誤解されかねない」
「そ、そうね。気を付けるわ」

「しかし、王様はかわいそうだよな」
「え?何がよ?」

「内政の英雄が自分の幸運値を犠牲にしてインサイダーを潰して他の貴族を見せしめにしたんだ。その後に力を失ったと聞く。まじめで自分に厳しい王様がその事を見知ったら、無理して頑張るだろ?」

「確かに、普通の人間なら幸運値を犠牲にして皆を助けるような真似はしないわ。王様が心配ね。今に倒れちゃいそう」

「内政の英雄にも王様にも、幸せになって欲しい」
「そうね」




 こうして王の話と共に内政の英雄の噂は広まった。
 王都の民に伝わる頃には噂が盛られる。


 すぐに内政の英雄は劇場化され、噂は拡散された。
 噂を盛られた内政の英雄はさらに人気が高まった。









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