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愛溢れる世界
231:プロポーズアゲイン
しおりを挟む俺はティスに連れられ
庭に入った。
今日の散歩は奥の庭に
行くみたいで、
護衛達も途中でついて来るのを
止めてしまったようだ。
王家の奥の庭は
王族以外は入れない場所だから。
と言っても、
俺は幼い頃から何度も来てるけど。
ティスと一緒だったし、
小さい頃はあまりそう言うのを
俺もティスも気にしてなかったし。
「あ」
俺は甘い香りのするガゼボに
案内されて、あ、って思った。
ここは俺がティスに
初めてプロポーズされた場所だった。
俺はティスにエスコートされるまま
ガゼボに座る。
ガゼボの周囲には『祝福』の花が
沢山植えられていた。
大きなプランターに植え替えられて
ガゼボの周囲を囲う様に
配置されているのだ。
甘い香りはこの花からか。
俺が座ると、すぐにティスは
俺の隣に座った。
ティスはずっと俺の手を握っている。
この後お茶会だからか、
ガゼボには何も用意をしていなかった。
そう言えば、ティスとは
長い付き合いだけれど、
一緒にいる時に
お茶やお菓子がないのは
初めてかもしれない。
「ごめんね。
お茶を用意すれば良かった」
「ううん。
この後、お茶会だし
お腹いっぱいになるから
大丈夫」
俺がそう言うと、
ティスはほっとした顔で
俺の手を離す。
「ティス、どうしたの?
話があるって
兄様に聞いたけれど」
俺はそう聞いてみたが
ティスはなかなか
口を開かない。
どうしたものか。
お茶も無いので
気まずいような空気を
誤魔化す手段もない。
「ねぇ、アキ」
突然、ティスが
意を決したように俺を見る。
「あのね」
「うん」
ティスは俺を見つめたまま
徐々に頬を赤くしていく。
なんでこんな顔を……
と思った俺に、
ティスは顔を赤くしたまま
早口で言う。
「この前のこと、覚えてる?」
「う……ん」
この前のことって、
あれだよな。
キスで王妃一直線っていう
あの話だよな。
忘れるはずがない。
ぶっちゃけ
恥ずかしくて仕方ないし、
状況がキャパオーバーだ。
「良かった」
ティスはほっとしたように
笑う、が。
いやいや、さすがの俺でも
あれを忘れることはないぞ?
なんて思っていたら、
ティスは立ち上がり、
そばにあった植木鉢から
『祝福』の花を一輪、手折った。
それから騎士のように
俺に跪いて俺に『祝福』を
丁寧に差し出す。
その差し出した大輪の花は、
ティスの指が震えているからだろう。
俺の手元に来ること無く
揺れている。
「アキルティア、
愛してます。
一生、大切に。
ずっと一緒に笑って生きると
誓います。
僕と結婚してください」
俺は息を飲んだ。
なんとなくなし崩しに
王妃一直線になるような
気がしていたから、
まさかこんな真剣に
プロポーズされるとは
思っていなかった。
それにかなり前だけど
俺はすでにティスに
プロポーズをされていたんだし。
俺はその花に指を伸ばし、
途中で止めた。
嫌じゃない。
嫌なんかじゃない、
むしろ嬉しい。
でも。
花に伸ばした指が、
ティスの指と同じように、
いや、それ以上に震えた。
「自信……ない、けど、
それでも、いい?」
貴族のことも、
俺は何も知らずに育ってしまった。
箱の中で守られた
箱入息子の自覚だってあるし、
それを拒否したいとも思わずに
生きて来た。
ましてや俺は前世の記憶があるから
貴族としては異質な考えを
持っているかもしれないし、
俺の行動がティスを苦しめることが
あるかもしれない。
「自信なんて、僕もないよ」
ティスは優しく言う。
「僕は王になる自信もないし、
アキに嫌われたくないって、
いつだって不安ばかりだ。
でも、アキが大変な時は
僕が支えるから。
王妃になるのが怖いなら
僕がいる。
僕がずっとそばにいるから」
ティスは跪いたまま
俺を見つめる。
「それにね。
僕一人じゃできないことも。
僕一人だけじゃできなくても、
アキを幸せにしたいって
思ってるのは僕一人じゃないから、
なんとかなると思う。
アキがいたから集まった皆が
僕たちにはいるから。
だから……アキ。
アキルティア。
僕の手を取って?」
祈るような声に、
俺は震える指で『祝福』に触れる。
思ったよりも太い茎を
指で掴んで、ティスを見た。
「僕も、ティスが好き。
アイシテル……と、思う」
思う、と付けてしまった。
自分の気持ちにも自信がないというか、
ティスの真摯な気持ちに
俺の気持ちが追いついてないというか。
そんな俺の戸惑いさえも
ティスは理解しているようだった。
「うん。嬉しい。
今はね、それでいい。
アキが僕のことを親友以上に
想ってくれてて、嬉しいんだ。
これからはもっともっと
僕がアキのことを沢山愛するから、
アキも僕を沢山感じて?
それでアキも僕のことを
もっと好きになってくれたら
もっともっと嬉しい」
笑顔で言うティスに
俺は胸がキュン、と痛んだ。
俺のことを、こんなに
好きだって言ってくれてるティスに
惹かれないわけがない。
「そしてね、いつか僕だけの名前で
アキのこと呼ばせてね?
ルティアって」
頬を染めて、
嬉しそうに言うティスに
俺は無性に何かしたくなった。
心の底から、熱い気持ちが
ぐわーって沸き起こってきて、
ティスのこと、自分でも驚く
ぐらいにめちゃくちゃ好きって思えて。
俺は『祝福』を持ったまま
もう片方の手でティスの腕を
掴んで引き寄せた。
俺が身をかがめたら、
笑顔のティスの顔が
驚いたまま固まっている。
もちろん、ティスは
俺が倒れたぐらいじゃ
びくともしなかったけれど。
でも。
ちゃんと、俺の唇は
ティスの唇と重なっていた。
そっと離れたら
ティスは目を見開いたまま
真っ赤になっていて。
「ティス、好き」
って俺が呟いたら。
今度はティスに
頬を両手で包まれ、
強引に口づけられた。
……唇にキスしたら
王妃一直線だったのに。
そして本当に
王妃一直線だった。
そんなことを思ったのは、
幾度目かのティスとの
口付けから解放された後だった。
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