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愛溢れる世界
233:救世主は女神
しおりを挟む母は号泣している父を見て
「しょうがないわねぇ」と笑った。
笑った!?
こんな父を見て、
そんな一言で終わっていいのか?
母!
母よ!
俺が目を見開いていると
母は父を慰めるように
よしよし、と背中を撫でて
俺を見た。
「可愛い飾りね」
俺の髪に飾った花を見て
母はティスを見る。
「泣かせたら
しょうちしないわよ」
「もちろんです。
肝に銘じています」
ティスが母にも頭を下げる。
「さぁ、いらっしゃい。
可愛いアキルティア。
王妃様にお願いをして
支度室を借りたのよ。
きちんと身なりを整えて
お茶会に出ましょうね」
にっこり、と笑う母の
瞳は強力で拒否など
できそうにない。
俺の身なりはめちゃくちゃ
整っていると思うのだが
ダメなのだろうか。
一瞬、義兄を見たが
義兄は俺と視線を
合わせようともしない。
だよな。
義兄、前世の時から
母に叱られるのを
やたらと怖がってたもんな。
俺は仕方なくティスから
手を離した。
「ティス、また後でね」
俺がそう言うとティスも
頷いて手を離してくれる。
俺が母のそばに行くと
母はなんと、いまだに
泣いている父の腕を掴んで
引きずるように部屋の外へと
父を連れて行く。
母は『力』を使えるようになり
物凄く力持ちになったのかもしれない。
遠い目になりながら
俺は母とそれに引きずられる父の
後ろをついて執務室を出た。
部屋の外にはキールが
立っていて、俺たちが歩き出すと
すぐに後ろからついてきた。
小声でキールに話を聞くと
母は少し早めに領地を出たらしく、
お茶会の時間よりも早く
王宮についたので、
俺を探していたらしい。
なるほど。
支度部屋までは
母は場所を知っていたらしく
勝手にやってきたのだが
部屋をキールが空けると
数人の侍女たちが待機していた。
母はここまできて
ようやく父を振り返り、
「あなたは仕事に行ってらっしゃい」
と冷たく言う。
「キャンディス、そんな……」
ようやく泣き止んだ父が
また目に涙を浮かべる。
「ここは母親の役目よ?
父親の役目はこれから。
わかってるでしょ?」
母がそう言うと
父の目に力が戻る。
「そうだった!
わかった。
可愛い息子のためだ」
「ええ、頼りにしてるわ」
何が!?
何を!?
可愛い息子のために
父は何をする気だ?
母のそばから飛び出すように
踵を返す父を俺は見送ったが
不安しかない。
しかも支度部屋に入ると
またもやキールを置いて
部屋の扉がしまる。
「ふふ、可愛いアキルティア。
もっと可愛くなりましょうね」
え、いや。
と言いたい。
言いたいけど、
絶対に無理だ。
俺は椅子に座らされ、
髪に飾られていた花を取られた。
丁寧にブラシで髪を梳かれ、
「この花は髪に編み込みましょうね」
なんて侍女に言われる。
俺は曖昧に頷くだけだ。
そのそばで母が
俺の髪型の指示を出し、
どこからか取り出した
アクセサリーを付けてくる。
俺は女子じゃないから
ネックレスも必要ないし、
髪飾りもいらないし、
指輪も邪魔なんだが。
言えないよな?
はは。
もう好きにしてくれ。
ドレスに着替えさせられないだけ
マシだと思っておこう。
俺が無の境地に達しているうちに
俺は爪に色を塗られ、
なんと、薄く化粧までされてしまった。
母は満面の笑みだ。
じつは母、女の子が欲しかったのか?
前世でも子どもは息子2人だったしな。
身支度が終わり、
ようやく水を飲ませてもって
一休みしたら、あっという間に
侍女がお茶会の時間だと
俺と母を呼びに来た。
もう?
全然、休めてないのだが。
俺、もう家に帰って寝たい。
普段何もしないから
爪に色を塗られただけで
呼吸が苦しいと言うか
疲れたというか。
いつも着飾っている女性たちは
本当に尊敬するぜ。
俺が母と一緒に部屋を出ると
キールが待っていて、
呼びに来た侍女と一緒に
場所を移動する。
お茶会、だったよな?
招待状にはそう書いてあったのに、
何故か俺たちは
王宮の応接室に案内された。
豪華なソファーが並び、
部屋には陛下と王妃様とティス。
それから義兄と父、
ルイもソファーに座っている。
領地にもお茶会の招待状が届いたと
聞いていたが、父も母も義兄、
ルイまでもが招待されていたのか。
母は部屋に入ると
陛下たちに丁寧にドレスの
裾を持ちカーテーシーをしたが
俺はその後ろで臣下の礼をした。
挨拶は陛下の言葉で省略になる。
まぁ、小さい時からずっと
付き合いがあるからな。
堅苦しいことは無しらしい。
俺と母は義兄とルイの
座っている4人掛けの
ソファーに座った。
母は一番奥の端に。
俺は義兄とルイの間だ。
別に無理に割り込んだわけではないぞ。
4人掛けのソファーの真ん中が
不自然なぐらい開いていて、
義兄に呼ばれたのだ。
俺の座ったソファーの前には
王妃様とティスが座っていて
部屋の奥は一人掛けの
豪華な椅子が2つ並んでいる。
その椅子の母の近いところに父が、
その隣に陛下が座っていた。
俺が全員に視線を向けて
目礼をしてからソファーに座ると
すぐに侍女がお茶の準備をする。
陛下も父も、誰も何も言わない。
侍女がお茶の準備をして
部屋から出て行くと、
部屋はシーンと静まり返った。
人払いがされているようで
誰もいない。
「はぁ。そう睨むな」
しばらく沈黙が続いた後、
陛下がため息をついた。
「本人たちが望んだのだ。
反対はしないと言っただろう」
そう言いながら陛下は
横目で父を見た。
何の話かわからないが
話を進めるらしい。
陛下がまた息を吐き、
そうだったな、と
ルイに視線を向けると
何故かルイが大きく頷く。
「そうですね。
確かにそう言われていたと
記憶しています」
ルイが堅苦しく返事をすると
父が小さく呻いた。
何の話だろうか。
「ねぇ、アキルティア。
その髪に飾っている花は
息子から貰ったのよね?」
俺が考える暇もなく、
王妃様が我慢できないと
言う様に身を乗り出して
俺に聞いてくる。
「はい、あの、さっき……」
俺は思考を止めて口を開いたが、
さっきの口付けを思い出してしまい
顔が熱くなった
ほんのついさっきのことだったし。
そんな俺を見て、
王妃様も陛下も何故か
満足そうな顔をする。
「何故だ、アキルティア」
だがそんな陛下たちの
視線を遮るかのように
父が立ち上がる。
だがそんな父の腕を
母が掴んで強引に
ソファーに座らせた。
「あなた。
ここまできて
我が儘を言ってはダメよ。
それとも、私と二人っきりの
時間が増えるのは嫌なの?」
「そんなわけないっ」
父が力いっぱい言う。
「なら、いいわよね。
ジェルロイドも反対ではないのでしょう?」
「ええ、そうですね」
何がだ?
俺は話しが見えないのだが。
俺が目を彷徨わせていたからだろう。
呆れたようなルイの小さな声が
耳元でした。
「アキラ、他人事じゃないぞ?
お前の婚約の話だぞ」
え?
は?
俺は思わずルイを凝視してしまった。
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