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愛溢れる世界
245:結婚式
しおりを挟む結婚式は午後からなのに、
俺は早朝から母に叩き起こされた。
大聖堂に近いからと
両親はタウンハウスに
数日前から泊まっていたのだが。
俺が目を覚ますと、
すでに義兄は起きていて、
朝食を食べていた。
「やることがあるから
先に行くぞ」
と義兄に言われ、
俺は頷く。
義兄にとっては
今日はルイとの結婚式だが
隣国の王弟と結婚する日でもある。
数日前からブリジット王国から
今回の結婚式のために
重要人物たちがこの国に
滞在しているし、
ルイと一緒にその人たちの
もてなしや補佐もしなければ
ならないのだろう。
こんな日まで忙しいなんて
義兄もルイも、仕事人間過ぎる……。
と思ってはいたが。
俺は別の意味で忙しかった。
エステ隊が領地からやってきて
俺の身体はオイルまみれになる。
あちこち揉まれ、
へろへろになったら、
風呂に入れられた。
それから大聖堂に移動になり、
ドレスを着せられ、
髪をセットされ、
化粧を施された。
確かに服はドレスではなく
パンツスーツなのだが、
鏡で見るとどうみても
純白のウエディングドレスだ。
ただ白い生地に
金色の糸で刺しゅうがしてあり、
綺麗だと思う。
化粧をされた俺の顔は
どうみても女子だ。
鏡で見ると
ため息をつきたくなるぐらい
女子だった。
王妃様も母もきっと
女の子が欲しかったにちがいない。
そして俺は嫁に行ったら
着る服、着る服、すべて
王妃様と母に決められて
ドレスしか着れなくなってしまうのだろうか。
勘弁してくれ。
それだけは嫌だ。
と現実逃避をしていると
部屋の扉を叩く音がする。
そばに着いていてくれたサリーが
扉を開けると父と母が入って来た。
「まぁまぁ。可愛らしい。
さすが私の可愛いアキルティアだわ」
母が嬉しそうな悲鳴を上げる。
その反対に、父が……
何故か号泣していた。
「私の可愛い息子が、
嫁に……嫁に……」
いや、気が早い。
父よ、しっかりしてくれ。
「父様、
僕はまだ公爵家にいます。
結婚式はしても
公爵家から学園に通いますし、
お別れではないですよ」
俺がそう言うと
父はがばっと顔を上げて
そうか、そうかと、また泣く。
「あなた。
ほら、こんなに綺麗で
可愛いアキルティアをちゃんと
見てくださいな」
母がそう言うと、
父はうんうん、と頷きながら
また俺を見て泣く。
「あの、母様。
兄様は?」
「大丈夫よ、
ここに来る前に控室に
寄ったのだけれど、
落ち着いていたし、
問題は無さそうだったわ」
そうか、良かった。
まぁ、ルイがついてるのに
問題があったら困るけど。
「式が終わったら、
大聖堂の前で陛下と一緒に宣誓式よ。
その後は市内を馬車で回って、
お披露目の夜会になるわ。
夜中まで忙しくなると思うから
辛くなったらすぐに言うのよ。
母様がなんとかしてあげるから」
なんて頼もしいんだ、母!
俺は感激して
母の手を掴んでしまう。
本当は、お世話になりましたとか
育てていただき
ありがとうございますとか、
言うのかもしれないが。
俺は別に父と母と
別れるわけではないし、
実家から学園に通うしな。
なので。
「父様、母様。
いつも、守ってくれて
ありがとうございます。
あともうちょっとだけ、
父様と母様に守ってもらうことを
許してください。
公爵家を出たら、
父様と母様に沢山愛してもらった分、
王家の人たちだけでなく、
この国の人たちの生活が
少しでも良くなるように、
力を尽くすつもりです」
俺が頭を下げると
父はまた泣き始め、
母もうっすらと涙を浮かべた。
「ふふ、大好きよ、アキルティア。
頑張らなくてもいいから、
辛くなったらいつでも
母様と父様を頼りなさい」
「はい、ありがとうございます」
俺がお礼を言うと、
大聖堂の神官が俺を呼びに来た。
式にはローガンさんが
司祭として立ってくれるし、
カミュイとイシュメルも
スタッフ側で参加してくれている。
俺の式と義兄の式は
同時に始まる。
大聖堂の前は陛下の言葉を聞くために
市民たちが集まっていると聞く。
俺と義兄の式の会場は
隣同士、というか
仕切りがあるだけなので、
招待者の貴族たちはどちらの
部屋にいても構わないようになっている。
ただ、義兄のところには
ブリジット王国の人間が多く
いるだろうし、
逆に俺のところには
学園の生徒たちが多いと思う。
クリムやルシリアンも
俺とティスの式の方にいるだろうし。
それに、だ。
俺が前倒しで結婚することになり、
ティスのそばにいることが
増えたからか、俺は学園で
一人ぼっちではなくなったのだ。
ティスの同級生と交流をするようになり、
王子に気さくに話をする面々は
俺があの父の息子だと知っても
態度を変えるような学生はいなかった。
それに同級生たちも
俺が結婚することで
あの父の過保護から抜けると
理解したのだろう。
俺が未来の王子妃だという
打算もあったかもしれないが、
どことなく距離があった
クラスメイトたちも
気兼ねなく話しかけて
くれるようになったのだ。
そんなわけで俺の結婚式には
それなりの高位貴族にはなるが
学生たちが多く
参加してくれていると思う。
この世界の結婚式では、
花嫁に介添え人などはなく
前世で言うバージョンロードは
婚約者同士が一緒に歩く。
最初から二人が一緒に歩き、
創造神の前で夫婦になることを誓うのだ。
その後、参加者たちに
夫婦となったことを宣言する。
それで結婚式は終わるのだが、
今回はその宣言に陛下が加わり、
大聖堂の前で俺とティス、
義兄とルイの結婚が無事に終わったのだと
公にすることになっているのだ。
この時に、ブリジット王国との
絆が深まり、大事な隣国だと
友好宣言をする。
その後は母が言った通り、
俺たちは馬車に乗せられ、
市内を走って市民に顔を見せるのだ。
俺、どこまで正気でいられるか
若干心配なのだが。
とにかく体力は以前と
比べたら随分とついてきたし、
頑張るしかないだろう。
俺は覚悟を決めて
大聖堂へ続く扉に足を踏み入れた。
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