深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ

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安い時に買って高くなったら売る。それが出来れば金持ちだ

これって楽しむための祭りだよな?

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 開始の瞬間、ウサットの腕が相手の腕をテーブルに叩きつける。
 腕相撲のテーブルが壊れ、轟音を上げる。

 一瞬。
 まさに瞬殺。

「ウサット選手の勝利です!」

「あ、ありえねえ。俺が一瞬で負けたってのか!」
「ふむ、本気を出しすぎましたかな?」

「は、ははははははは!俺が甘かった!俺は井の中の蛙だった!俺は、俺はあああああああ!!!」

 ウサットに負けた大男が地面に両手を叩きつけた。
 ウサットが大男の肩に手を置いた。

「あなたの筋肉道は始まったばかりです。自分の筋肉と対峙するのです」
「筋肉と、対峙」
「そう、敵は私ではありません。真の敵はあなたの内面です。自分と向き合い、筋肉と対峙するのです。そして筋肉の扉を開くのです」

「あんたの言葉、心に響いたぜ」

 そう言って男は再び立ち上がり歩いて去って行った。

「もう彼は、大丈夫でしょう。筋肉の扉が開かれるのは時間の問題。私もうかうかしていられませんなあ」

 歓声が上がる。
 いや、言っている意味が分からない。
 だが周りを見渡すと感動して泣く者、強く拳を握りしめる者と様々だ。
 そして異様にマッチョ率が高い。

 俺だけか?
 俺だけが分からないのか?
 筋肉の扉ってなんだ?

 ラビイが鉄のテーブルを作成する。

「さあ、試合を続けるのです!」

 きりっとした顔でラビイが叫んだ。
 俺はラビイを黙ってみていた。
 戻るラビイはにやにやしながらお金を袋に入れていく。

 順調に試合は進んだ。



「盛り上がってまいりました。次はベスト4の戦い。強者の戦いです」

 残り4人に絞られ、戦いは盛り上がっていった。

 ウサットと対峙するのはウサットよりすらっとした男。
 細マッチョなアイドルっぽい肉体だ。

 男は不敵に笑う。

「僕は一定時間身体能力を強化することが出来るんだ。君もやるようだが、残念ながら僕の敵ではないよ。あ、そうそう。持久戦を狙っても無駄だよ。僕は一瞬の身体強化で全勝しているんだ。全く疲れていないんだよ」

「そうですか。全力で挑むのみですな!」
「そうだね。それしかないだろう。それしかやれる事が無いとも言えるね」
「早く配置についてください!すぐに始めますよ!」

 2人が腕を組む。

「身体強化を使う戦士に私は何度も敗北してきました!ですがそのたびに筋肉の壁に挑み、敗れ、筋肉の年輪を積み重ね、そして筋肉の扉を開くに至りまいりました!あなたには負けませんぞ!」

 言っている意味が半分分からないが熱いバトルが始まるのだろう。

「ふ、分からせてあげるよ」

 2人が目線を合わせて火花が散る。

「試合、開始です!」

 ウサットは一瞬で相手の腕をテーブルに倒す。
 鉄のテーブルが歪んだ。

「ぐう、完敗……この、僕が」

 相手の手の骨が割れてね?
 手の形がおかしい。
 俺は前に出た。

「ポーションを使ってくれ!無料だ」
「ふ、ふふふふ、大丈夫さ」
「やせ我慢するな」

 ウサットが俺の肩に手を置き、首をフルフルと横に振った。
 相手のプライドを大事にしたいと目で訴えてくる。

「分かった」

 歓声が鳴り響く。

「ウサット選手の勝利です!次は決勝戦です!」

 男が前に出る。

「やはりあんたがが勝ち残ったか。筋肉のウサットさんよお」
「私もあなたが勝ち残ると思っていました」
「少し休んでから戦わないかい?」
「いえ、すぐに決勝を始めましょう」

 ひょろっとした男がウサットの対戦相手に声をかける。

「旦那あ、このままやった方が有利ですぜ。正々堂々としすぎですぜ」
「俺あよお。本気のあいつと闘いてえのよ。最高のバトルをしてえと思わねえかい!なあ!ウサットよおお!!」
「これは失礼しました。少し休むとしましょう。最高の戦いをしましょう。筋肉と筋肉のぶつかり合いです!」

 歓声が巻き起こる。

「え?旦那って誰だ?有名なのか?」
「有名だにゃあ。私やグレスと同じ強さを持つと言われる影の強者だにゃあ。皆に旦那と呼ばれ、ギルドの依頼も旦那と書き込んでこなす誰も本名を知らない謎の男だにゃあ」

 裏四天王みたいなやつが出て来た!
 
「これ腕相撲だよな?ただのお祭りだよな?」

「おっと、そうとも言えないぜ。旦那の強さは未知数だ。だが今回旦那は本気の腕相撲を挑むだろう。旦那の力だけでも見極めることが出来るチャンスだ。なんせ相手はロングスパン領の筋肉の扉を開いたあのウサットだ」

 俺はリースに聞いたが近くに居たマッチョが俺の質問に答えた。
 お前誰!?
 俺まで腕相撲の異質な雰囲気に飲まれそうになる。

「さて、十分休みました」
「さあ、始めるぜえ!本気の戦いをよおおお!」

「それでは、試合開始です!」

 腕相撲が始まった瞬間、鉄のテーブルが地面にめり込み音を立てる。
 魔力の衝撃波で一瞬突風が発生した。

「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 お互いの魔力がぶつかり合い、弾けるようにバチバチと音を立てる。
 腕相撲だがお互いの目を睨みつけ、一切瞬きをしない。
 
「筋肉の扉!解放!!」
「マッスルディスティニー!!」

 2人が叫んだ瞬間鉄のテーブルが歪む。

「ウサット、どうやら俺の勝ちのようだな。マッスルディスティニーを使わせたのはあんたが初めてだぜえ」

 ウサットの腕が倒されていく。

「筋肉の扉、第二門、解放!!!」 

 ゆっくりとウサットの腕が起き上がり、旦那の腕を鉄のテーブルに近づけていく。

「マッスルウウウウウ!ディスティニー!!!」

 旦那の腕が上がっていく。

 だが、それも一瞬の出来事。

 旦那の腕が倒れる。

「勝者!ウサット選手です!」

「「うおおおおおおおお!!」」

 大歓声が鳴り響く。

「負けたぜ。筋肉の扉の解放からの更に第二門の解放。ありゃ俺にはマネできねえ」
「はあ、はあ、力だけは私が勝ちました。ですがあなたは息切れ一つしていません。力は筋肉の能力の1部でしかありません。あなたと武器を持った戦闘をしていたら私はすぐにやられてしまうでしょう」


 歓声が鳴りやむと、そこに大男が立っていた。

 パチパチパチパチ!
 男は拍手して2人を讃える。

 拍手した大男の歩みは遅く、その歩む道を人が避ける。

「素晴らしい戦いであったな。我も参加したかったものだ。間に合わず実に残念」

「あんたは!マッスル・アイアン子爵!」

 旦那が驚愕する。

「噂には聞いておりましたが、これほどとは。筋肉道を歩む者だとすぐ分かりました。ぜひ、お手合わせ願いたいですな」

 ウサットも目を見開く。

 え?何これ?
 どういう展開?

「そうしたいのだが、激戦の直後であろう?」

「それなら俺とバトルした後にウサットと闘うってのはどうだい?これでフェアじゃねえか?」
「旦那あ、負けちまうぜ!」
「分かってる。勝ち目は薄い。だがよお。男には、引いちゃいけねえ場面があるんだぜ。潰す気で行くぜ」

「旦那あ、かっこよすぎるぜえ」
「ふむ、自ら捨て石になり、後に託すか。しかも勝利をあきらめないその目。気に入った。勝負を受けようぞ!」

 周りに歓声が起きる。

「おいおい!レジェンドが登場したと思ったらまたバトルが始まるぜ!」
「俺達は今伝説が生まれる瞬間に立ち会う!」
「ついてる!俺は今日最高についてるぜ!」

 マッチョが騒ぐ。

 旦那とマッスルが腕を組む。

「それでは、試合開始です」

 ドゴオオオオン!
 轟音と共に旦那が瞬殺される。

「な、一切抵抗できなかった。俺は最初からマッスルディスティニーを発動させていた。だが、そんなことお構いなしに圧倒されちまった!」

「旦那が瞬殺されちまったぜ!」
「おいおいおいおい!どうなってやがる!頂点が決まったと思ったらいきなりそれより遥かに強い筋肉の壁が立ちはだかってるぜ」

 旦那のお供とマッチョ達がまた騒ぎ出す。

「お手合わせ願います」
「その顔、勝ちをあきらめているな」
「これは、失礼しました。全力で、勝ち取りに行きます!」

 ウサットの筋肉が隆起し、目が大きく開かれる。

「それでよい!戦の開始後しばらく待つ。第二門を使うのだ」


「それでは、試合開始です」

「筋肉の扉、第二門、解放!」 

 腕はピクリとも動かない。
 そして赤子の手をひねるようにゆっくりとウサットの腕が倒れていく。

 静寂。

「マッスル選手の勝利です!」

 そしてその日一番の大歓声に包まれた。

「ウサット、旦那」

 そう言ってマッスルは背中を向け、自分に親指を向ける。

「ここまで、上がってこい」

 そして歩き、マッスル・アイアンは立ち去って行った。

 サマーフェスタ3000は伝説を残して幕を閉じた。
 フィルは司会をきちんとこなした。

 ラビイは稼いだお金をすべて魔石に変えた。
 リースは屋台の食べ物を制覇する。
 マナは俺におんぶされて過ごした。

 そして
 ウサットは大いなる目標を手に入れた。
 ウサットは負けた。
 だがその瞳には光が宿る。



 いや~。
 俺途中から気配を消してて良かったわ。
 筋肉の戦いに危うく巻き込まれるところだった。

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