深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ

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安い時に買って高くなったら売る。それが出来れば金持ちだ

狂気の貴族会議【王視点】

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 インサイダーの表情は狂気に染まり、更に騒ぐ。

「ワシを騙した!こんなことをしてただで済むと思うな!貴族に魔物狩りを押し付ければ貴族は反発する!皆で結束し内政の英雄を潰すううううううううううううううううううううう!!!!」

 そこに気づいたか。
 確かに領地周辺の魔物を各領で狩るとなれば貴族の反発を招く。
 勝ちは確定しても内政に支障は出るだろう。

「そうか。まだ言ってなかったが、俺は女神から使命を受けている」
「そんな事は分かっている!話を逸らすなあああ!!」

「フィル、出てこい!」

 ジュン殿の体が輝き、ジュン殿の体からフィルが出て来た。
 フィルの頭には天使の輪があり、背中には翼があった。

 この事により貴族がざわつく。

「紹介しよう。女神ファジーに託された天使、フィルだ。今は俺の眷属だ」

 会議室の多くの者が驚愕した。

「さて、フィル、天使の目でインサイダーの幸運値を見て欲しい」

 フィルの目が光を放つ。
 天使の力か!

「インサイダーの幸運値はマイナス173です」

 この発言で更に皆がざわつく。
 幸運値が低すぎるのだ。

「インサイダー。ずいぶん悪事を重ねたな」
「わ、ワシは皆を思って幸運値を犠牲にして言ってやっているだけだ!ワシが犠牲になって正しい事を言っているのだ!」

「悪い事をしなければ幸運値は下がりません。あなたが貴族のままでは多くの者が苦しみます」

 空間が歪む。
 神々しい光と共に女神の映像が現れる。
 ジュン殿以外の全員が跪いた。

「インサイダー。あなたは貴族として不適格です。皆はこれからジュンの言う事に耳を傾けるのです」

 女神が消えた。
 やはりジュン殿は女神に選ばれし存在。
 真の英雄だったのだ!

 決まった。
 インサイダーを追い詰めた。
 インサイダーに勝機は無い!

 貴族も女神の言う事に従うう者が多くなるだろう。

「み、認めん!ワシを皆が騙そうとしている!!!」
「インサイダああああ!王はお前を見逃すかもしれない!だが俺はお前を絶対に潰すうううう!!!」

 ジュン殿を見て分かった。
 怒りを演出している。
 本当は冷静だ!
 そして冷静なまま『王はお前を見逃すかもしれない』とわざわざ言った。

 冷静な状態ででわざわざ言った。
 本来は必要ない言葉を。
 私は確信した。

 私はジュン殿に守られている!
 うまくいかなければジュン殿が罪を被る為にわざわざ言ったのだ!

 私は直感した。
 私が追い詰めた!
 ジュン殿を私が追い詰めた!!

 だからか!
 だから会議が始まる前にウサットと話をし、その後マッスル・アイアン子爵とウサットが話をしていた!
 何があっても邪魔をしないよう段取りを組んでいたのだ!


 ジュン殿は中央のテーブルの上にインサイダーを投げ飛ばした。
 そして死なないように何度も殴る。
 貴族に見せつけるように何度も殴る。

「口を開いたらまた殴る!抵抗しても殴る!お前が次何かしたら次は半殺しにする!その次は殺す!!俺が幸運値を気にすると思うなよ!俺の幸運値がどんなに下がってもお前を殺す!俺は英雄だ!普通だと思うなあああああああああ!!!」

 これはインサイダーだけに言っているのではない。
 貴族にも言っている。
 貴族の反発を抑えるために言っている!

 私がジュン殿の幸運値を犠牲にさせた!
 それに比べて私はどうだ!?
 自身の幸運値を大事にし、内政を行ってきた。
 私が命をかけるべきだったのだ!

 ジュン殿は貴族に見せつけるようにぐったりとしたインサイダーの胸倉を掴んで持ち上げる。
 そして一周し、貴族全員を睨みつけた。


「グレス、つまみ出してくれ!」

 そう言ってインサイダーをグレスに投げつけた。

「お前ら、これで終わりだと思うなよ!!」

 ジュン殿はさらに叫ぶ。
 もう終わりではないのか?

「フィル!貴族の中から幸運値の低い順に3人選んでくれ!」

 3人か。
 貴族を見せしめにするか!
 ジュン殿は他の貴族の問題も解決しようとしている!
 だからわざわざ自らの領地の防衛を任せ続ける方向にしたのか。

「あの黒い羽の帽子を付けた方と、あの緑の服の方、そして宝石を服につけたあの方です」

 ジュン殿は高く跳躍し、貴族のすぐ近くに飛ぶ。
 あまりの早さに皆が凍り付いた。
 目で追えない者も居る。

 戦闘力を隠す気が無いのか!
 あれほど嫌がっていた戦闘力を自ら晒すのと同じ行為だ!

 内政能力しかないと思っていたジュン殿が急に素早く動いた。
 インサイダーをぼこぼこにした後でだ。
 貴族にはジュン殿が化け物のように見えるだろう!


「ひ、ひいいいいいい!!!」

「一人目!」

 1人の胸倉を掴んで中央のテーブルに立たせた。
 そして2人目、3人目と人間離れした動きで跳躍しながら3人全員を立たせる。

「インサイダーと同じになりたくなければおとなしくしろよ!!」

 全員が震えながらコクコクと何度も頷く。

 こうなるのは当然だ。
 今まで内政の英雄だと思っていた者が、本当は化け物クラスの戦闘力を持っていたのだ。
 更に、インサイダーを何度も殴って見せしめにした。
 その上本性を見抜くフィルを晒した。
 女神までジュン殿の味方をした。

 恐怖を感じるのは自然だ。


「フィル、1人ずつ悪事を暴いてくれ」
「はい、あなたは女性関係にだらしないようですね。女性をひどい目に会わせていませんか?」

「わ、我は……」
「言わなければ殴る!答えろ!俺がお前を殴ると思うか?【はい】か【いいえ】で答えろ!」

 ジュン殿は男に顔を近づけ目を睨みつける。
 言わなければ死ぬ可能性もあると思わせた上での二択か。

 しかも貴族の得意な根回しと言い逃れを完全に封じた上での二択だ。
 貴族はここに来た時点で行動を縛られている。

 はいかいいえ以外の言葉は言えないだろう。
 ごまかしも出来ない。

「はい!」
「質問に答えるか?」
「はい!」

「で?何をした?」
「へ、平民の女性を酔わせ、薬を仕込んで、その、しました」
「他には?」
「な、何度も同じことを繰り返しました!!」

「改善する気はあるか?」
「に、二度としません」
「女性に金銭で賠償する気はあるか?」
「します」

 ジュンは無言で貴族を投げ飛ばした。
 貴族がうめき声をあげる。 

「後で王と話し合え」
「……はい」

「お前は戻れ」

 男はがくがくと足を震えさせながら戻っていった。

「次はお前だ。フィル、答えてくれ」
「あなたは、投資スキルで無知な領民を騙し、財産を巻き上げていませんか?」

「やったのか?」
「やりました」
「皆に財産を戻し、二度としないと誓えるか?」
「その、財産を使ってしまいました」

「王の取り調べを受けるか?それとも俺に殺されるか?」

「お、王の取り調べを受けます」

 また貴族を投げ飛ばす。

「お前も戻れ」

 貴族は投げ飛ばされてうずくまり、呼吸を整えてからふらふらと戻っていく。

「最後はお前だ。フィル」
「あなたは気に入らない部下をワザと魔物の群れの中に追いやり、ひどい目に会わせていませんか?」

「どうだ?」
「やりました」
「殺したのか?」
「……死にました」

 その瞬間ジュン殿は貴族を殴った。
 貴族はテーブルから落ちて嘔吐する。

 フィルが倒れる。
 ジュン殿がフィルに駆け寄る。

「俺の力が足りないばかりに無理をさせた」
「天眼をフルパワーで、使い、すぎました。戻ります」

 フィルはジュン殿の体に吸い込まれた。

「いいか!お前ら!次の貴族会議でも幸運値の低い奴を毎回発表する。2回欠席した者はグレスの軍を連れて監査に向かう。それが嫌なら貴族の地位を王に返上しろ!」

 ジュン殿が周りを見渡す。

「文句があるやつは今ここで言え!殺される覚悟で前に出ろ!」

 貴族が汗をかいたまま静まる。
 冷静なのはマッスル子爵などのあらかじめ段取りを説明されている者だけだ。

 こうして貴族会議は終わった。
 貴族が会議室から出て行くとジュン殿が俺に声をかけてくる。

「暗い顔をしないでくれ。出来るだけ王の負担を減らす」

 そしてジュン殿と幹部も部屋を出た。



 残されたのはグレスと私だけ。

「ジュン殿は、インサイダーだけでなく、他の貴族の問題も解決しようとした。自分の身を削ってお膳立てした。これで私が解決出来なければ、私は」

 私は息を呑みこんだ。

「私は本当の無能だ」

「ジュン殿はそういう方です」

 グレスは私の言葉には答えず、ジュン殿を讃えた。

「グレス、前にお前は言ったな。ジュン殿には深みがあると」
「はい」
「その意味を分かった気になっていた。私は今ようやくわかったようだ。届かない。ジュン殿には届かない」

 ジュン殿、すまなかった。
 色々なものを犠牲にし、私は守られていると実感した。

 ジュン殿は幸運値を犠牲にし、インサイダーを潰した。
 インサイダーが目立たなくなれば次は他の貴族の問題が残るがそれもジュン殿が方向性を示した。

 ジュン殿は私に被害が来ないように私を守りつつ、貴族全員を敵に回しかねない行動を取った。
 ジュン殿は、命をかけている。

 私は体の震えを納めるように勢いよく立った。
 そして思い切り手と握りしめる。 

 次は私が命を燃やそう!




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