深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ

文字の大きさ
上 下
39 / 113
人に投資をするのが1番効率がいいよな

折れる元賢者【元賢者視点】

しおりを挟む
 私は王都に帰り、小さな家を買って外に出る機会が減った。
 【軍】の魔将の声が頭から離れない
『賢者ああ!出て来おおおおおおおい!殺してあげるよおおおおおおおおお』

 たっぷり食事を摂っても精神だけは元に戻らない。

 恐怖でダンジョンに行くのも怖くなった。
 眠る時は杖を常に抱くようにして眠る。
 夜になっても中々眠れない。

 助ける者は居ない為、周りに人が多い場所に家を買った。
 金は十分にある。

「賢者あああどこなのおおおおおおお!殺してあげるからああああ!ここら辺に賢者の匂いがするううぅううぅう!隠れてないで出て来おおおおい!」

 また幻聴!?
 家が破壊されて8体のスライムが現れた。
 本物!

「ああああああああ!」
 私は走って逃げた。

「……逃げるなよ!殺すぞおおお!」
 スライムの声質が変化し、子供の声から太い声に変わる。
 8体のスライムが奇声を上げながら迫って来る。

 周りの人間を盾にして、炎でスライムの動きを止めつつ逃げる。
 どんな事をしてでも逃げる。
 だがスライムは真っすぐ私だけを追いかけてくる。

 王都の鐘が鳴り響く。
 兵士が集まってこない。
 殺される!

 逃げて逃げて逃げて逃げ切る!
 


 ◇



 走り疲れ、壁に追い詰められ、魔力が切れた。
 打つ手がない。

「包囲し終わったにゃあ!」
 ネコ族の忍者コスプレの女が壁の上から叫んだ。

 大勢の兵士や冒険者が魔将を包囲する。
 前に出て来たのは、投資家のジュン。

 加護を貰い損ねた出来損ないがなぜ前に?
 どうでもいい。
 押し付けて逃げ切る。

 ジュンがありえない速度でスライムに近づくと、数発の破裂音が響いた。
 殴ったの?
 動きを追いきれなかった。

 紫色のスライムの魔将が一瞬で霧に変わって魔石が落ちる。
「はあ!?」
 意味が分からない。

「2体目!3体目!4体目!」
 一気に4体のスライムを倒した。
 ジュンが倒した!?

「撤退するよ!次はお前もころす!」
 その瞬間後ろの兵士たちが全力で足止めを開始した。

「無駄だ!全員戦闘力30を超えている!お前が意外と素早いのも分かっている!」

 全員私より強い!!

「5体目!」
 その後6体目7体目とスライムは倒されていく。
 本当にあっけなく倒される。

 ジュンは強かった。
 最強だったのだ。
 私は英雄ではない。
 ジュンが英雄で私は魔将を引き付けるただの餌。

「貴様!なんだよお!なんなんだよ!」
「俺はただの投資家だ」

「お前!黒髪とその黒目!転移者か!女神の手先め!」
 そう言って辺りを見回す。

「無駄だ、逃げることは出来ない。お前らの弱点も分かっている。軍の魔将は8体が離れて行動することは出来ない。雑魚スライムを連れず、包囲された時点でお前の負けだ」

「ぐううう!ぐりゅうううううううう!」
 最後のスライムがジュンに飛び掛かる。

 パンパンパン!
 破裂音が無数に鳴り響く。
「追い詰められて突撃しか出来ないか」
 
 魔将が霧に変わって魔石が地面に落ちる。

「倒したぞ!【軍】の力を持つ魔将を倒した!」
 周りの兵が歓声を上げた。

 兵士長のグレスが笑顔でジュンに駆け寄る。
 その動きで分かった。

 ジュンが切り札だったのだ。

「ジュン殿、余裕でしたね」
「あの魔将の強みは【軍】の力だった。隠れて雑魚スライムを増やして何度も王都に襲い掛かってこられたら厄介だった。だがあいつは強みを捨ててリンを殺しに来た。あいつの行動でもう負けは確定していた。俺が居なくてもグレスやリース、それにみんなの力で打ち取れていただろう」

 私は捨て駒として呼ばれた。
 女神に利用された。
 許せない!

 私はただの生贄だった!
 許せない!

「女神!!出て来なさい!私を生贄のように利用した!私を地球に戻しなさい!戻しなさいよおおおおお!」
 
 空間から女神の映像が現れる。
「それは無理です」

「なんでよ!良いから戻しなさい!」
「ここに転移した時点でもう戻ることは出来ないのです」

「もう嫌よ!英雄は嫌よ!何とかしなさいよ!」

「この世界で転生することは出来ます。髪色と瞳の色を変えれば魔将に狙われる事は無いでしょう。ただし、レベルもスキルも初期値にリセットされた状態からのスタートとなります」

 レベル1でスキルもリセットされる。
「無理やりここに転移させて死にかけたのにすべてリセットされるのは違います。レベルと加護を貰った状態で転生します」

「無理です。深刻な女神力不足で加護を与えることは出来ません。それに加護を与えた時点でその者は英雄となります。それにあなたの存在はきっと魔王にばれています。このままではまた狙われるでしょう。受け入れられないのなら話は以上です」

「ま、待ちなさい!転生します」
「レベル1のスキルリセット状態になります。髪と瞳の色はこの世界によくいるブラウンでいいですか?」

「……それでいいです」
「分かりました」

 体が光って髪の色が変わる。
 瞳の色も変わっているのだろう。
 ステータスを眺める。

「レベル1の赤魔導士、幸運値は0。回復魔法を使えば、生活は出来る」
 髪を手櫛で整えてその場を立ち去る。
 兵士たちが道を空ける。

 魔将に狙われなければ英雄じゃなくても生活していける。
 なんとかなる。




【ジュン視点】

「リンは大変な思いをすると思うにゃあ」
「そうだな、赤魔導士は回復魔法と攻撃魔法を両方使えるが器用貧乏で魔法スキルを上げにくい。最初から加護を貰い、楽に魔法を使えていたリンは、魔法訓練の苦労を知らないんだろう」

 俺も魔法訓練はやった事無いけどな。

「それに、今治癒士や赤魔導士、錬金術師のレベルアップが進んでいるにゃあ。ヒールの料金もポーションの料金も安くなっていくにゃあ」

「そうだな、回復魔法を使えるようになるまで苦労して、更にヒールを使えるようになっても価格競争が始まる。いや、始まりだしている。生活は出来るだろうけど、しばらく収入は低くなるだろう」

 それにリンの性格の悪さもマイナスだ。
 何かあると俺のせいにし、女神のせいにする。
 反射的に人のせいにするリンと関わり合いにはなりたくないってみんなが思うだろう。

 リンは期間限定で笑顔を作って取り繕うことは出来るだろう。
 だが、すぐにみんなにばれる。
 そうなればリンから距離を取る者が増えるだろう。

 この世界の人間は元の世界に比べ、直感力が高い者が多いように思う。
 スマホやパソコンが無く、自然に寄り添っている環境は直感力を研ぎ澄ます。

 死が近くにあり、スキルを使うにも神経を使う。
 この世界の生活は直感力が上がりやすいのだ。
 
 この世界は人口も少ない。
 王都だけで1万人程度の人口だろうか?
 自然と人間関係は密になり、悪いことは出来なくなる。
 元の世界の田舎の人間関係に近い。
 リン、悪い事をすればすぐに噂が広まるぞ。

 今の性格のリンにやさしい世界じゃない、いや。
「ま、これからのリン次第か。俺のいつもの考えすぎかもしれない」

 俺は普通の人間だ。
 未来が分かるほど優秀でもない。



 ジュンの考えは当たっていた。
 リンはその後、回復魔法を覚えるのに苦労した。
 更に治癒の客を取れず、初心者ダンジョンで苦戦しつつ生活する事になる。
 リンは歴史の表舞台から消えた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...